第32回 ニジンスキー・ガラ 2006年7月10日(日)


指揮:クラウスペーター・ザイベル
演奏:フィルハーモニカー・ハンブルク
語り手:ジョン・ノイマイヤー

☆シンフォニック・バレエの側面☆

I
モーツァルト、そしてさらに
(Mozart und mehr    Mozart and more)
モーツァルトの窓
から
音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
振付:ジョン・ノイマイヤー
衣装:クラウス・へレンシュタイン
初演:1991年4月19日、ハンブルク・バレエ、ハンブルク州立オペラ座
音楽:ラウラ・カッツァニガ、カーステン・ユング
天才少年:キラン・ウエスト
お気に召すまま
から

羊飼いの田園詩

愛に恋する
音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
振付:ジョン・ノイマイヤー
衣装:クラウス・へレンシュタイン
初演:1985年7月13日、ハンブルク・バレエ、ハンブルク州立オペラ座
ジャック:ピーター・ディングル

羊飼いの田園詩
フィービー:
ジョエル・ブーローニュ
シルヴィウス:ヨハン・ステグリ
タッチストーン:ロイド・リギンズ
オードリー:バルボラ・コホウトコヴァ
アダム:ピーター・ディングル
エヴァ:アーニャ・ベーレント
ウィリアム:コンスタンティン・ツェリコフ
羊飼いの女と男たち:オデット・ボーヒェルト、フロレンシア・チネラート、ゲイレン・ジョンストン、ステファニー・ミンラ―、大石裕香、アンナ・Rabsztyn、リサ・トッド、ディナ・ツァリポヴァ
ステファン・ボウゴン、オーカン・ダン、服部有吉、ウラディミール・ハイリャン、ヤロスラフ・イヴァネンコ、ヴィクター・マテオス・アリャーノ、アルセン・メグラビアン、パーシヴァル・パークス。キラン・ウエスト

愛に恋する
ロザリンド:
シルヴィア・アッツォーニ
オーランド―:アレクサンドル・リアブコ
チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ 音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー
振付:ジョージ・バランシン
初演:1960年3月29日、NYCバレエ、City Center of Music and Drama, New York
エレーヌ・ブシェ―
ティアゴ・ボーディン
シルヴィア・パ・ド・ドゥ 音楽:レオ・ドリーブ、
振付:ジョージ・バランシン
ステイジング:マリナ・エグレフスキー
初演:1950年12月1日、NYCバレエ、City Center of Music and Drama, New York
リザ・マリー・クルム
ルーカス・スラヴィツキー
バイエルン州立バレエ、ミュンヘン
タイス・パ・ド・ドゥ 音楽:ジュール・マスネー、“タイスの瞑想”より
振付:ローラン・プティ
初演:1986年、”Ma Pavlova”より、マルセイユ国立バレエ
ルシア・ラカッラ
シリル・ピエール

バイエルン州立バレエ、ミュンヘン
II
未来 - 出会いと別れ
(Zukunft - Ankunft, Abschied     Future - Arrival, Farewell)
結婚式 - ディヴェルティスマン 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ、“古典交響曲”
振付:ケヴィン・へイゲン
初演:2006年5月17日、ハンブルク・バレエ学校、ハンブルク州立オペラ座
マリッサ・ヒメネス、マティアス・イアンコニアンニ
ハンブルク・バレエ学校の
養成課程IV - VIの生徒
テアタ―クラスの学生
ドン・キホーテ
より
パ・ド・ドゥ
音楽:ルートヴィッヒ・ミンクス
振付:マリウス・プティパ
初演:1871年11月21日
キトリ:カロリーナ・アゲ―ロ
バジル:ダリオ・フランコニ
フィンランド国立バレエ、ヘルシンキ
イン・ザ・ミドル・
サムワット・エレヴェイティッド
より
パ・ド・ドゥ
音楽:トム・ヴィレム
振付:ウィリアム・フォーサイス
衣装:ウィリアム・フォーサイス
初演:1987年5月30日、パリ国立オペラ座バレエ
クシャ・アレクシ
アミカール・モレット・ゴンザレス
チューリッヒ・バレエ
バーンスタイン・ダンス
より
ロング・ノート・ラグ
(Wrong Note Rag)
音楽:レナード・バーンスタイン
振付:ジョン・ノイマイヤー
衣装:ジョルジオ・アルマーニ
初演:1998年6月14日、ハンブルク・バレエ、ハンブルク州立オペラ座
アルセン・メグラビアン
夜の彷徨
より
音楽:グスタフ・マーラー、第7番交響曲
振付:ジョン・ノイマイヤー
舞台美術・衣装:ジョン・ノイマイヤー
初演:2005年12月4日、ハンブルク・バレエ、ハンブルク州立オペラ座
ジョエル・ブーローニュ
ロイド・リギンズ
ニジンスキー
より
音楽:ドミトリ・ショスタコヴィッチ
振付:ジョン・ノイマイヤー
舞台美術・衣装:ジョン・ノイマイヤー
初演:2000年7月2日、ハンブルク・バレエ、ハンブルク州立オペラ座
ヴァスラフ・ニジンスキー:イリ・ブベニチェク
ロモラ・ニジンスキー(妻):アンナ・ポリカルポヴァ
ブロニスラヴァ・ニジンスカ(妹):カトリーヌ・デュモン
スタニスタフ・ニジンスキー(兄):服部有吉
エレオノーラ・ベレダ(母):ジョエル・ブーローニュ
ニジンスキー、ペトルーシュカ:ロイド・リギンズ
タマラ・カルサヴィナ、ペトルーシュカのバレリーナ:へザー・ユルゲンセン
セルゲイ・ディアギレフ:イヴァン・ウルバン
トマス・ニジンスキー、父/医師:カーステン・ユング
内的世界の人々、戦争:ハンブルク・バレエ*
椿姫
より
パ・ド・ドゥ
音楽:フレデリック・ショパン
振付:ジョン・ノイマイヤー
舞台美術・衣装:ジョン・ノイマイヤー
初演:1978年11月4日、シュトゥットガルト・バレエ、Wuerttenmbergische Staatstheater、シュトゥットガルト
ハンブルク初演:1981年2月1日
ピアノ:フォルカー・バンフィールド
マルグリット・ゴーティエ:シルヴィ・ギエム
アルマン・デュヴァル:ニコラ・ル・リッシュ*
*パリ国立オペラ座バレエ
III
ワルツ、ポルカからモルト・アレグロへ
(Von Walzer und Polka bis Molto allegro  From Waltzes and Polka to Molto allegro)
ワルツ 親しい仲 音楽:ヨハン・シュトラウス
振付:ジョン・ノイマイヤー
衣装:アルベルト・クリームラー
初演:2006年1月1日、ウィーン・フィルハーモニー・ニュー・イヤ―・コンサート、ハンブルク・バレエ、ウィーン州立オペラ座バレエ、エプシュタイン宮殿
アンナ・ポリカルポヴァ
イヴァン・ウルバン
ジョージアナ・ブロードハースト - ステファノ・パルミジャーノ
カトリーヌ・デュモン - ピーター・ディングル
フィリパ・クック、ステラ・カナトゥーリ、イリーナ・クロウグリコヴァ、アンナ・ラウデール、カロリナ・マンクーソ、ミリアナ・Vracaric、マリアナ・ザナットー
ジョゼフ・エイトキン、シルヴァノ・バロン、アントナン・コメスタッツ、エミル・ファスートディノフ、クサノ・ヨウスケ、エドウィン・レヴァツォフ
新ピツィカート・ポルカ 音楽:ヨハン・シュトラウス
振付:ジョン・ノイマイヤー
衣装:アルベルト・クリームラー
初演:2006年1月1日、ウィーン・フィルハーモニー・ニュー・イヤ―・コンサート、ハンブルク・バレエ、テアタ―・アン・デア・ウィーン
シルヴィア・アッツォーニ
アレクサンドル・リアブコ
ティアゴ・ボーディン
私を忘れないで
(Ne m'oublie pas)
音楽:ヤン・ティアセン
振付:ヤロスラフ・イヴァネンコ
初演:2004年11月23日、シュトゥットガルト慈善ガラ
へザー・ユルゲンセン
ヤロスラフ・イヴァネンコ
アンドンテ 音楽:ウィム・マルタン
振付:クロード・ブリュマション
初演:1992年8月、Jeune Ballet de France
イリ・ブベニチェク
オットー・ブベニチェク
9. Juli
(7月9日)
音楽:アフェックス・トゥイン
振付:ジェレミー・ベランガール
初演:2006年7月9日、第32回ニジンスキー・ガラ、ハンブルク州立オペラ座
ニコラ・ル・リッシュ
パリ国立オペラ座バレエ
Two 音楽:アンディ・カウトン
振付:ラッセル・マリファント
初演:1998年、ラッセル・マリファント・カンパニー、The Place Theater London
シルヴィ・ギエム
モーツァルトの窓
から
音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
    交響曲ハ長調KV551 ジュピター
振付:ジョン・ノイマイヤー
衣装:クラウス・へレンシュタイン
初演:1991年4月19日、ハンブルク・バレエ、ハンブルク州立オペラ座
第2楽章、アンダンテ・カンタービレ
ルシア・ラカッラ*、シリル・ピエール*
クシャ・アレクシ**、アミカール・モレット・ゴンザレス**
リサ・マリー・クルム*、ルーカス・スラヴィツキ*
* バイエルン州立バレエ、ミュンヘン
** チューリッヒ・バレエ
エレーヌ・ブシェ―、ティアゴ・ボーディン
アンナ・ラウデール、アントン・アレクサンドロフ
フィナーレ、モルト・アレグロ
ハンブルク・バレエ

プログラムには“バーンスタイン・ダンス”と“7月9日”の作品は載っていたのですが、途中でノイマイヤーからアルセン・メグラビアンは怪我で、また“7月9日”上演に間に合わなかったので、公演を控えるとの話があり、観客はオーとがっかりした溜息をついていました。消すのも寂しいので斜線を引きましたが残しておきますね。
さて、6時開演で始まった始まったガラですが、2演目の上演中止を含みながらも終ったのは11時40分。またしても長いダンス・マラソンとなりました。ダンサーの方々も大変でしょうけど、携わっているスタッフの方も観客も大変ですよね。

“モーツァルトの窓” は天才少年をヨハン・ステグリ(彼は“お気に召すまま”でも踊らなくてはならないのでこちらはパス、というところでしょうか)ではなく、キラン・ウエストが踊りました。キランは今シーズン入団したばかりですが、群舞の中でも非常に目立ちました。このシーンそのものは、音楽に育まれてモーツァルトが生まれていく、という印象を受けました。

“お気に召すまま” 懐かしい作品です。日本公演時に観て以来です。
狂言回しのジャックと、女装してタッチストーンを惑わせるアダムをピーター・ディングルが踊ったのですが、私見ではピーターはコメディアンではないなあ、という印象を受けました。きっと誠実で真面目な(と思われる)性格がアダム向きではないんでしょうね。(いかにも不器用な印象を受けるピーターですが、マタイ受難曲ではそれが逆に良い方に相乗効果となっているように思います。)
タッチストーンはロイド・リギンズで、アダムに惑わされ、オードリーに誘惑されるところはもう可笑しいのなんのって、さすがにロイドは役者やのう、と感心。オードリ―のバルボラ・コホウトコヴァも絶好調。(でもこのタッチストーンをミディネット、オードリ―をジジが初演したのだと思うと胸が痛みます。ミディネットを観たかったよー、と叫んでしまいます。)
恋する二人を踊れば、シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコの独断場でしょう。ロザリンドがせつない胸のうちを留めることができないで、最初は“よう、仲間よ”と接していたオーランドーがやっとロザリンドに気付き、愛を踊る二人はとても美しく素敵でした。ロザリンドの役は女性だったら誰でも踊ってみたい役でしょうね。
ノイマイヤーの上質なユーモアが大好きです。

“チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ” バランシンでもこれくらいなら私でも楽しめます(私はバランシンにどうにもシンパシーが持てないのです)。エレーヌ・ブシェーはしっかりバランシンを踊っていて、彼女の踊りでは長い腕・脚を持て余しているような印象を受けたこともあったのですが、そんなことがちっとも気にならず、とても素敵でした。ティアゴ・ボーディンはそれに比べるともう少し踊りこむ必要あり、ですね。もっとも、ダンサーの皆さんはこのバレット・ターゲでフル回転ですから、すこし調子が悪くても仕方がないこともあるかもしれません。来シーズンはファースト・ソリストなのですから、頑張れ、ティアゴ!、とここはエールを送っておきましょう。

“シルヴィア・パ・ド・ドゥ” ノイマイヤー版ではパリ・オペラ座でマリー・アニエス・ジローとジョゼ・マルティネスが踊ったシーンを今日はバランシン版ですがお楽しみ下さい(Hの翻訳によると)、とノイマイヤーのおしゃべりに観客は拍手。予定されていたロマン・ラディクの代わりは同じくミュンヘンのバイエルン州立バレエのルーカス・スラヴィツキーに。うーん、きれいでした。

“タイス・パ・ド・ドゥ” あまりお気に入りではないルシア・ラカッラがとてもよく、プティのミューズといわれている意味がわかりました。叙情的で、とても素敵でした。

休憩を挟んで
“結婚式のディヴェルティマン” バレエ学校の“ロミオとジュリエット”公演の中の一部でしょう。これに関してはほとんど記憶にないので、また後ほど。

“ドン・キホーテ” 来シーズン入団のダンサーのお披露目といったところでしょうか。コンサート形式のガラではこういう作品をどう踊るかはとても難しいですね。テクニックをフルに発揮させて踊るか、または??? しっかりしたテクニックを持ったいいダンサーなのでしょうけど、彼らの独自性が何なのか残念ながらここからは伝わってきませんでした。

“イン・ザ・ミドル・サムワット・エレヴェイテッド” フォーサイスを踊るということはダンサーにとってどういう意味を持つのか、それはそれだけで強力なメッセージです。ただこの作品も定番となりつつある今、どういう意味を込めるかが、やはりダンサーに求められるでしょう。3年前のWBFのアリシア・アマトリアン、フリーデマン・フォーゲル組の強烈さまでは感じることができませんでした。ただ彼らはブラヴォーと盛んな拍手を貰っていました。

最初に書きましたが、
“バーンスタイン・ダンス”の公演はありませんでした。アルセンの活躍が観られなくて残念です。

“夜の彷徨” マーラーの第四楽章、夜の音楽からジョエル・ブーローニュとロイド・リギンズのパ・ド・ドゥです。オタクにちかい役柄のロイドが美しい女性に会って恋に落ち・・・、というシーンです(詳しいことはいずれ“夜の歌”の方で)。このロイドは、コミカルでしかし哀愁もありと、まさにブラヴォー!でした。

“ニジンスキー” 第二幕の最初のシーンからスヴレッタ・ハウスのシーンの前まで。
カンパニーを去るイリ・ブベニチェクと服部有吉を送るに相応しい作品です。イリは全幕物の初演の主役。そしてイリ、有吉はともにノイマイヤーに彼らの役の創造にインスピレーションを与えたに違いありません。
初演時から6年半。初演時には少年ぽさを残していた有吉は青年としてスタニスラフを苦悩と闇の中で踊りました。自分自身さえ見えない闇です。
イリもまた目に見えない壁になすすべもなく狂気を募らせていくニジンスキーを踊りました。
最後にイリが数回のカーテン・コールに立ったのですが、三回目には彼の目には涙に溢れていたように見えました。このようなイリは初めてでした。観客は別れを惜しむようにイリにスタンディング・オヴェーションを送りましたが、カーテンコールに出て来なかった有吉にも同じようにスタンディング・オヴェーションを送っていたと思います。

“椿姫の第三幕のパ・ド・ドゥ” ある意味では今回のガラの目玉です。あのシルヴィ・ギエムが踊るのですから。ところが、ニジンスキーのカーテン・コールの後、第二部が終ったと思って、休憩モードに入って席を立っていった観客がいたのにはびっくりしました。またこの位置でギエムもよく踊るなあとも思いました。“ニジンスキー”の後なのですから。でもさすがギエムでした。彼女の世界に観客はすぐに飲み込まれたようでした。アルマンの二コラ・ル・リッシュの乱れた髪も捨て鉢になっている心情が表れてなかなかいいんじゃない、と思ったりして。
苦しげな表情でアルマンに会いに行ったマルグリットは、アルマンに会えたことと求められる歓びが、別れなければならない苦しみの思いと綯い交ぜになりながら、アルマンの求めるままに・・・と、そのあたりの微妙な表現は本当に素晴らしいものでした。アルマンも自分を踏みにじった女性だけれど、心の底にはまだ愛が残っていて、彼女を求める愛と憎しみの心情の複雑さの表現、リフトもスピードも完璧、本当に素晴らしいパ・ド・ドゥでした。彼女たちの全幕を是非観たいです。ただその時は他のダンサーとのバランスが難しいかなあ。
前日、夜10時まで彼女たちはリハーサルをしていたと聞きました。

休憩を挟んで第三部です。
“ワルツ 親しい仲” 元旦のTVで世界に向けて放送されたものです。アンナ・ポリカルポヴァとイヴァン・ウルバンは実際もご夫婦なので息もぴったり。放送のときも思ったのですが、流れるような振付で観ているうちに夢のように終ってしまいます。若い青年が夢の女性に出会い、そしてすべてが幻のように消えてしまって・・・というイメージです。

“新ピツィカート・ポルカ” これも元旦のTVで世界に向けて放送されたもの。こちらはシルヴィア・アッツォオーニ、アレクサンドル・リアブコのご夫婦にお邪魔虫のティアゴ。ただ最初のティアゴ・ボーディンの笑顔のクローズアップはなし(あたりまえか)。3人の仲良しの踊りのチームワークはとても良くて、私としては少し不満。ニュー・イヤー・コンサート用だから仕方ないのだろうけど、折角のパ・ド・トロワで、また衣装はマレーネ・ディートリッヒをイメージしたものなら、トリュフォーの“突然炎のごとく”(こちらはジャンヌ・モローでしたね。うっかりしていました。)みたいな関係を持ち込んでもいいのではないかしら? と、ついノイマイヤーには多くのことを期待してしまうのです。そんな作品を創ってくれないかなあ。
ちなみに弦のピツィカートの音は、生の音でこそ素晴らしいものでした。艶かしい感じさえしました。
余談ですが、普段はCDやラジオを通して音楽を聞いているのですが、たまによいコンサートに行くと、聞こえてくる楽器が放つ音は身体の隅々まで入り込むような気がして、音楽よりも音に反応してしまいます。

“私を忘れないで” ヤロスラフ・イヴァネンコの振付作品。彼の作品を観るのは初めてだと思うのですが、ドン・ペリニヨン振付コンクールにも毎回挑戦し、第1回には審査員特別賞、第2回には観客賞を貰っています。
ガールフレンドのへザー・ユルゲンセンと振付家自身のこれもぴったり息が合った流れるような振付でした。上は白のレオタード(といっていいのかしら・・・後で写真を見ると、イヴァネンコは上半身は何も身につけていませんでした)、下は幅広のパンツ。二人ともおそろいの衣装でした(これも写真によると柔らかい生地で、上にスカートが付いていました。いやはや、記憶がいい加減だなあ。したがってユニセックスな衣装ではありますが、厳密な意味でお揃いとはいえないかしら。)。
ただモダンの作品を観てよく思うのですが、表情が少し単調なのです。いい作品なのですが、この中ではいかんせんインパクトが足りませんでした。

“アンドンテ” この作品をマニュエル・ルグリ、バンジャマン・ペッシュのペア、イリ・ブベニチェク、バンジャマン・ペッシュのペアで観たことがあります。そのときは曲のせいもあってかそれほどのインパクトを受けなかったものの、昨年観たイリはよかったなあ、と思っていました。
今回のオットー・ブベニチェクとイリ・ブベニチェクのペアは、イリがバレエ団を去ってドレスデンに行くこともあってかもの凄く気合が入っていました。彼らは空間を裂くような鋭い表現をするときは、その筋肉が同じように動いて観るものを圧倒します。ご覧になった方はWBFのガラでの“オデュッセイア”の“戦争”(これはいまでも私にとってベスト作品のひとつです。)を思い出してください。その時よりさらに強く硬質でした。ただ彼らが踊るとウィム・マルタンの音楽では軽い気がします。この歌の歌詞をご存知の方はいらっしゃいますか? もしいらっしゃればどうぞご教示ください。
彼らはこの作品に新しい生命を吹き込んだといってもいいでしょう。この二人の公演を是非日本でもお願いしたいものです。

“7月9日” この日に合わせた作品でしたので上演されなかったのは残念です。

“Two” 強しシルヴィ・ギエム、というところでしょうか。自己の筋肉の細部までコントロールして、そしてそれは今では彼女にとってごく自然なことのように見えます。先ほどのマルグリットとはまったく別のスタイルを完璧に踊ってしまうのです。本当に目を見張りました。そのチャレンジ精神には頭が下がります。ただ彼女が踊るとゆっくりとしたムーヴメントにも破綻がなく、そこが少し寂しく感じられ、作品としては深い感動には至らないのです。

“モーツァルトの窓” いよいよ最後です。この作品だけが今回のテーマ“シンフォニック・バレエの側面”に正攻法で向き合っているように思えました。私は“モーツァルトの窓”を観ていないので推測ですが、ノイマイヤー・ノートによりますと、モーツァルトの永遠の生命の表現が抽象的にされていることになりますので、ダンサーが音符となり音楽を表現しているというところでしょう。ただ、全幕では第2楽章アンダンテ・カンタービレはコンスタンツェとウォルフちゃん、アロイジアとウォルフガンク・アマデウス、従姉ちゃんとW.A.モーツァルト、音楽のペアと4組が踊ることになっているので、モーツァルトの窓の登場人物すべてがモーツァルトの音楽を創っているというイメージがあるように思えます。これをガラでは5組のペアで踊っています。
第4楽章フィナーレのモルト・アレグロは“疾走するモオツァルト”(古い話ですが学生時代には小林秀雄に訳のわからないまま影響されていました)で、上昇する音符に祝典的な響きもあり、全員のダンサーでモーツァルトを称賛していて、マーラーのシンフォニーの内に向かう精神性とは全く対峙した外部へ向かう作品でした。やはり全幕を観なければジュピターの祝祭的雰囲気に盛り上がることは難しいです。いつかぜひ全幕を観る機会を作りたいのですか・・・。

そしてカーテン・コールです。
指揮者のクラウスペーター・ザイベル、ノイマイヤーとダンサーの迎えに答えるように登場。そしていつものようにノイマイヤーに盛んなアプローズ。しかし今回はイリ・ブベニチェク、服部有吉に観客は別れを惜しみ、新天地での活躍を祈るようにひときわ大きい拍手を送っていました。そして最後にスタッフが手を繋いで登場。ケヴィン・へイゲンもラディク・ツァリポフも健在でとても嬉しいわ。
普通ならここで最後にメインのダンサーがペアで出てきて拍手を受けるのですが、さすがに11時もかなりまわりますと今回はそれはなし。ステージに散らした紙吹雪を楽しみながら、11時40分に観客は足早く家路へと着きました。昨年は遅くまでロビーに残ってハンブルクの友人たちと別れを惜しんだのですが、今回は短い別れのみでオーパーを後にしました。
TANZNETZにその様子が掲載されています。
http://www.tanznetz.de/koegler.phtml?page=showthread&aid=69&tid=8016
またこのページの下の方には新聞3紙の批評へのアクセスが載っています。
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