スカラベは、なぜ糞を転がすのか?

皆さんは、スカラベってご存じですか?
後ろ足を使って器用に丸い糞をコロコロ転がす、あの虫です。
属に『糞ころがし』なんて呼ばれていますよね。
昔、たけし軍団のダンカンが最初の頃”ふんころがし”と呼ばれていました。
彼が何故”ふんころがし”と呼ばれていたか?というのも謎の一つですが、今回その件はおいといて、本物のスカラベについて研究してみようと思います。

研究内容:
研究にあたって
スカラベってどんな虫
名前の由来
スカラベは、なぜ糞を転がすのか?
その他の糞虫
結論
おまけファーブル先生について

研究にあたって

まず、本題に入る前に断っておくべきことがあります。
本来ならば、スカラベの生息地に行って観察した結果を書くべきなのですが、昔は日本にも生息していたらしいですが現在は生息してないらしいので、それをやろうと思うとアフリカなどの海外まで行かなければなりません。
そんな金も暇もない当編集部は、何冊かの文献から、今回の研究内容に対する解答を導き出すことにしました。
「何だよ、それって研究って言うのかよ」という声が聞こえて来そうですが、『研究』という言葉を辞書で調べると”良く調べ考えて真理を究めること”とあるので、これも一応研究になるぞということを皆さんに理解してもらいたいです。
参考にした文献の大半は「ファーブル昆虫記」です。
この歳になって「ファーブル昆虫記」を読むことになるとは思いませんでしたが、この本は脳の発育が小学生で止まってしまった僕にとって非常に理解しやすく、しかも難しい漢字も使われていないので楽々読めました。
改めて感謝します。
ありがとうファーブル先生! TOMより愛を込めて・・・

スカラベって、どんな虫?

のっけから言い訳がましい雰囲気で始まりました今回の研究ですが、「さっきからスカラベ、スカラベって連発してるけど、いったいどんな虫なのさ?」とイライラされてるのではないでしょうか、それでは早速その疑問に取りかかりましょう。
正式な学名はスカラベ・サクレといい、日本では聖玉押し黄金虫と呼びます。
体長は26ミリぐらいから大きいモノは40ミリぐらいで、黒光りしており、大きいカテゴリーだとカブトムシと同じコガネムシ科の甲虫です。
馬や牛、羊の糞を食べて育つ糞虫の一種です。
動物が”ボトッ”と糞を落としたと思ったら直ぐにブーンと飛んできて(この辺は蝿と同じ)ノコギリのような前足で糞を切り取りコロコロと糞を転がして巣穴に持ち帰り、糞を食べるというユニークな特性がある虫です。
子供を作る時も、転がしてきた糞の中に卵を産み付け、孵化した幼虫は、その糞を食べ成虫になります。

名前の由来

どんな名前にも由来というものがあるわけで、スカラベ・サクレとはフランス語で「聖なる甲虫」という意味があります。
なんで糞を転がす虫が聖なる甲虫なのか?と疑問になるところですが、これには訳があります。
日本でも富士山に登りご来光を拝む習慣があるように、古代エジプトでは太陽を崇拝する習慣があり、スカラベが糞を転がす姿を見て古代のエジプト人は「まるで天空を太陽が移動していくようだ」と思ったのだそうです。
太陽は東から昇り、そして西に沈むように、スカラベの運ぶ糞も、方角こそあってはいませんが地中へ沈み、そして新しい生命として地中から這い上がってくる。
こんな自然の創造・再生の姿を見て太陽神の化身だと古代エジプト人は思い、ケプリと称しました。
なので日本名の聖玉とは、エジプトでは太陽を表していたということなのです。
そうやって見ると、糞も神聖なものに見えてくるのが不思議です(笑)。
実際、エジプトのような砂漠気候の国では、糞もすぐ乾燥してしまうので臭いもあまりなく、汚さをそれほど感じないかも知れません。
再生という意味からミイラの胸元にスカラベの置物がおかれたそうで、スカラベは王様や高級高官だけじゃなく庶民にも護符として所持されています。
装飾品でいうとツタンカーメン王の首飾りにもスカラベが施されています。
スカラベは、なぜ糞を転がすのか?
ここまで読んで頂けるとスカラベというのが、どんな虫であるかというのが見えて来たと思います。
糞を食べる虫で、その餌となる糞を巣穴まで運び食べるというのは前述でおわかりかと思いますが、じゃぁ何故糞を転がさなければならないのか?という疑問が浮かび上がってきます。
「その場で食べればいいじゃん」と思う人も多いかと思います。
実際に、糞虫の中にはその場で食べる糞虫もいます。
でも、このスカラベは、それをしません。
では、何故しないのでしょう?
理由は、次のようなことが言えます。

@餌を独り占めしたい。
A美味しいモノを安全な場所で食べたい。
B我が子の為の愛。


かなり、自分流の書き方になってしまいましたが、上記の3点が言えると思います。
@は、人間にも言えることですが、美味しいものを独り占めしたいのは当然です。
しかも、スカラベは大食いです。
自分の体より大きな糞玉を、ペロッとたいらげてしまいます。
何故そんなに大食いなのかというのには訳があります。
糞自体、動物の排出物、つまりカスですから当然栄養分は少ないわけです。
その栄養分の少ないモノから栄養を取ろうとするわけですから、多く食べるしかないのです。
そこでAの願望が出てくるわけです。
動物が糞を落とした瞬間、いったいこんな数の糞虫が何処に隠れたんだと思うくらい群がって来ます。
おちおちしてると餌が消えてなくなってしまいます。
そこでスカラベは、美味しいところを切り離したら、一目散に巣穴をめざして転がしはじめるのです。
そして安全な場所に着いたら地面に穴を掘り、運んできた糞を埋め食べ始めるのです。
スカラベは、大食いですが、大糞垂れでもあります(笑)
消化も早く、食ったら直ぐに糞を出します。
自動改札機並です(笑)
そして、食べ終わるとまた獲物を探しに行きます。
「食って直ぐ寝ると牛になるぞ!」と良く言いますが、食べた後直ぐにトイレに行く人を見たら、「スカラベになるぞ!」と言ってあげましょう(笑)。
それとBの理由についてですが、糞に卵を産み付けるのは[スカラベってどんな虫?]で少し触れましたが、産卵の準備に必要なモノとして良質な糞が必要となります。
トロトロしてると蝿などに卵を先に産み付けられてしまうかも知れません。
なので、良質な部分を切り取ったら直ぐに転がし出すわけです。
こんな所にも母の愛が感じられます。
転がすことによって表面は硬くしまり、中はふわふわの状態でキープされるというわけです。
ファーブル先生の研究によると、卵を産み付ける糞には羊の少し柔らかい糞が使用されているらしいという成果が出てました。
スカラベだって、糞であれば何でも良いという訳ではないのです。
今は、絶滅してしまったのかもしれませんが、人間の糞専門の糞虫もいたんでしょうね。

その他の糞虫

憚りレポートの奈良編で糞虫について、少し触れたことがありましたが、今回スカラベについて調べてみて沢山の糞虫がいることを知りました。
スカラベ以外の糞虫について、少し紹介しましょう。
一角獣のような角を持つイスパニアダイコクコガネは、糞の真下に巣穴を作り、せっせと糞を巣穴に運び込み、糞をパンの生地のように寝かせる習性があります。
センチコガネも地中に糞を溜め込む習性があるのですが、この虫は夕方しか餌探しをしません。
しかも、雨の日は絶対に出てきません。
この習性を利用して、昔の人は明日の天気を占ったそうです。
センチコガネの”センチ”は、”雪隠”から来ているそうです。
容姿で言うとギリシャ神話に出てくるミノタウロスのような角を持つミノタウロスセンチコガネなどがいます。
その他、ナガボシタマオシコガネ、オオクビタマオシコガネ、ヒラタタマオシコガネ、アシナガタマオシコガネ、ヤギュウヒラタダイコクコガネ、マグソコガネなどがいます。
これら糞を食べる虫を糞虫といい、同じコガネムシ科でも食葉類のカブトムシやハナムグリとは区別されます。


結論


今、オージービーフなんて当たり前になっていますが、オーストラリアやニュージーランドの牛は、その昔、ヨーロッパ人が移住した際、持ち込んだ家畜でした。
オーストラリアなどにいる糞虫は、カンガルーなどの硬い糞を主食としてる糞虫ばかりなので、牛や羊のような柔らかい糞を好んで食べません。
なので、牧場は糞で溢れ、牧草は枯れ、草地がどんどん減って行き残された糞には大量の蝿が群がり、それが原因で家畜の間に伝染病が広がるという問題が発生しました。
困った酪農家は、牛や羊の糞を食べてくれる糞虫を輸入したのです。
それが功を奏し、肥沃な大地を取り戻したのです。
みなさんの食卓に上がってるオージービーフが安く美味しく食べれる陰には、糞虫達の働きがあるのです。
この糞虫の働きは、ただ糞を食べているだけではなく、農家の人が耕耘機で畑を耕すのと同じで、土の中に酸素を送り込んでくれているのです。
このように僕らの知らないところで、このような虫たちの働きによって、動物たちの落とした糞が掃除され美しい自然が守られていることがわかりました。
糞虫さん、ありがとう!そして、これからも頑張ってね!と感謝とエールを送ります。

おまけ:ファーブル先生について

この研究をするにあたって、僕はファーブル昆虫記を聖書のように熟読しました。
単にあの本は、昆虫の観察記ではなく昆虫をこよなく愛し昆虫に生涯を捧げたファーブルという人の情熱を感じることのできる、言わば彼の伝記と言っても過言ではないと思います。
彼は、昆虫記の中で数え切れないほどの実験を昆虫にしています。
スカラベに対しても、糞を転がしている時に、どれだけの障害物を乗り越えれるだろうかという実験しています。
スカラベの進路方向に岩を置いてみたり、穴を掘ってみたりなどなど、さまざまなトラップをしかけています。
当のスカラベにしてみれば、迷惑でいやがらせのなにものでもありません。
最初、僕は虫への実験と称して、虫へいやがらせ行為をしてストレスを解消している悪い奴なのではないかと思いそうになりました。
でも、良く読んでいくうちに、それは虫を愛するが故に、虫のことをもっと知りたいということに気づきました。
僕も妻に対して、時々いやがらせ行為をしますが、それも愛情の裏返しで、非常にファーブル先生の気持ちがわかります。
アヴィニョン時代のファーブル先生は、中学教師をやりながら昆虫の研究を続けていたのですが、スカラベを自宅で観察したいが為に、家畜の糞をお金を出して買っていたのです。
糞は肥料として大変貴重だった為、妻に内緒で当時としては大金をはたいて糞を手に入れていました。
昆虫への飽くなき追求心からくる行為であるわけです。
僕も時々、無性にくだらないモノに大金を投じて購入することがあり、それを妻に「こんなくだらないモノ買ってー」となじられることがありますが、これもファーブル先生と同じ、飽くなき追求心からくる行為なのです。
遠回しにファーブル先生を使って言い訳しているようですが、研究には、このような犠牲が付きものであることを是非理解して頂きたいものです。