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後宮小説
著者名 : 酒見賢一
出版社 : 新潮社
発行年 : 1989.12
N D C : 913
ひとこと : 後宮ニ哲学有リ。
 これは、三食昼寝付と退屈しない生活を求めて後宮に入った天真爛漫な少女銀河とひとつの国の物語。
  素乾国についての正史「素乾書」「乾史」、それに歴史通釈書「素乾通鑑」を基に現代の史家が書き上げたと思われる小説である。正史に身も蓋もなくつっこみを入れ、登場人物を生き生きと立ち上がらせてゆく愛ある書きっぷりがたまらない。
  1608年、素乾国に新帝が誕生する。皇帝の枕席に侍るため集められた銀河たち宮女候補はまず教育を受けることになる。「後宮ニ哲学アリ」ではじまる女大学である。「陰には陽をもて接し、陽には陰をもて接す。そして、陰陽の気を快楽のうちに交流させること」を目的に理論と実技を学ぶのである。ここらへん、後宮小説ならぬ後宮哲学小説である。
 銀河は田舎でのんびり育った子どもなので権力を知らず、虚飾も知らない。物怖じすることなく自由闊達に生きていく。後宮哲学を完成させた好々爺の角先生との哲学問答があり、無口で無表情で頭の切れる美貌の宮女候補・江葉との連携プレイあり、肝心の皇帝はどうかというとこれも容貌、資質ともになかなかで楽しい。行き当たりばったりで成功していく混沌の反乱も。
  にやりと笑いたくなる私見を交えながら話を進めていく筆者の仕掛けは細部に及び、架空の歴史と納得の教養で読者を楽しませてくれる第一回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
(ソーダ)