第31回 ニジンスキー・ガラ 2005年7月3日(日)
この日のプログラムはイヤー・ブックに掲載されているものと多少違っていました。
指揮 アンドレ・プレッスール
演奏 フィルハモニッシュ・シュターツオーパー
語り手 ジョン・ノイマイヤー
☆ ジョージ・バランシンとフレデリック・アシュトン ☆
遺産と継承
第1部 バランシン |
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初演 序曲:ヴァルス・レント (ゆっくりとしたワルツ) |
音楽 ジョージ・バランシン (レーラ・アウエルバッハによるCD演奏) 振付・衣裳 ジョン・ノイマイヤー |
へザー・ユルゲンセン カーステン・ユング |
グリンカ・パ・ド・トロワ | 音楽 ミハイル・グリンカ 振付 ジョージ・バランシン 指導 マリーナ・エグレフスキー 初演 1955年3月1日 ニューヨーク・シティ・バレエ |
ジョエル・ブーローニュ カトリーヌ・デュモン アレクサンドル・リアブコ |
アゴン より パ・ド・ドゥ |
音楽 イゴール・ストラヴィンスキー 振付 ジョージ・バランシン 初演 1957年12月1日 ニューヨーク・シティ・バレエ |
ウェンディ・ウェーラン(ニューヨーク・シティ・バレエ) クレイグ・ホール(ニューヨーク・シティ・バレエ) |
ア・ラ・フランセ− (フランス風に)※ |
音楽 ジャン・フランセ− 振付 ジョージ・バランシン 指導 マリーナ・エグレフスキー 初演 1951年9月11日 ニューヨーク・シティ・バレエ |
ダンディ ロイド・リギンズ 娘 ジョージ−ナ・ブロードハースト 二人の船乗り アルセン・メグラビアン、ピーター・ディングル シルフィード ラウラ・カッツァニガ |
かもめ より パ・ド・ドゥ |
音楽 ドミートリ・ショスタコヴィッチ 振付・衣裳 ジョン・ノイマイヤー 初演 2002年6月16日 ハンブルク・バレエ |
ニーナ(若い娘) へザー・ユルゲンセン トリゴーリン(振付家) オットー・ブベニチェク |
シルヴィア・パ・ド・ドゥ | 音楽 レオ・ドリーブ 振付 ジョージ・バランシン 指導 マリーナ・エグレフスキー 初演 1950年12月1日 ニューヨーク・シティ・バレエ |
アニエス・ルテステュ(国立パリ・オペラ座バレエ) |
ジョージ・バランシンへのオマージュ モーツァルト338 |
音楽 ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト 振付 ジョン・ノイマイヤー 指導 ラディク・ツァリポフ、スザンネ・メンク 衣裳 ジル・サンダー 初演 1984年1月8日 ハンブルク・バレエ |
アンナ・ポリカルポヴァ、イヴァン・ウルバン エレーヌ・ブシェ−、ティアゴ・ボーディン アーニャ・ベーレント、アンナ・ラウデ−ル、マリア・コウソウニ、ディナ・ツァリポヴァ アルセン・メグラビアン、ステファーノ・パルミジャーノ、ヨハン・ステグリ、セバスティアン・ティル、コンスタンティン・ツェリコフ |
第2部 アシュトン |
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モノトーンズ (Monotones) |
音楽 エリック・サティ (オーケストラ編曲:クロード・ドビュッシーとローラン・マニュエル) 振付 フレデリック・アシュトン 指導 グラント・コイル 衣裳 フレデリック・アシュトン 初演 1965年3月24日 ロイヤル・バレエ |
ゼナイーダ・ヤノフスキー(ロイヤル・バレエ) イリ・ブベニチェク、オットー・ブベニチェク |
ザ・ドリーム The Dream (真夏の夜の夢) より パ・ド・ドゥ |
音楽 フェリックス・メンデルスゾーン・バーソルディ 振付 フレデリック・アシュトン 初演 1964年4月2日 ロイヤル・バレエ |
ティターニア リア−ン・ベンジャミン オーベロン セドリック Ygnace |
イサドラ・ダンカン風の 5つのワルツ |
音楽 ヨハネス・ブラームス 振付 フェレデリック・アシュトン (原振付 イサドラ・ダンカン) 初演 1 ワルツ 1975年6月22日 ニジンスキー・ガラ ハンブルク州立オペラ劇場 全作品の初演 1976年6月15日 ランベール・バレエ創立50周年ガラ |
ピアノ ジョナサン・ヒギンズ モリ−・スモ−レン(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) |
(Tweedledum and Tweedledee) |
音楽 パーシー・グレインジャー 振付 フェレデリック・アシュトン 初演 1977年11月28日 Friends of One-Parent Families Gala (両親が揃っていない家族友交会ガラ) |
キャロル・アン・ミラー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) クリストファー・ラーセン(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) キット・ホウルダー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) |
タイス・パ・ド・ドゥ | 音楽 ジュール・マスネー 振付 フレデリック・アシュトン 指導 グラント・コイル 衣裳 アンソニー・ダウエル 初演 1971年3月21日 |
シルヴィア・アッツォーニ アレクサンドル・リアブコ |
第3部 遺産と継承 |
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ダンス・ハウス (The Dance House) から |
音楽 ドミートリィ・ショスタコヴィッチ 振付 デイヴィッド・ビントリー 衣裳 ロバート・ハインデル 初演 1994年9月 サンフランシスコ・バレエ |
イェ−ナ・ロバーツ(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) レイン・マッケイ(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) ロバート・パーカー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) |
アフター・ザ・レイン (After the Rain) から パ・ド・ドゥ |
音楽 アルヴォ・ペルト “鏡の中の鏡” 振付 クリストファー・ウィ−ルドン 初演 2005年1月22日 ニューヨーク・シティ・バレエ |
ヴァイオリン アントン・バラコフスキー ピアノ ナージャ・ベレネーヴァ ウェンディ・ウェーラン(ニューヨーク・シティ・バレエ) クレイグ・ホール(ニューヨーク・シティ・バレエ) |
シェイクスピア組曲 から ハムレット |
振付 デイヴィッド・ビントリー 衣裳 ジャスパー・コンラン 初演 1999年10月6日 バーミンガム・ロイヤル・バレエ |
ロバート・パーカー(バーミンガム・ロイヤル・バレエ) |
グスタフ・マーラー の 第五交響曲 |
音楽 グスタフ・マーラー 振付・衣裳 ジョン・ノイマイヤー 初演 “エピローグ”としてのアダ−ジェット 1975年7月8日 アメリカン・バレエ・シアター 初演 1989年12月10日 ハンブルク・バレエ |
アダ−ジェット アニエス・ルテステュ(国立パリ・オペラ座バレエ) イヴァン・ウルバン フィナーレ ハンブルク・バレエ |
※Francaix(cはひげ文字です)とは作曲家の名前ですが、たぶん発音がフランセだから“フランス風”にという言葉の遊びをしているのだと思います。
こんなにノイマイヤー作品が少ないガラも珍しいでしょう。私にとってはバランシン、アシュトンの作品はほとんど興味がないので今回のニジンスキー・ガラを観るのはちょっと辛かったです。資料的にはそれぞれの振付家の様々な側面を観ることができて興味深いものはありましした。彼らの遺産を受け継ぐものとしてビントリー、ウィ−ルドンの作品を観ることができたのもそれはそれで貴重な時間でした。でも楽しんでいない私がいるのです。シンパシーを持てない私がいるのですよ。
第1部はバランシンに捧げられています。
最初の“ヴァルス・レント”は美しい小品で、久しぶりに色っぽいへザー・ユルゲンセンを見たような気がしました。バランシンは作曲もしていたのですね。
“ア・ラ・フランセ”を踊ったロイド・リギンズは楽しく、ジョージアナ・ブロードハーストも生き生きしていました。ダンディと娘は恋人同士なのでしょうけど、娘は娘で言い寄ってくる船乗りに少し気のあるそぶりをします。そこになぜかシルフィードが現れてダンディの心を奪います。いなくなると娘の方を見るのですが、シルフィードが現れるのフラフラとシルフィードの方に。このシルフィードのラウラがすごい。この数年、ラウラの存在感は圧倒的です。こういうことがコミカルに踊られていて、こういう役を踊らせると本当にロイドは上手いです。
イヤーブックのプログラムには“かもめ”は入っていませんでした。なぜかなあ、と思っていたところ、共同執筆者のJさんがトリゴーリンはバランシンをモデルにしていることを思い出しました。トリゴーリンがニーナを誘惑するシーンです。以前トリゴーリンをロイド・リギンズが踊ったことがありますが、彼の場合はニーナに誘惑されてしまうのね、という印象を持ちました。オットーはこういう、相手を魅了し誘惑する役にぴったりです。ニジンスキーの黄金の奴隷や牧神の場合もそうですものね。
今回のガラで特に違和感を感じたのは“グリンカ・パ・ド・トロワ”と“タイス・パ・ド・ドゥ”を踊ったアレクサンドル・リアブコでした。彼はとても上手に踊っているのですよ。でも私が観たいのはそういう踊りではないーーーーと何度心で思ったことか。“グリンカ・パ・ド・トロワ”ではバルボラ・コホウトコヴァが最初にキャスティングされていましたが、当日はカトリーヌ・デュモンになっていました。うっかりして聞きそびれたのですが、今回彼女をステージで観ることがなかったので怪我ではないかと心配しています。
“シルヴィア・パ・ド・ドゥ”ではジョゼ・マルティネスは欠席。何でもマニュエル・ルグリの怪我でマニュエルの代わりに踊らなければならなかったそうで、アニエスのみ。世界バレエ・フェスティバルの時と逆ですよね。きれいでしたよ。
“モーツァルト338”は1986年の日本公演時に踊られています。残念ながら私はその時観ていなくて今回が初見でした。ノイマイヤーのモーツァルトを使った軽い作品は好きで、もう一度観たいと思っています。
第2部はアシュトンに捧げられています。
“モノトーンズ”はずっと以前のロイヤル・バレエ来日の時観たことがあります。その時はアシュトンはこういうモダンな雰囲気もあるのね、と思ったのですが、今では少し古めかしくも感じます。ただこういうところにブベニチェク兄弟を使うのは面白いとも思ったのですが、意外にその効果は感じませんでした。
“ザ・ドリーム”もロイヤル・バレエ来日時に観たことがあります(この時、熊川哲也はまだソリストでパックを踊っていました)。ティターニアとオベロンのパ・ド・ドゥですからそれなりに威厳を持ってとでもいいましょうか。それにしてもこれだけ採りあげられて面白いわけがないでしょう。
アシュトンもいろいろな顔を持っている、といいましょうか、イサドラ・ダンカン風の作品もあったのねえ。驚いたことにこの作品の最初のワルツが第1回のニジンスキー・ガラで初演されているのです。
“トゥイ−ドゥルダムとトゥイ−ドゥルディー”はルイス・キャロルの“鏡の中のアリス”を題材にしたものらしく、トゥイ−ドゥルダムとトゥイ−ドゥルディーはハンプティ・ダンプティのことかと(まだ調べていません)。とてもユーモラスで英国テイストとでもいいましょうか。女性ダンサーの名前がキャロル・アン・ミラーなので、最初、キャロルの役をアン・ミラー(懐かしい名前だと思われる方はいらっしゃるでしょうか。タップ・ダンサーでフレッド・アステアとも共演していますよね)と思ってしまいました。キャロルは男性なのに、???でした。まず見ることはないでしょうけど、楽しめました。ビントリーの“ペンギン・カフェ”もこういうところからまさに影響を受けているんですねえ。
“タイスのパ・ド・ドゥ”、上記のごとく彼らは大変上手に(と書くのも失礼と思えますが)踊って、盛んな拍手、ブラヴォーを貰いました。でもわたしが彼らで見たいのはこういう踊りではないわけです。
第3部はバランシン、アシュトンの後継者たちの作品です。
イヤー・ブックではビントリーのスプリング・パ・ド・ドゥでしたが、“ダンス・ハウス”に変更されていました。レッスン・バーが舞台の奥にあって、そこでの男女の心の動きを追った佳品です。
“アフター・ザ・レイン”は、ケルンで“オテロ”を見てきたばかりのものにとって、ペルトのこの曲を勝手に使うな、と思わずいってしまいそうです。とても丁寧で踊られていて悪くはないんでしょうけどこうノイマイヤー以外の作品が続くと、こちらの注集中力もそがれてしまいます。ウェンディー・ウェーランはいうまでもなく素晴らしいダンサーですが、クレイグ・ホールのテクニックのしっかりしたサポートぶりには、こういうダンサーもハンブルクに欲しいなあ、と思わず思ったほどです。
“ハムレット”は一部分ですので、あまり感想もないのですが、策士としてのハムレット(ちょっとベジャールのハムレットを思い出しました)の側面が前に出ていて、さすがアメリカ人の考えるハムレットは悩んでいないよなあ、というところでしょうか。
さあ、最後のマーラーの第5交響曲です。
イヴァンのサポートに少し不安を覚えていた私でしたが、そんな心配も杞憂に終わり、安定したサポート振りと彼の踊りには拍手を惜しみませんでした。
でも私にとってはここはイヴァン・リスカとジジ・ハイヤットなので、休憩中にイヴァン・リスカの姿を見かけたこともあって、彼らがどうしても重なってしまいます。もちろん彼らの踊りを細部までつぶさに覚えているわけではないのですが、彼らのイメージが強く焼きついているのです。
アニエス・ルテステュ、イヴァン・ウルバン、二人とも情感のあるいい踊りでした。そしてフィナーレで全員が出てきたとき、私はかれらのこういう踊りが観たかったのよ、と心から思いました。
いつものように最後のカーテンコールで指揮者、ノイマイヤーと並んで、スタッフの方々も登場。ここはいつでも好きです。特に、おお、ケヴィンとラディク、すてき、と思ってしまいます。
私にとっては何となく不完全燃焼のまま、第31回のニジンスキー・ガラは幕となりました。
(S)