窓の外を見ながら、ハロルドは溜息をつく。
今日も良い天気で、絶好のお出かけ日和だった。
一日中、宿の中にいたのが、もったいない位の。
日が傾きかけていた。もうすぐ日が暮れる。
おとといは、どこにも出かけなかった。
昨日は、少しだけ図書館に、ひとりで行った。
きっと、明日も出かけないだろう。

 

 

 

 

Sweet Color

2

 

 

 

 

 『別にでかける理由もないからだ。』

 「・・・バカ。」
今朝の言葉を思い出し、ハロルドは怒りを覚える。
この怒りは、胸の痛みからきている。
今朝のなにげなくジューダスが放ったひと言は、それなりにハロルドを傷つけた。

 あの時、あの店で。
リアラが言ったひと言は、気がつかなくても良いことを自分に気づかせてしまった。
カイルは、リアラが好きなところに行こうと言ったという。
そして、今日も。
あの、子供みたいなカイルでさえ、きちんと自分から行動に移している。
羨ましかった。
そういう風に、当たり前のように誘いの言葉をかけてもらえる、リアラが。
どっちが言い出すかという優劣の問題で、意地になっているのではなく。
誘われるという事は、一緒に行きたい、という意思表示をしてもらえるという事だ。
それが当たり前のような姿に、嫉妬を覚えた。
・・・・・今まで、一度も言って貰った事がなかったから

 そうすると腹がたって、腹がたって。
いつもいつも自分に誘わせるんじゃないわよ!このアホ!
と怒鳴りたいのを我慢して、早2日。
一向にジューダスから誘ってくる気配はない。
自分から誘うつもりはないのか、誘われるのが当然だと思ってるのか、ないならないで良いと思っているのか、なんなんだか。
そのうち、思考はめぐりめぐって、悪い想像も齎す。
ジューダスは・・・・・。
自分から、一緒に出かけたいと思うほど、私といて楽しくないのかもしれない。

 ずきり、と胸が痛んで、鼻がつん、と痛くなった。


 あのケーキ。ピンク色でキュートな。
このまま、どこにも出かけず、町を出立してしまったら、二度と食べることはない。
そうしたら、きっと忘れられない。
食べられなかったことが悔しいのではなく、食べられなかった理由を思い出し、あの鮮やかなピンクを連想する度、この胸の痛みが蘇ってくるだろう。
あんなに可愛いのに。
まるで敵のような立場に追いやってしまってはかわいそうすぎる。


 「・・・ジューダスの、バカ・・・。」
ハロルドは窓枠に頭をつけ、くぐもった声で小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 「はいるぞ。」
ノックもなしに、ドアが開いたのはその時だ。

 聞き覚えのあるその声に、ハロルドが、え?と顔をあげる。
育ちの良い彼が、ノックをせずにいきなりドアを開けたのにも驚いたが、こっちの返事も聞かず、勝手に部屋に入って来たなどという事は、今まで一度もなかった。
「・・・な・・なに?」
びっくりしてうわずった声をあげたハロルドを一瞥し、ジューダスはそれには答えずに、部屋の奥へと向かう。
まるで押し入ってきたかのようだ。
その歩幅もいつもよりも大きく、肩をいからせた歩き方も、怒っているように見えた。
そして、ジューダスは、部屋に入ってきた時以上の事をして、ハロルドを驚かせた。
「な・・・・なにしてんのよ!?あんた!」
ジューダスが、いきなり部屋のクローゼットを開けたのだ。
中には、当然、ハロルドの私物が入っている。
ハロルドは走っていって、クローゼットの扉を、ジューダスの前でばたんと閉じた。
背で隠すようにして、立ちふさがる。
「なにを、いきなり・・・。」
抗議の声をあげたハロルドに謝罪の言葉もなく、その体を押しのけるようにして、再びジューダスは、クローゼットの扉を開ける。
「ちょ・・・。」
「出かけるぞ。」
それを聞いて、再びあげかけた抗議の言葉をハロルドは飲み込む。
ジューダスは構わず、ハンガーにかけてあったワンピースの中から、一枚を抜くと、それをハロルドの手に押し付ける。
「それを、着ろ。」
「な・・・なんで?」
「なにがだ?」
なぜ今からでかけるのか、なのか、なぜいきなり言いだしたか、なのか。
ハロルドの質問の意味を問うて、ジューダスが質問に質問で答える。
ハロルドの方も、いっぺんに、聞きたい事が浮かんで、どれから聞いて良いやら迷ってしまう。
「・・・・この服、気に入ってるの?」
とりあえず、一番新しく頭に浮かんだ疑問を口にした。

 それは、初めてジューダスとデートをした時に着ていた、豹柄のワンピースだった。
スカートの部分が淡いピンクのフリルと切り替えで段々に入っている。
豹柄のくせに、甘い。
そのアンバランスなイメージが気に入って、ハロルドは、これだけは古着屋に売らずに持っている。
旅する人間は、大概、持ち服はせいぜい5〜6枚で、いらなくなったものは古着屋に売るものだ。
新しい服を買えば、違う服は売る。
そうして、増えていく荷物を整理している。

 「いや、別に。」
そっけなく答えられ、それはそれで腹がたった。
自分は気に入っているというのに。
口を尖らせ、ハロルドは言う。
「じゃ、なんでこれ?」
「別に・・・一番目に付いたからだ。」
「じゃあ、別のでも良いんじゃない?」
「まあ、そうだな。」
そう言ってジューダスは、クローゼットの前から離れ、備え付けのソファーに足を投げ出すようにして、座った。
・・・可笑しい。
どうにも、この男にしては行儀が悪すぎる。
「まだか?」
主語も述語もなく、ジューダスが言った。
「なにが?」
「支度だ。」
「どこに行こうっての?」
相手の態度に、こちらも腹がたって、つっけんどんにハロルドは言う。
なんの説明もなく部屋に入ってきて、いきなり出かけるから支度を、しかも早くしろ、という。
誰でも怒ると思うのに、なんだか怒っているのは、押し入ってきた方だ。
ジューダスに対する口調にもトゲが含まれていて、当然だ。
だが、ジューダスの方は、それには気も留めないらしかった。
どこに行くか、という質問に、相変わらず感情のこもってない声で、そうだな、とつぶやいた後、
「似合うとか言われてる服を、買いにいくか。」
と、言った。
「・・・え?」
ぽかん、と相手の顔を、ハロルドは見上げる。
その聞き覚えのある言葉を、どこでだったか、思い出す。
似合うとか言う服、というのは、もしや、おとといの話だろうか。
「ナナリーに聞いた。」
にこりともせずに、ジューダスは言った。
ハロルドの思考の先を読んで答えた、というよりも、質問をされて回りくどくなるのが嫌だから短縮した、という感じだ。
「・・・いつ?」
それでも質問をしたハロルドに軽く舌打ちし、ジューダスは答える。
「今、そこの廊下で。」
「なんで、そんな話に・・・。」
「ハロルド。」
イライラとしたように、ジューダスはハロルドの言葉を遮る。
「僕はお前を怒らせるような事をした覚えはない。」
「・・・・・それは・・・。」
「なのに、勝手に腹をたてられても、何故だか分からない。言いたい事があるなら、分かるようにはっきり言え。」
「・・・・・。」
言いたい事はあった。
腹をたてていた理由も、それがこちらの一方的な思い込みによったとしてもあるにはあった。
だが、今、この瞬間、無効になってしまった。
言うべき言葉を失い、ハロルドは黙る。
それを了承したと取ったのか、ジューダスは、大層人相の悪い半眼で言う。
「良いのか?」
「・・・・・。」
「良いなら、早くしろ。」
「・・・駄目。」
「なんだ?」
不機嫌そうにジューダスはハロルドの言葉を聞き返した。
この上、まだ、なにかあるのか、と思っているようだ。
その釣り上った眉に向かって、にんまり笑い、ハロルドは言う。
「だって、支度しろったって・・・。私、着替えるのよ?あんた、そこにいる気?」
「・・・・・!」
思いがけない事を言われて、ジューダスは少し慌てた。
相手が立ち上がり、部屋を出ようとするのを見て、ハロルドは、してやったり、と思った。
やられっぱなしはシャクだ。
たとえ、それが自分が望んでいた結果であろうとも。
「あんたもね〜。人の事、あれこれ言ってないで、自分の支度はどうしたのよ?」
「・・・うるさい。」
ふたりの間では、町に一緒にでかける時は、お互い戦闘服を脱ぐ、決まりになっている。
だが、ジューダスはいつもの黒い戦闘服に仮面をかぶったままだ。
それを忘れて、なにを急かしているのだか。
「じゃ、30分後に迎えに来て。いい?」
ジューダスは何も答えず、部屋を出て行く。
だが、その背中が、しっかりとハロルドの話を聞いているのは明らかだった。
部屋を出るとき、ちらり、とジューダスが時計を確認したのを、ハロルドは知っている。

 

 

 


 慌てて、シャワーを浴びた。
髪を乾かし、服を着替え、化粧をし直して、全身を鏡でチェック。
マニキュアを塗りなおす時間がなかったのが、惜しい。
まだ、はげてはいないものの、この前に新しく買った新色を試してみたかったのに。
でもまあ、あの色は、今の服にはおとなしすぎる。
次の楽しみに取っておくとしよう。
そう納得して、ハロルドが時計を見るのと同時に、扉がノックされる。
きっちり30分。
時間に正確な男は好きだ。

 「出来たのか?」
扉を開けると、ジューダスは面白くもなさそうな表情で、部屋の前に立っていた。
「うん。」
「なら、行くぞ。」
「うん!」
にっこり笑って、ハロルドは言う。
ジューダスは、白地に黒いシャンデリアのシルエットがプリントされたTシャツに黒い立ち襟のジャケットを羽織っていた。
エレガントというほどでもないが、ふわふわの裾の今のハロルドの服には、それくらいでちょうど釣り合いが取れる。
機嫌よく、ハロルドは歩く。今ならスキップすらできそうだ。
そう思いながらの宿の廊下で、ばったりとナナリーに会った。
宿の敷地内に干していた、取り込んだばかりの洗濯物を抱え、入れ忘れちまってて、と夕暮れ時になってしまった事を照れくさそうに言い訳した後、
「ようやくのデートかい?」
と聞いてきた。
「うん・・・。」
「ああ。」
横からの返事に、ハロルドはきゅん、となる。
「じゃあね、いってらっしゃい♪」
手を振り、部屋へと戻っていくナナリーと別れ、宿の玄関へと向かいながら、ハロルドはそっと、ジューダスの顔を盗み見る。
「ああ」と答えてた。
ナナリーは「デートか?」と聞いたのに。
くふん、と笑うハロルドに気がついたのか、ジューダスは
「なんだ?」
と言った。
なんでもない、と答えると別に気にした風もなく、さっさと前を向くと歩き出す。

 

 

 

 ぐずぐずしていて店が閉まってしまわないうちに、という事で、まっすぐおとといの服を見に行く。
そういえば、とハロルドは思う。
ジューダスと服を買いに行くのは、めずらしい事ではないが、自分のもの、というのは初めてだ。
そう改めて考えると、なにやら気恥ずかしい感じもする。
ジューダスに服を選んで貰うという事が。
「うん、でも楽しみ♪」
嬉しくもある、と思う。
店は空いていた。
まだ閉店には時間があったが、もともと混雑しているような店でもなかったから、これが通常なのかもしれない。
そう思いながら、リアラが持ってきた前の服を、もう一度よく見ようとかかっていた場所に近づく。
・・・が。
「・・・・・あれ?」
「どうした?」
「・・・ない、かも。」
あのワンピースはなくなっていた。
かかっていた場所が間違っていたのかと、店内の白い服を全部見てみたが、やはり、あれと同じものはない。
「なにかお探しですか?」
店中、大捜索のハロルドの姿に、店員がお決まりのセリフを言いながら近づいてきた。
セールスの常套句以外に、これ以上、今に似合う言葉もない。
「あの、この前来た時に見たんだけど・・・。」
ハロルドがワンピースの特徴を説明すると・・・。
「すみません、あちらは売れてしまったんですよ〜。」
と対して悪くもなさそうに、眉をさげて店員は言った。

 「・・・仕方ないか。」
「うん・・・。」
横でやりとりを聞いていたジューダスが言う。
あの時は欲しいと思っていなかったが、ジューダスに見て貰えるなら、話は別だ。
そう思うと、やっぱり惜しくなり、しゅん、としてしまったハロルドの姿に、彼女の心情を知らないジューダスは、そんなにがっかりするな、と溜息をつく。
こういう時の、女の扱いに慣れてない。
「・・・違うのでは駄目なのか?」
「そういう訳でもないけど・・・。」
「だったら、気に入ったのを選びなおしたらどうだ?」
「うん・・・。」
ハロルドは、気のない返事だ。
ふたたび、ジューダスが溜息をつこうとした時、そっと袖を掴み、ハロルドが小声で言った。
「行こ?」
「・・・良いのか?」
「うん・・・。」
その姿は、あきらかに拗ねていた。
普通なら、ないものはないのだ、駄々を捏ねるな、とでも言うところだ。
だが、ちょこっと唇を尖らし、俯いて床をとんとんと蹴っている姿には、とてもそんな事を言う気にならない。
ああ、そうか。
とジューダスは思う。
こういう時に、男がどう思うのか。
初めて知った、と思った。

 

 

 


 店を出ると、う〜んとのびをし切り替えるように笑って、ハロルドは「ケーキ食べたい」と言った。
そして、連れて来られたのが、このカフェだった。
聞けば、今朝、カイルたちの話題に上った店だという。
昼間はまったくのカフェだが、夜になるとお酒も扱うらしく、座っているカップルはカイルたちよりも大人の年齢層に変わっていた。
・・・もっともジューダスもカイルと同じ年代、加えてハロルドもそれくらいにしか見えないが。

 風もなく、湿気もない気持ちの良い夜だから、外の席の方が人気があったのに、ハロルドは店内の方が良いと言う。
「だって、外だと明かりが暗くって、ケーキの色がよく見えなくなっちゃう。」
色?とジューダスは首をかしげた。
それには答えず、うふふ、とハロルドが含み笑いをした時、まず、先に注文していた軽食が運ばれてきた。
「・・・・・お前・・。」
「なあに?」
ハロルドの目の前におかれたパンサラダを見て、ジューダスは言う。
「・・それだけか?」
「うん。」
小食の自分ならそれだけで足りるが、痩せの大食いのハロルドにしては量が少なすぎる。
そう訝しげに見ていると、ハロルドは、サラダをフォークでつつきながら、だって、と言った。
「・・・・太っちゃったんだもん・・・。」
「・・・・・。」
どこが、なのかとジューダスは思わず、ハロルドの全身を眺める。
相変わらず、細すぎるほど細いと思うが。
「少しくらい太った方が良くないか?」
「また〜。」
ハロルドは、ぶ〜と頬を膨らませる。
「あんた、自分が痩せてて可愛いからって、それはないんじゃない?気にしてるの〜私は。」
「可愛いは余計だ。」
それこそ、この女顔をこっちは気にしているというのに。
だが・・・。
パクパクと美味しそうにサラダを食べているハロルドを見て、ジューダスは思う。
どこにも肉がついていないと思うのだが。
首から肩のラインは華奢で、鎖骨も出てる。
二の腕もすらりと細く、ウエストもくびれていて、肉がついていると言えば・・・。
そこで、ジューダスは、慌てて、下の方を向いていた視線をハロルドの顔に戻す。
「・・・なに?」
その視線に気がついたのか、ハロルドが、サラダを食べるのを寸前で止めたままの姿勢で聞いてきた。
「・・・なんでもない!」
「・・・?変なの。」
「・・・変で結構だ。」
ハロルドはそれで気が済んだようだ。
追求を逃れ、ほっとし、ジューダスは自分のサンドイッチを口に運ぶ。

 

 「本日のメインイベント〜v」
などと言い、ハロルドは上機嫌だ。
今にも皿を持ったまま踊りだしそうな姿に、ジューダスは苦笑する。
だが、確かに、ハロルドが食べたがっていたケーキは、鮮やかな色をしていた。
この色を見たくって店内に拘った事を考えると、そこまで思われればケーキの方も本望だろう、などと柄にもない事を思った。
「なんのケーキだ?」
自分が頼んだチョコレートのケーキ(こちらはピアノの形をしていた)は一見でそうとわかるが、あそこまで綺麗なピンクだと、なんの素材の色か想像がつきにくい。
そう思い、ジューダスが聞くと
「ラズベリーに決まってるでしょv」
とハロルドは答えた。
・・・・・決まっているらしい。
美味しそうにというよりも愛しそうに、ケーキの一口一口を運ぶ姿を見ていると、ジューダスもつられて笑みを浮かべそうになる。

 「ね、ね。あんたのチョコケーキ、一口頂戴。私のも食べて良いから〜。」
自分のケーキを半分ほど食べたあたりで、ハロルドが言った。
どうでも良いと思ってるのだが、そう言われると逆らいたくなくなるのはなぜだろう。
この満面の笑みを、些細な事で違う表情に変えてしまうこともない。
そう思い、自分の皿をハロルドの方へと押した時だった。
「あ。」
「・・・なんだ?」
ハロルドのフォークを持つ手が止まった。
ジューダスの右斜め後ろあたりを見たまま、固まっている。
「・・・う〜ん・・・。」
「どうした?」
その方向をジューダスは見たが、別段、変わったこともなかった。
カップルがお酒を飲んでいるだけだ。
「すっごい確立。これって、相当のことだわよ?」
「・・・だから、なんだ?」
ジューダスは、首を傾げる。
「あの、カップル。」
「うん?」
「女の子の方。」
「ああ。」
「・・・・・あの子が着てるの、さっき、売れちゃったって言ってた・・・ワンピース。」
思わず、ジューダスはもう一度、振り返る。
白く、品の良いその服を、一瞥する。
確かに可愛らしいデザインだ。
「あれだったのか。」
「うん。」
「別に良いじゃないか。」
「ん?」
「お前には似合わん。」
そのひと言で、ハロルドはぷ〜と頬を膨らます。
「ひっど〜い。少しくらい、お世辞言ってくれたって・・・。」
ジューダスは言った。
「だが、あの女が着るよりは、お前の方が似合う。」
「・・・・・。」
「ご要望の、お世辞だ。」
にやり、とジューダスは笑った。
これで、気が済んだか?と言う。
やはりこの男は素直に褒めるという事を知らないらしい。
ホントにもう〜と言って、ハロルドは笑った。

 

 

 

 

 ケーキの後、少しだけカクテルを飲み、酔ってもいないのに酔い覚ましと称して公園へ出かける。
酔ってはいなくても、お酒が入って妙にハイになっているようだ。
ハロルドはいつもの、調子外れの鼻歌を歌いながら、ジューダスの前をぷらぷらと歩いている。
「転ぶぞ。」
灯りがついているとはいえ、煌々とした光の下ではあるまいし、足元は暗い。
まして、今のハロルドはヒールの高いサンダルを履いている。
裸足の足では、転べばすりむくのは必至だ。
そんな過保護じみた事を考えていると、
「ん〜?」
ハロルドが、いきなり振り向き、
「じゃあ、ささえて〜。」
と言って、腕にぶら下がってくる。
「・・おい?」
もしや、本当は酔っていたのか?とジューダスは思う。
いつにない、反応だ。
まるで。
「たまには良いっしょ?」
まるで、甘えられているようだ。
満足そうにハロルドは、ジューダスの腕に掴まっている。
ごろごろとのどを鳴らす猫のように、気持ちよさげにしている。
それを見ていて、いきなり。
今、なにかが変わってきていると感じる。
この、いつまでも纏わりつくような、自分と彼女の間の当たり前の空気が、違う方向に流れるようになるとすれば、きっと今をおいて他にはないと。
そう思ってはいても、だからと言って、具体的になにをするでもなく。
ジューダスはハロルドのさせたいようにさせておいた。

 「そういえば・・・。」
ふと、思い出しジューダスは言う。
「なに?」
「お前、何を怒っていたんだ?結局・・・・・。」
言いかけていたジューダスの言葉が途中で途切れる。
なにかのきっかけのように、いきなりハロルドはジューダスの腕から離れた。
ハロルドが歩いていたのを立ち止まり、ジューダスが数歩分、先にいく。
「どうした?」
ジューダスが首を傾げて、ハロルドを振り返った時。
「・・・・・!」
どん、と胸に衝撃があった。
相手は軽いので痛くはなかったが、突然のことだったので、少しよろけた。
ハロルドがいきなり、抱きついてきた。
一瞬、驚き、相手がなにかを言うのを待って、そのまま数秒。
ハロルドは何も言わない。
そのまま、細い腕をぎゅうっと背中に回してくる。
「・・・どうした?」
ジューダスから話しかけると、ハロルドはジューダスの胸に顔を押し付けたまま、小声で
「ごめん。」
と言った。
「何に対してだ?」
何が「ごめん」なのかジューダスには分からない。
胸元で、ハロルドが小さく笑った気配がした。
「いきなり抱きついたりして。」
「・・・そう思うなら、離れろ。」
「・・・・・い・や。折角、抱きついてるのに。」
「・・・・・。」
「迷惑?嫌?恥ずかしい?私に抱きつかれるのって。」
「いや・・・。」

 ワンピースが売れてしまったと、拗ねていたハロルドを見ていた時の事を思い出す。
あの時と、今とは、同じだ。
ジューダスは腕をハロルドの背中に回す。
頭を、自分の胸深く抱き寄せる。
あの時と、同じだ。
あの時、頭を抱き寄せて、慰めてやりたくなった。
拗ねている姿があまりにも可愛らしかったから。
そして、今も。
なにが理由だかは知らないが、折角向こうからきたものを、このまま、そっけなく体を引き離してしまうのは惜しい。

 
 背中に腕がまわされた感覚に、ハロルドの体の力が抜けた。
そのまま柔らかく、ジューダスの胸へと凭れる。

 本当は、勝手に拗ねてごめんね、というつもりだった。
誘って貰えないからと、腹をたてて、ごめんね、と。
その時の顔を見られたくなかった。情けない顔をしているだろうと思ったから。
それだけだったのに、自分でも驚くような行動に出てしまった。
まあ、いいけど。
と、ハロルドは目を閉じる。
ジューダスの腕の中は心地よいし。

 ほんの少しだったのかもしれないが、当人たちにとっては長く感じられる時間、黙ってそうしておいて、ふいにジューダスが口を開いた。
「お前、やっぱり・・・。」
「な〜に?」
「全然、太ってないと思うが。」
「・・・なんで、そう思うのよ?」
「・・・・・今の状況で、それを聞くか?」
ジューダスの腕はしっかりとハロルドの体を抱きしめている。
手首に当たる肩も、手のひらが触れている背中もやはり細い。
そのうえ、女性のふかふかとして柔らかい感覚ももちろんある。
「・・・だって、太る前の私とどう違うか分からないでしょ〜?」
「・・・わかるだろう、それも。」
あの時は、それが必要だったからとはいえ。
こうして抱き合うのは初めてではない。
言うまでもなく、ハロルドもその事を思い出したようだ。
「う〜ん・・・。」
ハロルドは言う。
「・・・これくらいなら太ってても大丈夫かな?」
「だから、もう少し太っても良いとさっき言っただろうが。」
ジューダスは言い、さて、どう言ってこの腕を離せば良いのだろう、とハロルドの背中を抱きしめながら、思った。

 

 

 


 「結構、遅くなったな。」
「うん。」
予定よりも長い時間いることになってしまった公園を後にする。
帰り道、当たり前のように、ハロルドはジューダスの手を引く。
初めてのデートの時にそうしたように。
ジューダスの方も、もう何も言わない。
こうして手を繋ぐのは、あの日以来だが、案外、それまでも手を繋げば繋げたのかもしれない、とぶらぶら揺らしながらハロルドは思い、その時、思い出した。
「あ、そだ〜!」
いきなり、ぱっとジューダスの手を離す。
「なんだ?」
その手で、ごそごそと自分の小さなバッグを探りだすハロルドに、ジューダスは聞く。
なにか、カフェに忘れ物でもしたのだろうか、と思っていると。
「コレ。ごはん食べてる時、渡そうと思ってたのに、しっかり忘れてた!」
そう言って、水色の小さな箱を差し出す。
ハロルドの小さな手の中に納まっているそれは、茶色いリボンがかけられていた。
「・・・なんだ?」
「開けてみてよ〜。」
にこにこしながら言う様に、これ以上無駄に話を長引かせる必要もないと判断して、大人しく受け取り、ジューダスが茶色いリボンをほどく。
中から出てきたのは、シルバーのブレスレットだった。
百合と十字が彫られたデザインが、センスが良い。
「良いでしょ?」
自慢げにウィンクするハロルドの顔を、ジューダスは見返す。
確かに良い。
お前のか?と聞きそうになって、そんなわけないか、と思い、最初になんと言ったものかと思案していると、黙っているジューダスに不満そうに口を尖らせ、ハロルドが先に言う。
「なによ〜。折角、あんたに似合うと思ったのに。まさか気に入らないとか言うつもり?」
「いや。・・・・・すまない。」
「すまない、じゃなくって、ありがとう、でしょ〜。人にプレゼント貰ったら。」
それでも、くふん、と笑うハロルドの顔を、息を殺して見つめる。

 殺すとすれば、それは、自分の中のものだ、と思う。
意地とか、プライドとか、その他の色々なもの。
白旗をあげるという事は・・・・そういう事なのだろう。

 「私も自分のにしかったんだけど〜。それ、それで女物なのよ〜。私には似合わないからさ。でも、女物でも、細いあんたになら、ぴったりでしょ?だから譲ったげる。」
にこにことしてハロルドが言う。

 確かに自分の好みにぴったりだ。
腕につければ、間違いなくサイズもあう。
それを、もう説明しなくても、ハロルドは把握しているという事だ。

 ジューダスは深く深呼吸した。
深く吐き出したそれは、諦めの溜息だったのかもしれない。
認めまいとする理由が、自分にはない。

 ハロルドの笑顔を見ながらジューダスは、もう観念しなさいよ、という幻の声を聞いた、と思った。

 

 

 

 

 

fin  

 

 

 


よ・・予定は未定なので(汗) 攻めジューダスだとか言っておきながら、あがってみたら、受(身)だった!!
今回は押されるジューダスです・・・。
作中、最後の場面の「しっかり忘れてた!」は私のセリフ・・・。 本当は食事している時にブレスレットを渡すところを書くつもりだったのに、ブレスレットの存在そのものをしっかり忘れ、慌てて、ラストに持ってきたという・・・。 なんの為に冒頭、アクセサリー買わせたんだと思って・・・。(はあ・・)

ところで、今回のメインイベント〜!のケーキですが。
やけに細かい描写があるな?と思われたでしょうか。 実は、あのケーキは実在してます
事実、すっごい可愛くって、もう、一目見て、買う!!と決めて買って帰ったんですよ〜。 某ホテルのレストランのケーキなのですが、他のケーキも全部、可愛くって、写真に撮ってあります! ジュダのピアノ型のチョコケーキもここのです。 残念ながら、チョコレートケーキの方は、ウィンドウ越しに見ただけで、まだ食べたことないので、写真はないんですけどね。  想像しにくい!そして、見て見たい! 興味ある〜v という方は、おまけページをご用意しました。 よろしければそちらもあわせて、ご覧くださいv ついでに、作中にふたりの普段着姿の落書きもアップしてますv コチラからどうぞv

さて、この話ですが・・・・。
前回にも言ったのですが・・4回目のデートです。 次が、5回目。 初めてのデートの話のあとがき通りなら、次は大ステップを踏むふたりなのですが。 ・・・そういう訳で、この話、実は続きがあります(汗)
宜しければ(OKがあれば、という方の意味)書きますが・・・・。 さてさて。

ところで・・・。
ジュダの服の記述のところで、Tシャツって・・・(汗) Tシャツって・・・。 なんか思いっきり現在風だぞ!? 苦手な方は申し訳ありませんでした。 でも、いきなりプリントの柄に拘ったのは、それが、実際に私が見ているからです。 ・・・人が着ているのみて、「あ、いいなvジュダに着せたいv」って・・・・。
これだけにとどまらず、作中のあれやこれ、色々やらかしてしまいました。
本当に、私の趣味に走った話におつきあいさせてしまって、申し訳ありませんでした。 読んでくださったことに、心から感謝を。

 

(04’9.28)