パーキンソン病
パーキンソン病は、イギリスの医師ジェームス・パーキンソンの名前からつけられた病名で、難病に指定されています。
大脳と脊髄を繋ぐ中脳には、左右に2つ肉眼で黒く見える黒質という部分があり、この黒質でドパミンという物質を作っています。ドパミンが線条体を刺激することにより、身体の運動が円滑に行われています。この黒質が何らかの原因で、働きが悪くなるとドパミンが足りなくなり、線条体がうまく働かなくなって、手足がふるえからだの動きがにぶくぎこちないものとなります。大脳の運動野から脊髄に達する神経経路に、「錐体路」と「錐体外路」の二通りがありますが、この錐体外路系が侵されることになります。
黒質の働きを障害する物質に、一酸化炭素・エコノモ脳炎ウイルス・MPTPなどがありますが、一酸化炭素中毒から回復後に、手足のふるえやぎこちなさなどのパーキンソン症状が始まることは珍しくないようです。
エコノモ脳炎ウイルスやMPTPは原因が分かっており、これにより発生するパーキンソン病の症状は、本当のパーキンソン病とは区別をして、パーキンソニズムと呼ばれています。
少数は遺伝的に発病しますが、大多数の患者は遺伝とは関係なく、何らかの原因で黒質の神経細胞が攻撃を受けるためだろうと考えられています。本来のパーキンソン病では何が原因となっているのかは実はまだ分かっていません。
パーキンソン病の症状としては、振戦・固縮・無動が三大兆候とされていますが、他に、姿勢反射障害などもあります。
振顫は、最初は左右どちらかのてに始まり、やがて下肢にも発生します。安静にしていても振るえるのが特徴です。振るえは最初のうちは出没しているだけですが、病気の進行に伴い反対側の手や足にも持続性振戦が出現するようになります。
固縮は、患者自身が自覚することのない症状で、手や足の力を抜き、他動的に関節を曲げ伸ばししたとき、ふつうならなんの抵抗もないのに、固縮があると強い抵抗を感じます。
健康な人なら、長時間椅子などに座っていると、辛くなって手足を動かしたり組んだりしますが、パーキンソン病は、何時間でもじっと椅子に座ったまま同じ動作を続けています。
このような現象を無動と呼びますが、まばたきの回数も減り、歩行でも手をふらなくなります。動作緩慢になり、椅子からさっと立ち上がることができず、徐々にテーブルに手をつき、ゆっくりと立ち上がります。
パーキンソン病は、体位変換動作が難しいため、同じ場所が圧迫されて床ずれになりやすく、一晩のうちに床ずれになることもあるようです。3時間おきに体位を変えたり、エアマットレスを使用するなど注意が大切です。
健康な者は、歩行時は手足を交互に動かしてバランスを取って歩きますが、患者は手をほとんど動かさず、トボトボと歩くようになります。また、私たちは転びそうになると、手を大きく動かし、身体のバランスをとって立ち直ろうとしますが、パーキンソン病の患者は、それが出来なくなったりして倒れたりします。これが姿勢反射障害と言われるものです。
便秘はパーキンソン病で最も多い症状の1つで、便秘の症状からパーキンソン病になることは珍しくないようです。腸管を動かす自律神経細胞は腸管の筋肉層にありますが、顕微鏡で調べると、黒質と同じように変性しているそうです。
患者 T.S.さん 男性(32歳)。
発症は平成14年11月ころ。初期時は大したことはないと思っていたようですが、左手の振戦が気になりはじめ、医師を受診した結果「若年性パーキンソン病」と診断されたとのことでした。
当院にパーキンソン病で相談に来られたのは、昨年5月ころだったと思います。当人は大変ショックで鎮痛な思いでおられたと思いますが、そのとき、パーキンソン病についての本も持参していました。パーキンソン病はどんな病気か、治るものなのか、専門医は何科が良いのかなどいろいろ質問されました。私も、インターネット上や辞書で調べた範囲で相談にのりました。
月1回、5月S市の開業医院へ通院することになりました。L‐ドーパなど抗パーキンス薬を服用しながら、鍼治療も併用しているとのことでした。
9月ころでしたか、当院でも鍼治療を受けたいといって来られました。私もパーキンソン病の治療した経験はありましたが、難病でもあり鍼が果たしてパーキンソン病に対するエビデンスがあるだろうかと疑問を感じていましたので、一度は断りました。
しかし、週に1回程度はどうしても鍼治療を受けたいと再度申し入れがありましたので、通院している先生と相談して諒解が得られた上で承諾することにしました。
初診日 平成15年10月25日。
左手に微かな振戦があり、右手よりやや冷たい感じがする。薬を服用しているため振戦がない日もあると言います。しかし、手が振るえるときは細かい動作がし難いこともあるとも言います。
患者さんの都合で、毎週来院出来ない日もありますが、平成16年1月31日で13回治療していますが、週1回鍼治療を継続しているときは、手の振戦が消失しているか、あっても仕事上支障はないとのことです。
主要経穴は、陽池または外関・風市または陽陵泉・三陰交・天柱・風池・肩井膏肓・膈兪・腎兪・頭維・百会などです。
つぼの部位については、下記の経穴名検索をご参照下さい。
参考文献(時事通信社家庭の医学)