植物を育てる上で挿し木は必ずしも必要な技術ではありません。しかし、覚えておけば、切り戻した枝の活用や株の再生に役立ちます。それ以上に、愛着のある植物を育てていると、増やしたくなってくるものです。
挿し木は種子を付けない植物や、観葉植物のように一般にはなかなか種子が手に入らないような植物でも増やすことができます。種蒔きとは違い、ある程度は時期を選んで実施でき、増やす量も挿す本数で調節できます。ここではその挿し木について順をおって詳しく説明していきます。
一般的に梅雨の最中が最適です。挿し木をおこなうために切り取った部分(挿し穂といいます)には根がありません。当然、水分を吸収する能力が衰えています。そのままでも水分は蒸発していきますし、葉がついている場合は蒸散により更に多くの水分が失われていきます。このとき、空気が乾燥していればいるほど失われる水分は多くなります。梅雨時は湿度が高い上に、温度条件も高すぎず・低すぎず、多くの植物が生育できる範囲になっています。つまり、挿し穂にとっては条件がいいといえます。
ただ、一方で問題もあります。高温多湿の梅雨時は挿し穂にカビが生えやすく、腐りやすいともいえます。水分含量の多い植物や、過湿に弱い植物は梅雨時を避ける必要があります。
梅雨どきでなくとも、その植物が元気に生育できる温度が保たれる時期であれば挿し木は可能です。ただし、遅くとも秋の初めまでにします。これは、挿し穂がある程度生長して冬を乗り切る力をつけるためです。
植物には分化全能性という性質があるため、理論上は生きている組織ならばどの部分でも可能です。しかし、実際には茎でしか増やせないという植物がほとんどです。よって、ここでは茎(枝)について説明を続けていきます。
茎で挿し木をするときに重要なのが先端部分なのか、基部に近い部分なのかという点です。植物は茎が伸び、葉が展開したばかりのころは非常に軟らかいのですが、時間とともに硬く締まってきます。挿し木をおこなう場合、先端部分のまだ若く軟らかい部分のほうが年老いた硬い部分よりも葉・根の伸長が早く、挿し木が容易です。このことは草花にも当てはまりますが、大きく成長する樹木の方がより顕著に表れます。樹木の場合、挿してから根が出るまでに2〜3ヶ月を要することも珍しくなく、木化した部分で挿し木をすると、根が出る前に枯れてしまうこともあります。
よって、挿し木をするときは、なるべく先端部分に近いところを挿し穂にするようにします。とはいうものの、一般的な鉢物の場合はそれほど気にする必要はありません。
一般的な鉢物にとって挿し木に用いる部分が先端に近いか基部に近いかよりも、その長さに節を含んでいるかどうかのほうが重要です。節というのは葉の付け根の部分で、多くの植物はこの部分から新しい芽が出てきます。また節の直下から根が出やすい植物もあります。このとき、すでに葉の落ちてしまった節でも問題はありません。その植物のどこから新しい芽や根が出てくるのか分からない場合は、最低2節を含んだ長さを挿し穂とし、1節が地中にもう1節が地上に出るように挿すといいでしょう。
先ほど「挿し穂には根がないので水を吸う力が弱い。葉があると蒸散で水分が失われる」と書きました。挿し穂に付いている葉の面積が多すぎると根が出る前に枯れてしまいます。そこで挿し木をするときはある程度の葉を落してから挿します。挿し穂の下の方についている葉を取り除いたり、大きな葉の場合は半分に切っておきます。植物によっては葉が全くなくとも挿し木ができるものもありますので、そのときはすべての葉を落してしまってもいいかもしれません。
では、挿し穂に葉を残しておく意味は何なのでしょうか。それは葉があるということは光合成をおこなうことから、エネルギーや各種ホルモンを得られることにあります。葉がないよりはあったほうが芽や根の生長が早くなり、結果的に挿し木の成功率が上がります。加湿装置などを備え、蒸散を気にしなくてもいい環境にある場合は葉を落とさずに挿したほうがいいのですが、普通の人にはなかなか無理な話なのです。
挿し穂の地上部にいろいろと気を使うように、地下部にも少し気を使う必要があります。今まで散々指摘したとおり、挿し穂には根がありません。茎の切断面から直接に水を吸うしかないのです。そこで切断面はできるだけ大きくしたほうがいいのです。最終的に挿し穂の長さを調節するとき、土に埋まるほうの切断面は斜めに切断します。また、切断したあと実際に挿すまで切断面を傷つけないように注意します。これらは挿し木の簡単な植物では結構いいかげんに扱っても失敗しませんが、挿し木が難しい植物はこのようなことが成否を分けることにつながるのです。
挿し穂の調整が済みましたら、1時間ほど水に浸けておきます。この間にしっかりと水を吸収させ、挿し床の準備をしておきます。
挿し床には通気・排水性に優れ、清潔であることが求められます。理想をいえばバーミキュライトが望ましいのですが、ご存知のとおりバーミキュライトは高価です。手軽におこなえる挿し木にそんなにお金はかけたくありません。そこで赤玉土の登場です。排水を良くするために鉢底に赤玉の中粒を敷き詰め、後は赤玉の小粒100%で十分です。懐に余裕のある方はどうぞバーミキュライト100%をご使用ください。また、肥料編で述べたように肥料を吸収するには通常より多くのエネルギーを必要とします。根すらない挿し穂には、そのような余裕はないので肥料は要りません。
鉢に土を入れた後、軽く水をやり土を湿らせます。次に挿し穂を挿す位置にあらかじめ棒で穴をあけておきます。挿し穂で直接挿すと切断面を傷つけることになりますのでやってはいけません。
吸水が終わったら、いよいよ挿して水をやります。粉状の発根促進剤を使用するときは、軽く水を切った後で切断面に薄くまぶしてから挿します。挿すときには特別なことはなく、むしろここまでの間にやるべきことをきっちりやるかどうか、そしてその後の管理が重要です。
挿し床は、直射日光・強風を避けた場所におきます。水やりですが、いくら根がないからといって毎日水をやるのは間違いです。この場合の水やりもあくまで基本とおりに「乾いたら十分にやる」です。水切れには十分注意する必要がありますが、毎日水をやったりすると根がでる以前に腐ってしまいます。
葉がある場合は、定期的に霧吹きを使用するといいでしょう。空気中の湿度を高め、蒸散による水分の減少を抑えることができます。
一度挿したあとは、挿し床から抜いて根の伸長を確認するようなことは絶対にやってはいけません。根が出たかどうか気になるのは分かりますが、こんなことをすると、まず失敗します。挿し木とはある意味で根気と忍耐の勝負です。目に見える形で新芽が展開し、鉢底から根がはみ出してくるまでしっかりと管理できるかが問われるわけです。鉢底から根が覗くようになれば、挿し床から普通の鉢への植え替え、いわゆる「鉢上げ」が可能になったと判断できます。
以上、挿し木について基本から説明してきました。挿し木が簡単な植物ならば、必ずしも上記のとおりにしなくても成功します。このあたりは自分自身が何度か挿し木を経験しながら学んでいくといいかと思います。
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