自助努力
パソコンの進歩と普及により今日、視覚障害者を取り巻く環境から考えれば思いもよらぬことですが、30数年前私ども視覚障害者は、「左手に盲導犬・右手に仮名タイプライターそして、読書はテープレコーダ」をキャッチフレーズに、視覚障害者の自立と生活の向上のために努力したものです。しかし、これは、理想的目標であって、視覚障害者全てが上の条件を満たせたというものではありませんでした。
盲導犬が、視覚障害者の独歩には最も適した手段の一つであることは、皆さんも周知の通りですが、今日でもなお、盲導犬の作出には限界があり、多数の視覚障害者が盲導犬の入手を待ち望んでいるのが現状です。
現在仮名タイプライターは、「視覚障害者生活補助用具指定」から除外されましたが、当時の仮名タイプライターは、今日のパソコンに匹敵するほどの視覚障害者の生活には必要であるとして、厚生省(現厚生労働省)もその普及に力を入れていました。私は、自費で仮名タイプライターは購入しましたが、「生活補助用具」として給付を受けた視覚障害者もかなりいました。
私も地域の仮名タイプライターの講習会に頼まれて、時々指導に行きましたが、しかし、十分拾得出来ない者もいて、使えままにしてしまった者もいました。当時は視覚障害者の中には、「何でももらえる物はもらわなければ損」といった風潮があったように思います。1台30000円くらいしていましたから、使えないのに給付受けることに疑問を感じていましたし、大変勿体ないとも思いました。
しかし、私どもは自助努力を第1目標にしていましたので、出来うる限り自立するために、我が家では家内が昭和45年に最初の盲導犬を導入し、自分で歩行が出来るようになり、婦人部大会や詩吟の勉強などどこへも一人で出かけるようになりました。
そして、私が48年に仮名タイプライターを習い、昭和60年に視覚障害者用「知野ワード」を購入するまで、文章を書いたり年賀状を出すために晴眼者との通信の手段として使っておりました。
また、テープレコーダーは昭和30年代後半には取り入れ、現在も小説や医学関連の書物を聞いておりますが、最近ではデージー図書という長時間にわたって聞くことができるプレクストークレコーダーやパソコンでも活字を直接聞くことが出来るようになるなど大変便利になり、視覚障害者を取り巻く環境も当時からすれば大きく変わってきました。
今でこそ、視覚障害者も社会参加も珍しくありませんが、昭和3、40年代は社会参加出来る者はほんの限られた一握りの視覚障害者でしかなかったわけです。
ところが、1981年)昭和56年)国際連合が「社会参加と平等」を全世界へ向け宣言したのを受け、日本でも政府をはじめ、各都道府県において身体障害者の「社会参加と平等」を促進するための様々なイベントが行われました。もちろん、当地においても身体障害者の「社会参加と平等」に関する行事が行われたことはいうまでもありません。
既に、全国には点字や朗読他、多くのボランティアが発足して活躍して、様々な立場で身体障害者を助けていましたが、当地でもこれを機会に発足したのが、点字のボランティアであり、朗読のボランティアでありました。
このように晴眼者と視覚障害者などとの深い交わりが、身体障害者を正しく理解するようになり、取り分け視覚障害者にたいして社会が受け入れるようになったように思います。
その一つの例が、頑なに門戸を閉ざしていた大学も少しづつ視覚障害者の受験を受け入れるようになったことです。そのために、視覚障害者も高等教育が受けやすくなり、近年は大学を受験する視覚障害者も多くなりました。それに触発されたわけでもないでしょうが、近年、統合教育をすべきとの声がたかまり、十分とはいえませんが、大学だけでなく小学校でも、視覚障害者を受け入れるところも現れてきています。
したがって、視覚障害者の職業は欧米諸国に比べれば、十分とはいえませんが、視覚障害者の弁護士をはじめ、大学教授・国会議員・ソフトウェアのプログラマーなど、「鍼灸マッサージ」という限られた職業だけでなく、能力さえあればあらゆる職業に進出可能になりました。
長年にわたって、障害者に対する医師免許などの公布を制限した欠格条項を見直す医師法等改正法が、昨年衆院本会議で可決成立し結果、聴覚障害者の女性が薬剤師免許を取得出来たこともまだ記憶に新しいところです。アメリカでは既に視覚障害者の医師が誕生しているというのに、我が国では今年ようやく、視覚障害者なども医師や歯科医師免許の取得の道が、今年開かれたわけです。
そのためか、厚生労働省には大学卒業後や在学中に視覚障害者になった人から
問い合わせがあり、来年3月の試験には対応できるようにするとの考えですが、筆記試験しかないため、耳や口が不自由な人には特に配慮しないなど一定の制限はあるものの、障害のある人が医師、歯科医師の国家試験を受験する場合、問題文の
文字拡大や読み上げ、写真や図は要点を文章で示す、試験時間を
1.5倍に延長するなどの配慮をするとしているなど、厚生労働省としては画期的と言えるでしょう。
視覚障害者が、司法試験における点字の受験を勝ち取るまでには、大変な努力と苦労があったと聞いていますが、これとて全て自分一人の努力や苦労だけでなく、そこには身内の手助けがあり、大勢のボランティアなどの温かい協力があるからではないでしょうか。その好意に感謝しなければなりません。と同時に私どもは、自助努力することを忘れてはならないと思います。
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