労務問題サポート

労働者から労働基準監督署への内部告発が急増

【東京労働局】

「東京労働局は、管下の労働基準監督署における平成19年の申告事案(※)の概要を発表した。これによれば申告事案受理件数は、平成15年の6,404件をピークに減少傾向を示していましたが、平成18年より増加に転じ、平成19年は前年比8.5%の大幅増の12,383件となっている。
申告処理件数の内訳は、賃金不払いに係る申告が4,975件(75.8%)、解雇に係る申告1,089件(16.6%)、その他500件となっており、賃金不払い、解雇が全体の約92.4%を占めている。」
(申告処理件数は、1名の労働者が複数の事項を重複して申告する場合もあるため申告受理件数とは一致しない)

※ 申告事案:「労働者からの労働基準関係法令違反事実の申告」のこと。
労働基準監督署が、事業場に対し立ち入り調査する場合、(1)監督署が自らの行政方針に基づいて自主的に行う定期監督と、(2)労働者が事業場の法令違反を監督署に申告(俗に言うタレコミ)したことを受けて行う申告監督等がある。

【松本労働基準監督署】

「松本労働基準監督署に寄せられる労働問題の相談件数が、平成17年度以降、毎年2,500件以上の高い水準となっている。本年度も2月末現在で2,407件に達し、前年同期より79件上回っている。
行政指導の件数も毎年100件を超えている。派遣やパート労働者からの相談も増え、賃金や労働時間といった問題だけでなく、いじめや性的嫌がらせなど、相談内容も多様化している。(松本市民タイムス・平成20年3月14日)


 さて、平成19年は内部告発による企業不祥事が世間をにぎわした年でしたが、労働基準監督署に対する「内部告発」も急増した年であったことが、データで裏づけされたということになります。
近年、内部告発に対する国民全体の抵抗感が弱くなっており、今後も労働基準監督署への申告事案は増加すると予測されます。改めて自社のコンプライアンス面のチェックと対策が重要となります。

以下に当事務所にてご相談を受けた労務問題の事例の中から、いくつかの事例を紹介しその対応策を記してみたいと思います。ご参考にしてください。

[事例1] 残業代の計算がおかしいと、クレームが出た

残業代の計算は少し複雑なため、時々クレームが発生しています。いい加減な対応を続けていると、会社全体の大きなモラルダウンとなってしまいます。
以下の解説をよく理解し、対策を万全にしてください。

【解説】
「一日の法定労働時間(8時間)を超えて労働をさせた場合及び週の法定労働時間(40時間)を超えて労働させた場合は2割5分増し、法定休日に労働させた場合は3割5分増しの割増賃金を支払わなければならない」(労働基準法第37条)
  1. (1) 一日の場合
     例えば、一日の所定労働時間7時間30分の会社があり、一日に9時間働いたら割増賃金はどの様になるでしょうか。
    法定時間を超えた部分の1時間は2割5分増しとなりますが、法定内の30分については割増は不要となります。
  2. (2) 休日の場合
     上記の会社の休日が土・日で、日曜日が法定休日と定められていたとします。
    この場合、土曜日に労働させても3割5分増しの賃金を支払う必要はありません。一方日曜日に働かせた場合は、3割5分増しが必要です。
    ただし、月曜日から金曜日まで労働(7.5時間×5日=37.5時間)し、土曜日に7.5時間労働した場合は、40時間までの2.5時間は割増は不要ですが、40時間を超えている部分(5時間)は週の法定時間を越えていますので2割5分増しとなります。
  3. (3) 労働基準法は最低基準を定めた法律
     労働基準法は労働条件の最低基準を定めた法律です。よって、仮に(1)の法定内の30分の部分や、(2)の2.5時間の部分に対しそれぞれ2割5分増し(あるいは、休日は全て3割5分増し)の賃金を支払ったとしても、違法にはなりません。
    計算が複雑であること、あるいは給与計算の担当者が良く理解せずに、多くの会社では区別せず支払っているようです。
  4. (4) 割増賃金の算定基礎額
     最後に、割増賃金を計算する際の「1時間当たりの算定基礎額」について説明します。
    賃金には基本給のほかにいろいろな手当があります。労働基準法では、以下に記す手当てについては計算の基礎から除外してもいいと定められています。
    家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当(一律支給のものを除く)・臨時に支払われた賃金・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

【対応策】

いずれにしても、担当者は残業代の計算に関する法的知識を万全にすることが第一です。そして、就業規則に明確に記載し従業員に周知することが、トラブルを防ぐことになります。
また、厳密な運用をすることで、人件費の削減も図れることになります。
論点は変わりますが、残業は本来会社の命令または事前の承認を得た上で行うものです。ダラダラ残業が多く人件費増に悩んでいる事業所は、一度この原点に差し戻ってみることも重要です。

[事例2] 退職予定のパートタイマーが、退職金を要求してきた

永年勤務していたパートタイマーが退職する場合、時々このようなことが起きています。結局トラブルとなってしまい、支払うつもりの無い退職金を払わざるを得なくなった会社もあると聞きます。このような方は、パートといえどもベテランですのでそれなりの自負を持っていますし、会社の規定等も良く知っていますので、注意と配慮が必要です。

【解説】
各々の会社の規則によりますが、通常パートターマーには退職金は支払いません。社長さんは当然その様に思っていますが、なぜこの様なことがおきるのでしょうか?
  1. (1) 「適用範囲」で明確にすること
     会社の就業規則は、通常正社員を前提に作っています。しかし「適用範囲」の条文で明確にされてなければ、正社員以外のパートタイマー等にもこの就業規則が適用される結果となってしまいます。
    よって、就業規則を作る際は「パータイマー等については別途定める」、または「パートタイマー等にはこの規程は適用しない」と、適用除外を明確にする必要があります。
  2. (2) 別規定は必ず作成すること
     上記のように「別途定める」と書いていても、実際にはパートタイマー用の就業規則を作成していないことがあります。このままですと、結局正社員用の就業規則がパートタイマーにも適用される可能性があります。
    「別途定める」と書いてあれば、必ず別に定めが無くてはなりません。
  3. (3) 労働契約書に明記すること
     パータイマーの人数が少なくてわざわざ別規程を作るほどでない場合、パートタイマー各人との労働契約書の中で「退職金は支給しない旨」を明記しておけば、トラブルは回避できることになります。
  4. (4) 過去に退職金を支払っていれば既得権になることがある
     規程に書いていなくても過去にパートタイマーにも退職金を支払っていれば、会社の慣例と認められ同じような立場の社員には権利が発生することがあります。

【対応策】

 先ず必要なことは、就業規則を整備し「適用範囲」に関して明確にすることです。
そして、新しい就業規則をパートタイマーを含む全従業員に周知・説明してください。
さて、わが国は、今後労働者数がかなりのスピードで減っていくことは間違いありません。よって、パートタイマーも重要な戦力として活用することがますます重要となっています。
また、パートの中には正社員よりも経験が長く有能な方も大勢います。「同一労働同一賃金」という言葉がありますが、今後は正社員と待遇の面で大きな格差をつけることは法的に規制されていきます。パートタイマーの有効活用を待遇改善と併せて考えていく必要があります。

[事例3] 定年後の再雇用を行わないといったら、不満が出た

定年に関しては法的な規制があります。これを無視してあるいは知らずに、トラブルになることがあります。法律をよく理解し、高齢の方が安心して働けるような職場にしたいものです。

【解説】
  1. (1) 定年の年齢は法律で決まっています
     定年年齢を定める場合は、60歳を下回ってはいけないという法律があります。
    また、何らかの方法(継続雇用制度)で原則65歳までの雇用が義務付けられています。
  2. (2) 退職日を明確にすること
     定年年齢は明記されていても、実際の退職日を定めていない就業規則があります。
    退職日としては、「誕生日」「誕生日の前日」「誕生日の属する月末」「誕生日の属する月の給与締切日」「誕生日の属する年度末」等があります。
    会社として、いずれかの日を決めて就業規則に明記しておくべきでしょう。
  3. (3) 継続雇用制度の詳細を明記すること
     法律で、原則65歳までの雇用の継続が定められています。この継続雇用制度には、(1)再雇用制度(2)勤務延長制度(3)定年延長(4)定年制の廃止があります。
    中小企業で最も多い制度は、再雇用制度ですが、これは例えば60歳でいったん退職しその後新しい労働条件で再び雇用するというものです。
    いずれかの制度を決めて、就業規則に明記し従業員に周知しておく必要があります。
  4. (4) 再雇用の場合は国の制度を有効活用しよう
      雇用保険に、「高年齢雇用継続給付金」があります。これは、60歳以降の賃金が60歳以前より大幅に下がった場合、新賃金の最大15%が支給されるものです。
    また、厚生年金に「在職老齢年金」という制度があります。これは、60歳以降も働き続ける場合、厚生年金をもらいながら厚生年金の被保険者として保険料を払っていくということになりますが、賃金と年金の合計額が一定の金額を超えた場合は、年金が一部カットされるというものです。
    よって、新賃金は下がれば下がるほど、雇用保険の給付金の支給率は上がり、厚生年金のカットは少なくてすむということになります。

【対応策】

 60歳以降の継続雇用制度はどれがもっとも自社に適しているか、検討する必要があります。そして、決定した制度を就業規則に明記し、全従業員に周知・説明することが重要です。
再雇用の場合は、「高年齢雇用継続給付金」と「在職老齢年金」の説明もしましょう。
今後労働力不足になった場合、高年齢の方の活用は重要なテーマです。高齢者が自分の体力や意欲に合った制度にして会社に貢献していただくことが必要となってきます。
また、再雇用制度の場合は、国の制度をうまく活用して設計すると、高齢者の手取額を減らさず、一方会社の人件費は大幅に減らすことが可能となります。

【問合せ先】

 以上、代表的な事例を紹介しましたが、その他いろいろなケースがあると思います。
労務問題であれば、どのような問題でも受け付けておりますのでご遠慮なくご相談下さい。
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今釜信雄

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