腓骨神経麻痺
腓骨神経は坐骨神経から別れる神経の一つですが、坐骨神経はL4〜S3より起こり、末梢神経の内で最も大きな神経です。太さはペン軸くらいで、長さは1M以上もあります。梨状筋下口を出て大転子と坐骨結節との間を下り、大腿後側の中央で総腓骨神経と脛骨神経とに別れます。
総腓骨神経は、大腿二頭筋の内側縁に沿って下り、腓骨頭を回って下腿前側に出て浅・深腓骨神経に別れます。浅・深腓骨神経とも下行して、最後には足背と指に分布します。
腓骨神経の走行については極簡単に記述しましたが、腓骨神経は最も外傷を受けやすい神経の一つです。
膝窩部周辺の外傷で侵されることが多く、股関節部の脱臼、坐骨神経麻痺でも腓骨神経が障害されやすいようです。
睡眠時・泥酔時・長時間しゃがんだとき、あるいはギプス・副子などの圧迫、ときには神経炎による麻痺もみられます。
腓骨小頭より末梢では浅・深腓骨神経に分枝しているため、いずれかの麻痺が優位に現れます。
足関節および趾の背屈障害のため下垂足を呈し、足の外反もできなくなるため、軽度内反を伴う下垂足となります。このため歩行は鶏状歩行となります。
患者Tさん(47歳)男性
初診日 平成15年2月10日
数日前腰部に激痛を発生したが、会社で一日座りきりで作業を終えて帰宅。夜はいつもの通り就寝して、翌朝目を覚ましたら、右足が痺れ全く力が入らなくなっていたということでした。
足は下垂し、足関節を背屈することも出来ず、足部は痺れて力がなくほとんど感覚がないと言います。
患者さんに仰臥位になってもらい、左右の背屈テストを行ってみますと、右側の足指には全く力がなく、腓骨神経麻痺であることが確認されました。
前処置として、腰部に湿熱ホットパックを15分して後、鍼治療をしました。7回の治療で第2〜第5指にはかなり力は入るようになりましたが、拇指は初診のときと同様背屈力がないため、原因を確認するために一応専門の医療機関を紹介しました。
X−線の検査結果は、腰椎には異状なく、腓骨神経圧迫であるとの報告を受けました。医師が言うには、深酒をして寝たのではないかと訊ねたそうですが、患者さんは酒を飲む人でもないし、その晩はあまり熟睡もしなかったと言います。
深酒をして、手枕で長時間寝たため、上肢(橈骨神経・正中神経・尺骨神経)が麻痺することはたまにあり、私もこの症例を治療した経験はありますが、腓骨神経圧迫による麻痺は初めての臨床例でした。
現在勤務先に近い医院で治療を受けていますが、数日前その後の経過を訊ねたところ、三ヶ月くらいは治療の必要があるとして、通院しています。
取穴は、腎兪・大腸兪・次B・殷門・陽陵泉または三里・外丘・中封または解谿・太衝です。
つぼの部位については、下記の経穴名検索をご参照下さい。