長崎旅行記




 11月五日、いよいよ長崎へ発つ日が来た。朝から晴れて暖かく、こんな日を小春日和と言うのだろう。四泊五日の予定であるが、私にしては、一生に一大の単独旅行である。一ヶ月前に搭乗券を買っていたので、少々天気が気になっていたのであるが、旅行には相応しい好天気である。

 11時50分離陸の飛行機に間に合うように、我が家を10時にYさんが車で迎えにきてくれる。1時間で松本空港に到着する。搭乗までには少々時間があり、ビル内を見て回る。

 30分ほどして、搭乗手続きが始まり、身体検査を受ける。この時点で、九日に迎えに来てもらうことを約束して、Yさんとはしばしの別れである。私は、空港職員に案内されてタラップを上る。

 身体障害者が飛行機に搭乗する時は、他の客より先に搭乗することになっていて、下りる際は、最後に下りることが義務づけられている。おそらく、他の乗客の迷惑にならないための航空会社の配慮であろう。

 予定通り11時50分静かに飛行機はフライトする。プロペラ機のせいであろうか!!上昇角度は低いように感じる。今までに飛行機は6回利用しているが、プロペラエンジンのためか!ジェット機より機内の音が大きく感じる。しかし、水平飛行中は快適である。約1時間50分で福岡空港に到着する。「九州まで来たんだなア」と実感する。

 目的の長崎へ行くには、九州高速バスの停留所まで移動しなければならず、しかも、約1時間の待ち時間がある。私が視力がないため、空港職員の皆さんが、親切に案内してくれる。松本空港も、機内もそうであったが、連絡が行き届いていて、会社の対応に感心すると同時に心から厚く御礼申し上げたい。

 終点の長崎駅ビル前に到着したのが、もう夕暮れ時の5時を回っていた。友人のYさんが停留所で待っていてくれた。ちょうどその時、雨がぽつりぽつりと降り始める。

「長崎は今日も雨だった」

か…歌の文句そのものである。その晩は友人宅に一泊させて頂いたが、一晩中雨が降っていた。明日は伊王島へ行くのに、雨が心配になったが、翌朝はすっかり雨も止んで、午後1時30分の伊王島行きの船が出発する時は晴れて、暑いくらいであった。20分で伊王島に到着する。私が利用していた当時とは比べものにならないほど船内はきれいで、波は静かで揺れもなく、船に乗っている感じがしなかった。

 ホテルに着いて一休みして、備えの浴衣に着換えて温泉風呂に入る。木炭風呂や、釜風呂などいろいろあり、温泉にゆっくり入って、久しぶりに疲れを癒して、命の洗濯が出来た。下諏訪町にも温泉はあるが、変わった温泉もまた良い気分である。

 風呂から上がって宴会までは少し時間がある。何十年ぶりに行き会った友人たちと、雑談をして、懐かしさを噛みしめながら暫く寛ぐ。

 伊王島には二泊したが、離島する日の朝、温泉に入っている時、前町長さんに聞いた話であるが、昔炭坑島だった伊王島に、1000メートルボーリングしたら温泉がでて、リゾートとして開発されて、安らぎの里として、たくさんの皆さんが訪れるそうである。

 島の温泉のせいであろうか!?ちょっと塩辛い味がある。でも、湯上がりの後もべたつかずさっぱりした感じである。

 午後6時、宴会が始まって、乾杯の音頭がすむと、ビールや焼酎など各人好きな飲み物を飲みながら、昔の話に花が咲いて懐かしむ者、カラオケを歌う人、それに併せて踊る男女などなど、宴会も最高になる。みんな歌が上手である。10代のころはあんなに大人しかったあの友、この友が、積極的にカラオケを歌っているのには感心すると同時に驚きもする。

 宴会も終わって、浴衣のまま散歩に出かける。夜の島は静かである。船着き場に来た時風があるのか!浮き桟橋の繋ぎ目の鉄板が、「ぎーっぎーっ」という不気味な音に聞こえる。私が、桟橋の端はどこだと尋ねると、友人の一人が危険だから端に行くなという。しかし、私は元々海育ちである。

 旅行の中日、マイクロバスで島巡りをする。灯台へ行く途中で、バスを下りて、砂浜を散歩する。砂浜を踏む感触や、磯の香りと潮騒の音が、昔の私に引き戻してくれる。

 展望台で昼食を取る。伊王島の灯台は全国でも最も古く、四方40KMを照らしているとのことである。今日は霞んでいるが、晴れている時は、五島が見えると案内の方が説明していた。五島行きの船が遠くに見えると友人が教えてくれる。その友人も私同様五島の出身である。海の向こうに生まれ育った郷里があると思うと、懐かしさが一層込み上げてくる。

 初日は、何十年ぶりに行き会って、幹事のYさんの部屋に集まって、ビールやワインや焼酎を飲みながら、夜中の2時まで友情を温めたが、二日目の夜は、さすがに飲み疲れたのか…12時前には各自部屋に引き上げて、私もいつの間にか眠りに落ちていた。

 八日の朝は早く目が覚める。南国とは言え、窓を開けるとひやっとした風が室内に流れる。今日は島を離れる日である。同室みんなで朝風呂に入って、無精髭もそってさっぱりする。

 午前9時50分ころの船で長崎市へ出発する。2階へ上がって潮風に吹かれながらみんな航海を楽しんでいるようである。我が家に携帯電話をかけるが繋がらない。長崎港も近づいて来たので下船の準備のため階下に降りる。

 この二日間の「むつぼしの会」を満喫しながら、友情を胸に抱きつつ、別れを惜しむかのようにそれぞれ帰路に着いた。私は、この日は乗り物の都合でもう一晩友人宅に泊めて頂くことになり、大変お世話になった二人とYさんの4人で夕食を共にする。

 翌日九日4時には目が覚める。6時起床して帰宅の準備をする。といってもリュックサック一つである。バス停留所まで送ってくれた友人に御礼を言って、午前10時30分発九州高速バス福岡行きで長崎を後にする。

 長崎行き同様福岡国際ターミナルセンターにバスが着いた時も、航空会社の方が停留所に出迎えにみえておられて、私に声をかけてくれた。搭乗手続きや身体検査もすんで、飛行機にエスコートしながら、キャビン・アテンダント(主任と思われるMさん)が、 「飛行中の揺れがあるとの情報が入っているが、乗り物酔いはしませんか?」

と私に尋ねる。午後2時15分、飛行機は静かに離陸する。上空は風が強いのだろう!飛行機が多少揺れる。キャビン・アテンダントのMさんが、私の座席まで何度か来られて、親切に声をかけて気遣ってくれる。

 機長から、上空7000メートル・時速800キロで飛行中で、松本空港に予定通り到着との機内放送がある。着陸態勢に入った時、揺れは多少大きくなるが、予定より5分早く着陸した。前輪が着地した時はほっとした。タラップを下りて到着ロビーに行くと、出発の時送ってくれたYさんと家内が迎えに来てくれて待っていた。

 今こうして、振り返ってみれば、よく一人で長崎まで行ってきたものだと思う。幾つかハプニングがあったものの、この次はみんなといつ会えるかも分からない。あるいは、今度の集いが最後かも知れないと思うと、胸に熱いものが込み上げてきてならない。




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