ガイが訪ねてきた時、遅くなったクリスマスプレゼントだ、と言って、沢山のみやげものを持ってきたのには笑った。

「俺、もう子供じゃねぇし!」
 赤いブーツに入ったお菓子までその中には混ざっている。
 ルークはいつまでも子供扱いされることに不満顔だったが、アッシュは別段なんとも思ってないのか、逆にお菓子のブーツを興味深げに手に取りながら「こんなものもあるのか。」とつぶやいている。
「アッシュ、ダアトのクリスマスってどうだったんだよ?」
 そんなに珍しいかなぁ、と思ってルークが聞けば、さぁな、とはっきりしない答えが返ってきた。
「そもそも、俺はクリスマスそのものに興味なかったしな。」
 始祖ユリアを信じてもいねぇし、とローレライ教団に所属していた者とは思えないようなことをアッシュは言ったが、生まれる前から死ぬ時のことを預言されていた彼としては、ありがたがる気持ちになれないのも当然だ。
それによってアッシュは人生を狂わされたのだから。

 少しだけ沈んでしまったルークに気がついたのか、まぁそれでもさ、とガイが明るい声で会話を続ける。
「ダアトといえば、クリスマスの本場だろ?他のところよりも賑わっていたんじゃないのか?」
「そうだな・・・。」
 アッシュは考えるそぶりをみせる。
 視界の端には、口を一文字に結んでいるルークが映っていて、ルーク本人はそれにすら気がついてないだろうが、さっきの自分の一言が少なからず傷ついてしまったのだ、とアッシュも気がついていた。
「・・・確かに人が押し寄せて、昼間はうるさいほどだったがな。夜になると厳かな雰囲気に包まれていた。あのシーズンは神団の盾の兵士もほとんど休みなんだ。街や要人の警護の任務があるやつは残るが、それが当番でまわってこなかったヤツはほとんど帰郷していた。」
 俺は毎年、警護班だったが、とアッシュは付け加えた。
「日が落ちてくると、家の前や教会への道に赤いろうそくが立てられる。守人がいて、その火が一晩中、絶えることはない。」
「・・・綺麗だろうな。」
「ああ。」
 めずらしくアッシュは、その手の感想を口にした。
「幻想的で綺麗だった。いつもは見慣れている忌々しい教会も、その時だけは、別のもっと荘厳な建物に見えた。」
 ルークはその光景を想像して、にっこりと笑った。 
 アッシュが綺麗だったというくらいなら、本当に綺麗なのだろう。いつかふたりで見に行けたら良い。
 その時は、アッシュも昔の嫌な思い出を水に流し、ただ単に観光気分でダアトを訪れることができれば良いのに。
 

 そんなことを話していると、メイドが銀のワゴンに乗せて、お酒の入ったグラスを運んできた。
「ワインをいかがですか?ガイ様。」
 普通は使用人が客人に話しかけることはなどないが、メイドたちとガイは旧知の仲だ。
 ガイは頭をかきながら「様づけはやめてくれ」と彼女と距離をとりながら、勧められたワインを手に取った。
「あ、俺もー。」
「ルーク、お前はまだ。」
「成人したもん。」
 いつまでたっても、ガイからは『子供のルークのイメージ』が抜けない。
「正確には違うだろう。2年間いなかったり、第一、お前は実年齢はまだ10歳・・・。」
「あああ、もう。いいじゃん!新年くらい。」
 とはいえ、ルークを未成年とみなしているのは、なにもガイだけではなく、実年齢を知ってからというもの屋敷全体がルークに対して子供扱いをしているのは事実なのだ。
 現にルークは未だにお酒の類を口にさせて貰えない。
「なあ、そう思うだろ?アッシュ・・・。」
 味方してもらおうと、振り返ってみれば。
「あ?」
「あー。」
 グイ、とグラスを煽り、アッシュがワインを空けたところだった。
「アッシュ、なんでひとりだけ飲んでんだよ!」
「俺は成人してるぞ。」
「お前も2年のブランクがあるだろー。まだ精神的には18じゃんよ!」
「お前みたいなガキと一緒にするな。」
「するよ!」
 ぎゃーぎゃー言うルークを尻目に、アッシュは違うグラスを手に取った。今度のグラスにはシェリー酒が入っている。
 それも瞬く間に飲み干す。
「おいおい・・・。」
 少しだけ呆れた声をあげたのは、ガイだった。
「そんな一気に飲まなくっても・・・廻るぞ?」
「廻る?」
 意外なことを言われた、というようにアッシュはガイを見た。
「廻るというのは?」
 どういう状態を指すんだ、と問われ、ガイは苦笑する。
「廻るっていうのは酔った状態のことだよ。血の巡りが早くなってふらふらする。まさに、頭の中が廻っているような感じがするから、そう言う。」
 ふうん、酔うことをそういうのか、とアッシュは人事のように言い、さらに新しいグラスに手を伸ばす。
「だから、そんなに急いで飲むなって。」
「急いでなどいないぞ?」
 そもそも酒とはこういう風に飲むものだろう、と確信的にアッシュが言うのを聞いて、あちゃーとガイは頭を抱えた。そうか、そういうことか。
 ルークもアッシュなら素直に見習うだろうから、ルークの手本になって貰いたかったが、計画はうまくいかないようだ。
 つい最近までアッシュが、特務師団などという物騒な軍隊に身を置いていたことを、ガイはしっかりと忘れていた。
 軍隊には酒がつきものだ。
 それは兵士たちの士気を高めるものでもあり、敵を陥落させるものでもある。
 ルークはぶーっとアッシュを睨んでいる。
 こいつは酒は初心者じゃないからお前と違って特別だ、とこの場で言おうものなら、今後いっさいルークは口をきいてくれないような気すらして、ガイは本気で頭を抱えた。