鍼灸の代替医療の日は来るのか?




 一部の晴眼者を覗いて、大半の鍼灸マッサージ治療は視覚障害者が行っていたため、昭和30年代ころまでは、一般の方々には、鍼灸マッサージは視覚障害者の専業のようにとらえられがちでした。今でも、そう思っている患者さんも一部にはおられることは事実です。

 がしかし、昭和46(1971)年、ニクソン大統領が中国を訪問した際、随行したニューヨークタイムズのレストン記者が虫垂炎を発生し、鍼麻酔で手術を受けた自らの中国での体験をニューヨークタイムズで報道してから、鍼灸治療に対して、米国市民の大きな注目を集めるようになりました。

 以来、日本でもそれまでは見向きもしなかった医師をはじめ、多くの方々が鍼灸に関心をよせるようになり、鍼灸の知識もないのに、医師という名のもとに電気鍼による鍼麻酔を行う医師も現れました。真に鍼の勉強をして、御産の帝王切開手術に鍼麻酔を疼痛のコントロールに使用される熱心な産婦人科の医師もいました。また、鍼麻酔は手術中の出血が少なく、麻酔薬のような患者の意識もそれほど低下しないことから、歯科医師の中には、抜歯の施行に鍼麻酔を使用する医師もいました。(現在では鍼麻酔は、個体差があり、使用されなくなっています)。

 国民の中に鍼灸に対する関心が高まったとはいえ、鍼灸ブーム到来とばかりサラリーマンが退職後の新職業の一つとして、安直な考えで鍼灸マッサージの資格を取るために、鍼灸マッサージ養成施設へ入学して大問題になった時期もありました。鍼灸が、サラリーマンの退職後の職業にという安易な治療でないことを認識して欲しいものです。

 それだけ、晴眼者の鍼灸に対する関心度が高まったということでしょうか。大いに結構ではありますが、そのころから、晴眼者の鍼灸マッサージ養成学校が全国各地に新設されて、その数も増加しています。 特に、ここ数年晴眼者の鍼灸マッサージ養成学校設置の申請が厚生労働省に提出され、不備がない限り許可されています。当然のことながら、晴眼者の鍼灸マッサージ師は増加しており、反面視覚障害者の鍼灸マッサージ師のその数は激減して来ています。

 そして、昭和53(1978)年京都府に私立の明治鍼灸大学が開学したのをはじめ、大阪市に明治鍼灸短期大学(3年)がまた、筑波大学に国立の鍼灸短期大学(3年)が開設されました。鍼灸大学の開学には、文部省(現在は文部科学省)が難色をしめすなど、紆余曲折がありましたが、このように鍼灸の高等教育が開設されたことは、我が国の鍼灸の発展のためには大きな意義があります。中でも、京都府の明治鍼灸大学には、病院も併設されて、現在では、鍼灸の修士課程も設けられており、ハイレベルの鍼灸師を輩出しております。

 理学療法士(PT)法が制定される以前は、病院でも、個人医院でも、視覚障害者の鍼灸マッサージ(マッセル)は重宝されていましたが、昭和40(1965)年、理学療法士の法律が施行されて以来、カルテを読めないことを理由に、視覚障害者の鍼灸マッサージ師が病院から排除されていったように、視覚障害者が鍼灸マッサージ業に占める割合は、毎年徐々に減少しております。

 最大の理由は、車社会を迎えて、視覚障害者の単独歩行が困難になったことによる行動範囲に制限があり、晴眼者のように車で往診が出来ないため、必然的に来院患者に重点がおかれるようになったことです。

 現在は鍼灸マッサージ師の有資格全体の視覚障害者は20パーセント代にまで激減しており、10パーセントまでに落ち込むのは時間の問題と思われます。したがって、もはや鍼灸マッサージ業は視覚障害者の専業とはいえなくなっております。

 下記の表は、平成10年度末現在の鍼灸マッサージ師の就労者数(衛生行政業務報告資料)です。

科目     全体    晴眼者   視覚障害者

マッサージ師 94655 67086 27569

鍼師     69236 53247 15989

灸師     67746 52505 15241


平成12年12月31日現在 鍼灸マッサージ師の有資格者数です。


マッサージ師 鍼師     灸師

165398 165398 112647

 一方米国においては、鍼灸の歴史は浅く、鍼灸の大学もないのに、NIH(米国立衛生研究所)は、代替医療局を設け、その年間予算は毎年、200万ドルずつ増加しているそうです。その目的は、代替医療を正しく評価し、現代医学との共存を図ることにあるそうです。そして、1996年には、鍼治療について、FDA(米食品医薬品局)は、医師や歯科医師以外の専門が行う鍼は代替医療として認めています。

 日本の東洋医学の歴史は古く、7世紀頃から鍼灸治療が行われており、国民の多くが鍼灸の保健治療を望んでいるのに、厚生労働省は頑なに認めようとせず制限を加えています。いつになったら鍼灸が保健治療として、患者さんのニーズに応えられる日が来るのでしょうか?




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