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押切順三全詩集
著者名 : 押切順三
出版社 : たいまつ社
発行年 : 1977.5
N D C : 911
ひとこと : 平和のほしい方はこの詩集を!

「押切順三全詩集」の巻頭の詩、「山上部落」について書こう。
この詩は、内容と形式が融和した現代詩の典型であろう。
そして中国山西省の戦線から復員後の第一作でもある。

日中戦争で、二つの国の多くの兵士が戦い倒れて埋もれ、今は廃墟と化した山頂であることを示す導入部。
戦いやんで日も暮れて、歩哨にでも立った時であろうか。ずっと向こうの星よりもかすかに見えるまちの灯は、なんと美しくいとおしいものに見えたものか。

戦争の悲しみ。いつくしむべき人間の営み。詩「山上部落」は、その山腹をなでるような絶妙のリズムで山上の無量の感慨を遺憾なく読者に共感させてくれるのである。

健やかなこころが読み手の胸に小さな灯りをともして「山上部落」は終わる。

そのほかに「旗」も人間の真情を吐露し、人間の生死の境にキラリと見せる作者一流の抒情となって私たちを圧倒する。

(田口恭雄)