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かくれ里
著者名 :白州正子
出版社 :新潮社
発行年 :1971.12
N D C :914
ひとこと :歴史が繋がる旅へ。

歴史は好きだが情熱に欠けてさっぱり詳しくない。日本地図にはところどころ空白地帯がある。土地と歴史の繋がり、距離感がばらんばらんである。長い年月、日本の歴史の舞台であった近畿地方でさえかなり怪しい。
著者が旅したいくつものかくれ里は、主にその近畿地方にあり、「秘境と呼ぶほど人里離れた山奥ではなく、ほんのちょっと街道筋からそれた所に、今でも『かくれ里』の名にふさわしいような、ひっそりとした真空地帯があり、そういう所を歩くのが、私は好きなのである。」と最初に書いてあるにも関わらず、全く馴染みのない土地であるおかげ霧がたちこめ、何年かおきに読み返すたび、ほんもののかくれ里のように満喫しているのである。
著者が私見を交えて伝えてくれる太古の信仰の形や人々の気持ち、教科書と違って納得のいく本地垂迹説、美しいものの写真はいつまでたっても生き生きとしていて繰り返し手に取りたくなるのだ。著者が紹介する連綿と受け継がれてきたものの中には壬申の乱の頃から近年まで行われていたという慣わしもあり、古代と現代が一気に繋がった思いがした。
「かくれ里」はもちろん、白州正子の見た世界はいろいろなテレビ番組となって放送されている。文章だけで想像するのは不得手だし、写真と映像とはまた印象が違うものだから嬉しいが、この図書館にある「かくれ里」の上品なつくりや少し古びた味わいの写真もまた捨てがたいのである。


(ソーダ)