ひとりで、という条件を思うと、知らずに顔が強張る。

 ルークの生活には、すでにアッシュが欠かせない存在になっていたし、ほんの少しの間離れていても、どこかで彼の息遣いを感じることができた。
 それは、被験者とレプリカの関係のなせる技なのか、それとも同じ猫化の同族に表れるものなのかはわからない。
 それが、どれほど心強くルークの支えになっていたことか。

 ただ、ひとりで歩くということを。
 こんなにも心細く感じたことは、今までなかった。

 

 

 

 


 猫耳と謎の猫 3

 

 

 

 

 

「どうする?ルーク。」
 とアニスに問われ、ルークは混乱してしまった。
 どちらを選択したら良いか・・・わからない。

 ルークにとって、アッシュとアニスとの生活はとても大事なもので、その全てを捨てて・・・どこかに消えるなんて、できそうもなかった。
 何故なら、そう考えただけで、ルークの目の前は絶望に歪み、胸が痛んでしかたなくなる。
 ならば、ジェイドに会いに行けば良いのだが・・・。
 
 ルークは今、保証が欲しい。
 ジェイドに会っても、今までの生活を続けられるという保証が。
 いや、ジェイドが自分たちの生活を脅かすとは思えない。
 だったら、なにをそんなに怖がっているのかというと・・・。

 もうなにがなんだかわからなくなっていたルークに、とりあえず落ち着け、とアッシュがポンと肩を叩いた。
 別段今、沈みゆく船に乗っている訳じゃねぇだろうと。

 
「アッシュ・・・俺・・・。」
 どうしたら良い?と訴えると、アッシュはため息をついて、
「自分で決めろ。」
 と言った。
 お前のことだろう、と。
 だが、ジェイドに会いに行くということは、決してルークひとりだけの事ではない。
 会えば、いままでのことも含め全てを話さなければならないだろう。その中には、アッシュの事も、アニスの事も含まれている。
 ルークがそう言って、さらなる意見をアッシュに求めると、アッシュはそれもそうだな、と納得したようだった。

 まぁ、とりあえず座ろうぜ、とアッシュが言うので、丸いテーブルを囲み、全員が席についた。
 アニスが気を利かせて全員分の紅茶を淹れてくれ、それを一口飲むと、ルークもだいぶ落ち着いてきた。
 そうだ、焦ってもなにも解決しない。
 ジェイドはもう知ってしまっている。昨日と同じ状況に、もう戻ることはできないのだ。

「・・・とりあえず・・・ジェイドがどうでてくるか、だよな?」
「そればっかりは、会ってみたいとわからないんじゃなーい?」
 昨日食べそこなっていたロールケーキにフォークを突き刺しながら、アニスは言った。
 その口調のそっけなさに、ルークは唇を尖らせたが、ジェイドに指名されたのが自分ひとりである以上、確かにルークが決断するのが道理だ。
「でもでも!」
 フローリアンが、ルークを庇うように口を挟む。
「確かに、怒ってるジェイドは怖いよ!ひとりでとか・・・僕なら絶対に無理!」
 え・・とルークは青ざめた。
「ジェ・・・ジェイド、怒ってるのか・・・?」
「うーん・・どうかなぁ?別段、怒ってなかった気がするけど。ずっとにこにこしてたし。」
 それって間違いなく怒ってるじゃん!とルークは叫び声をあげた。
 もううるさいなぁ、とアニスが溜息をつく。
 その冷たい態度に、泣きそうになるルークだったが、救いの手を差し伸べてくれたのは、アッシュだった。
「・・・俺は。」
 少し言葉を選ぶように発言をする。
「会いに行けば良いと、思う。」
「・・・・そ・・。」
 きょとん、という顔でアニスは顔をあげ、フローリアンもびっくりしたという顔になった。
 アッシュは別段、変わったことを言ったと思ってないようで、ロールケーキをぱくん、と口に入れている。
 その顔に、ルークは聞き返す。
「・・い、良いのか?」
「・・・ああ。」
 言っただろう?とルークの顔を見返し、アッシュは言った。
「そろそろ潮時だ、と。」

「潮時・・・。」
「うーん・・・。」
「しおどき・・・(ってなに?後でアニスに聞こうっと)」
 三者は三様の反応を持ってアッシュの顔を見ると、その先を無言のまま促す。
「・・・いつまでも、このままでもいられんからな。・・・元に戻れる戻れないの話は別にして、一生、アニスの家に隠れて住んでいることもできないだろう。いつかは、どこかで決着をつけなければならん。」
 決着、という言い方をアッシュがして、その言葉の重さは少なからず、ルークとアニスに打撃を加えた。
 ふたりはうつむき・・・気持ちの持っていきようがないというように、顔を見合わせた。
 それはお互いが離れがたいと思っている証拠だった。
「それに、今は良い時期かもしれん。」
 アッシュは、更に言った。
「良い時期?」
「ああ・・・。例のあの"猫"が現れたのは、さらなる俺たちの変調の兆しかもしれんし・・・。」
「え!?」
 驚いて、ルークはアッシュの言葉を遮った。
「俺たち、猫になる以外にもどうにかなっちまうかもしれないのか!?」
「・・・それはわからん。だが、万が一ということもありうる。逆に・・・元に戻ることができるかもしれんし、猫"が現れたのは、そのきっかけかもしれん。そういう意味だ。」
「ああ・・・。」
 ルークが不安が拭い去れないまでも、一応納得していると、ちょっと待ってよ、とアニスが割り込んできた。
「さっきから猫、猫ってなんの事よ?」
 それで、ルークは改めて、アッシュが昨日追いかけて行った"猫"について説明した。

「へぇ・・・。黒い猫の夢、ねぇ・・・。」
「うーん・・・?」
 アニスが相槌を打っている横で、首を傾げたのは、意外にもフローリアンだった。
「しっぽのない黒い猫・・・?どっかで、なんか聞いたような・・・。」
「え?」
「本当か?フローリアン。」
 ルークが意気込んで体を乗り出すと、そうなんだけど・・・と眉を顰める。
 頭の中から記憶を呼び戻そうとするように、フローリアンは自分の眉間をぐりぐり押した。
 しかし、しばらくして、うう・・と唸りながら顔をあげ、
「確かにどこかで聞いたんだけど・・・思い出せない・・・ごめんなさい。」
 とダアトの最高指導者とは思えない、子供そのものの顔で謝った。
「そっか・・・。」
「気にしなくて良い。」
「そうだよー。フローリアンは毎日勉強し過ぎなんだから!いっぺんに色々詰め込んでるから、すぐに出てこなくっても当たり前だよ!」
 だから、思い出したらで良い、と言われ、フローリアンはますます落ち込んでしまったようだ。
 素直なその性格が災いし、慰めの言葉が逆に、ルークたちに悪いと思う気持ちを強くしてしまったらしかった。
 
 こんな時、ルークは自分たちに絶対的に欠けているものを思い知る。
 彼らに必要なのは知識だった。
 猫化する彼らの状況を打開してくれる知識があれば、アニスに迷惑をかけずに済む方法があるのかもしれないし、フローリアンに悲しい顔をさせないでも済んだかもしれない。
 なんて子供で無力なのだろう、自分たちは。
 自分たちには迷いに対して明確に答えてくれる、世界を知りつくしている声が必要なのだ。

「・・・俺。」
 ルークは決意した。
「ジェイドに会いに行くよ。」

 

 

 

 


 ルークが歩くと、顔なじみの店の主人たちから声をかけられることも多くなった。
 彼らは全員、ルークがどこの誰だかは知らなかったが、勝手に教会の裏手にあたる旧市街に住んでいるか、もしくは教会に住み込みで働いている下男だと思っているらしく、いつも楽しそうにご機嫌で歩いているルークに、お薦めの果物やめずらしいお菓子などが入荷すると知らせてくれる。
 今日も市場を通る時、魚屋の主人に良い海老が入ったぞと声をかけられ、帰りに寄るよ、と約束した後、ダアトの門を出た。

 アニスからの伝言で、ジェイドが指定した待ち合わせ場所はダアトの外、第4石碑のある丘だった。

 初めて訪れた時、丘の上から独特のボンネットのようなカタチをしたダアトの全景を眺めた事を思い出す。
 あの時は・・・緊急事態だったこともあったが、まさかこんなにもダアトに深く関わることになろうとは思わなかった。

 そこまで遠い場所でもないし、丘からダアトまでは舗装されていてところどころに神託の盾騎士団の兵士たちが見張りをしているから、魔物に遭遇することもない。
 つらつらと考え事をする暇もなく丘の麓にさしかかり、ルークは、はぁ、と緊張の溜息をついた。
 むしろダアトから丘まで近くて良かったかもしれない。
 もしも道のりが長かったなら、その間に怖気づき、ルークは、やっぱり逃げてしまったかもしれないと思うと、この絶妙な距離の場所を指定したのは、ジェイドの思惑だったのだろうと想像ができた。
 ルークの性格を把握している人。
 ジェイドもそのひとりだったから。

 緩いが長い坂道を、息を乱すこともなく登ると、ほどなくして第4石碑が見えてきた。
 その横、手すりからダアトを見下ろし、ジェイドが立っていた。
 青い軍服を着ている姿は、数年たっても少しも変わりなく、ポケットに手をつっこんでいるのも一緒だ。

 ふと立ち止まったルークに、その距離から気配を感じた訳でもないだろうが・・・ジェイドは右を振り返った。

 その瞬間だった。

 

「ジェイド!!」

 

 自分でも思いがけず、ルークは大声で名前を呼んでいた。
 さっきまで迷っていたことが嘘のように、心は弾み、再会の歓喜が全身を満たしていく。

 何度も大きく手をぱたぱたと振り、自分はここだ!と合図を送ると、ジェイドは少しだけ驚いたように目を見開いたが、次の瞬間、心得たというように頷いて薄く笑みを浮かべた。
 それを見た時、ルークは自分がなにに怯えていたのか、はっきりと自覚した。

 ルークは、ジェイドに・・・色々な意味で・・・失望されるのが怖かったのだ、と。

 

 

 

 

 


 
 
「猫、ですか・・・。」
「そーそー。俺はちみっこい白い猫で、アッシュは満月だけ黒い猫になる。」

 チョコレートパフェのバナナを口に入れながらルークが言うと、ジェイドは、もう一度、猫ねぇ・・・となんともいえない顔で反芻した。

 こんなところで立ち話もなんだしということで、場所をダアトに移し、ルークのお気に入りのカフェに来ていた。
 大通りに面していることもあり、オープンカフェにもなっているその席は日が差してぽかぽかと温かく、顔なじみになっているルークが来ると、店員は空いてさえいれば黙っていてもその席に案内してくれる。
 ジェイドは紅茶を飲む手を止め、ほっぺたにクリームがついてます、とルークに注意した。
 相変わらず子供ですねぇ貴方は、と呆れたように笑う。
 バカにされたと思ったルークは、むーとして、
「ジェイドだって、変わってないじゃん!」
 と負けじと言い返したが、それはある種、褒め言葉にしかならなかった。
 
 ジェイドは本当に変わってなかった。
 あれから2年たっているのに、老け込んだということはもちろんなく、教団内で時々見かける聖職者たちと比べても、若く見える。
 自分に話しかけてくる言葉も辛辣のくせに、真摯であることも変わりがなく、ルークは離れていた年月などなかったかのように、昔のままの口調ですべて、あらいざらいを話してしまっていた。
 アニスは、ただルークたちが帰ってきている、としかジェイドに告げていなかった。
 その事をジェイドから聞かされ、その思いやりの深さに感動したのと同時に、朝の不機嫌の様子が気になった。
 アニスはきっと、昔の仲間から逃げ回っているルークの態度に、良い感情を抱かなかっただろうから。
 別段、とって食う訳もないし・・・なによりも昔の仲間たちがルークを追い詰めたりする訳はない。
 ジェイドに会って、話をして、改めてその事に気がついたルークだった。

「・・・しっぽのない黒い猫?」
「うん。アッシュが、その猫の夢を覚醒する寸前まで見てたっていうんだ。それを追いかけて行って・・・昨日、具合悪くして帰ってきた。」
「そうですか。」
 アッシュにもいずれお目にかかって話を聞きたいところですが、というジェイドに、アッシュがジェイドのことを苦手としている事を思い出して、苦笑いするルークだったが、
「まぁ、彼は私の事を嫌ってましたからね。そうおいそれとは会ってくれないでしょう。」
 と、あっさりとジェイドが口にするのを聞いて、さらに苦笑が深くなった。

「・・・だから、伝えて欲しいのですが。」
「うん?」
「その猫の事です。」
 え!?とルークは目を見張る。
「ジェイド、猫の事知ってるのか?」
 ルークが思わず立ち上がると、スプーンに乗っていたアイスクリームがテーブルに落ちた。
「ルーク、服が汚れます。」
 すかさずジェイドが指摘するのをティッシュで拭き取りながら、上目で様子を伺うようにすると、ジェイドは、そうですねぇ・・と曖昧な相槌を打って、
「・・・そうかもしれない、という話なのですが。」
 と口を開いた。
「音素に関する逸話というのは・・・昔からこのオールドラントには溢れているのですが。なかには、信憑性に欠けるおとぎ話のようなものから、れっきとした科学者のデータに基づいたものまで様々です。その中に・・・直接、音素の意識集合体と接触した人の体験談があるのですが。」
「体験談?」
 それって、幽霊に会ったといういうのと同じで眉唾ものっぽくね?と疑うルークに、
「ええ。ほとんどの人がそう思っていますね。」
 とジェイドは同意した。
 ちなみに、ジェイドもそのひとりだという。
「ただ・・・マルクトで、"音素の意識集合体が見える"体質を待つ歴代の皇帝がいたという記述があるのです。」
「皇帝?」
「ええ。なにしろ皇帝の言葉ですから、安易に否定もできない。それで信憑性の件は曖昧になっているのですが・・・その皇帝の話によると、実体を持たない意識集合体なのですが・・時折、人間に接触しなければならないような場合があると、その姿をなにかになぞって現れることがあるらしいのです。」
「なにかに、なぞる・・・?」
「ええ。存在すら最近確認された訳ですから、ローレライに会ったことはなかったようですが・・・それ以外の意識集合体には一度は会ったことがあるそうで・・・。なかでも大きな満月の夜や・・・特に日食の時は必ずシャドウが現れる、と皇帝は述べてます。」
 ちなみに、その皇帝が治めていた時期、グランコクマでは3度の日食が見られたという。
「シャドウってことは・・・?」
「第一音素の意識集合体です。属性は闇ですから、夜の王とも呼ばれてますね。」
 そして、とジェイドは続けた。
「・・・そのシャドウは、黒い猫の姿で現れる、と記録にはあります。しっぽがなく、赤い瞳をしていたそうですよ。」
「え!?それって・・・。」
「だから、そうかもしれない、という話ですよ。信憑性の話とあいまって、本当かどうかはわかりません。ただ・・その他の音素集合体の目撃談でも、シャドウの姿は必ず"猫"なんですよ。偶然の一致とかたずけることもできますし、夜=猫というイメージは万人のものですから、思い込みだと切り捨てることもできますが。」
「でも、もしかしたら・・・俺たちがあった黒い猫の正体は・・・シャドウかもしれない?」
「可能性として、あるいは。」
 それってどういうことだろう?とルークは唸った。
 自分たちが猫化する体質になったことには・・・第一音素の意識集合体であるシャドウが関わっている、ということだろうか。

「それで?ルーク。」
 難しいことを考えるのは苦手の筈なのに、心ここにあらずな様子でチョコレートパフェを睨んでいるルークの意識を、ジェイドは呼び戻した。
「え?なに?」
 その猫化のことですよ、という。
「治る方法は、見つからないのですか?」
「・・・・・。」
 ルークは、スプーンをおいた。
 食べ終わった訳でもないので、おや?とジェイドは不思議そうな顔をして・・・見ると、ルークはさきほどよりも真剣な顔をしている。
「・・・実は・・・。」
 ルークは重々しく口を開き、別段俺は無理矢理戻らなくても良いと思ってる、と口にした。
「戻らなくても、良い?」
 その言葉の意味が理解できないという風に、ジェイドが聞き返すと、ルークはこくんと頷き、だって、と言う。
「だって・・・俺、今すげー楽しいんだ!そりゃ猫にいつなるか分からない状況だから、困ることのが多いし・・・。いつまでもアニスに迷惑をかけられないってわかってるんだけど、でも俺が今までした事を考えるとさ・・・。」
「ちょっと待ってください、ルーク。」
 ジェイドはルークが言いかけた言葉を遮り、本気ですか?と尖った声で言う。
「貴方がした事の、その罪で猫になってしまうのは仕方ないというのですか?だから、それは罰として諦める、と?」
「い、いや・・・毎日が楽しいからってのが、本音だけど・・・。」
 でも俺が毎日楽しんで良いのかな?と付け加えた言葉はよほど余計なものだったらしく、ジェイドは眉を吊り上げた。
「ルーク。」
「な・・・なに?」
「その考えには賛同しかねます。」
 たとえ貴方がそれで良かったとしても、とジェイドは言った。
「貴方が悪くないとは私も言いませんし、思ってもいない。しかし、その罪の償いとして畜生道に落ちるというのは・・・納得できません。貴方は確かに罪深いかもしれませんが・・・それなら他の罪人も同じ償いをさせられてしかるべきでしょう。」
 違いますか?と問われ、ルークは絶句した。
 なぜなら、それはかつてアッシュにも言われたのと同じ言葉で、その本質はルークを救おうとするものに違いなかったからだ。
 ごん、とルークはテーブルにつっぷす。
 どうしよう、嬉しい。
 もはや、ジェイドやティアやナタリアやガイが、自分に対して償いをしろ!と責め立てるとは思っていなかったが・・・猫化をその理由にして、呑気に暮らしている事に後ろめたさを感じなかったことは一度もなかった。
 その後ろめたさこそが、かつての仲間と距離をおく原因のひとつでもあった。
 そして、時間がたつ毎に、ルークはますます言い訳を考える自分に嫌気がさし、どんどんと仲間と会えなくなってしまったのだ。
 だが、ジェイドはその事も含めて、別段ルークを怒ってなどいなかった。
 
「・・・怒ってないと言えば、嘘になりますが・・・。」
「え!?怒ってるのか!?」
 びっくりして、椅子から飛び退くルークである。
 ジェイドが怒ったらなにをされるかわからない。
「ええ・・・。やはり、帰ってきてから今まで、連絡してくれなかった事に関しては、思うところがあります。」
 待っていると約束したでしょうに、とジェイドに言われ、
「あ・・・。」
 ルークは視線をさげる。
 それは今、猫化していたら、耳をぺしゃんと倒していただろうというしょげた姿で、
「ごめん・・・ジェイド。」
 謝る言葉もしらずしらずに涙声だ。

「・・とはいえ、まぁ・・・状況が状況ですし、おいそれと連絡できなかったのは仕方ないとしましょう。」
「あ・・うん。ごめん・・・。」
「それに・・・今の状況が好転でもしない限り、キムラスカに連絡できないというのも納得ですし。」
「うん・・・そうなんだ・・・。」
 ルークたちが帰ってきて、一番の問題はそれだった。
 本来、キムラスカが彼らの故郷になるが・・・猫化するという今の状態で、王位継承権を持つ彼らが戻れば、それこそ大変な騒ぎになる。

 ジェイドは溜息をついて、貴方たちの症状については私の方でも調べてみましょう、と言う。
 全てが解決できなくとも今よりも好転できるように、と。
「本当か!?」
「ええ・・・ただし、条件がありますが。」
「条件?」
「ええ。アッシュにも会わせてください。」
 とジェイドは言った。
 彼が私を苦手としているしても、それは別問題ですから、と釘を刺し、
「猫の夢をはっきりと記憶しているのは、どうもアッシュだけのようですし。彼の方が詳しい話を聞けるでしょう。」
 だから情報が欲しいと言われれば、アッシュを説得するのは難しくないように思える。
 ルークは頷いて、
「やっぱり、アッシュの夢と俺たちが猫になることは繋がってると思うか?」
 と疑問をぶつけてみると、
「ええ、たぶん。」
 と、ジェイドが迷いなく答えるのを聞いて、ルークは心強く感じる。
 まるでそれは、闇の中、果てしなく続くトンネルの先に、光明を見つけたような気分だった。

 ルークがそうか!と何度も頷いて、じゃあ帰ったら早速アッシュを説得しようと意気込んでいると、
「ルーク。」
 と呼ばれる。
「ん?なに?」
 言い忘れてました、とジェイドは言った。

「帰ってきてくれて、ありがとうございます。」


 それは、ルークの耳をくすぐる音楽のような響きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 中途半端にみえますが、この話はこれで終わりです。
 「猫耳」は今後、ルーク&アッシュ&アニス+フローリアン+ジェイド
 という面子での話になりまする。

 やっぱ猫化の解決にはジェイドがいないとねー。
 

('12 2.20)