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  新年早々、森雅裕の小説を読む。
  復刊ドットコムへの投票によってめでたく復刊された小説である。喜ばしいことである。わずかに漂う諦観は己に向けられたものである。こんな皮肉屋が大好きだなんて、新年早々終わっちゃってるも同然だからだ。
  それはともかく、舞台は18世紀のウィーン。若き日のベートーベンがなりゆきによってモーツァルトの死にまつわる謎を解いてゆく推理小説である。
  この作者はとにかくマメな性質であるらしい。調べられるものは逐一調べ上げ、小説に反映させてゆく。うんちく垂れ流し小説も愛するわたしにはそれもまた面白い。
  主人公はなお面白く、偏屈、頑固、貧乏と三拍子揃っている。己の信ずるところを曲げず、喧嘩を売りまくって不器用に生きている。だからといって暗くなるわけでもないのは、師匠に劣らずいい性格をした弟子チェルニーとの機知とユーモアに満ちた会話がやたらと面白いからだろう。
  たとえ理解力が足りず楽譜の謎がちんぷんかんぷんでも、割に単純な展開でも、それらを補って余りある登場人物たちの魅力が全編はじけ飛んで止まることを知らない。
  一票入れて大正解。  

 

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