伝記映画 クラシック音楽家
 

近頃話題作が次々と公開されている伝記もの。最初は伝記映画の王道とも言えるクラシック音楽家です。
1位 アマデウス 1984年米 ミロシュ・フォアマン監督
ご存知モーツァルトの人生を多少の推理を交えて展開して見せた決定版。古いタイプの伝記映画とは一線を画すが、適材適所の音楽の使い方と言い、文句の付けようがない。その昔作られた「モーツァルトの恋」と併せて見るとよく彼の人生が分る。当時の音楽家の生活がいかに宮廷に依存していたか分る作劇も良い。架空のライバルにして実在のサリエリの人生と対照化したのが成功の要因。
2位 未完成交響楽 1933年墺 ヴィリ・フォルスト監督
ドイツに併合される前のオーストリア映画の傑作。こちらの主人公はシューベルトで、令嬢との悲恋を軸に展開するが、詩情性と格調の高さが抜群だった。同名の戦後作や「シューベルト物語」とは比較にならない。「我が恋の終わらざる如く、この恋も終わりなかるべし」という文句も有名。
3位 わが愛の譜・滝廉太郎物語 1993年日本 澤井信一郎監督
1903年に23歳で夭逝した滝の没後90年を記念して作られたドラマ。非常に瑞々しく時代の再現性も見事で、もっと評価されても良い秀作である。僅かながら大作家・島崎藤村や幸田露伴が出てくるのも興味深い。
4位 不滅の恋ベートーヴェン 1994年米 バーナード・ロー監督
「アマデウス」同様仮説や推理の部分もあるが、勿論事実に基づくものである以上伝記映画の名に恥じることはなく、恋愛映画の名編になっている言って良い。戦前の「楽聖ベートーヴェン」も秀作らしいが未見。
5位 別れの曲 1934年独=仏 ゲザ・フォン・ボルヴァリー監督
フランス出身ながらポーランドの誇るショパンの伝記映画で、師匠のリストや19世紀中盤の文学者を大々的に絡めて非常に興味深い。「楽聖ショパン」は戦後のファンには有名だが、この映画の改悪。
6位 マーラー 1974年英 ケン・ラッセル監督
1980年代終わり日本に時ならぬマーラー・ブームが起きてお蔵入りの旧作が公開されたが、ケン・ラッセルらしくあくが強いが見ごたえ充分。
7位 トプシー・ターヴィー 1999年英 マイク・リー監督
19世紀末から20世紀始めに活躍した英国のオペレッタ創作ペア、ギルバート=サリヴァンが日本をテーマにした「ミカド」創作に苦労する断片的伝記である。内容的に日本未公開作も仕方がないが、面白い。
8位 アメリカ交響楽 1945年米 アーヴィング・ラバー監督
「巴里のアメリカ人」「ラプソディー・イン・ブルー」で知られる20世紀の作曲家ジョージ・ガーシュインを短い一生を描いている。代表曲紹介編に留まるが、彼の曲を知っている人なら楽しめるだろう。
9位 恋人たちの曲・悲愴 1971年英 ケン・ラッセル監督
伝記映画を得意とするケン・ラッセルがチャイコフスキーを毒舌的に切り裂いた力作。綺麗なイメージを残したい人はソ連製「チャイコフスキー」で結構だが、彼の激しい内面を見たいなら断然こちら。
10位 ワーグナーとコジマ 1986年西独 ペーター・パツァック監督
「地獄の黙示録」における「ワルキューレの騎行」で一般ファンにも知名度の上がったワーグナーの晩年を描いた地元ドイツ映画。それ以前の生活は「ルードヴィヒ
神々の黄昏」で多少紹介されている。

伝記映画 現代音楽家

ここではジャズ演奏家に圧倒的に秀作が多く、歴史が浅いロック関係に秀作は殆ど見当たりません。
1位 グレン・ミラー物語 1953年米 アンソニー・マン監督
オーソドックスな作りながら夫婦愛に焦点を当てた作り方の上手さ、ミラーの有名な「ムーンライト・セレナーデ」「茶色の小瓶」といった楽曲の使い方の上手さにより、気持ちよく見られる傑作中の傑作。従軍中の事故死という悲劇にも拘らずあっさりとした扱いも賞賛に値する。監督のマンも主演のジェームズ・スチュワートもご贔屓なのだが、そんなことに関係なく素晴らしい。
2位 バード 1988年米 クリント・イーストウッド監督
クリント・イーストウッドが監督として本物であることを証明した、モダン・ジャズ初期の貢献者チャーリー・パーカーの伝記映画。現在の評価からは想像もつかない侘しい人生が文字通りジャズィに展開する。
3位 愛情物語 1955年米 ジョージ・シドニー監督
ジャズ・ピアニスト、エディー・デューチンの伝記で、所謂お涙頂戴的な作りなのだが、その範囲においてなかなか上手く出来ているので取り上げた。
4位 ベニイ・グッドマン物語 1955年米 ヴァレンタイン・デーヴィス監督
「グレン・ミラー物語」では脚本を担当していたデーヴィスが監督もしたが、出来栄えは落ちる。ミラーと違いグッドマンは存命だったから下手な冒険は出来なかったからである。音楽面では充実していて、スウィング・ジャズ・ファンはご機嫌。
5位 愛の讃歌 1974年仏 ギイ・ガザリル監督
クロード・ルルーシュも扱ったシャンソン歌手エディット・ピアフの人生を見るならこちらが適している。伝記映画としては大したことはなくても市井の感覚を取り入れムードが抜群だった。
6位 ウディ・ガスリーわが心のふるさと 1976年米 ハル・アシュビー監督
ボブ・ディランに先んずること30年、1930年代にプロテスト・ソングで人気を博したウディ・ガスリーの人生を点出したドラマ。名曲「ジス・ランド・イズ・ユア・ランド」が生まれた背景がよ〜く分ります。
7位 ビリー・ホリデイ物語奇妙な果実 1972年米 シドニー・J・フューリー監督
この作品を観た頃はまだ中学生でジャズ歌手ホリデイは名前を辛うじて知っている程度であったが、社会の底辺から抜け出し大スターになりながら麻薬に苦しむ悲惨な人生は身に沁みた。いつか再見したいと思っている。
8位 五つの銅貨 1959年米 メルヴィル・シェーブルスン監督
トランペット奏者レッド・ニコルズの伝記だが、感動的な部分だけを抽出した感動型。喜劇役者ダニー・ケイが泣かせる演技を披露した。
9位 ドアーズ 1991年米 オリヴァー・ストーン監督
僕が愛聴するドアーズのジム・モリスンの破滅型人生を描いた力作で、ストーンらしくジャーナリスティックな視点が目立つが、意外と平板に推移した印象しかない。ロック関係ではエルヴィス・プレスリーを描いた「ザ・シンガー」があるが平凡。ラテン・ロックのリッチー・ヴァレンスを描いた「ラ・バンバ」は佳作、TVムービーの「ジョン・レノン・ストーリー」の細部の緻密さは我々ファンには嬉しかった。
10位 ジョルソン物語 1946年米 アルフレッド・E・グリーン監督
世界で最初のトーキー映画「ジャズ・シンガー」に主演したことでも知られる歌手アル・ジョルソンの半生を描く。厳しい作りではないが、伝記映画のお手本のようにきちんと出来ている。歌は本人が吹き替えている。

伝記映画 美術

美術館系は抜群の傑作はないのですが、佳作クラスは目白押しです。
1位 赤い風車 1952年英=米 ジョン・ヒューストン監督
「赤い風車」とはムーラン・ルージュのことである。ムーラン・ルージュといえばロートレックで、その落伍者的な人生をヒューストンが厳しいセミ・ドキュメンタリー・タッチで描き出した秀作。公開当時長身ホセ・ファーラーが足を折りたたみ膝に靴を履いて演じたのも話題になったらしい。近年作られた「葡萄酒色の人生ロートレック」も佳作で印象深いものがある。
2位 ピロスマニ 1969年ソ ゲオルギー・シェンゲラーヤ監督
ピロスマニはグルジアの画家で世界的にそれほど有名ではないが、ピロスマニのルソー風の絵と相まってグルジアの牧歌的なムードが楽しめ、引き込まれる。ソ連映画だが、事実上のグルジア映画である。
3位 モンパルナスの灯 1958年仏 ジャック・ベッケル監督
女性の肖像画で知られるモディリアニの短い一生を侘しいタッチで描いた秀作で、同じように若死にしたジェラール・フィリップがムードたっぷりに演じている。
4位 北斎漫画 1981年日 新藤兼人監督
「富嶽三十六景」で知られる葛飾北斎の人生を娘のお栄と親友・滝沢馬琴との交流を絡め描いた力作。お栄を演じた田中裕子(最近はTVばかりですな)の出世作にもなった。
5位 炎の人ゴッホ 1956年米 ヴィンセント・ミネリ監督
日本でも最も知られたオランダの画家ゴッホをカーク・ダグラスが演じているが、自画像に似ている印象があった。後半にはゴーギャンも絡んできて美術ファンにはなかなか興味深いだろう。
6位 華麗なる激情 1964年米=伊 キャロル・リード監督
ミケランジェロと天井のフレスコ画の依頼主である法王ユリウス2世との間で繰り広げられた葛藤を描いたドラマ。題材の珍しさ、チャールトン・ヘストンの威力で入選。
7位 サバイビング・ピカソ 1996年米 ジェームズ・アイヴォリー監督
ピカソの映画と言えば、アンリ=ジョルジョ・クルーゾーが発表した「ピカソ 天才の秘密」という傑作があるが、あれはドキュメンタリー。この映画は女性に耽溺するピカソの姿が重点的に描かれているので、併せて観ればもう少しピカソという人物に接近することが出来よう。
8位 アンドレイ・ルブリョフ 1966年ソ アンドレイ・タルコフスキー監督
ロシア語専攻ながらルブリョフの名前は映画を観るまで知らなかった。中世ロシア美術で最も大事なイコンを描いた画家であるが、彼の人生を追うというよりはその精神性を極めようというあたりはタルコフスキーらしく、宗教に縁のない人々も何とはなしに感動させられてしまう。
9位 フリーダ 2002年米 ジュリー・テイモア監督
一本眉の自画像で知られるメキシコの女流画家フリーダ・カーロについては84年メキシコで「フリーダ・カーロ」が作られたが、心象映画で彼女の生涯は掴みにくい。その点この作品は小児麻痺、交通事故、結婚という彼女の苦難の人生がよく解るように作られているのでお薦め。
10位 レンブラントへの贈り物 1999年仏=独=蘭 シャルル・マトン監督
レンブラントの伝記映画の決定打は「描かれた人生」と言われるが、未見。彼の人生と人間が解るという意味で本作は適しているし、絵画を思わせる映像も良い。

伝記映画 文学

断然の傑作もない代わりに興味深い作品が多い文学編です。
1位 クイルズ 2000年米 フィリップ・カウフマン監督
サディズムの語源になったフランスの作家マルキ・ド・サドが精神病院でペンを取り上げられてもあらゆる手段で対抗する姿を描いた力作。その手段の凄まじさもさることながら、神父の扱いなど作劇に工夫が見られて僕のお気に入りの映画になった。「マルキ・ド・サドの演出によりシャラントン精神病院の患者たちによって演じられたジャン・ポール・マラーの迫害と暗殺」も関連作品として観られたし。
2位 ラブ・アンド・ウォー 1996年米 リチャード・アッテンボロー監督
変則的伝記映画の雄がケン・ラッセルなら、正統派伝記映画の優はアッテンボローである。これは「武器よさらば」にも反映された従軍記者時代の若きヘミングウェイのロマンスを描いた秀作。
3位 サン・テグジュペリ星空への帰還 1994年仏=墺=独=スイス ロベール・アンリコ監督
「星の王子さま」で知られるサン=テグジュペリは飛行郵便の飛行士でもあったのだが、第2次大戦中は仏軍に参加して活躍したが、44年に消息を絶つ。晩年を描いた作品だが、アンリコだけに夢の残る作り方だった。
4位 ブロンテ姉妹 1978年仏 アンドレ・テシネ監督
「ジェーン・エア」を書いたシャーロット、「嵐が丘」のエミリー、そしてアンの三姉妹の物語で、なかなか興味深い作品だったが、フランス映画で英国ムードがやや希薄だったのが残念。
5位 わが心の銀河鉄道宮沢賢治物語 1996年日 大森一樹監督
「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」などの児童文学で知られる宮沢賢治が童話ばかり書いていた人物ではないということが解る正統派伝記映画。緒形直人が写真で見る宮沢の素朴さを感じさせ高得点。
6位 モリエール 1978年仏 アリアーヌ・ムヌーシュキン監督
17世紀の大喜劇作家モリエールの成功前から死までを描いた一代記。TV放映されたオリジナルは7時間の超大作で、日本で公開されたのは4時間バージョン。そんな具合で冗長なのにダイジェスト的な印象が残ってしまったわけだが、見ごたえは充分。「女優マルキーズ」と「王は踊る」と併せて観れば貴方はモリエール通。
7位 ゴシック 1986年米 ケン・ラッセル監督
シェリー夫人が「フランケンシュタイン」を生み出した原因となったと言われる、夫のシェリーとバイロンらと過ごした奇妙な一夜を描き出す。「幻の城」も作り方は違うが同じ題材。
8位 太陽と月に背いて 1995年英 アニエスカ・ホランド監督
「秋の日の ヴィオロンの・・・」で有名な「落葉」の作者である詩人ヴェルレーヌと彷徨の詩人ランボーの同性愛的関係を重点的に描いているのでつらい場面もあるが、文学的ムードはかなりのものだった。
9位 ゾラの生涯 1937年米 ウィリアム・ディターレ監督
「居酒屋」「ナナ」などで知られるゾラを、有名な「ドレフュス事件」で彼が弁護する場面をハイライトに作り上げた作品。邦題に反してゾラの生涯はよく解らないが、メロドラマ的にはがっちり出来ている。
10位 墨東綺譚 1992年米 新藤兼人監督
「墨東綺譚」は永井荷風の代表作で彼の実生活がベースになっていると思われるが、自伝ではない。本作はそれに彼の日記である「断腸亭日乗」を重ねたものと理解される。まさに耽美的な世界と言うべし。

伝記映画 科学者・その他の文化人 

科学者が思いの外少なく、バラエティに富みました。
1位 奇跡の人 1962年米 アーサー・ペン監督
三重苦で有名なヘレン・ケラーの伝記だが、【奇跡の人】とは寧ろサリヴァン先生でその伝記と言ったほうが適切なのだろう。サリヴァンもケラーもまさに壮絶な人生。それだけで圧倒される思いがする。このページを編集している段階でサリヴァンを演じアカデミー主演女優賞を受賞したアン・バンクロフトの訃報が届いた。合掌。
2位 裸足のイサドラ 1968年英 カレル・ライス監督
モダン・バレエに興味のある方ならイサドラ・ダンカンの名前を知らぬ者はないだろう。ダンス界に大きなセンセーションを巻き起こし、派手な男性遍歴の末、妙な交通事故で死んでしまう一生を描く。お気に入りでこれを1位にしたかったのだが、一般的な知名度を優先した。
3位 千利休本覺坊遺文 1989年米 熊井啓監督
死後400年に後2年を残す1989年に何故か2本千利休を扱った作品が登場した。野上弥生子をベースにした「利休」より、原作者・井上靖の仮説も幾分混じるミステリー的な扱いの本作の方が面白かった。
4位 蘇れ熱球 1949年米 サム・ウッド監督
スポーツ映画の野球編でも出てきたが、どうにも避けきれない。大リーグの隻腕投手モンティ・ストラットンの伝記で、「グレン・ミラー物語」のジェームズ・スチュワートとジューン・アリスンが同じように夫婦愛を好演した。
5位 キュリー夫妻その愛と情熱 1996年仏 クロード・ピノトー監督
戦中に米国で作られたマーヴィン・ルロイ監督の「キュリー夫人」は伝記映画の代表的作品と言われるが、この作品と比べれば奇麗事に過ぎる。併せて観ればベターであります。
6位 打撃王 1942年米 サム・ウッド監督
劇的な最期を遂げたヤンキーズの名選手ルー・ゲーリック。再現場面が余りに本物そっくりだったのに野球ファンたる僕は感涙にむせた。ベーブ・ルースを取り上げた近作「ザ・ベーブ」やタイ・カッブを描いた「タイ・カッブ」も面白い。
7位 ザ・スター 1968年米 ロバート・ワイズ監督
舞台ミュージカル女優ガートルート・ローレンスの伝記だが、前半のボードヴィリアン時代が面白く描かれていた。3時間の大作でミュージカルに興味がある人なら観て損はない。
8位 科学者の道 1936年米 ウィリアム・ディターレ監督
細菌学の祖とも言われるルイ・パスツールの生涯が、研究に殉ずるかのような彼の生活に焦点を当てることで感動的に描かれている。重点的な描写が後の伝記映画の基本を作り出したとも言われる所以でもある。
9位 バレンチノ 1977年米 ケン・ラッセル監督
ラッセルにとって有名な人でもあっても作品のテーマに他ならない。従って似ているかどうかなどは二の次で伝記映画としての価値はどもかく、濃厚な演出はどの作品でも楽しめる。バレンチノとは勿論デザイナーではなく、サイレント時代に一世を風靡した映画スター、ルドルフ・ヴァレンティノである。
10位 地雷を踏んだらサヨウナラ 1999年日 五十嵐匠監督
フォト・ジャーナリスト、一ノ瀬泰造の後半生を描く。フィルムを渡して収入を得る箇所など実に興味深い場面が連続し、ロバート・キャパを扱ったドキュメンタリーより良い。

伝記映画 近代政治に絡む人々

クレオパトラ、ナポレオンなど昔の為政者は【時代・宗教映画】で扱うことにして、ここでは20世紀以降の政治家に限ります。
1位 アラビアのロレンス 1962年米 デーヴィッド・リーン監督
断トツの傑作であります。個人的には砂漠を横断する前半に圧倒されるが、後半ローレンスに狂気の芽が見え始めてからもドラマとしての見ごたえが膨らむ。ローレンスは一軍人にすぎないが、その背景に英国のアラビア政策がきちんと見えるあたりに映画としての奥深さもある。また、主人公を演じたピーター・オトゥールが抜群の魅力。
2位 ガンジー 1982年英=印 リチャード・アッテンボロー監督
伝記映画を得意とするアッテンボローの中でも傑作と言って良い。インドの独立運動に多大な影響を与えた思想家ガンジーの人生が大画面の中で圧倒的な力感をもって再現される。主演のベン・キングズリーはその演技力でそれほど似ていない容姿を似せて見せた。
3位 ラスト・エンペラー 1987年伊=英=中国 ベルナルド・ベルトルッチ監督
スタートは清朝なので時代劇扱いになるが、時代の犠牲になっていく溥儀の成人後の人生はこの場にふさわしい。中国映画「火龍」とは比較にならないスケール感があるが、併せて観ればなお宜しい。
4位 パットン大戦車軍団 1970年米 フランクリン・J・シャフナー監督
戦争映画で恐らく取り上げることになる超大作だが、意外にも奇行で知られる米国のパットン将軍を人となりを描いた伝記的かつ風刺的な作品になっていた。
5位 マルコムX 1992年米 スパイク・リー監督
米国のイスラム教団のスポークスマン、マルコムXが所属していた組織と対立し暗殺されるまでを、セミ・ドキュメンタリー・タッチで描いた力作。モハメド・アリの伝記映画「アリ」と併せて観ると面白さは増す。
6位 マイケル・コリンズ 1996年米 ニール・ジョーダン監督
アイルランド独立運動家でゲリラ戦に大活躍したマイケル・コリンズの知名度は低いが、作品のタイトルになるくらいだからここに上げておきたい。ジョーダンの陰湿タッチが内容に合致した。
7位 戒厳令 1973年日 吉田喜重監督
1936年の2.26事件の思想的指導者と言われ、翌年処刑された思想家・北一輝の晩年を描いた作品。内面を凝視する手法を取り芸術色が濃く伝記映画とは言いにくいが、法華経を愛したと言われる彼の一端などは伺うことができる。
8位 宋家の三姉妹 1997年香港=日 メイベル・チャン監督
中国近代史裏の重要人物である宋姉妹の伝記的作品で、財閥と結婚した長女はともかく、次女・慶齢は孫文の妻となり戦後中華人民共和国の副主席となり、三女・美齢は蒋介石と結婚し台湾へ移動する。メロドラマ的ではあるががっちりと作られ、なかなか興味深い。
9位 スパイ・ゾルゲ 2003年日 篠田正浩監督
最後に流れる「イマジン」に違和感を持ったとしたら作品が理解できていないことになる。ゾルゲと尾崎秀実という二人の記者がスパイ活動をしていたのは事実だが、紛れもない平和主義者だった、というのが作品の主題。誤解が多く、過小評価されたことは否めない。
10位 ニクソン 1995年米 オリヴァー・ストーン監督
「ロード・トゥ・ウォー」というTV映画はジョンソン大統領の大統領ぶりを描いたものだが、その前段階であるケネディ大統領との確執などに一切触れず些か奇麗事に終っている。その点こちらはニクソンの内面に迫ろうとしているので、面白さは似たようなものだが推薦しておきたい。

伝記映画 似非伝記 

有名人物の謎に接近、全くの空想・推理・仮定でも見ごたえのあるものがあります。
1位 恋におちたシェークスピア 1998年米=英 ジョン・マッデン監督
シェークスピアは哲学者フランシス・ベーコン説など実在を疑う説もあるほどで、その人生は詳らかになっていない。この作品は「ロミオとジュリエット」がいかに生まれたか現在の脚本家が勝手に考え出した擬似伝記であるが、シェークスピアの様々の作品をモチーフに虚実が渾然一体となって実に見事な出来栄え。近作なのでご覧になった方も多かろうと思う。彼の恋が「十二夜」のモチーフとなったという幕切れもシェークスピア好きにはたまらない。
2位 写楽 1995年日 篠田正浩監督
写楽はシェークスピア以上に謎に満ちた人物で正体は依然として明らかではなく、葛飾北斎説もある。現在では能楽師・斉藤十郎兵衛であるという説が有力で、その説に基き作られた作品。18世紀末【寛政の改革】による闇の中から忽然と姿を現した浮世絵師・写楽。その周辺で、既に大物であった喜多川歌麿以外に、後の化政文化を担う十返舎一九、滝沢馬琴、葛飾北斎、鶴屋南北などが雌伏している。その爆発寸前の寛政の時代が躍動感たっぷりに描き出され、誠に楽しい。
3位 永遠のマリア・カラス 2002年伊=仏 フランコ・ゼッフィレッリ監督
美声を失った晩年のマリア・カラスを友人でもあったゼッフィレッリが取り上げ、ゼッフィレッリ自身を思わせる人物がプロデューサーとして登場するなど極めて実話に近いが、伝記として取り上げるには躊躇せざるを得ない。特にオペラ・ファンでもない僕だが、終盤感無量となった。
4位 アガサ愛の失踪事件 1979年米 マイケル・アプテッド監督
ミステリーの女王アガサ・クリスティーが1926年に11日失踪した実話をベースに、その間アガサは何をしていたのか空想の翼を広げてみせたミステリー風ドラマ。興味深い上に時代の再現も見事でがっちり出来ていた。
5位 ハメット 1983年米 ヴィム・ヴェンダース監督
こちらはハードボイルド小説の大物ダシェル・ハメットが自らが創造した探偵宜しく活躍する全く空想的なハードボイルド映画だが、監督がロードムービーの巨匠ヴェンダースというのは意外。結構多趣味な人である。
6位 アドルフの画集 2002年ハンガリー=加=英 メノ・メイエス監督
画業の合間にバイトで始めた演説がヒトラーを大殺戮者にしたという前提で、偶然の積み重ねが運命を変えた瞬間を描いている。彼の演説に影響を受けた軍人がまた彼の運命を決めてしまうという皮肉。
7位 マリリンとアインシュタイン 1985年英 ニコラス・ローグ監督
1953年にマリリン・モンロー、夫である野球選手ジョー・ディマジオ、科学者アインシュタイン、赤狩り上院議員マッカーシーが集ったらという仮定で作られたドタバタ。大したことないですが一応。