ぴよこけ

 

 

「このバカひよこはテメーだどうすんだこのカズくえるかっ!!」

 晴天に浮かぶ雲すらも落っことしそうな勢いで声が響き、そんなに怒んなくたって良いじゃんよ〜美味いんだぜこれ、としっぽをたらして言い訳するも、アニスには通じはしない。
 いや、悪いのは確かに自分なのだ。
 この頃、さらに自分でも見境がつかなくなったと自覚があって、そろそろヤヴァいかも〜なんて思っていたのだけれど、本格的にどこか自分は可笑しいのかもしれない。
 うん、たしかに俺はおかしい。
 けど、アッシュのことが好きで好きで好きで好きで・・・っ!大好きなんだ・・っ!

 なんて力説していたら、ルークの目の前を星が舞った。

「ま、待て待てアニス!!」
 死んじまうから許してやってくれ!とトクナガを持ち出したアニスに、ガイが懇願してくれたことで、ルークはスーパーモードのトクナガの鉄拳を受けずにすんだが、別段ガイもルークを怒っていない訳でもない。
「つうか、おまえもきちんと謝れっ!」
 トクナガの代わりにごつん!と(あいたっ!)頭にげんこつを喰らい、モウシワケアリマセンとルークは謝った。
 土下座してついた手の位置に、ちょうどアニスの激怒の原因である大量のお菓子の箱があったから、通りがかりの人からみたら、魔神に(つぎはぎ人形の)お供え物をしているようにしか見えない。
 他の仲間といえば、呆れるやら怒っているやらは変わりがないから、誰もルークの味方をしてくれる者もなく、しいて言えば、ヒヨコさんですの〜といつでもどこでもお気楽なチーグルくらいなものだが、状況がわかっていないので、やはりルークを庇ってくれるということもない。
 しかし、ルークにとっての守護聖人がいた。

「まあまあアニス。僕はこのお菓子好きですよ?」
 声を荒らげることなどけっしてない柔らかい声の主が、慈悲の笑みを浮かべ、ルークが大量に買ってきたお菓子をひとつ摘んで言った。
「可愛いですし、甘くて美味しい。見ていて和みます。つい買ってしまうルークの気持ちも分かります。」
「そういう問題じゃないんですよ〜イオンさま!!」
 最終兵器と称される無敵の笑顔攻撃に、うっと一瞬つまりながらも、誤魔化されちゃダメです!とまるでルークがイオンに対して詐欺でも働いたかのように睨みながら、アニスが言った。
「私だってこのお菓子、可愛いし美味しいし好きですよぅ。でも、ものには限度ってものがあるんですっ!」
 この量ですよ、この量!!とアニスが指差した先には、うず高く積み上げられた箱があった。
 小柄とはいえ、アニスの腰の高さまでそれはある。箱は一段で6個入りのお菓子6箱で形成されているから、とても7人+1匹で食べきれる量ではない。
「そうね、確かに美味しいけれど。」
 ティアの声にも咎めるものが含まれていて、いつも怒られているルークは、その声だけでますます小さくなるのだった。
「どうやって持ち歩くの?それに全部食べきる前にダメになってしまうわよ、きっと。」
「どこかに寄付してはいかがかしら?」
 援護にも思える発言だが、ナタリアにはそこまでの考えはないだろう。
「人にあげちゃうなんて、勿体ないじゃん!!」
 それに対して、意を唱えたのはもちろんアニスで、使ったガルドにも腹がたつが、買ったものをタダであげるのにも腹がたつ、と言ったところか。
「善意と思えばそれも惜しくはないですがねぇ。」
 ジェイドは言って、ちなみ私はこの菓子は嫌いです、ときっぱりと言い放った。
 この、とジェイドが指差したのは、可愛いヒヨコの形をした焼き菓子だった。なかには甘いクリームが入っている。


 
 それは庶民の間では有名なお菓子で、子供からお年寄りの誰にでも好かれる。(ジェイドには好かれていないが)
 王族のナタリアは、かつて慰問に訪れた先で薦められたことがあって、初めてではなかったが・・・同じ王族でも長きに渡る監禁生活だったルークには初めて見るものだった。
 有名だと聞かされたそれを知らないとなると、またアニスにバカにされると思い、店先で覗き込んでいると、熱心に見ているその様に気を良くしたのか、店の主人が、実はね、と教えてくれた。
 このヒヨコのお菓子のなかに、稀にニワトリのカタチのものが含まれているんですよ、と。
 
「ニワトリ?」
「ええ、そうなんですよ。このヒヨコも可愛いんですがね。この同じ方向を向いている様子がなんとも。」
 そうでしょう?とルークに合意を得た後、主人は続けた。
「・・・このなかに、こっそりとニワトリが入っていたら、食べようとして見つけたお客さんはどんなにびっくりするだろうって思って。まあ、少しのいたずら心でそうしたんですが。」
 にこにこ笑う主人に、ルークの頭に浮かぶのは、ヒヨコとニワトリというキーワードだ。

 髪を切ってしまった後、ぴょこんと跳ねてしまう後ろ髪を、よく皆にヒヨコのしっぽみたいだとからかわれるが、だとしたら、アッシュのあの後ろに半端にたちあげている前髪は、ニワトリのトサカのようだと思う。
 そう本人に言ったら、思いっきり頭を殴られたが、ルークはアッシュから生まれたのだし、関係性もやはりヒヨコとニワトリだ。

「ニワトリも、やっぱり・・・。」
 ルークはお菓子の箱の山を眺めて言った。
「可愛い、のか?」
「ええ。可愛いですよ。」
 主人はにっこり笑い、自信作ですから、と付け加えた。

 ・・み・・見たい・・・。

「なあ、それどれに入ってるんだ?」
 意気込んで聞くルークに、店の主人は笑って答えた。
「さあ・・・なにしろ、こちらもランダムに入れているし、積み上げてしまったし・・・どれだったかは。」
「わからないのかっ!?」
「ええ・・すみませんが。」
 だいいち、わかってしまっては箱を開ける時の楽しみが減ってしまうでしょう?と言う主人にルークは、じゃあ、と口を開いた。
「ここにあるの、全部くれっ!!」
「・・・え?」
 思わず言ってしまった言葉だったが・・・野営の準備をしていた皆のところに大量の箱を持って帰ったところで(ちなみに街の宿がいっぱいだったため、備品だけ買いに行った)今の状況に繋がる。


 

 正座をしながら、アニス(以下、全員怒っていても一番怖いのはアニスなので)をびくびくしながら見上げているルークの手元には、白いハンカチに包まれて、38箱目にでてきたニワトリのおまんじゅうが、ちょこんと乗っかっている。
 どんなにアニス(以下4人)に怒られても、このアッシュだけは死守してみせると(なんでもかんでも俺の名前で呼ぶんじゃねぇ!と何度怒鳴られてもルークのこのクセは抜けそうにない)ルークは意気込んでいて、おまんじゅうを両手に捧げもって地面に正座させられ、子供に怒られているという大変奇妙な構図ができあがっていても、そんなことを恥だとは露ほども思っていなかった。

 38箱目をあけて、右端におさまっていたおまんじゅうが、他と微妙に違うことに気がついた時、ルークはやったー!と声をあげて喜んだ程だ。
 それはよく見なければわからない程度のものだったが、焼き鏝で焼かれてつけられた模様は確かにトサカで、大変可愛い。
 思わず頬づりしそうになったのをティアに止められたが、あまりの可愛さに食べるなんてとんでもない!とルークは思っていた。


「どわ!」
 軽く積み上げられた箱が崩壊する音がして、振り向くとそこには珍妙な格好の見慣れた3人がいた。
「おや?なんでゲスか。この箱は。」
「おや、あんたたちかい。」
 
 漆黒の翼はなにやら大荷物で、荷車の前をウルシーが、後ろをヨークが押している。荷車の上はなんだかよくわからないものが重なるようにして積み上げられ固定してある。盗んできたものか拾ったものか頼まれたものかは判断できない。
 その荷物を運ぼうとしていたところに、偶然にもルークたちが道端で店を(ヒヨコまんじゅうの)を広げていたらしい。
 邪魔じゃないか、こんなところに。とねっとりとした声が文句を言うが、すみませんねぇうちのバカが、と応える飄々とした声も、負けてはいない。
「なぁなぁ、お前たち!」
 ノワールはジェイドにまかせ、空いているふたりに向かってルークは叫んだ。
 漆黒の翼といえば、アッシュの手先だ。(御幣)
「アッシュは、どこに・・・・。」
「俺ならここにいるぞ?」
 聞こえた不機嫌そうな声に、ルークは鐘をならされた犬のように、反射的に飛びついた。

 ルークの行動のパターンを嫌というほど知っているアッシュはなんなくそれを避け、ルークは地面に沈んだが、そんなことは気にもしない。
 ばっと顔をあげると、不機嫌そうな顔に向かい、アッシュこれ!と死守していたニワトリのまんじゅうを差し出す。
 まんじゅうの説明もなにもなく、ただアッシュに見て欲しかったからの行動だったのだが。

「なんだ?」
 アッシュは言うと。


 ぱくっ、とルークの手から摘み上げたそれを、口に放り込んだ。


「っぴ・・・!」

 止める暇もなかった。
 ほんとうに一瞬の出来事、というか早業だ。
 実はアッシュって意外に食い意地張っているのだな、と一同が誤解するような早さだった。
 軍人は全てにおいて迅速な行動を求められるから食事も早いものよ、とティアが的外れに言うなか、全てを目撃した仲間は、固まるルークの背中と、怪訝そうながらももぐもぐと口を動かしているアッシュを交互に見比べる。

「あ。」
「あ〜あ・・。」


「・・・がーん!!」

「アッシュは、おなかが空いていらしたのでしょうか。」
 それならわたくしに言ってくだされば良いのに、と言われたらどうするつもりなのか聞きたくもない事を言うナタリアに対して、庇う訳じゃあないんだが・・と気の毒そうにアッシュを見ながら、ガイが言った。
「ああいう風にまんじゅう差し出されたら、食うのが普通だよな・・・。」
 というか見せているというよりも、食べてくださいと薦めているようにしかガイにも見えなかった。

 しかしながら、折角38箱目に、やっとでてきた(普通はここまで出てこないことはないと思うんだが・・・)ニワトリまんじゅうが、アッシュに見せる間もなく(アッシュに)食べられてしまったことに、ルークはショックを隠せない。
 アッシュにしてみればなんの説明もなく、いきなり落ち込んでしまったルークに、首を傾げるばかりだ。(もぐもぐ口を動かしながら)
「アッシュが・・・あっしゅを食べちまった・・・。」
「あ?」
「アッシュに見せたくって、がんばって箱開けたのに・・・その苦労も聞かずに食うなんてひどいじゃないか!!」
「ああ!?」
 訳がわからないルークは役にたたない為、アッシュがルーク以外の人間を選んで説明を聞けば。
「・・・きさま〜〜〜〜!」
 まあ、当然気の短いアッシュの怒りを買う羽目になる。

「誰がニワトリだ!まんじゅうと俺を一種にしやがって!!」
「なんだよ!!アッシュのバーカ、バーカ!」
 俺の純情をかえせー、アホかーここで灰にしてやるーと喧嘩を始めたふたりに、あ〜あと溜息をつく仲間たちと、途中の荷運び旦那がいない間にやっちまいますか?と相談している漆黒の翼。


 

「あの〜そろそろ良いですか?」
 不毛な言い合いを続けるふたりに、入り込めない周囲。この雰囲気に割って入れるのはひとりだけだと言える。
「ルーク、アッシュの言い分ももっともだと思いますよ。」
「・・ジェイド・・・。」
「アニスだって、あなたに小猿呼ばわりされでもしたら、怒るでしょう?」
「さ・・さる!?」
「俺は言ってねぇぞ!!」
 ジェイドのたとえ話にショックを受けるアニスに必死に弁明するルーク。
「それと同じで、アッシュだってニワトリ扱いされれば気分が良くないでしょう。」
「ジェイド・・・。」
 しゅんとなるルークと、いつになく正論でルークを諭すジェイドに、疑い深そうに目を細めるアッシュ。
 あたりまえだと相槌をうちつつ、なんだか嫌な予感というのはするもので、そろそろここから去るべきかと本気で考えていると、
「しかし、ルークの話をみなまで聞かず、食べてしまうあなたも悪い。」
 それまでに彼らは37箱空けの作業をさせられているんですから、と自分は参加しなかったくせに、ニワトリのおまんじゅうが出てくるまで、なにが理由の大量のヒヨコまんじゅうだったのか知らされてなかった為に親切にもつきあってしまった他人の苦労はちゃっかりと話に織り込みながら、ジェイドがアッシュを諭す。
「なんだと?」
「よって。」
 俺が悪いってのか!?と青筋をたてるアッシュを、右手で制止しながらジェイドが言った。
「そちらもなにやら、大層な用件の途中のようですし(と荷車を指差し)、今日1日ルークをお貸ししましょう。」
「貸す?」
「え!?マジっ!?」
 アッシュの眉間に皺が寄るのを見ながら、しかしルークはこの降って湧いたような幸運に、しがみつこうと決めた。
 アッシュに貸し出されるということは、1日アッシュといられるということではないか!
 ところで、アッシュが一気に不機嫌な顔になったのは、ルークが一緒にくることにではなく、ジェイドにルークがそっちチームの所有物のように言われた為だった。
「ええ、このアッシュアッシュうるさい人を連れて行ってください。あなたも悪いのですから、良いですよね?ここにおいていかれたら、この後、大変面倒くさいので。」
 言い方はあんまりだが、でもジェイド俺のことを考えてくれているんだアッシュと一緒にいられるように取り計らってくれるなんて実は良い人?と勝手に感動しながら、ルークはうんうんと頷いている。
 アッシュの方はというと、ルークを面倒くさいと言われたことに腹をたて(人に言われるとムカつくのだ!)こいつの傍においていくぐらいなら俺が引き取る、と決めた。

 くだらない騒動は一転、ルークにとってのラッキーデーへと変貌したのである。

 

 

「なぁ、アッシュ・・・。」
 ガラガラと大きな音をたてる荷車の、後ろを押しながら、隣にいながらも荷車押しには参加していないアッシュに、ルークは言った。
「ごめん・・・悪かったよ。」
 アッシュはさきほどから黙ったままで、ルークが話しかけても返事もしてくれない。
 これでは一緒にいられる意味があまりなくね?と泣きそうになりながら、それでもなんとか返事をしてもらおうと、必死で言葉を繋げるルークである。
「だって、俺ヒヨコみたいって言われるからさ・・・ニワトリってヒヨコの親じゃん?」
 俺ってアッシュから生まれたんだし、とルークは言った。
「だから他意はなかったっていうか・・・ヒヨコと一緒にニワトリがいるなんて、なんか良いなって思ったんだ。俺もアッシュと一緒にいたいけど・・・いられないから。羨ましくってさ。」
 だからバカみたいだと思うけど・・・ごめん、とルークは言った。
「本当にバカだな、てめぇは。」
 やっと返事してくれたと思ったら、予想通りのお叱りの言葉で、ルークはしゅん、と項垂れる。
「・・・今は一緒にいるだろうが。」
「・・・うん。え?」
「こんなまんじゅうなんか。」
 とアッシュが指差したのはルークが買い付けたヒヨコまんじゅうで、それは(この時点では知らないことだが)ナム孤島の孤児たちのおやつにと、漆黒の翼が引き取ってくれたものだった。
「それでも羨ましいってのかよ?」
 そうだと言いやがったら、まんじゅう屋に売るぞてめぇとアッシュに言われ、ルークは、湧き上がってくる嬉しさを噛み締めながら、ごめんともう一度誤って、アッシュに背中から抱きついた。

 

 

 

「なんかいきなり重くなったような気がするでゲス〜・・・。」
「しー、黙っておいでよ。今、良い雰囲気なんだから。」
「あんなに穏やかな旦那なんて珍しいものが見れたな・・・。」
 とりあえず漆黒の翼は、気がつかないことにして、そのまま荷車を引いていくのだった。
 案外、気が効くやつらである。

 

 

 



ヒヨコではなく、名古屋のカエルまんじゅうを食べながら思いついたネタ。

(’09 3.8)