ポテトチップ×チョコレート〜大食漢と飲んべえと〜


「今回の『競馬サークル』設立準備委員会からの予算要求ですが−」

バリボリ。

「活動内容が内容だけに、学園長からの許可を頂くのはかなり厳しいかと−」

ボリリ。

「メンバーも部活動に最低限必要な10人を満たしていないことですし、同好会としてなら可能だと私は考えますが−」

バリボリリ。

「…美咲ちゃん」
「何でふか?」

バリボリモグモグ。

「いい加減にしなさい!あなたこれでもう何箱目だと思っているの!?」
「10箱目です」

思わず脱力するちあきと山百合会メンバー。
それもそのはず、先ほどから大願寺美咲は会議もそっちのけであるお菓子を大量に食べ続けているからである。

「さっきから夢中だねえ〜、美咲は」
「結構いけるんですよ、この『ポテトチップチョコレート』。ありがとうございます、さゆみさま」

ちあきに怒られたにもかかわらず、平然とさゆみとおしゃべりしている美咲。
そう、今年の紅薔薇のつぼみの妹は、別名「食欲魔女」。
とにかくどれだけ食べてもまったく体型が変わらないし、おなかをこわすこともない。
かの福沢祐巳にも匹敵する鋼鉄の胃袋の持ち主である。
ちなみにこの「ポテトチップチョコレート」は、この冬休みにさゆみが北海道にスキーに行ったとき、
この大食いプティスールのためにおみやげ屋さんに並んでいた10箱を全部買い占めたものである。
それを山百合会メンバーが全員集まってからわずか10分ほどで完食してしまったのだ。
恐るべし、食欲魔女。

「これと甘口の赤ワインがあれば、人生極楽だよねvv」

自分の妹が姉に注意されたというのに、それをまったく気に留めてもいないのは、
大酒飲みブゥトンとして知られる美咲の姉、瀬戸山智子。
美咲が鋼鉄の胃袋なら、こちらは鋼鉄の肝臓の持ち主である。

「そうだ…美咲、あんた今ので何箱目だったっけ?」
「10箱目ですけど」

聞いてなかったのかと言いたそうな妹に、姉は意外なことを口にした。

「10箱じゃきかないでしょ、あんたの場合」
「そうですね。あと10箱ぐらい必要かも」
「冗談だろ?やめとけやめとけ」

涼子が必死に止めるが、美咲は聞く耳を持たない。

「だっておなかがすくんだもん」
「お昼に10人分の差し入れ食ったでしょうが!あんたの胃はどんだけブラックホールなの」
「お姉さまの肝臓には負けるよ」

あきれかえる理沙を尻目に、美咲は智子と何かおしゃべりしている。

「いっそのことメーカーに直接お願いしたら?ほら、電話番号ここ」
「ああ、ここですね…ここに電話すれば何とかなるでしょう」

そう言っておもむろに携帯電話を取り出した美咲。

「あ、もしもし、ちょっとお尋ねしますが、ポテトチップチョコレートの注文はこちらでよろしいでしょうか…
はい、100箱お願いしたいんですけれど…えっ?もちろん本気ですよ。
ほんとにおいしくて、すっかり気に入ってしまったので…はい。送り先ですか?リリアン女学園内、薔薇の館で結構です。はい、住所は…はい、そうです。最短でどれくらいかかりますか?あ、明日にも?ありがとうございます。ではよろしくお願いします」

まさかあんなことになろうとは、ここにいる誰もが思っていなかった。
美咲と智子を除いては。

翌日。
薔薇の館に一番乗りしたちあきがいつものように掃除に励んでいると。

「こんにちはー、宅急便でーす」

黒い猫がトレードマークの宅急便屋のお兄さんが2人、何やら大きな荷物を運び込んでいる。

「あ、あの…どういうことでしょうか」
「こちらにサインか印鑑をお願いできますか?」

伝票に書かれた名前を見て、ちあきは絶句した。
そこにある発送者の名前は、北海道の某お菓子メーカー。
そして…受取人の名前は、大願寺美咲。
ちあきは宅急便のお兄さんに少し待っていてほしいと告げると、大急ぎで放送室へと走った。

『山百合会よりお知らせします。1年桃組、大願寺美咲さん。大至急薔薇の館に来なさい!』

やがて駆けつけた美咲に、ちあきは自分史上最大の大声で怒鳴った。

「美咲ちゃん!そこに正座しなさい!」

思わず背筋を伸ばしてその場に正座する美咲。
するとどこからか、宅急便のお兄さんチームがもう一組現れたではないか。

「瀬戸山智子さんはいらっしゃいますか?ワインをお届けにあがったんですけれども…」

なんとどさくさにまぎれてワインまで大量発注していた智子。
あまりのことに、ちあきはふらふらとその場にへたりこんだ。

(ああ…マリア様はどこで何しているのかしら)

気を失うちあき。
意識が薄れる瞬間に、智子と美咲の声が聞こえた気がした。

「あっ、ちあきさま、大丈夫ですか!?」
「しーっ、ほっときな。ワインもポテトチョコも手に入ったんだし、今日は姉妹水入らずで乾杯よ」
「そうですね。ちあきさまはこんなことじゃ死なないし」

…どうやら佐伯ちあきの苦難は終わりそうにない、ようだ…。







[執筆:若杉奈留美 Lovely Flower Angels




作品一覧へ戻る