「ねえ、こんなんは?」
「あ、いいかも!カワイイ〜!」
「ちょ・・ちょっとちょっと!」
町の、色鮮やかな服が並ぶ、おしゃれなショップで。
当の本人を無視して勝手に服を選らぶナナリーとリアラを、ハロルドは止めにかかった。
「なんでそんなに浮かれてるのよ!?あんたたちには関係ないでしょう〜?」
それを聞き、はた、とふたりは顔を見合わせると、
「だってさ。」
「ハロルドにまかせたら、いつまでたっても文句ばかりでしょう?」
「当たり前じゃない!」
ぶ〜と膨れて、ハロルドは口を尖らす。
「なんだって、私がこんな面倒なことしなきゃならないのよ!あんたたちのどっちかが、あいつに付き合えば良い事じゃないの?」
「駄目よ、わたし、カイル以外の人とデートなんて・・・。」
「あたしは・・・・ジューダスよりも背がねぇ・・・。高いから。」
なんやかんやと理由をつけて辞退する姿を見ていると、本当にジューダスを嫌がっているのではないか、と疑いたくもなるものだ。
その相手を自分に、押し付けようとしている。
ハロルドはそう思い、貧乏くじを引かされたような気分になる。
「さあさ。さっさと服を選んじまおうよ!」
「そうね〜。ハロルドに似合う、可愛くっておしゃれなやつ!」
「ちょっと・・・。」
「でもって、靴も今時の華奢なサンダルなんてどうだい?」
「あ、いいかも。後、ハロルドの、あの寝癖みたいな髪!それもなんとかしないとね!」
なにを言っても、ふたりは聞いていない。
「あ〜、もう!!」
ハロルドは叫ぶ。
「好きにしなさいよ!私はもう知らない!!」
事の起こりは、つい、おとといの事だ。
長い間、野宿が続き、やっとの思いでその町に辿り着いた時、名前も知られていないその町の豊かさに、全員は目を見張った。
山間にあるにも関らず、立派で頑丈そうな石の建物が多く、近代的で今まで人の噂にのぼらなかったのが不思議なくらいの立派な佇まいの町だった。
ノイシュタットを思わせるその町は、近くに鉱山を抱えているという。
そこで、上質の宝石が摂れ、町を潤す資源となっているのだった。
その町についた一同は、すぐに宿を探した。
野営を続けた体には疲れが溜まっていた。
体も土埃で真っ黒で、汚れを洗い流しさっぱりとしたいという思いがあり、なによりも、久しぶりに暖かいベッドで眠りたかった。
そして、選んだ宿では、窓から美しい山の姿が望める部屋を用意してくれ、さらに嬉しいことに、食事も町の豊かさに伴うように、値段の安さに比べたら、信じられないくらいに美味しく、それに感動した一同が、長期滞在を決めたのが一週間前の事だ。
しばらくは、この町で楽しみ、旅の疲れを癒そうと。
そういう目論みだった。
だが、それがひとつの波紋を呼び込んだ。
「ったくよ〜。面倒なことに巻き込んでくれるよな、お前も!」
わざとらしくため息混じりに言うロニに、ジューダスは睨みながら答える。
「僕が望んだわけじゃない。こっちこそいい迷惑だ。」
「お〜、そうですか〜。さっすが色男さんは、言う事が違うね〜。」
「やめなよ、ふたりとも!」
旅の始めの頃こそ、争いばかり続けていたふたりだったが、最近では、自分をさしおいて、ふたりで出かける事も多い。
だからこそ、本気でやりあっているのではないと知ってはいたが、とりあえずカイルは止めてみる。
本気で恨み言を言っているのではないにしろ、ロニにとっては面白くない状況だろうから、ついジューダスに絡んだ言い方をしてしまうのだろう。
ジューダスにしてみれば興味のないことで、むしろ迷惑で。
ロニにとっては恵まれた状況で、羨ましい。そんなところだろう。
「けど、本当に・・・困ったことになったね。」
そう言ったのは、ナナリーだ。
いつもはきりっとあがった眉を八の字にさげ、腕を組んで首をかしげ、困りました、というポーズをしている。
「あの子、いい子だから傷つけたくないし・・・。どうする?」
あの子がいい子、と思うのは、ナナリーひとりの意見であるが、別にそれに反対の意を唱えるほど、全員が悪印象を抱いている訳でもない、その噂の人物は、町の雑貨屋の看板娘だった。
明るい表情と、明るい性格で、なにに対しても物怖じせず、誰に対しても親切だ。ちょっと早口で、自分のことばかりをしゃべりたがる気質ではあるが、決して悪い子ではない。
その娘が、ジューダスに恋をした。
恋、というよりも思い込みだ、とハロルドは思う。
自分のことばかりしゃべるその子は、自分の夢の世界にも没頭しやすかったらしい。
仮面をかぶり、だが、そこから覗く素顔は美形で、陰があり、秘密めいた雰囲気をかもし出している。
旅人、というのも妄想を掻きたてられた原因だろう。
彼女の現実の中に、今までいなかった人物。
物語に出てくる、王子か騎士のように神秘的で、だからこそ理想に思えたのだろう。
だから、ジューダスだったのだ。
そうでなければ、誰があんなひねくれていて、毒舌で、時には人を人とも思わないような発言をするやつを好きになったりするものか。
ま、蓼食う虫も好き好きっていうけど。
「で、どうする?」
ナナリーのその質問に、ジューダスはあっさりと答えた。
「どうもこうもしない。」
「このまま、ほっとくっていうのかい?それはあんまりなんじゃ・・・。」
冷淡なジューダスの態度に不満そうにナナリーが、やんわりとした抗議を口にすると、ジューダスは首を振った。軽くまぶたを閉じて首を振る、その姿が様になっている。
「そうじゃない。今朝、はっきりと断った。」
「え?」
それは初耳だったのか、全員がジューダスの顔を見た。
ただひとり、カイルだけが、そうなんだよね、と言った。
だから、全員は、その場にカイルがいたのか、と思ったのだが。
そのカイルはどこで買ってきたのか、大きな渦巻きになっているキャンディーを舐めていた。ロリポップに非常に似ているそのキャンディーが、妙に似合っている。
眉を顰め、ジューダスはそのカイルを見返す。
別に、キャンディーを舐めている姿がマヌケだったからではない。
「お前、なんで知っている・・・?」
嫌な予感がした。
このリーダーは・・・例えば、せっかく収納したバッグから、物をひっくり返して探すタイプだ。
なにか行動を起こすと、勝手にトラブルがついてくる。
「だって、その後、話したんだ、オレ。」
「話したって?」
「なにを?カイル。」
嫌な予感は全員が抱いていたらしい。
難しい顔をしたロニと、心配そうなリアラに聞かれ、カイルは、何も考えてないようににっこりと笑った。
「どうして、ジューダスが自分を振ったのか、って。その理由が分からないと、諦め切れないって。」
「・・・・で。なんて答えたんだ?お前は。」
「ジューダスには、好きな人がいるんだよ、って。」
それは間違いではない、と全員が思った。
「それで、納得してくれたのかい?」
「うん、半分は。」
「半分って・・・・。」
「それは誰って話になって、困っちゃった。」
「・・・・・。」
「それで、オレが答えられなかったら・・・。勝手にうちの誰かだって、思ったみたい。そんでひとりで騒いで、行っちゃった。」
やっぱりだ。
と、今度は全員が思った。
「ど〜〜〜〜して、そう言う事を勝手にするんだよ!お前は!」
ジューダスよりも早くロニが怒鳴り、カイルはきょとん、とする。
「え、なんで?」
「なんでって、お前ね・・・。」
分かってない。
カイルの表情を見て、数人が泣きそうな顔になった。
そのまま収まれば良いが、収まらなかった場合。
必ず、その相手は誰か、という話になるだろう。
だが、この中に相手はいない、となれば、では好きな人がいるというのも嘘だという話になる。
思い込んでいる人間に、こっちの話とあっちの話が別だと、それを説明するのは難しいのだ。
実際に、パーティの中にはジューダスの相手はいないが、だが、他の場所にジューダスが好きな人はいます、などと。
わざわざ説明されれば、大概は、自分を上手くかわすための嘘だ、と思うのが自然だろう。
「あ〜もう更に面倒なことを・・・。」
ロニは頭を抱える。
「折角、ジューダスが自分で収めてきたってのに・・・蒸し返すようなことしやがって・・・。」
「でもロニ、この場合不可抗力じゃないかしら。」
リアラが、カイルの行動を庇う。
「だって、向こうが勝手に勘違いしたんだもの。」
「まあ、そりゃそうだけどさ。」
ナナリーも、カイルを庇う発言をしたものの、事態に変更はない旨を主張する。
「ややこしいのは事実だろ?どうやって誤解を解くんだい?ヘタな事を言ったら、ますます傷つけかねない・・・・。」
「どうして、誤解を解く必要があるわけ?」
その声に、全員が、一瞬沈黙した。
「え?」
ハロルドはふむふむ、と言いながら、ひとりで納得したように、しきりに頷いている。
「リアラの言ったとおり。勝手に誤解したのは、向こうなんだしさ〜。それ、利用させて貰えば良いんじゃないの?」
「利用・・・って。」
「だから。」
にっと笑い、ハロルドは人差し指をぴっ!とたてる。
「誰かがジューダスの恋人のフリをするって訳。それで一件落着で、四方丸く収まる。違う?」
「おい。」
不機嫌そうな顔で、ジューダスが言った。
「何を訳の分からない事を。どうして、そんな回りくどいことをしなくちゃいけないんだ。理由などない。それで良いだろう。」
「それじゃあんまりだろ、ジューダス。」
そう言ったのはナナリーだった。
「仮にも自分を好きだって言ってくれてる子だよ?理由を知って、納得したうえで諦めたいって気持ちにくらい応えてやったってバチは当たらないんじゃないのかい?」
「嘘ついて騙すのも同じだろう。」
「そうだけどさ・・・。」
いや、そうでもないだろう、とロニが言った。
「嘘でもつき通せば真実なり、っていうじゃねぇか。わざわざこれ以上、事態を複雑にする必要なんてねぇんじゃないか?お前だって、折角、収まったものが、またひと悶着起こるのはご免だろう?」
「それはそうだが・・・。」
「んじゃ、決まりね!」
言葉を濁すジューダスが最後まで言い切らないうちに、ぱちん、と両手をあわせ、ハロルドが嬉しそうに言った。
「んじゃ、デートでもしてよ。それで、あんたが笑顔のひとつでも見せているのを見せ付けてくれば、それで駄目押しできるってもんよ!ついでに笑っているあんたなんて、貴重なものが見れて私も万々歳!で、どっちが、その役、やる?」
「・・・・・・。」
ハロルドがナナリーとリアラに向かって、満面の笑みで言い切ったのを見て、全員が不思議そうな顔をした。
「ん?」
全員が自分を見ているという状況に、ハロルドがきょとんとし、変な空気が流れること、2秒。
「なにを言ってんだい?ハロルド。」
ナナリーが呆れたような口調で言った。
「そんなの、ハロルドがやるに決まってるじゃないか。」
「え?」
ぱちぱちと瞬きをして、ハロルドは全員を見た。
ひとりづつの顔を眺めて最後にジューダスにいきあたる。
その顔には、眉をよせた困惑の表情が浮かんでいたが・・・。
それでも、ジューダスでさえ、自分を見ている。
つまり。
人差し指で、自分の鼻の頭をさし、
「え!?」
ハロルドはびっくりしたように声をあげた。
「私〜〜〜〜!?」
女の子というのは、こういう時になると俄然、盛り上がる。
そういう訳で"ごっこ"のデートをする準備、のために3人は買い物をしに来ていたのだった。
わざとらしくため息をつくハロルドの横で、ふたりは異常に楽しそうだった。
まるで、自分のデートをするかのようだ。
店にある服を片っ端から手に取り、あれやこれやと吟味し、ハロルドに似合いそうなものを勝手に選らび、最後には強制的に本人に着せては、またあれやこれと意見を言いあう。
マネキンにでもなった気分でハロルドは、ふたりの盛り上がっている会話を聞いていた。
よくもまあ。
人の事でこれだけ、はしゃげるものだ。
「ねえ、ハロルド、これは?」
自分の胸元に服をかかげ、リアラがくるり、と振り返る。
「可愛くない?それとも、もっと大人っぽい方が良い?」
「どっちでも・・・。」
「なんだか、気のない返事ね。ハロルドが着るのよ?」
「そ。デートの時にね。」
「ね〜?」
「デート、ね。」
はいはい、とハロルドは、何度目かのため息をついた。
なんだか、おもちゃにされているようで、面白くない。
だって楽しんでるのは、ふたりだけじゃない・・・と思うハロルドが、ふと顔をあげると、リアラとナナリーのふたりが、自分の顔を覗き込んでいた。
「・・・もしかして、怒ってるの?」
「・・なんで?」
面白くはないが、怒っている訳ではない。
ハロルドはそう思い、その質問の意味を聞き返す。
「だって、なんだか、つまらなそうだから。」
「うん。」
一変して、しゅんとなった雰囲気でふたりは言う。
「ちょっとね、あたしらも浮かれすぎたかな、って。だって、こういう・・・一緒に、服とか見に来るの初めてじゃない?」
もともと。
ハロルドは彼女たちと一緒に服を選びになどでない。
それは嫌なのでは決してなく、あまり興味がなかったからだ。
服は好きだが、女の子と一緒に、というその状況に慣れてないのだ。
ハロルドには、友達と遊びに行った、という記憶があまりない。
だから、必然的に自分から積極的にそういう行動をしたい、と思わなかったのだ。
だがもしかしたら、彼女たちは、多少なりとも、その事を気にしていたのかもしれない。
確かに、同じパーティーの同性同士なら、一緒に行動した方が自然だ。
それに気がつくと同時に、ハロルドは嬉しくなる。
自分をひとりにさせまいと、気にかけてくれている、その事。
一緒に遊びに行くのを楽しんでくれている、その事。
それが、女友達、という事だ。
「そんなこと、ないわよ?」
にっこり笑ってハロルドが言った。
「楽しいわよ〜。当たり前じゃない。でも、ちょっとね〜・・・あいつに合わせた服ってどんなだろうって思ったら、気が重くなってきちゃって。」
とりあえず、さっきまでの不機嫌の理由をジューダスだということにする。
すると、ふたりはぱっと顔を輝かせて笑った。
もちろん、それは嘘だと見抜いていたのかもしれないけれど。
一緒にいて楽しい、それは貴重で、大切なことだ、とその顔は言っていた。
「おまたせ。」
その翌日。
早速、決行されることになった「デート」の為に、昨日選んだ服を着、化粧もいつもよりも工夫をして部屋を訪ねると、ドアを開けたジューダスは、一瞬、変な顔をした。
まさか、自分が訪ねてくるのを意外に思ったわけでもあるまい。
ちゃんと約束は取り付けてある。
にこにことわざとらしく笑い、ハロルドは首を傾げて、ジューダスに言う。
「どうしたの?出かけましょうよ。」
「あ、ああ・・・。」
そう言ったものの、ジューダスはそこから動かず、腕を組んでハロルドの姿を、上から下まで見回した。
「なんなんだ?それは。」
「あ、これ?ナナリーたちと、今日の為に選んだのよん♪可愛いっしょ?」
ハロルドが着ているのは、豹柄のワンピースだった。
といっても、攻撃的なイメージではなく。むしろ、シフォンの柔らかいふわふわした生地にプリントされ、そのミスマッチさが、センスの良い感じになっている。スカート部分は、斜めに、豹の柄と、ピンクの無地の部分が幾重にも重ねられ、可愛らしいデザインになっている。
大人でも、少女のようなキュートさを持つハロルドには、これがぴったりだ、とふたりが選んでくれたものだ。
「・・・・・ずいぶんと、手が込んでるな。服まで用意する必要があるのか?」
無表情に言うジューダスは、いつもの戦闘服のままだ。
「あんたの方こそ。デートだってのに、その服はないんじゃない?まあ、いいけど。でも、その仮面は取っていってよ?」
黒の戦闘服に竜の骨の仮面など。
デートにふさわしくないこと、このうえない。
「・・仕方ないな。」
反論するかとおもいきや、ジューダスは素直にそれを承諾した。
少しは、自分の為に相手が動いているという意識を持っているらしい。
ジューダスは無言のまま、仮面に手をかけると、すいとそれを引き抜くようにして脱ぎ、頭を振って、髪をぱさぱさと揺らした。
ジューダスの素顔が、現れる。
そうだと知っていても、やはり圧倒されるほどの美貌だ。
勝手にドキドキとなる自分の胸に不満を持ちながら、ハロルドはそれを悟られないように、ジューダスに向かって、じゃ、と言った。
「じゃあ、さっさと予定を実行しますか。」
「・・・・ああ。」
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