物語
ナポレオン
の時代
ナポレオンの生涯は小説のように波瀾に富んでいた。
「小説のよう」という言葉を用いたのは、ナポレオン自身である。
晩年になってから「わたしの人生は小説のようだ」と述懐しているのだ。
かれの父親はコルシカ島の弁護士で、いちおう貴族の家柄であったが、子沢山で家は貧しかった。
ナポレオンは10歳のとき、王の給費生としてフランス本土の兵学校に入学。
士官学校をへて、職業軍人のキャリアを歩みはじめた。
フランス革命が勃発したのは、かれが19歳のとき。
世は激動の時代に突入したのである。
この青年には軍人としてのたぐいまれな才能があったが、革命で士官が不足していたという状況も幸いして、トントン拍子に出世する。
イタリア遠征軍司令官、エジプト遠征軍司令官。
そしてブリュメールのクーデタによって、30歳で事実上の国家元首になる。
ここまでは「出世物語」である。
かれは皇帝になり、その後しだいに自信過剰になり、手をひろげて戦争をくりかえし、ついには敗北して絶海の島に流刑になり、52歳で死ぬ。
皇帝になってからの生涯は、「転落の物語」と呼べるだろう。
人が輝いていられる時期はそう長くない。
ナポレオンというのは「名」(ファーストネーム)であり、姓はボナパルトである。
この人物は皇帝になるまえは、ボナパルトと呼ばれることが多い。
人を呼ぶときは、姓を用いるのが普通だからである。
皇帝即位以後は、「ナポレオン」あるいは「ナポレオン1世」と呼ばれた。
皇帝の呼び方は王に準ずるからである。
(プロローグへ続く)