顔面神経麻痺
脳神経には、左右それぞれ12本あり、12対で成り立っています。顔面神経は、脳神経の7番目で、運動と知覚の働きに関係しており、これを混合神経とも言いますが、顔の筋肉を動かしたり、味覚や涙の分泌を司っています。
顔面神経は延髄から出て頭の骨のなか、内耳、中耳の横を通り、耳下腺を貫いて、顔に出てきます。このどこかで障害を受けると、まひが生じることになります。
麻痺におちいると、ひたいのしわが消え、まゆ毛が上がらない、目が閉じきれない、口が斜めになる、口もとが締まらなくて食べものがこぼれる、といった症状が出ますが、これらは、他覚的な症状としてすぐにわかります。
脳卒中、脳腫瘍(聴神経腫瘍)、けが、化膿性中耳炎、耳下腺の手術など原因はさまざまですが、なかでもいちばん多いのがベルまひといって、原因のはっきりしない急に起こるまひです。寒いところで顔が冷やされたあと、はれて神経が周囲の骨に圧迫されまひとなる説や、アレルギー、ウイルス説があります。
ベルまひの次に多いのがハント症候群で、ウイルス感染によります。この場合、耳鳴り、めまい、難聴、耳の中や耳介周囲の痛みと皮疹とを伴います。これらの治療は、ステロイド、ビタミン薬、血行をよくする薬、マッサージ、星状節神経ブロックなどがあり、症状が軽いものは1〜2週間で治ります。
神経が切断されてまひが起きた場合は、これをつなげなければ治りません。神経まひが残ってしまったときは神経移植と筋肉移植をおこなったりします。
患者 A.H.さん(61歳)男性。
平成15年3月、顔面神経麻痺を発症。奥さんに右顔が歪んで見えると指摘され、病院で診てもらうようにと勧めたが、当人は何ともないと2ヶ月近く経ってからようやく個人医院と脳外科専門の医療機関を受診して、MRIで脳検査を受けましたが、顔面神経麻痺の原因になるものは発見出来なかったとして、個人医院で治療を継続することにしました。
症状は一進一退で、鍼治療を受けてみてはと当院を勧められて、来院したのが9月初旬でした。個人医院の先生は、鎖骨上部から注射をしていたということであり、星状節神経ブロック治療であることが分かりました。
患者さんは症状が好転しないので、星状節神経ブロックに多少不安を持っていたようでしたが、顔面麻痺の治療には最適な方法であることを説明した上で、鍼治療の後スタービームを照射をすることにしました。
しかし、患側(右)の乳様突起と下顎骨の間つまり、耳の直下(翳風)にしこりを触診しましたので、その旨を主治医の先生に伝えて下さいと言って、2回治療しただけで返しました。
患者さんは、先生の心証を害するのではと思って、自分で発見したかのように告げたそうですが、この患者さんに限らず、鍼治療を下隠しにする者は時々あります。
最初は相手にもしなかった先生も、どうしてもということであれば、再検査をしましょうと言うことで、MRIの検査をされたそうです。検査結果、腫瘍らしき物があるとことで、N・S病院へ紹介、精密検査結果悪性腫瘍と判明して12月初めに摘出手術をしました。
この患者さんは、悪性腫瘍であったわけですが、一定期間治療しても、病気の悪化はいうまでもないことですが、症状が不変または、好転しなかった場合は、専門の医療機関へ紹介すべきと考えます。
私共鍼灸師として大切なことは、どのような症状においても、その病気が鍼灸の適応症であるか否かを早く鑑別することです。それが、患者さんに対して親切であり、また信頼を得ることにもなります。
主要経穴は、合谷・膏肓・肩井・天柱・風池・完骨・翳風・大迎・頬車・下関・瞳子B・百会など適宜選択します。
ご注意: 顔の灸は避けて下さい。
つぼの部位については、下記の経穴名検索をご参照下さい。
参考文献(時事通信社家庭の医学)