新しい年を迎えるにあたり、嬉しいことがあった。
マルクトにいるガイが、この休暇中はこちらに遊びにくる、という。
だから、その間ファブレの屋敷に滞在させて貰っても良いかという手紙が来て、ルークは大喜びした。
両親に許可を得に行ったら、案の定、ふたり揃って良いかなんて水臭い言い方だ、と笑った。
「なー、ガイの部屋、他になにか用意するものあるかな?」
「俺が知るか。」
ガイの為に用意したという部屋をアッシュと一緒にチェックに来たのだが、別段、普通の客人に誂える部屋と変わりないように思う。
少しは趣向を凝らしたいルークとしては、悩みどころだ。アッシュに言えば、返事はにべもない。
「大体、お前のがあいつとは長いだろうが。」
アッシュに言われ、ルークはそうかーと相槌を打ちながらちょっと複雑な顔をした。
アッシュとガイは幼馴染で、途中からルークが乱入してきたのだ。
ふたりの仲は、今でも決して悪くはないが・・・あのままだったら、今頃ガイの親友の座はアッシュのものだったに違いないのだ。
「・・・また、くだらねぇこと考えてやがるな?」
「え、っと・・・。」
自分はそんなに顔に出やすいだろうか。
そんなことない、と顔を盛大に振れば、アッシュは小さく溜息をついた。
「あいつのことはわからんが。」
「うん。」
「・・・・珍しい音機関のひとつでも置いておけば、5日はもつと思う・・・。」
「それじゃ意味ねぇじゃん!」
休暇に来られて、部屋に閉じこもられたら溜まらない。
「そうは言っても・・・あいつにとってもよく知った街によく知る屋敷だろう。今更、観光もあるまい?」
「う・・そうだけど。」
でも、できるならたまには一緒に闘技場に出たりしてみたい。
個人戦には、しょっちゅう出ていたが、すでにルークは優勝を繰り返していて、そろそろ相手を勤まる人間もいない。
ガイが来れば、団体戦に出ることができる。パーティが組めるというのはそういう点でも・・・。
「あ、そうか。」
「なんだ?」
いきなり顔を輝かせたルークに、アッシュは怪訝そうな表情を浮かべる。
「・・・いや闘技場の団体戦に出たいなって。」
「・・・?それで?」
「アッシュと一緒のパーティって初めて!」
他の仲間はアッシュと行動を共にしたことがあったが、ルークはまだ一度もない。
魔界に落ちたときといい、キノコロードのときといい、いつもすれ違いだったからだ。
「楽しみだな〜。」
「アホか。」
ガイは休暇でくるんだろう、とアッシュはそっけなく言った。しかし、口調に反して、悪い気がしなかったようで、表情は柔らかい笑みをつくっている。ルークにしかみせず、ルークもそんなには見せて貰えない貴重な笑みだ。
「第一、俺は出るとは言ってないだろう。」
「えー、出ないのかよ?」
俺がこてんぱんにやられたりしたらどうする訳?と半ば叫ぶように言うと、アッシュはてめぇがそんなに弱い訳ねぇだろう、と言う。その褒め言葉は嬉しいが、今求めているのは違う言葉だ。
「なんだよー。俺が心配じゃない訳?」
怪我したりするかもよ?とルークは拗ねて言う。
もちろん、怪我をしたい訳でも誰かにひどく負けるとも、自分でも思っていないが、それでも。
「ちょっとは憧れてんだけど。」
「なにをだ。」
「・・俺が、瀕死の状態で運ばれてきて、知らせ受けたアッシュが『ルーク!しっかりしろ!』とか駆け寄ってくんの。」
「・・・・・。」
「でもって、俺は力を振り絞ってアッシュに手を伸ばして、アッシュもその手を握ってくれて、俺が『傍にいて。』とかなんとか言うの。」
「・・・・・。」
そうでもしなければ、アッシュとは甘い雰囲気にすらなれない。
意地っぱりでなかなか本心を見せてくれない恋人を持ったことをルークが内心で、嘆いていると。
「・・・アッシュ?」
黙ったままのアッシュにの様子がおかしいことに気がつき、ルークは首を傾げた。
「バカか。」
つきあってられるか!と吐き捨てて出て行こうとするその背中が、怒気を纏っている。
え?え?と慌て、ルークはその腕に縋りつく。
「なんだよ!?なに怒ってんの!?」
「うるせぇ!怒ってなどいねぇ!」
「嘘だ!怒ってるじゃん!俺、なにか変なこと言った!?」
「言った、じゃねぇ!!」
アッシュはルークの胸倉を掴んだ。
あ、とルークが見上げる間に、アッシュの顔が近づく。
そのまま、唇を重ねられ驚いたが、身をひこうとしたのを、頭の後ろに手を回されて止められる。
「・・・んんっ・・!」
しばらく貪られた後、ようやく顔を離したアッシュを恐る恐る見れば、その表情はやはり怒っていた。
「・・・そんなこと。」
肩に腕を回され、抱き寄せられる。肩口にアッシュの額が乗った。
「冗談でも言うんじゃねぇ・・・。」
耳元で囁かれた一言で、ルークは自分の言葉が、アッシュの心の琴線に触れたのだ、と気がついた。
「・・・・ごめん。」
「バカが。」
「うん・・・ごめん。アッシュ。」
長い間を孤独と共に生きてきた彼は、簡単に人を寄せ付けない。寄せ付けるのは、だから、よほどの人間だけなのだ。
その彼が、それらを失うことを極端に恐れていることを、ルークは知っていた。
知っていたのに。
選ばれた自分を誇りに思いながら、ルークは、アッシュが離してくれるまで、何度でもごめんなさい、と繰り返そうと思った。
|