信頼関係




 会社や学校など、あらゆる職場において、上司や同僚との対人関係で大変苦しみ悩んで、鬱病になったり、自分を自殺にまで追い込んでしまうということをよく耳にします。

 美容師の患者さんで、治療を終えた翌日の夕刻、電話がかかってきました。昨日治療後、左の足関節が腫れて、鍼をした箇所から広範囲に皮膚の色が黒ずんでいると不安そうに言います。話しの内容からして、鍼治療が原因ではないのかという雰囲気でした。鍼をした箇所は内くろぶしの上10センチの三陰交というつぼであり、どうして足関節が腫脹したかについては合点がいかず、翌朝9時に来院してもらうことにして電話を置きました。

 約束通り、翌朝9時に来院されました。激痛のため自分では車の運転が出来ないと、お母様の車で一緒でした。診療室まで杖をついて入ってこられたので、かなり激痛であろうことは想像出来ました。

 早速患部を拝見すると、かなり腫脹があります。ところが、右の足関節にも腫脹があると言います。触診すると、なるほど右足関節にも軽度の腫脹がみられます。

 「三陰交穴」の変色は、鍼治療による皮下出血の跡であることは、確かにそうかと思われます。これは、技術の善悪にかかわらず、どんなに有名な先生とてたまには起こる現象で数日で消失するものです。たとえば、患者さんの皮膚が弱いとか、鍼そのものの研磨が悪いということもあり得ます。

 触診をしながら、よく聞いてみますと、1年前整体術で足関節をしっかりもんでもらった際も後で同様の腫脹が発生し、痛い思いを経験したことがあると言います。

 この患者さんは子供のころから身体が丈夫ではなく、過敏性大腸炎で常に軽度下血(肛門からの出血)があり、29歳の今日でも、医療機関で治療を受けているとのことです。血小板も正常より少なく、強度の貧血があります。

 以前にも足関節や手関節などが腫れた既往歴があり、ご本人も「先生心配なさらないで」と言います。今回の足関節腫脹は、鍼治療が原因とは考えにくいことを説明して、ご本人はもちろんお母様も納得されて、医療機関で治療を受けられることを勧めました。私も長年鍼治療に携わってきて、治療とは関係ない部位が腫脹したという経験は全くありませんでした。幸い大事に至らず、一ヶ月を過ぎた現在、関節の腫脹も癒えて、普通通り美容の仕事に就いているとのことです。

 ここで言えることは、私ども治療師とていつ治療過誤が発生しないとも限りません。一度失った信用は回復は難しいと思われます。そうならないためには、患者さんとコミュニケーションを持ち、良い信頼関係を築くことが大切です。

 これまで私は患者さんとのトラブルらしきトラブルはなかったものの、40年間振り返ってみるに果たして患者さんの立場を配慮していただろうか!?「言うはやさしく行いがたし」といいます。相手を思いやることこそ患者さんとの信頼関係に繋がると信じます。

 「名医は、患者さんの立場になって、話をよく聞いて上げること」と言っておられたある開業医の先生の言葉が思い出されます。




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