子育てを見守る



じゅげむじゅげむ……




     新たな発見

 去年の夏、わが家では嫁いだ二人の娘が、それぞれの理由でやや長い帰省をしました。長女に二人、次女に一人娘をつれての里帰り。冬生まれの一人を除いて私も含めしし座の女が五人揃ったのは圧巻でした。

 ひと昔なら製糸工場でも開けそうな様相、長く憧れた女系家族の良さを味わう一方で、今時の子どもたちを間近で見ていくつかの新たな発見をしました。

     孫の頼み

 東京の孫は四年生と二年生、毎年お盆に誕生日を迎えます。

 「夏休みにはおじいちゃんから工作を教わり、おばあちゃんからは本を買って」と、前もって葉書が来ていました。可愛い孫の頼みとあればそれこそ「いいどこじゃない」と二つ返事。もともと手先の器用な主人は贈答用のそうめんの木箱から本立てを教えたのでした。買ったのは百円均一での取っ手のみ。釘までリサイクルの結構な物が仕上がりました。誕生祝いの本は、下の子は漫画や占いなどまだ屈託がないが、上の子は父親譲りの本好きで希望は若草物語と諺事典とのこと。赤毛のアンは?歴史物も面白いよという私に「何冊までいいの?」と聞いたのが印象に残りました。

 注目は安曇からきた次女の子ども、2歳の誕生日が過ぎたばかりで、言葉が片言から三節になったと娘が喜んでいますが、智恵がついてきて本当に何をしても可愛い盛りです。

     耳を疑う

 その3人が賑やかに過す中でふと気がつくと「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ…」落語のあの長い言葉を最後まで諳んじて唱えているのです。

 大人もうろ覚えなのに2歳の子がと驚いていたら、夜のお風呂場での騒ぎにまたまた耳を疑いました。「祇園精舎の鐘の声諸行無常の響きあり…必衰の理をあらわーす!」何と四人で平家物語の大合唱です。

 聞けばテレビで狂言の野村萬斉さんなどが出演の「にほんごであそぼ」という番組みがあり、これは古典を含む日本語の美しさを子どもに聞かせるために、毎日放送されているということです。

 他に春はあけぼのや短歌、熟語など色々あり子どもは意味はわからないながら繰り返し聞いている内に覚えてしまうそうで、今幼稚園ではじゅげむなどはどの子も言えて当たり前になっているということでした。映像時代、パソコン、英語と今の子どもにはこんな一面もあったのかと思いながら、昔聞いた才能教育鈴木先生の話を思い出しました。

     どの子も光る

 ある日気がつくとイギリスの子どもは英語を、日本の子どもは日本語を日常的に話している。誰が教えるのでもなく、生まれ落ちた赤子がいつの間にかこうなる事実、三つ子の魂百まで、鉄は熱い内に打て、麻中の蓬は直し…古来子どもに関する熟語は多いが、つまるところ氏より育ちということか。小さいときから良い物を与えればどの子も必ず光るものをもっているのだという内容だったような気がします。

 嫌な事件ばかり多く何を信じていいのかわからないこのごろだし、小さい子どもが「行く川の流れは…」「月日は百代の…」など口にするのはかわいい半面妙な感じもするが、一方ではまだなかなかのことを考える人もいるのだということがよくわかりました。

 そのあとわが家では思い掛けない不幸がありました。お葬式や49日から帰ってきた彼女らはもう「ギャーテーギャーテーハラギャーテー」と、門前の小僧さながらに般若心経の一節をいっているのでした。

 カイジャリスイギョ、スイジョウマツ、ウンライマツ、パイポパイポ…

 ひょっとしてあの子たちは天才か?いやいや、はたち過ぎればただの人というから…など一人残されたババはとりとめもなく思いを巡らせています。


           長野県下諏訪町  高木 萬知江

クローズアップしもすわ2月号「生涯学習357号」より掲載




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