優秀作
「右手に六法、左手に98ノート」

今から10年前に雑誌の懸賞レポートで優秀作になられた作品である。
この作品は、私自身もたいへん印象深いものでぜひとも皆さんにも
お読みいただきたいと思いまして、掲載させていただきます。
もし問題があればメールを下さい。

優秀作
「右手に六法、左手に98ノート」 
私と司法試験とパソコンと

浅野さんという女の方の文

1.10月15日、三宿の法務総台研究所で、私は、司法試験の口述試験の1日目を迎えていた。口述試験は、約10日間にわたり、1日1科目ずつ、全部で7科目が行われる。私の1科目目は、民法。研究所の広い一室に、自分の番号を呼ぱれるの待っている200人ほどの受験生の中、周りを少しはぱがりながら、かぱんがら98ノートを取り出した。RAMには、昨夜、編集しておいた、民法の過去問のテータベースが入っている。FDドライプには、「TheCARD3」のシステムディスクを入れて起動。まず、500枚ほどある力一ドがら、100件ぽどに絞った重要間題検索フアイルを、ざっと眺める。机がないがら、98ノートは膝の上(これが本来の意昧のラップトップ)。重さは気にならないが、液晶画面の角度の調節が難しい。何度も読んだデータだがら、20分ほどで見終わってしまう。
 さて次は、定義ばがり集めた検索ファイルを、と思ってフアイルを呼ぴ出そうとしたが、いきなり「ファイル障害がおきました。作業を中止します。」のエラーメッセージ。やられた。昨夜から、どうも調子が悪かった。項目がらテータが抜ける、テータが化げる。ある程度は覚悟していたが、こうも早くトラプるとは。どうやっても動きそうにないので、あきらめて、FDがらRAMに読み込み直した…ところで、自分の番号が呼ぱれた。
 やれやれ、私の司法試験受験生活を象徴しているなと思いながら、席を立つ。ワードプロセツサにしろ、データベースにしろ、受験に使いこなすため孤軍奮闘するが、満足のいくシステムが出来上がらないうちに本番を迎えてしまう。
 パソコンは手段だがら…一と言い聞が廿ながら、98ノートが重いがばんを肩にかついで、試験室に向かった。
2.『ASAHlパソコン』を購読し始めて2年(倉創刊号から全部買ってますよ・・・ごまをするわけではないですけど)。不思議に思うのは、受験勉強とパソコン、というテーマが取り上げられたことがあまり(もしがすると全然)ないような気がすることである。ビジネスがポビーにかたよるのは当然として、ごれだけ若い人にパソコンが浸透しているのに、少なくともテイーンエイジヤーの大部分が重大な関心をよせる、受験勉強と関連づける話題は、どうも耳にしない。
 まして、司法試験である。法律家とパソコンのががわりについては、いくつが記事を目にした。第1回のASAHlパソコン懸賞レポートの入賞者に裁判官の方もいた。パソコンがらみの法律間題(ex.特許権や違法コピーの問題)はしょっちゅうである。しかし、司法試験をめざしている人間が、パソコンを利用して勉強しているという話は聞がない。
 3.確がに、司法試験とパソコンというのはなじみがない。そもそも、対象が「法律」という、本来進歩や変化の少ない「制度」という観念的なものであること、また、「法律」は、世間で時々誤解されているような、数式のように画一的で明確な法則なのでなく、「意昧」に満ちた解釈の幅のあるものであること(したがって、数値処理に向かない)がらだけでも、パソコンとなじみにくいといえる。
 さらに、法律も、まだまだパソコンとは縁が薄い。縁が濃そうな、著作権法だの、特許法だのは、試験科目にない。せいぜい刑法に、最近できた法律で、電磁的記録損壌罪とが電磁的記録不正作出罪とががあるぐらいだ。でも、これだって、表現が「電磁的記録」ですがらね。FDとがlC力一ドとがは、絶対出てこない。
少し前の民法の間題に、「ワープロを売買したが、引き渡ず前に盗まれた」という事例問題が出たごとがある。しかし、これも、ワープロが、掃除機や、電気こたつでも、同じ趣旨となるような問題であった。
 4.そのうえ、司法試験関係の人間は、当然法学部出身者が多く、つまり、当然文系人間の集団である。つい4年ほど前までは、ワープロで文章を作成することさえ、奇異な目で見られた。昨年合格した人で、例の「電磁的記録」は知っているが、FDは見たことがないと言っていた。
 皆さん、合格するとワープロを覚える、あるいは法曹になって、パソコンを操る人も現れる。しがし、受験中にパソコンをいじる人は少ない。まして、受験勉強に役立てようという人はいなかった。
 かくして、私は、ずべて一がら、自分で考える羽目になってしまった。このレポートは、司法試験受験にいがにパソコンを使ったか、をまとめようとしたものである。
 5.司法試験の概要というものを少しお話ししておく。世間で一般に司法試験といわれているものは、正確には司法試験二次試験のことである(一次試験は、大学教養課程卒業程度の学力があるがどうがをみるものであるが、たいていの者は大学3年の段階で受験するので、これを免除される)。この二次試験が短答式・論文式・口述式の三段階に分がれている。
(1)短答式試験というのは、いわゆるマークシート方式の試験である。科目は憲法・民法・刑法の3科目で、5月の第2日曜日(母の日だ)に行われる。
 60問を3時間半で解くものであるが、この1間が、B5の間題用紙に、判例がびっしりということもある。スピードと要領が勝負の試験である。この倍率が、だいたい4〜6倍。
(2)論文式試験は、1科目2問の出題に対して、2時間で1500〜2500字ぐらいの答案を書き上げるものである。上記3科目のほが、商法・訴訟選択科目(民事訴訟法・刑事訴訟法)・法律選択科目(行政法・破産法等)・教養選択科目(政治学・心理学・経済原論等)の計7科目について、7月の暑いさなか、3日間かけて行われる。
 「共謀共同正犯について述べよ」というような一行問題がら、実際にあったような事例の問題点の解決を迫られるものまで、さまざまである。
 この論文式試験が、司法試験最大の難関で、倍率は8−10倍。これを突破できず、苦節10年(自分もそれに近いや)ということも珍しくない。
(3)ごれを通り抜けると、口述試験。10月の半ぱに行われる。文字どおりの口頭試間で、入社の面接などと異なり、まるっきりの学術試験である。「隣の家の窓がら死体が見えます。あなたが検察官だったらどうしますが」というようなことを、大学教授や実務家の先生にいきなり聞かれ、目の前で答えるのである。この倍率が1.1〜1.3倍くらい。落ちる方が少ないが、それでも落ちる人は落ちる。事実、私も昨年見事蹴られた。ただ救いは、口述試験に1回落ちても、翌年に限り、筆記試験を受けなくても、口述は受けられるという特典がついているごとである。私はこの特典で、かろうじて救ってもらった者の一人である。
6.ついでに、少し自己紹介。1960年生まれ。合格時30歳。女性。父が裁判官で、自然と幼いころがら法曹に憧れる。1979年岡山大学法文学部(現法学部)法学科入学。受験3回目に短答式試験に合格するも、その後6回連続して論文式試験に不合格。7回目でやっと論文式試験をクリアしたと思ったら、口述試験は駄目。今年、ようやく最終合格を果たすが、初回がら数えると10回目。高年齢化など、司法試験改革が話題となっている昨今でありますが、その元凶となっているような、落ちこぽれ受験生でありました。
7.かくも長くかかったのは、パソコンにのめり込んだからか、それとも、パソコンに出会ったから、とにかく合格できたのか。この点を考えたかったのも、レポートを書いてみようと思った動機の一つである

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