ルークを愛する彼らと彼女らのそれぞれの事情

 

 

 

episode 1 (ティア optionミュウ)

 

 彼女は決して、人の書いたものを盗み見するような趣味はない。
 だから、それは偶然の出来事だった。

 その人は買い物当番で、グミの補充をする為に残りをチェックしておいてと言ったのに、それを忘れてルークはどこかへ行ってしまい、困っていたティアにミュウが言った。
「それなら僕がみてきますの〜。」
 と見開いた目は自分がなにかの役に立つことに対する喜びがあふれていて、無碍にすることなどティアの選択肢にはなかった。
 戦闘の時にはいつも隠れているのだ。道具袋は半分、ミュウの寝床のようなものだし、それなら問題はないだろうと勝手に判断し、お願いしたのまでは良かった。
 中に入ってごそごそやっていた小動物には、布袋の中の大きな障害物にしか思えなかったのであろうノートは、探索中のミュウによって外へと放り出され、ティアはそれをフォローするつもりで、床に落ちたノートをひっくりかえしたのだ。
 それがルークの日記であることはすぐにわかった。
 気まずさからすぐにそれを閉じようと思ったティアは、一瞬のうちに目に飛び込んできた文字が自分の名前を綴っていることに気がついて、思わず手を止めてしまった。
 そこには、屋敷から飛ばされて間もないルークの、不平や不満がだらだらと続き、ティアに対しては「感じが悪い」とか「信用ならない」とかが書いてあった。
 今のルークと、過去のルークは別だ。
 別人ではないが、成長し変化を遂げ、今までは自分の内側にしか向いていなかった扉を、世界に向けて開いた後のルークは決してそれまでの彼自身を弁護するような真似をしなかった。
 それは彼自身が、過去の彼との決別を決心し冷静に見極めようとしている事に他ならない。
 けれど、ティアはショックを受けた。
 その衝撃はまるで実際にナイフかなにかで刺されたかのような痛みを伴い、一瞬、ふらりと目が回ったほどだった。

 そして、ティアは思い知った。
 すでに過去の自分ではなくなっているは、彼女も同じなのだ。
 
 ティアは軽く目を閉じて、深く深呼吸をした。
 そうしたら、少し頭が冷え、冷静な彼女が戻ってきた。
「そうね・・・。」
 誰も聞く者がいない(と思っていたが実際にはミュウはいた)言葉を放ち、過去の自分自身を思い返す。
「信用されなくって当然よね・・・。」
 なにしろいきなりの不法侵入だ。
 あの時はヴァンを討つことのみを思いつめていたが、普通、どんなお人よしでも自宅に入り込んだ不審者とどんな状況に陥ろうとも行動を共にしようという馬鹿はいない。
 ましてや、一緒の宿に泊まるなど・・・。
「あああ・・・私ってバカ・・・。」
 今さらながら、あれは相手がルークだからこそ成立した状況なのだと思い知る。
 最低だのなんだかんだの言いたい放題言っていたが、そもそも彼は貴族ではないか!
 貴族が自分で荷物を持つなどありえないし、汚れること、疲れることを嫌がるのは当然の事なのだ。
 それを、戦えだの、歩けだの、我侭だのとよくも言えたものだ。
「まともじゃないのは、私も同じだわ・・・。」
 しかも彼は生まれてこの方世界を知らなかったのだから、もっと他に言いようもあったものを。
 後悔にもだえ、過去の自分を振り返って恥ずかしい気持ちでいっぱいになったティアは、自分でもなにがしたいのか分からない。しかし確実に、過去の自分を殴れるものなら殴りたい、と思っている。
 いっその事、私など頭なりなんなりを割ってしまえば良いのだ!
「ミュウ・・・。」
「みゅ?」
 名前を呼ばれ、布袋から顔を出す小動物に、ティアは言った。
「お願い。私にミュウ・アタックをかけて・・・。」
「ごめん!俺、備品のチェック忘れてて・・・!」
 だが、タイミング悪くそれをいい終わる前に割り込んだ声があった。
 今やるから・・・という声は尻すぼみになっていく。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
 振り向けばそこには妙に怯えた顔をした赤毛の少年が目を泳がせて立っていたのだった。

 

 


 いくらミュウが好きでもアタックかけてって・・!ティア超こえーよ!;;

('08 10.7)

 

 

 

 

episode 2(ジェイド&ガイ&ルーク optionアッシュ)

 

 アニスの背が少しだけ伸びた。

 それまで宿での部屋着にしていたワンピースの丈が短くなって、新調したいとアニスが言い出したことで、女3人は買出しに行き、残された男達は、手もち無沙汰になったが、大人しく待っていても暇なので、情報収集も兼ねて、出店を冷やかしに宿を出た。

「しかし、めっずらしいな〜アニスが、服買いたいなんて。」
 ルークが本気で感心したように言ったのを聞いて、ガイは苦笑する。
「そりゃ、しかたないだろう?小さくなったもんは。」
「小さくたって着られるうちは、着たおす!とかいいそうじゃね?アニスなら。」
「それはそうだが・・・ものにはそれで通せることと、通せないことってのがあってだな。」
「通せないこと、なのか?」
 ワンピースの丈が短くなったくらいで?と小首を傾げ、本当になにも分かっていない風にルークが聞くのを、は〜と溜息をついてガイは頭を抱えた。
「いいか、ルーク。女の子の着るものは、男のそれと必ずしも用途は一緒じゃない。」
「・・・うん?」
「スカートの丈が短くなれば、それ相応に問題点がでてくるじゃないか?」
「問題って?」
「それは・・・えっと・・・。」
 今更ながらにガイは言葉に詰まった。
 貴族社会で育った以前に、ルークにはそういう概念はない。
 生まれてこの方、幼少の記憶も傍にいる幼い女の子もなかったルークに対して、スカートめくりの定義を持ち出したところで、納得するとは思えなかった。
 つまりは、とそれまで黙ってみていたジェイドが言った。
「アニスもいつまでも子供ではない、ということですよ。」
「へ?」
 ますますもって分からない。
 そういう目をするルークに、まあルークにはまだ早すぎますかね、とジェイドはからかいの言葉を口にする。
 気がついたルークはムッとして
「子供じゃなくなるとどうなるんだ?」
 と聞き返した。意地のようなものだ。
「子供じゃないということはですね。」
 それを感じてジェイドは薄く(若干暗く)笑い、
「恋をします。」
 と答えた。
「恋?」
「ええ、恋です。先に言っておきますが、池の鯉とは違いますよ?」
 そ、そんなんわかるバカにすんなっ!とルークは叫んだ後、けどなぁ、と釈然としない様子で聞き返す。
「子供じゃ恋はできないものなのかよ?」

「・・・・・。」
「・・・・・。」
 大人ふたりは目を丸くする。
「・・・時々、真理をつくねぇ、お前は・・・。」
「え?」
 なるほど、とジェイドは言った。
「・・・7歳児も恋ができますからね。アッシュにそう伝えたらどうですか?」
 げ、と言葉につまるガイとは対照的に、目を丸く、首を傾げてルークはジェイドに聞き返す。
「なんでアッシュがでてくんだ?」

「おやおや〜。」
 ジェイドは人の悪い笑みを浮かべる。
「そこまで言っておいて・・・分かってないところが流石ですね〜。この子供は・・・というよりも、子犬、ですか。」
「おいおい、だんな。」
「なんで俺が犬なんだよ!」
 自分のことだとすぐに察したルークがジェイドに対して声をあげたが、つい語尾に、がうっとついてしまうあたりがすでに子犬である。
「なぜって、あなたの言葉なんて、まさに犬の鳴き声ですからね〜。Aから始まってHで終わる。いつもそればかりです。」
「なに!」
「アッシュ、アッシュ、アッシュ〜!」


「・・・・・っ!」

 その瞬間、ぼっと音をたてそうな勢いで、急激にルークの顔は赤くなった。
 耳まで燃え尽きそうな赤さである。


「おや、本気で今まで自覚なかったんですか。」
 半ば呆れたように、今まさに恋を自覚した子供の様子を楽しそうに眺め、ジェイドは笑う。
 横でガイは、あああ、と奇声をあげながら、頭を抱えて地面にへばりついた。

 

 

 

 



「って・・・いてててて!」
「おや、もしかしてアッシュですか?グッドタイミングですねv」
「うるせっ、そんなんじゃ・・・。」
「おや?違うのですか?そうですね、アッシュがあなたにそんなに頻繁に連絡してくる訳もないですし。」
「・・・・・(泣)」
「まあ、彼はあなたになんて用はないでしょうから。」
「う・・うるせー!黙ってろ・・・!あ、アッシュだっ!良かった・・・。」
「おや。」
「いや、今ジェイドのやつが・・・は?あ、いやそういう訳じゃねーから。うん。べっ別にお前からの連絡を待っていたとか、そういうんじゃないし・・・。は?何を言ってるって?そ、そうだよな、俺、なに言ってんだろう?」


(’08 10/21)

 

 

 

 

  episode 2(ガイ&ルーク  不幸ガイとスレルーク)

 

は?とガイは紅茶の入ったカップを持つ手を止めて、正面に座っているルークの顔を見た。
「・・・・ルーク?・・・なんて言った?今。」
 いや、だからさぁ、とだるそうな仕草で頬杖をついているルークは、親善大使と呼ばれた時を思い出すような胡乱とした表情で、ガイを見た。
「緊張しててさ。キスした時、うっかり唇を噛んじゃってさ。それ以来口をきいてくれねーんだ。」
 どう思うよ?と小首を傾げて言われ、ガイのこめかみには冷や汗が浮かぶ。
「・・・ど、どうっていわれても・・・。」
 それこそ、どういうことだ。
 そう言いたいのに言えないのは、さっき聞いた言葉が聞き間違いであって欲しいという願望ゆえか。
 そんな事実、断固として認めたくない。
 そんなガイの心情など気がつきもしない態度で、あいつ、心狭いと思わねぇ?とルークは口を尖らせると、
「なあ、ガイの時は?」
 と聞いてきた。
「なにが。」
「ファーストキスの時。緊張しなかったのか?」
 もう一度、首を傾げるルークに、ガイはおかしい、と思った。
 可笑しい・・・こいつにこんな可愛らしい仕草のクセはなかった筈だ。
 そうだな・・と上の空のまま相槌を打とうとしたガイだったが、それを遮るようにかぶさってきたルークの言葉に耳を疑った。
「あ、わからねーよな?悪い悪い。ガイがキスしたことある訳ないもんな。」
「ル、ルーク?」
「経験したこともないことに、どうだったもないよな。こういうところ、俺、無神経っていうか、なんていうか。」
 にこにこと笑うその顔に返す言葉を失い、ガイは呆然とルークを見る。
ふと、思い起こし、昨日ルークが食事当番の時に、新作!と胸を張って作ったすきやき丼の具が、ガイのだけやたらと豆腐が多かった事が今更ながらに気になってきた。
 ルークの好き嫌いを叱っている手前、食べない訳にもいかず、がんばったんだが・・・。
 なんだって豆腐なんて、味もなく食感もない、なんとも形容のしがたいものがこの世にあるんだろう。

「あ、あのな。ルーク?」
「なんだ?」
「気のせいか、その・・・お前の言葉にトゲがある気がするんだが・・・。」
「ああ、それ?」
 気のせいじゃないぜ?とルークは、(やっぱり笑って)言った。
「き・・・気のせいじゃないって・・。」
 ここで否定された!!
「な、なんか怒ってるのか?お前・・・。」
「心当たりあるだろ?」
 にっこり笑う顔がもう先ほどと同じには見えない。
 へらへらとした口元は尚更笑みを形作っているが、よく見れば目が笑っていなかった。
 ルークを怒らせること・・・。
 カレーでにんじんを無理矢理食べさせようとした事か?いや、それは今更だろう。
 戦闘中、秘奥義を出す時、前を横切って邪魔をしたから?いや、すぐに立て直してたしな・・・。
 必死に考えるガイを見ていたルークは(それこそ親善大使様のように)けっ、と吐き捨てた。
「ヒントやったのに、気がつかないのかよ?ガイ意外に鈍い?」
「ひ・・ヒント?」
「今の今まで話してただろう?そりゃあもう、目の前にぶらさげるようにして。」
「今って、お前キスの話を・・・。」
 そこまで言って、ガイは目を白黒させた。
 それって、つまり・・・・・・
 ・・・ばれた?

「俺とあいつって回線で繋がってるわけ?」
 知っております・・・とガイ。
「けど、俺からは繋げられないから、あいつから繋げてくるとすげー嬉しいんだよな。たとえ頭痛くっても、そんなの別に関係ねーっつうか。」
「・・・はあ。」
 ガイの背中を冷や汗がだらだらと流れる。
「それがここ最近、繋げてきたと思ったら、なんだかよく分からないことで怒鳴られて、それでぶちん!って切られて、話もさせて貰えないし、本当、俺怒らせるようなことした覚えなかったから、悲しくってさ。わかるか?この切なさ。」
「ま・・・まあ、そうだよな。」
 へえ?とルークは目を細め、せせら笑うようにして、わかるんだ?と確認すると、
「だったらさ。」
 とルークは言った。
「な〜んだってガイは俺の邪魔をするんだろうな?」
 ガイの背中をたらたらと汗が流れる。
「アッシュから必死で話、聞き出して俺がアッシュからの呼び出しを無視し続けてるって聞いた。俺、呼び出された覚えなんかないのに、可笑しいと思ったら・・・。いっつもガイに言伝を頼んだって。しかも・・俺の頭が痛くなるから、回線じゃなくって自分に言えって、ガイが自分から言い出したって。でもってその伝言って、俺一度も聞いてないよな?」
「そ・・・それは。」
 ガイノコトシンジテタノニーと嘆く口調がわざとらしい。それはルークが相当怒っている証拠だ。
 しかし、親の心子知らずは、ルークの方だ。

「お前には早いからだっ!」

「なにが?」
 怒鳴ると、ルークは(その時だけ素直なルークに戻って)きょとんとしてガイを見た。
 本当に意味がわからないという無邪気な表情に、思わずほだされそうになったが、ここは甘い顔をしてはいけない!と心に決める。
「誰かとつきあうなんて、まだダメだ!お、お前は7歳なんだぞ!」
「?人を好きになるのがダメって、変じゃないか?」
 人の気持ちを縛ろうなんて、なんか俺モノ扱いされてるみたいでいやだ、と不快そうに言われ、そうじゃない!とガイは叫んだ。その声は上ずっているので、あまり説得力はない。
「好きだけならともかく、おつきあいとなったら、お前の知らない色々なことをするんだぞ!そ・・・それでも良いのか!?」
「俺の知らないことって?」
「あーんなことや、こーんなことだ!」
「あーんなことやこーんなことなら、もうしてるし。」
「え・・・。」
「大体、ガイさぁ。」
 腕を組んでルークは言った。
 その目が呆れたように細められる。
「あーんなことやこーんなことを語れる立場なのかよ?ガイこそしたことないんじゃねぇの?」
「え・・・。」
「女に傍に近寄られるのもダメなのに、経験あります、とか言えないだろ?それでなにを分かってるつもりなんだよ。」
 あまりの物言いに絶句するガイに、とにかくもう俺とアッシュの邪魔すんなよ、とルークは言った。
「じゃないと、老後の面倒みてやらないぜ?」
「ろ・・・老後!?」
「そ。育てた貰った恩は返すつもりなんだぜ。このままじゃ、ガイは一生ひとり身だろうしな。」
 まあ、それもアッシュに相談しないとだけどな、とにっこり笑って言われ、ガイは泣き笑いの表情になった。
 こんな子供に誰が育てたかなど、言うまでもない。
 今やショックはそっちの方かもしれなかった。
 

 

 


 『はっきりと脅された方がまだマシだ。』


 ・・すみません、ひどすぎた;

 

(’08 11/4)