前橋赤十字病院長 宮﨑瑞穗 
群馬ファミリーハウスの活動は小児の患者さんやそのご家族が対象なので、医師としての私と小児との関わりについて書きたいと思います。
私は脳神経外科医ですが、そもそもこの分野を選んだのも、医学生時代の夏休みに重症心身障害児施設で実習をしたことがきっかけのひとつです。
これらの人々を治すためには脳の移植ができればよいと考え、それをするのは脳神経外科医だと荒唐無稽なことを考えたわけです。
脳神経外科医になって、脳の複雑さを知った今では全脳の移植など遠い話であり、たとえ可能でも人間のアイデンティティーは脳が司ることからみれば、違った人格になるので意味がないと考えていますが。
脳神経外科の病気は水頭症や奇形など小児にも多く小児脳神経外科というジャンルがあります。
私は髄液循環に興味があり、小児を診る機会が多く、専門となったため、小児医療センターからよく往診や手術の依頼を受けました。日赤に移ってからも小児患者が多く小児では日赤が中心でした。
私の赴任した時、日赤は科別の病室編成になっていました。 
同じ病室に成人やお年寄りと子供が混じっていました。
赤ちゃんが泣けばお母さんは同室の方に肩身が狭い思いをしますし、周りが大人ばかりでは子供もつまらないだろうと思い、子供は小児科病棟に入院して小児科と共同して診療したらどうだろうと考えました。
病気は異なっても子供同士で仲良く遊べるだろうし、お母さんも孤立しないだろうというわけです。
つまり科を越えた小児のための院内における小児病院ともいえる小児病棟をつくるという構想ですが、当初は院内でも理解されず、脳外科だけが小児科の協力を得てそのような体制を作っていました。
時代とともに理解が進み、また社会的にもそのような体制が評価されることが追い風となり、現在では小児病棟として小児科以外に泌尿器科、脳外科、耳鼻科、整形外科などの子供が一緒に入院し、それぞれの専門科と小児科が共同して診療できる体制となりましたが、私としてはとても嬉しいことです。
小児の脳外科の病気の代表的なものに二分脊椎があります。胎生期に脳脊髄の形成が正常に行われない奇形です。
腰仙部が後発部位で脊椎の下部が瘤のなかに露出していることがあり、症状として両下肢の麻痺や知覚障害と直腸膀胱障害（多くは失禁）が一生続くもので、小児の肢体障害の原因として最も多いものです。
この病気は奇形ですから多くは誕生した瞬間に見つかります。
その時、両親は元気な赤ちゃんを期待していたのに、生まれたとたんに一生続く下肢の麻痺や排尿障害を告げられ非常なショックを受けます。瘤から髄液が漏れているときは髄膜炎を併発し、命に関わることもあるので早急に手術が必要です。
このことを家族に伝えるのは非常に難しく、医師にとって非常に気が重いものです。 
しかし家族には事実は正確に伝え、手術を早急に決めなくてはなりません。
ところがショックを避けるために家族がお母さんに病気のことを話していなかったり、祖父母が手術に反対することもあります。
まさに赤ちゃんの誕生が喜びから暗転してしまう訳で、まるでドラマのようです。
もちろんこの病気は赤ちゃんやお母さんが悪い訳ではありません。
とくにお母さんのショックは大きく、赤ちゃんに対して申し訳ないという気持ちを持ったり、他の家族に対しての引け目を感じ、手術の意志を示せない場合もあります。
この様な危機に際して家族の様相が表に現れます。
色々なご家族を見てきましたが、この状況から逃げることは却って悪い結果を生んでいるように思いました。
お父さんや祖父母が、正面から現実を受け入れた家族は、ともに支え合ってこの危機を乗り越えられるだろうと思うのですが正面から向き合うことを避けた家族はその後どうなったか心配です。
このような事態に遭遇したとき、家族は非常に孤独を感じ、どうしたらよいのか悩んでいます。
そこで何とか家族を孤立させないように支えることはできないかと思っていました。
東京や近県には二分脊椎症児者を守る会がありましたので、群馬でもそのような家族や子供さんの集まった組織が必要と感じました。
そのことを家族と話しているうちに同じように考える方々に会を作っていただいたので、私も微力ながらお手伝いをしました。
その後は早期から悩んでいる家族に話をしていただき少しはショックを乗り越える手助けが出来たかもしれません。
その過程で多くの方々に出会いましたが、当初は気の毒という気持ちがあったのですが、正面から向き合う家族の勇気を見るうちにこちらが勇気をもらった気がします。
このような会はともに支え合う組織として群馬ファミリーハウスにも通じるものがあるでしょう。
私は悩みながらもこの様な多くの患者さんや家族に出会えた一線で診療していた頃が良かったと時々感じます。群馬ファミリーハウスの活動のような優しい心が輪となって広がることを心から願っています。
