雪が降り積もっていた。
この街にいたら雪などは珍しくもなんともないのだが、数日前からこの雪は降り止まない。
しかも、今は・・・ケテルブルグでは、夏にあたり、この時期に雪が降ることなどめったにないのだという。
なにしろその日、天候を詠んだ預言師が、自分で詠んだ預言にびっくりして目を丸くした、というのだから、本当に珍しいことなのだろう。
いつだったか、小さな町で教会をみかけたことがある。
どんな村にも預言を詠むための教会があるものだが、それは、赤い屋根が特徴的で、ひとめで手作りとわかるような小さなものだった。
あ、ほらみて!といつになく少女のように騒ぐアニスの指差した先には、教会の前に式をあげたばかりの新郎新婦がいて、はにかみながらも誇らしそうに、お互いを見つめているのが印象的だった。
空気の動きとともにひらひらと舞い上がる真っ白な粉雪は、その時に見た、花嫁のヴェールを思い起こさせる。
「止みませんね〜。」
長い体躯を長いすの背もたれに、ひょろりと伸ばし、ギンジが不満そうに言った。
視線は恨めしそうに窓の外を見ている。
普段から、不平不満の類を口にしないギンジだが、アルビオールで空を飛べないということが、彼にとっては一番の拷問らしかった。
「もう4日ですよ?やだなぁ、明日も降るって言うし、預言外れないかな・・・もう一度、天気の預言詠んでもらえないか頼んでみようかなぁ。」
「やめておけ。」
宿屋の娯楽室にあった本を、適当にみつくろって読んでいたアッシュは、 いくら頼んだところで変わる訳ねぇだろう、と言いながら、本をテーブルのうえに、ぽん、と乗せて立ち上がった。
さきほどから本に集中していない空気を放っていたところをみると、たいして面白くなかったのだろう。
アッシュにしては、本の手放し方も投げやりで、続きを読む気がないのか、ふせもしなければ、ブックマーカーを使う事もしていない。
そのまま、椅子の背もたれを抱えるように座って、同じように暇を持て余しているルークの前を通り過ぎ、さきほど食堂から調達してきたまだ湯気のたっているコーヒーをポットからカップに注ぐと、アッシュはそれを砂糖を入れもせずに、ごくりと飲んだ。
めずらしいの、とルークは思った。
アッシュは普段、大量の砂糖をコーヒーに入れるのに。
常に戦場に身を置いている剣士にしては珍しく、アッシュは本が好きだ。
もっともアッシュは、何冊も持ち歩くほど旅慣れていない訳ではないし、娯楽に執着する性格でもない為、それは本当に、一緒に行動し出した人間が初めて気がつく類の個人の嗜好で、ルークも最初は知りえなかった情報だ。
ギンジに本のことを告げた時、ギンジはえ?そうでしたっけ?と目を丸くし、うーんと唸った後、
「そういえば確かに、時間がある時のアッシュさんは、本屋で見る事が多かった気がする・・・。」
と今気がついたという口調で言った。
つまりは、それまではギンジは気がついてなかった、ということだ。
コーヒーに入れる砂糖の数や、本好きな性質や。
そういうことに人に指摘される前に気がつくとき、ルークのなかに、ひとつずつ、アッシュという固体がはっきりとした輪郭を持って落ちてくるような気がする。
それが、この終わりの見えない不毛な関係性のなかで、唯一の慰めだったとしても、ルークのなかをはっきりと照らす灯りであることは間違いがなかった。
つまんないですよ〜退屈ですよ〜とまるでこどものように駄々を捏ねるギンジに(ギンジ曰く、それはルークのマネだった)苦笑して、ふとルークは、あるものを持っていることに気がついた。
使い道が限定される為、道具袋の中の、さらにめったに使わないもの袋の中に、入れていなかっただろうか。
ルークはとっと音をたてて床の上に降りると、まっすぐに自分の道具袋へ向かった。
中身をごそごそと探り、意気揚々と戻ってきたルークの手には、めったに手に入れることができないケテルブルグホテルの会員証が握られていた。
「?なんですか?それ。」
いち早く気がつき、ギンジが首を傾げる。
アッシュはちらりと見たが、正体がわかっているのか興味がないのか、黙ったままだ。
スパ
「え?」
スパのかいいんしょう。
ルークがそう唇を動かして言葉を紡ぐと、ギンジはえ〜?と言って背筋を伸ばした。
「スパってまさか、ケテルブルグホテルの・・・・!」
こくんと頷くルークに、本当ですか、すごい!とギンジはルークの持っている会員証をまじまじと見る。
確かにそれは、ギンジですら知っているセレブ御用達の超高級スパのパスだった。
そんなところの会員証を持っているなんて、さすがルークさんですね、と言って、ルークが王族であることを改めて感心するギンジに、ルークは複雑な気持ちになる。
実際はそれはルークのものではなかったし、手に入れた経緯が他にあるのだが、それを言葉のないルークが説明するのは複雑すぎた。
しかし、その時の一連のやりとりはとても可笑しく、もしも伝えられたなら、退屈しているギンジを楽しませてあげられるだろうとも思う。
気を取り直し、ルークは、いく?とギンジに聞いた。
ギンジは即答しそうになったが・・・ふと思いとどまってアッシュを振り返った。
アッシュはそれこそギンジと目が合う前、という速攻さで
「行かん。」
と履き捨てた。
あーやっぱりとがっくりするギンジと、えー?と不満そうな顔をするルーク。
それを横目で睨み、アッシュは
「そんなところで遊んでいる暇などあるか!」
とイラついた口調で怒鳴った。
えーでも、それって・・・といつになくギンジもアッシュに逆らう。
「どのみち動けないんですから、遊んでいる暇も持て余している暇も同じですよね?」
ホテルで待機してようとどこへ行こうと雪が止まない限りはどうしようもない。
まったくもって正論なので、一瞬アッシュはぐっとつまり・・・
「・・・バカが。よく考えろ。」
と静かに言った。
「そこは、その屑は初めて行く場所じゃねぇんだろ?そんなところに出入りして、連中に俺たちのことが知られでもしたら・・・・・。」
そこで、ふつり、とアッシュの言葉が途切れる。
「?」
「アッシュさん?」
「いや・・・。」
名を呼ばれ、アッシュは我に返ったようになった後、ともかく、と続きを口にした。
「俺は行かん。」
しょんぼりするふたりに、だが、とつけ加える。
「行くなら・・・ふたりで行ってこい。」
「え!?良いんですか!?」
ええ?と驚くギンジと、耳をたてて尻尾を振る犬のようなルークに、アッシュは、ふんと鼻を鳴らした後、好きにしろ、と言い捨てた。
そうだ。
ギンジの言う通り、どのみち動けないなら誰がどこに行こうと勝手だし、ギンジのストレスを考えれば、それくらい譲歩をしてやっても良い。第一。
連中に、自分たちが生きて行動していることが知れたとして、なにが困るというのだ・・・。
「うっわーすっごいですね!」
豪華なスパの内装にギンジは驚いて目を丸くした。
プールやお風呂のある施設だとは聞いていたが、なかはまるで宮殿ではないか。
しかもお湯で暖まった空気は肌に心地よく、ぽかぽかと冷え切った体も暖かくなってくる。
一度入ったら去りがたい、という噂通りの場所だ。
「それにしても・・・。」
ギンジはは〜と溜息をつきながら言った。
「アッシュさん、本当に良いんですかね?来なくって。」
宿に残ったアッシュを思う。
ん?とルークは首を傾げた後、だいじょうぶとギンジに告げた。
みゅうはあれで、だれにでもなつくから。
「いや、そっちの意味じゃなくって。」
今回、ペットの同伴が禁止のため、ミュウも居残りだった。
仏頂面のアッシュとふたり、宿に残されてどうなることやら。少なくともまともな会話はないに違いない。
「良いところなのにな〜。」
こんなにゆっくりできるチャンスなどあまりないのだから、少しくらい羽根を伸ばしたって良い。
常に走っているアッシュ。
片時も気を揺るませることはなく、己を律することを忘れない。
潔いばかりのその生き方はまぶしいが、傍で見ていて、時々ギンジは、変な焦燥感に駆られる時がある。
生き急いでいるようにすらみえちまいますよ・・・アッシュさん・・・。
「それに・・・なんかこのところのアッシュさん・・・。」
「?」
「具合悪そうじゃないですか?」
「・・・・・。」
そう思いませんか?ルークさんも、とギンジは言った。
「ただ疲れてるだけなら良いんですけどね・・・けど、疲労が取れないほどなんて・・・やっぱりどこか悪いんじゃないですかね・・・。」
弱味など見せないアッシュ。
自分が生身の人間であることを自覚しているかすら怪しい。
少しでも、ほんの少しでも自分自身を甘やかす術を知ってくれれば良いのに。
ギンジが同意を求めて振り向くと、ルークは無言だった。
それよりもその表情が、まるでルークではないようで、え、とギンジは息を飲んだ。
冷たい無表情。
なにかに怒りを覚えているかのような、それを必死に押し殺しているかのような、そんなルークの顔を、ギンジは初めて見た。
「ル・・ルークさん?」
しかし、ギンジが声をかけると。
そうだな。
にっこりと笑ってルークは無音のままで言う。
それはいつものルークだった。
ここのスチーム効果があれば、アッシュの眉間の皺も薄くなるかもしれないし。
ほっとしながらギンジは、ひどいですよールークさん、と腹を抱えて笑った。
ふたりはほこほこに暖まって宿に戻った。
行きはあれほど寒かったのに、冷えた空気が頬に心地よく、お風呂は偉大だなどとギンジは言った。
部屋に戻って食べようと、アイスを4つ土産に買い(ケテルブルグにこれが売っているのが意外だ)、部屋の扉を開ける。
「アッシュさん、戻りましたよー。」
部屋を開けると、目の前にまずソファーで丸くなって寝ているミュウの姿が見えた。
そして、部屋のなかを見回して・・・。
「あれ?」
アッシュの姿はどこにもない。
どこかに買い物にでも行ったのか、と思いながら、ギンジは水着やタオルが入っている荷物を床に下ろしたが、ルークは荷物を持ったまま、寝ているミュウの耳をひっぱっている。そしてなかなか起きないとなると腹を立て、パシン!と荷物でミュウを叩いた。すごい音だし、すごい痛そうだ。
えー!!とルークの意外な凶暴性を目の当たりにし、さきほどのこともあって、怯えるギンジであった。
みゅ?とのんびりした声をあげ、ミュウが目を覚ました。
そして、おかえりですのご主人様!と起こされる為になにをされたのかを気にもとめない様子で、ルークに抱きつく。
ある意味で怖い光景だった。
「あの、ミュウさん?」
ルークは話せないので、視線でギンジに合図を送り、アッシュのことを尋ねるように訴えてくる。
ギンジがアッシュがどこにいるのか聞くと、ミュウは予想外な言葉を口にした。
「出かけたですの〜。」
「でかけた?」
どこに?と聞いた時、まだギンジはそこらに散歩程度のことだろうと思っていた。
「わからないですの。聞いたけど、教えてくれなかったですの。」
でも伝言があるですの、とミュウは言った。
「"しばらくここを離れる。2、3日で帰るから俺が帰るまで動くな"ですの〜。」
「え・・ええ!?」
「・・・・・。」
ちょっと待ってくださいよ、アッシュさん!とギンジは涙目になった。
大の大人が少しオーバーかもしれないが、ギンジにとって今やアッシュの存在は大きい。自分を置いていなくなるということは、役に立たないというレッテルを貼られた気すらした。
たしかに今、アルビオールは飛べないけれど。
「みゅ?」
ギンジの慌てっぷりを見て、そんな重要なことですの?とミュウが訴えてくる。
いや確かにアッシュさんは大人ですけどね・・・とギンジは言ったが、しかしさきほど、アッシュの体調が思わしくないという話をしたばかりだったから、やっぱり動揺してしまう。
「ど・・・どうしましょう、ルークさん。」
ギンジはルークを振り返った。
ルークは・・・少しだけ考えるそぶりを見せたものの、お手上げというように両手を宙にあげてみせた。
そして、待つより仕方ないよな、と唇を動かした。
その日の昼、とうとう雪が止み、ギンジはアルビオールをいつでも発進できるように準備を整えてアッシュを待っていた。
どこへ行こうにも指示してくれるアッシュがいないのなら意味がなかった。
アルビオールは今やアッシュの足で、彼がいなかったら単なる空飛ぶ珍しい音機関にすぎない。
改めて機械というものは人の為に仕事をする為のものだと思った。
出て行くのも突然だった人は、帰ってくるのも突然だった。
ふたりで買い物に出かけ、アッシュが戻ってもすぐに出立できるよう、備品を補充していたが、ルークは寒さをしのぐ外套を新調しようとしていた。
なんでもこの前来た時に、魔物の鉤爪にひっかけられ、まっぷたつに裂かれてしまっていたのを、今までは縫って使っていたらしい。しかし、今度は縫おうにも、針と糸を使える者がここにはいない。
それで、思い切ってその心もとなさを解消しようと思いついたらしく、時間がかかるから、とルークはギンジを先に帰した。
確かにルークは、のんびりしているというか、買い物に時間がかかる性質だった。
ギンジはノエルの買い物に付き合ってきた経験から、気にならなかったが、それでも先に帰れと言われれば、それを断ってでもつきあうほど買い物好きでもなく、じゃあお先に、と一足先に宿に戻ってきたのだった。
「ただいまー。」
ぱたん、と部屋を開けると、またもやミュウが丸くなって寝ている。
その姿に和みながら、ふと、気配を感じ、部屋の中を見回せば、アッシュはベッドのうえに横になっていた。
いつもの教団服もブーツも脱ぎ、黒いシャツだけに着替えて、ごろんと寝転がっている様は不貞寝しているこどものようで、置いていかれたのはこちらなのに、まるで拗ねているみたいだ、と思いながらそっとアッシュの傍に寄っていった。
覗き込めば、ルークの話ではないが、眠って意識はないはずなのに、アッシュの眉間には皺が寄っている。白いシーツのうえには、アッシュの髪が広がって、赤い花を咲かせていた。
なにもアッシュの転寝姿を見るのは初めてではない。
常に気を張っているアッシュだが、なんの危険もない部屋でまで、横にならないほどあちこちで殺気だっている訳ではなかったし、逆に十分な力量を備えているからこそ、深く眠ることができるんだろうな、とギンジは分析していた。
しかし。
「・・・う〜ん・・・。」
やっぱりなぁ、とギンジはつぶやいた。
アッシュの顔色が悪い気がする。
よくよく覗けば、アッシュの唇には色がなく、頬骨のあたりには疲労が現れていた。
もしかして、今回、急に出かけたのとなにか関係でもあるのだろうか、と思いながら、ギンジが身をかがめて、アッシュの目の下に、隈を発見した時だった。
「わっ!?」
ばっと、まるで草むらから飛び出してきたくちなわの如く、伸びてきたアッシュの手がギンジの手首を掴んだ。
それは覚醒したばかりの人間とは思えない力の強さで、ギンジが、オイラですよ!アッシュさん!と必死に呼びかけたので放してもらえたが、そうでなかったら、骨でも折れてしまいそうだった。
「・・・ギンジか・・。」
今更ながらに確認したらしいアッシュのつぶやきに、そうですよーとギンジは、ずきずき痛む手首を押さえながら答えた。
アッシュは、は、と息をつき、顔を覆った手のひらの下から、あいつはどうした、と言う。
「ルークさんなら、ひとりで買い物に行ってますよ。」
そうか、とアッシュは言い、その後が続かない。
ギンジが上着をハンガーにかけながら、不思議そうにアッシュの様子を伺うと、アッシュは己の右手を見下ろしながら、ぐっぱぐっぱと開いたり閉じたりをしている。
「?どうかしましたか?」
「いや・・・。」
そう言いながらも視線は下に下がったままで、お前は、とアッシュはギンジに話しかけた。
「お前はリアルな夢を見たことがあるか・・・?」
「リアル?」
どんな夢です?とギンジが言うと、いやいい、とアッシュは口をつぐむ。
こうなってしまうともう口を割ることはないが、それがなにかの本音であることはギンジでも分かる。
「アッシュさん?」
「なんでもねぇ!」
声を荒らげ、アッシュはベッドから立ち上がった。
そのまま顔を背けるようにして、ギンジから離れ、外に向いて窓際に立つ。
窓の外は、もう雪は降っていなかったが、先日までに積もっていた雪が街のあちらこちらから日の光を反射させていた。
穏やかな気持ちで見れば、真っ白で美しい光景だ。
アッシュは、そっと自分の右手を左手で抑えた。
未だにリアルな感触が残っている。
実際にその手で絞めたことはない筈だったが・・・いや一度や二度は本気でくびり殺そうと絞めたのかもしれない。
ルークに対するアッシュの殺意はすでに日常だったから、そんなことも本当だったかどうか、いちいち覚えていなかった。
周囲は暗かった。
そこにぼんやりと灯る蝋燭の炎のように、ルークの顔が浮かび上がり、自分に向かって無邪気に笑いかけた時、アッシュは有無を言わさずにその首を絞めた。
言葉のないルークは、眉を苦しそうに寄せ、しばらくもがいていたが、やがてくったりと力つきた。
しかしまだ、死んではいなかった。
もう少し、あと少し力を込めれば、こいつの息の根は止まる。
今やなす術もなく、ルークはアッシュの思い通りになる人形に過ぎず、それに対して後ろ暗い喜びを感じ、アッシュはルークの力のないまぶたに満足の笑みをこぼした。
そして、指をぴくりと動かして。
そこで目が覚めた。
ばたん!と勢いよく扉が開き、ルークがひらりと部屋の中に入ってくる。
いきなりのことで驚いて、ギンジとアッシュが同時に振り向くと、ルークは視線のまっすぐ先に、アッシュが立っていることに気がついて、へにゃ、と笑った。
その顔は夢の中とまるっきり同じで、アッシュはぞっと背筋が凍る思いがした。
なにも言葉をかけずに視線を逸らしたが、ルークは別段それを気にした風もなく、むしろ今買ってきたばかりのものを見せたくって、うずうずしている様子である。
なにか良いものでもありましたか?とギンジが寄っていくと、ルークの手にしていて袋の中から、鮮やかな外套が出てきた。
それはアッシュやギンジなら絶対に選ばないような服だったが、不思議とルークには似合うというシロモノで、しかも、声がでないながらも筆談を駆使し、生まれてはじめての"値切り"というものを体験したからか、ルークは少し自慢げだった。
私服ではシックでシンプルな服を好むアッシュと違い、ルークの服の好みは間逆だ。
しかしセンスがないというのとも違う。
シンプルな服のような上品さはないものの、一見、ごちゃっとした服がきちんとまとまって見えるという着方をする。
今もルークが選んできたのは、深い色合いの赤で、ルークの髪が朱なのに、赤い服を着るなんてありえない、と普通なら思うところだが、意外ににもそれがしっくりとくる。
ギンジは少しだけ苦笑して、この人には敵わないなぁ、と思った後、似合いますね、と素直にルークを褒めた。
ルークは嬉しそうに笑い・・・その笑顔をアッシュに向けた。
まさか、アッシュに褒められるだろうとは思っていなかっただろうから、嬉しかったので黙っていられないという流れだろうか。
案の定、アッシュはルークのほうをちらっとだけ見ると、すぐに視線を逸らす。
まるで、そこにあるものを見てはいけないと予防線を張っているかのようなその態度に、初めてギンジは、おや、と思った。
ルークを見ると、なにかを期待するようなそれでいて咎めるような視線でアッシュを見ている。
それからアッシュは・・・まるでそこにいるのか確認するかのように、
ルークを振り向いた。
一瞬、意味ありげにふたりの視線が絡まったのを見て、ギンジはますます違和感を感じる。
ルークはアッシュと目があった後、すぐにそれを外し、外套をかたそうと部屋の隅に移動してしまい、アッシュももう窓の外に視線を戻している。
ギンジの前で、なにかしでかさないように、示し合わせたかのような態度だ。
そういえば、変だと思うことはいくつかある。
そもそも、3人のうち誰も縫い物をしないなどと、普通の流れでは決してしないであろう話題になったのは、一晩前まではきっちりとついていたルークの上着のボタンが、ひとつ取れていたのがきっかけだった。
「あの・・・。」
訝しげにギンジが言った。
「もしかして、おふたりって、なにかあったんですか?」
その質問には、ふたりとも答えなかった。
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