ここでは,テクスト言語学に関わる術語の主要なものをとりあげ,野村による概念規定,および現在の研究水準における概念規定等と主要な文献を提示します。項目により情報の多寡があり,未記入の項目を残しています。記述は,順次,追加・更新します。更新が遅れておりますが,ご猶予願います。
左のフレーム内の語句をクリックすると,該当箇所にジャンプします。


関係・効果・様相
 テクスト言語学において,「関係・効果・様相」という概念は次のように規定できる。

  関係:テクストの複数の部分のあいだで,意味論的・言語運用論的に選択できる相互依存的な範疇。
  効果:ある関係が他の関係とのかかわりにおいて,あるいは他の単位体との関係において派生する範疇。
  様相:関係が選択されたり,効果が派生する可能性。

 関係がみいだされるがゆえに,そこにテクストの部分が認定されるのであり,その逆ではない。関係は,テクストを記述する概念であり,関係が任意の表現のあいだで類型化されたばあい,一定の規則を見いだすことができる。ここに構造の範疇が立ち現れる。
 効果は,テクストがコミュニケーションの参加者によって具体的に運用され操作されているとき,そのテクストが二次的に派生する属性であり,テクストの運用論を有効にする。テクストがコミュニケーションの参加者に認知にかかわる,または具体的な行為にかかわる影響をおよぼすこととして規定される。
 テクストが理解されるとき,そのテクストから意味が産出されるわけだが,そこに想定される関係や効果がどのような程度として認められるか,前提や文脈の条件によってどのような選択圧が認められるかなどを問うとき,様相の範疇が有効性をおびる。
 とくに複数の関係が,個々に一定の様相をもって共存しているとき,その関係のまとまりかたをさして関係性という。
 関係はテクストの部分やその意味のみならず,前提概念とテクストの間,表現の機能の間,テクストの参加者やコミュニケーションの参加者の間,などに認定することができる。しかしながら,これらとは逆のありようとして,一方向のみによって成立している関係を想定することも可能である。また,一方向ではないとしても,関係性の一部が何らか不全であると感じられるばあいがある。これがコミュニケーションにおいて成立しているとき,しばしば,病んだ状況または障害として認められることがある。つまり,関係性の総体としてのシステムに部分的な欠損が生じたり,何らかの変換が生じたりしているばあい,このときに立ち現れる表現や現象,作用などを関係性の観点から評価することができる,ということである。
 関係を第一次の範疇としてテクストやコミュニケーションをとらえるならば,ここにマイクロ−メゾ−マクロの各レベルに一貫した相互連接を想定することが可能になるのである。

廣松渉 1985 「関係の成立」『新岩波講座 哲学 4』岩波書店
見田宗介 1996 「公共圏とルール圏」『岩波講座 現代社会学 26』岩波書店
三好春樹 1997 『関係障害論』雲母書房
野村眞木夫 2000 『日本語のテクスト −関係・効果・様相−』ひつじ書房
Sperber,D. and Wilson,D. 1986/1995 Relevance : Communication & Cognition (second edition) .Blackwell.


感情表現
 感情表現は,人の心の一時的な動きや状態,および持続的な心の状態を言語化したもの,として類型化できる。感情の指向対象は,明示的に言語表現に観察されるばあいと,そうでないばあいとがある。
 この類型は,これまで主に喜怒哀楽にかかわる個別の語彙論−意味論のレベル,及び統語論のレベルにおいて取り上げられており,また統語論のレベルの制約が,談話・テクストのレベルにおいて解除されうることも明らかにされている。また,感情が人の主観に関与するものであることから,いわゆる評価性の問題とむすびけて検討されている。つまり,現状において感情表現は,語彙論−意味論−統語論と評価性の観点を中核として問題が提起されているといってよい。
 さらに,感情が人の心に関与するのみならず,人を現実に動かす要因であり,感情の理解や推論の過程が心そのものの問題として認められることから,それをプログラムとしてとらえたり,記号の計算として心の働きをとらえたりする立場がある。これは,狭義の認知科学に帰属する研究である。
 さて,感情表現の研究の現状を如上のものとみなすとして,突発的・反射的な叫び(狭義の感情表出)をふくめ,感情表現がいかなる言語−非言語文脈からも独立に生起することは,現実に想定しがたい。また,単語に着目した評価性が,実際には当該の文(発話)の内部だけでは認定しきれないばあいがあり,さらに評価について中立的な語が,主に先行文脈に応じて一定の評価的な意味をにないうることも,既に指摘されている。これらのことは,感情表現および評価性の現象が,すぐれてテクストのレベルで作動するものであることを語る。
 以下,先行研究を概観する。
 はじめに,語彙・意味論のたちばからの研究。
 語彙と意味を中核とする研究には,辞書の体裁をとった森田(1977〜1984),中村(1979),飛田・浅田(1991)と柴田他(1976〜1982)がある。中村(1979)は用例集のおもむきがつよい。これに対し,他は意味記述と類意表現に重点をおき,特に森田と柴田他の記述には統語論的な分析がふくまれる。飛田・浅田(1991)は評価性をイメージと称して記述し,そのリストを掲げている。論文では,品詞別に意味論の観点からタイプ分けを試みた荒(1989),前田(1996)があり,類意関係にある語句を対比的にとりあげたものとして藤田(1991),菊地(2000)などがある。
 次に,統語論のたちばからの研究。
 上記の辞書の記述に,すでに統語論的な分析が含まれているが,統語論の観点からの論文では,人称制限に言及したものが少なくない。寺村(1971,1973)は,遂行分析の考え方を導入してこの問題を定式化したものである。この現象については,国立国語研究所(1972),Kuroda(1973),渡辺(1991),北原(1991),東(1992,1993),齋藤(1992),長野(1993),西尾(1993),石綿(2000),山岡(2000)などがふれる。初期の研究では,人称制限の存在が指摘されているにとどまったが,近年はその度合い(長野 1993)や条件(東 1992,齋藤 1992,山岡 2000)が問われている。もっとも,人称制限の存在とその解除については,つとに三上(1953)の指摘するところであった。
 これらの指摘は,しばしば形容詞に限定して論じられているが,感性動詞(前田 1996)を仮定したり,情意述語(田中 1998)・感情性述語(山岡 2000)というとらえかたを認定するばあい,あるいはより高次の意味論的な観点を設定し(渡辺 1991,北原 1991),さらには感情表現といった範疇を設定するとき(中村 1979,1993,野村 2003),品詞性は限定しにくくなる。このことは,動詞・形容詞・名詞など主要な品詞の連続性が明らかにされつつあるのであってみれば(寺村 1982,Givón 1984),自然な方向性といえよう。
 形容詞の区分について付言すると,形態変化や人称制限の面から,感情形容詞と属性形容詞の二分類,およびその若干の修正案がこれまでの説のほとんどをしめていた。古代語における<シク活用:感情形容詞><ク活用:属性形容詞>という対応(山本 1955)と感情形容詞における人称制限のふるまいかたが基準である。これに対し,事態の時間的な限定性を基準として,アクチュアルな現象をとらえ,時間的な限定性のある状態形容詞,およびポテンシャルな特徴をとらえ,時間的な限定性のない質(特性)形容詞の二つを区分する考え方が提案されている(荒 1989,樋口 1996等,八亀 2001)。ただ,どの説によるとしても,中間項が想定されたり,範疇間の連続性や交差が認められるなどしている。
 また,用言の述定用法(ネクサス)と装定用法(ジャンクション)の識別がとりあげられ,特に形容詞においてこれが意味と相関することが指摘されている(川端 1976,樋口 2001,八亀 2001)。述定用法は状態・一時的な意味をにない,装定用法は特性・恒常的な意味をになう,という対応である。
 談話・テクストの水準における研究。
 感情表現や評価性の問題を,意味論・統語論のたちばから取り上げる過程で,文を超える領域に言及する必要が,しばしば生じる。しかし,人称制限の現象を文体や話法にむすびつける仕事(Kuroda 1973,大江 1975),及び情意形容詞文と動詞文を文体史にむすびつけた仕事(田中 1998)を除くと,積極的に談話・テクストのレベルでの検討を標榜した仕事は少ない。
 沖(1993)は,喜びの表現が談話にどのように現れるかを地域差においてとらえて談話の言語構造を明らかにしようとしたもの。メイナード(2000)は,言語は場における当事者の間の相互行為によって実現し,その意味や機能は相互の交渉を通して具現化する,という理論を提案する。ここでは,狭義の感情の語彙を中核とするのではなく,主体の情的態度を表現している言語のストラテジーが問題にされており,本研究で取り上げようとする感情表現とは研究対象を異にする。
 評価については,小矢野(1996)が「幸い」「せっかく」を例に,テクストにおいて,話し手(書き手,主体としての登場人物)がそのような評価を与える必然性と,そのことを聞き手(読み手,相手としての登場人物)が妥当だと判断する根拠について,文脈情報を加えることが必要になることがあることを指摘している。これは評価の意味がテクストによって規定される可能性を明らかにしたものである。
 南(2002)は,人称制限を感情・感覚表現以外にも認め,かつ談話の性格と,談話の構造のはたらき(処理)の過程との関連でとらえて多くの問題を提起している。談話の性格は,関与/非関与,現場/非現場という特徴でとらえ,また談話の構造の過程は,南が文の構造について提案した四つの段階を談話にも適用してその「段階C」(提出段階)に注目している。なお,主体について「事態主体・認定主体・態度主体・伝達主体」が設定されている。
 野村(2003)は,感情表現がテクストのなかでどのようなふるまいを見せるかについて問題を提起し,テクストの構造,評価性との関係,事態の予測性との関係,感情表現の観点からのテクストのまとまりかた,などに言及している。さらに,コミュニケーションや文体生成のレベルで,感情表現がテクストの書き手・話し手と読み手・聞き手の関係を媒介するはたらきをになうことが想定できる。
 以上のように,感情表現を取り上げた仕事は,形容詞を中核として展開し,その意味−統語論の領域で緻密な考察が行われ,評価および時間の概念との関連における問題が提起されている。評価の範疇は,一般に「プラス−マイナス」という軸が想定されてきているが,感情表現については,さらに「快−不快」や「ポジティブ−ネガティブ」の軸も設定できる(福田 2003)。談話・テクストに関する仕事は絶対量が少なく,とくに感情表現をテクストの構造と関連させた問題提起や,感情表現がテクストにおいて果たす機能や効果に関する検討は,今後にまたれる側面が大きい。

荒正子 1989 「形容詞の意味的なタイプ」言語学研究会編『ことばの科学3』むぎ書房
東弘子 1992 「感情形容詞述語文における感情主の人称制限−叙述の立場から−」『日本語論究3』和泉書院
東弘子 1993 「統辞的特徴による感情形容詞の意味記述」『名古屋大学国語国文学』72
藤田佐和子 1991 「[たのしい]と[うれしい]−誘因と感情の時間的関係を視点として−」『金沢大学国語国文』16
Givón,T. 1984 Syntax:a functional-typological introduction.vol.T.John Benjamins.
飛田良文・浅田秀子 1991 『現代形容詞用法辞典』東京堂出版
樋口文彦 1989 「評価的な文」言語学研究会編『ことばの科学3』むぎ書房
樋口文彦 1996 「形容詞の分類−状態形容詞と質形容詞−」『ことばの科学7』むぎ書房
樋口文彦 2001a「形容詞の評価的な意味」『ことばの科学10』むぎ書房
樋口文彦 2001b「状態形容詞と特性形容詞−その評価性をめぐって−」『教育国語』4-3
福田正治 2003 『感情を知る −感情学入門−』ナカニシヤ出版
石綿敏雄 1999 『現代言語理論と格』ひつじ書房
川端善明 1958 「形容詞文」『国語国文』27-12
川端善明 1976 「用言」『岩波講座日本語 6』岩波書店
菊地康人 2000 「タノシイとウレシイ」山田他編『日本語 意味と文法の風景』ひつじ書房
北原保雄 1991 「表現主体の主観と動作主の主観」『国語学』165
国立国語研究所(西尾寅弥) 1972 『形容詞の意味・用法の記述的研究』秀英出版
小矢野哲夫 1996 「評価のモダリティ副詞の文章における出現条件−「幸い」と「せっかく」を例にして−」『日本語・日本文化研究』6
Kuroda,S.-Y. 1973 “Where epistemology,style and grammar meet.”in Anderson et al. eds. A Festschrift for Morris Halle. Holt.
前田富祺 1993 「日本語の感情を表すことば」『日本語学』12-1
前田富祺 1996 「感性動詞語句とは」『日本語学』15-3
泉子・K・メイナード 2000 『情意の言語学−「場交渉論」と日本語表現のパトス−』くろしお出版
三上章 1953 『現代語法序説』刀江書院(1972くろしお出版復刊)
南不二男 2002 「談話の性格と人称制限」『近代語研究』11,武蔵野書院
森田良行 1977〜1984 『基礎日本語1〜3』角川書店
中村明 1979 『感情表現辞典』六興出版
中村明 1993 「近代文学に見る感情表現のひろがり」『日本語学』12-1
長野ゆり 1993 「感情表現の動詞−「(誘因)ニVスル」型−の人称制限について」『日本学報』12
西尾寅弥 1993 「喜び・楽しみのことば」『日本語学』12-1
野村眞木夫 2003 「現代語のテクストにおける感情表現」『日本語学』22-1
大江三郎 1975 『日英語の比較研究−主観性をめぐって』南雲堂
沖裕子 1993 「談話型から見た喜びの表現」『日本語学』12-1
齋藤令子 1992 「心情述語の語用論的分析」『日本語学』11-7
柴田武他 1976〜1982 『ことばの意味1〜3』平凡社
田中牧郎 1998 「今昔物語集の情意述語文と文体」『国語学』194
寺村秀夫 1971 「‘タ’の意味と機能−アスペクト・テンス・ムードの構文的位置づけ−」『言語学と日本語問題』くろしお出版
寺村秀夫 1973 「感情表現のシンタクス」『月刊言語』2-2
寺村秀夫 1982 『日本語のシンタクスと意味 T』くろしお出版
戸田正直 1992 『感情−人を動かしている適応プログラム−』東京大学出版会
徃住彰文 1991 『心の計算理論』東京大学出版会
八亀裕美 2001 『現代日本語の形容詞述語文』阪大日本語研究,別冊1
山本俊英 1955 「形容詞のク活用・シク活用の意味上の相違について」『国語学』23
山岡政紀 2000 『日本語の述語と文機能』くろしお出版
渡辺実 1991 「「わがこと・ひとごと」の観点と文法論」『国語学』165


間テクスト性
 テクスト間相互関連性などとも。intertextuality
 複数のテクストの相互関係をさす概念。テクストの産出される時間の関係やコミュニケーションの参加者の関係のとらえかたによって,概念規定に差異が生じやすい。
 de Beogrande and Dressler(1981:182)は,所与のテクストを産出したり理解したりするとき,参加者の有する他のテクストに関する知識に依存することとして,間テクスト性をとらえている。このとらえかたは抽象の程度がたかく,研究史を再検討する必要があろう。少なくとも,単なる引用の問題に解消したり,表現の影響関係で規定するだけでは,充分な理解がえられない。以下に挙げるAllenと土田の著作などから理解をふかめる必要がある。
 Allen,G.(2000)は,ソシュール,バフチン,クリステヴァ,バルト,ジュネット,リファテールなどによる先行文献を批判的に検討し,対話性や多声性を中核とした概念をよみがえらせ,テクストに見いだされる複数性と関係概念をその議論の中心においている。間テクスト性という用語が一人歩きしている嫌いがあり,その状況を打破しようとするのであれば,Allenが整理している研究史を正確にたどりなおすことが求められよう。
 土田知則は,土田他(1996)などで間テクスト性のタイプとして次の3つをあげている。
  @ 一般的な間テクスト性 −作者Aのテクストaと,作者Bのテクストb,作者Cのテクストc……との関係に関わるもの。
  A 制限的な間テクスト性 −同一の作者Aの書いたテクストaと,テクストb,テクストc……との関係に関わるもの。
  B 自己内部的な,あるいは自己的な間テクスト性 −同一の作者Aによるテクストaとテクストa(a',a'',……)との関係に関わるもの。
これらのタイプは,テクストの関係を明示的にとらえたものとして,間テクスト性の領域のみならず準拠する枠組みとして認識すべき項目である。
 間テクスト性の概念を対話性の側面からとらえようとするのであれば,Talbot(1995)が指摘する方向性に示唆を見いだすことができる。すなわち,間テクスト性の意味を,相互作用における2人以上の人のテクストの接続に帰し,また,多様性という観念にむすびつける。口頭の相互作用は,2つ以上の混交したテクストからなり,各発話はそれに後続する発話の間テクスト的な文脈におかれている,という(p.46)。ただし,このことを彼女の指摘するように異種混交の範疇に還元しうるものか,再考を要するところである。

Allen,G. 2000 Intertextuality.Routledge.
de Beogrande,R.A. and Dressler,W.U. 1981 Introduction to Text Linguistics.Longman.
Talbot,M.M. 1995 Fictions at Work.Longman.
土田知則・神郡悦子・伊藤直哉 1996 『現代文学理論』新曜社
土田知則 2000 『間テクスト性の戦略』夏目書房


提題表現・叙述表現
 日本語の文・発話(以下,文で代表させる)のモデルを次のようにとらえよう。
   文 → 提題表現 + 叙述表現
このとき,提題表現とは,文の主題をとりあげる表現で「〜は」の形式を典型とする。叙述表現は,主題についてなんらかの情報を述べてとりまとめる表現で,その中核をなすのは述語であり,動詞型述語・形容詞型述語・名詞型述語が想定される。
 文をテクストの中で位置づけ,部分テクストの話題との関係を解明する,部分テクストの仕組みを明らかにし,それを類型化する,コミュニケーションの参加者が文に言及する過程を解明するなどのとき,このようなモデルを採用すると,作業を自然にすすめることができる。
 たとえば,テクストにおける近傍の文のあいだに,次のような関係を想定し,さらにこれと時間的な推移の有無をくみあわせるなどして,部分テクストの構造を認定し,まとまり方を類型化することができる。

1.継続:近傍の文の提題表現の名詞句・名詞節が同一指示の関係で連続する。
2.対等:近傍の文の提題表現の名詞句・名詞節が意味的に対等の関係で連続する。
3.階層:近傍の文の提題表現の名詞句・名詞節が意味的に階層関係あるいは派生関係で連続する。
4.移行:任意の文の叙述表現に含まれている名詞句・名詞節が,同一指示の関係で,後行する近傍の文の提題表現に移行して連続する。

 一般に,日本語の文は,「〜は」のような主題を含むか含まないかで,有題文と無題文とに区分される。テクストのなかで着目した文が有題文であれば,上のモデルを直接に適用することができる。これに対し,無題文のばあい適用の方法は2つに分かれる可能性がある。
 1つは,「〜は」のみならず,「〜が」の形式も提題表現とみなしてモデルに一貫性を保たせる方法である。これは,日本の文章論や談話論でしばしば選択されている。佐久間他編(1997)の「とりあげる」表現,野村(2000)の「提題表現」はこの方針をとっている。また,永野(1986)は,「文章論の立場では。主格と主題とを区別して切り離すよりも,むしろ,「が」の主格的性格と「は」の主題的性格とを認めたうえで,両者を一括する考え方をとったほうがよいのである」として,「〜が」を「主格主語」,「〜は」を「主題主語」と称し,両者を「主語」という用語で一括している。
 もう1つは,文法論からの言及であり,有題文と無題文を明確に区分する。この方法を文章論・談話論に導入すると,文の統語構造と文章・談話の構造との関係を鮮明にし,論の接続をボトムアップに展開させることができる。
 提題表現と叙述表現は,それぞれ,theme と rheme という用語との関連性がたかい。Halliday (1994) によれば,theme は「メッセージとしての節の構造において機能する」要素であり,日本語では,その直前にあるものは何でも thematic であることを意味する特別の後置詞「は」がある,という。また,メッセージの残りは,theme が展開する部分であり,プラーグ学派のターミノロジーにおいて rheme と呼ばれている,とする。
 このような主題構造(thematic structure)は,情報構造(information structure)と密接な意味的関係性があるとされる。ただし,前者は話し手指向(話し手の視点から)のものであり,後者は聞き手指向(聞き手の視点から)のもので,「旧情報(Given)+新情報(New)」という範疇でとらえられる。Chafe(1976)によれば,旧情報は「発話の時点で受け手の意識の中に存在する,と話し手の仮定している情報」であり,新情報は「話し手が述べるところによって,受け手の意識の中に導入する,と話し手の仮定している情報」である。または,旧情報は「会話のその時点ですでに活性化されている」,新情報は「会話のその時点で新たに活性化された」のように特徴づけられる(Chafe 1994:72)。
 主題構造と情報構造を別個の範疇と見なしたうえで,テクストにおいてどのように関係しあっているかを検討するとき,立体的な記述が可能になり,また当該の構造の認定方法にかかる基準が発見されるものと考えられる。

Chafe,W.L. 1976 “Givenness, contrastiveness, definiteness, subjects, topics, and point of view.”in Li,Ch.N. ed. Subject and Topic.Academic Press.
Chafe,W.L. 1994 Discourse, Consciousness, and Time.The Univ. of Chicago Press.
Danes,F. 1974 “Functional Sentence Perspective and the Organization of the Text.”in Danes,F.ed.:106-128.
Danes,F.ed. 1974 Papers on Functional Sentence Perspective.Mouton.
Halliday,M.A.K. 1994 An Introduction to Functional Grammar (second ed.).E.Arnold.(2001,山口登・筧寿雄訳『機能文法概説 −ハリデー理論への誘い−』くろしお出版)
村木新次郎 2000 「格」『日本語の文法 1 文の骨格』岩波書店
永野賢 1986 『文章論総説』朝倉書店
野田尚史 2002 「単文・複文とテキスト」『日本語の文法 4 複文と談話』岩波書店
野村眞木夫 2000 『日本語のテクスト −関係・効果・様相−』ひつじ書房
佐久間まゆみ他編 1997 『文章・談話のしくみ』おうふう
寺村秀夫他編 1990 『ケーススタディ日本語の文章・談話』おうふう


テクスト
 人のおこなう言語活動において,あるまとまりをもった表現の具体相をテクストという。
 この定義のしかたは,テクストという用語を比較的広義にとらえたものであり,狭義には次にあげる「文章」に近い概念とされており,「談話」と区別される場合がある。
 「文章」は,書き言葉あるいは文字言語による表現,すなわち小説・随筆・評論・論説などをさし,「談話」は,話し言葉あるいは音声言語,すなわち会話・討論・独話・講演などをさすことが多い。一般に「談話」は「ディスコース」の訳語として用いられているが,文章をも含む概念規定がなされることがあり,これらの用語体系には注意が必要である。また,ディスコースを一般的な用語としておき,テクストを単位体の名称とする立場もある(van Dijk)。
 テクストをもっとも広義にとらえるときは,言語表現のみならず多様な文化的な表象すべてをテクストをよび,したがって芸術作品,図像類,建築物,都市空間,風景など,記号論の対象となるものがこれに該当することになる。そうしてその対象に応じて,建築記号論,文化記号論のような領域が設定されている。記号論の用語体系では,ディスコースは記号の過程をさし,テクストは記号過程の所産をさすばあいがあり,ディスコースはテクストの記号内容ということになる(Hodge and Kress)。
 最初の定義によるならば,テクストをコミュニケーションの過程において理解することがもとめられる。そのようなとき,次のような項目を,検討の対象として例示することができよう。

1 コミュニケーションの組織
 A コミュニケーションの環境
 B コミュニケーションの参加者
 C コミュニケーションの観察者
 D テクストの参加者
 E テクストの観察者
2 テクストの話題
 F テクストの話題
 G テクストの話題のきりかえ
 H テクストの話題の展開
3 テクストの作動
 I テクストからの意味の産出
 J テクストへの言及
 K テクストの参加者の関係性
 L テクストの時間的,場所・空間的な関係性
 M テクストにおけるむすびつきの関係
4 テクストの類型性
 N テクストのジャンル
 O テクストのタイプ

ハリデー,M.A.K./ハッサン,R. 1985 『機能文法のすすめ』筧寿雄訳1991大修館書店
Hodge,R. and Kress,G. 1988 Social Semiotics.Polity Press.
池上嘉彦 1975 『意味論』大修館書店
川島淳夫 1997 『談話のドイツ語 −テクスト科学の視点から−』近代文芸社
久米博 1978 『象徴の解釈学 −リクール哲学の構成と展開−』新曜社
南不二男 1974 『現代日本語の構造』大修館書店
南不二男 1997 『現代日本語研究』三省堂
野村眞木夫 2000 『日本語のテクスト −関係・効果・様相−』ひつじ書房
van Dijk,T.A.1972 Some Aspects of Text Grammars.Mouton.
van Dijk,T.A.1977 Text and Context:Explorations in the semantics and pragmatics of discourse.Longman.


同位態
 同位体,アイソトピーとも。
 グレマス(1970)によれば,ストーリーの一様な読みを可能にする意味論的な範疇の冗長な連続である。テクストの部分に見いだされる意味特徴が反復されること,またテクストに意味論的な一貫性が仮定できることとして規定される。テクストの表面的な語句の反復が観察されるとき,これを意味のレベルでとらえると,同位態を認定することができる。これによって,テクストのまとまりかたを検討することが可能である。
 テクストのサイズが小さいときは,単一の同位態しか認定されない可能性があるが,一般に同位態は複合していると考えられる。それゆえ,同位態の間に階層性を見いだしたり,その連続する様相や範囲に差異が認められたりする。同位態の認定基準のたてかたによって,階層性や様相のありようが左右されうる。
 同位態の範疇を意味論のみならず,語彙の選択,レトリック,音声などに拡張することが可能であるが,無限定な拡張は,同位態の明示性をそこなうおそれがあろう。
 同位態を認定する基礎的な作業は,大略,以下のようにして行うことができよう。具体的に図表を作成するのであれば,シンタグマティックな方向とパラディグマティックな方向とを設定し,また話題の維持や変化を読みとりやすいように配慮して行うと応用の射程が大きくなるだろう。
 1)テクスト・部分テクストにおける同一語句の反復を系列化する。
 2)同一の文・発話における意味範疇の反復を系列化する。
 3)類意表現とみなされる語句を認定し,再系列化する。
 4)品詞性を体・用・相などの大分類で認定し,系列化する。
 5)比喩関係などでむすびつけられる語句を認定し,任意のタグ(マーク)を付加して関係づける。

エーコ,U. 1979 『物語における読者』篠原資明訳1993 青土社
エーコ,U. 1984 『テクストの概念 −記号論・意味論・テクスト論への序説−』谷口勇訳1993 而立書房
エーコ,U. 1984 『記号論と言語哲学』谷口勇訳1996 国文社
グレマス,A.J. 1970 『意味について』赤羽研三訳1992 水声社
モリニエ,G. 1992 『文体の科学』大浜博訳1994 白水社
野村眞木夫 2003 「テクストの意味と構造」,北原保雄 [監修] 佐久間まゆみ [編]『朝倉日本語講座 7 文章・談話』朝倉書店
van Dijk,T.A. 1972 Some Aspects of Text Grammars.Mouton.


パラグラフ・パラトーン

 任意の話題(トピック)にかかわるまとまりとしての部分テクストを,書き言葉について「パラグラフ」,話し言葉について「パラトーン」とよぶ。
 両用語は,Brown and Yule (1983)による。彼らは,パラグラフ・パラトーンともに,改行やピッチ,休止など形式的な側面との関連に言及している。ただし,書き言葉においてそのような形式的な分割が,単純に話題(トピック)のシフトと対応することはないと指摘されている。また,パラトーンについては,音声的な卓立,ピッチの変化,振幅の有無,休止などの関連が指摘されている。後者はプロソディーと高い関連性が認められよう。日本語について,パラグラフは,伝統的な「段落」「形式段落」「意味段落」「文段」「段」などとの概念上の関係があり,パラトーンは「話段」と訳されて新たな研究が展開されている。
 野村(2000)でも,「パラグラフ・パラトーン」の語句を用いているが,形式的な指標を基準とせず,話題としてのまとまりのあることのみを条件とする。
 このまとまりを認定するための範疇として話題(トピック)が認められるのだが,これがどのような基準で,ある話題をそれとして取り出すのかが問題になる。直観的にまとまりを見いだすことができるとして,それが何を根拠にしているのかが問われるということである。
 統語論的な範疇を基準にするのであれば,たとえば主題または主語に着目して,同一の主題(主語)が維持されている部分を,ひとつのまとまりとし,主題の変化をもって,まとまりの切り換えとみなす,という方法がありうる。
 語彙とその意味を基準にするのであれば,これも一定の語彙の反復が維持されている部分を,ひとつのまとまりとし,その語彙の反復が維持されなくなったり,反復される語彙の組み合わせに変化が生じたとき,そのまとまりの切り換えとみなすことが可能であろう。(同位態の項参照)
 これらを支えるものとして,接続表現,あるいは中心文(中心発話)とみなされる表現の存在が認められる。また,文章や談話の構造,スタイルの維持と変化,時間や場所の範疇の維持と変化などが想定されよう。さらに,談話のばあいは,沈黙のありようやパラ言語的要因,言語外の文脈情報も関与し,談話の参加者の行為が継続しているか,あるいは別種の行為に変化するおもむきがあるかどうかなどが問われることになる。

Brown,G. and Yule,G. 1983 Discourse Analysis.Cambridge University Press.
野村眞木夫 2000 『日本語のテクスト −関係・効果・様相−』ひつじ書房
野村眞木夫 2003 「テクストの意味と構造」 北原保雄 [監修] 佐久間まゆみ [編] 『朝倉日本語講座 7 文章・談話』 朝倉書店 pp.211-226.


文・発話の関係
 文・発話の関係は,連文論,文章論,テクスト言語学のみならず,認知科学(工学・心理学)などにおいて検討の対象とされている。検討の方法は,次の3つに整理することができよう。
 1.文・発話をむすびつける形式的な指標を,網羅的に認定する。
 2.接続表現や指示表現のような特定の指標に着目しながら,文・発話の相互関係を規定する。
 3.文・発話のあいだに見いだされる意味の関係,あるいは概念の関係を規定することを主要な目的とし,とくに関係がテクストの部分を構造化する実態をとりだそうとする。
 ここでは,3の方法によってテクストにおける文・発話の関係性を範疇化する。各範疇は,先行文脈から後行文脈へという方向で規定している。観点や関係の認定基準の一貫性,各範疇の定義と境界条件の規定などが課題になろう。以下は,想定される関係を網羅したものではなく,暫定的に認定した項目を列挙したものとして提示する。

状況(時間,場所・空間)関係
 状況(時間):先行する文脈に対して異なる,または新たな時間を特定する。
 継起:先行する文脈に継起する時間に生じる事態・状態を表現する。
 同時:先行する文脈と同時または雁行する時間に生じる事態・状態を表現する。
 状況(場所・空間):先行する文脈に対して異なる,または新たな場所・空間を特定する。

心理関係
 評価(感情):先行する文脈に関係する感情的な評価を行う。
 評価(感覚):先行する文脈に関係する感覚的な評価を行う。

論理・概念関係
 一般化:先行する文・発話の提題表現と同一またはその上位概念を提題表現とし,先行する文・発話の叙述の上位概念またはより簡潔な概念によって叙述を行う。
 詳述:先行する文・発話の提題表現と同一またはその下位概念を提題表現とし,先行する文・発話の叙述の下位概念またはより詳細な概念によって叙述を行う。
 並列:先行する文・発話の提題表現と同一の概念を提題表現とし,たがいに整合する叙述を行う。
 類比:先行する文・発話の提題表現の同位概念を提題表現とし,たがいに整合する叙述を行う。
 対比:先行する文・発話の提題表現の同位概念を提題表現とし,たがいに矛盾・対立する叙述を行う。
 反復:先行する文・発話の全体またはその一部と同一の内容を,同一の表現によって再度提示する。
 換言:先行する文・発話の全体またはその一部と同一の内容を,異なる表現によって再度提示する。
 修正:先行する文・発話の全体またはその一部に言及し,これを否定する表現または相補的な表現におきかえて,再度提示する。
 情報補足:先行する文・発話で省略されたり不完全に表現されていた語句をおぎなう。
 原因・理由:先行する文・発話で言及されている事態・状態をもたらす原因・理由またはその動機となった事態・状態を提示する。
 結果・結論:先行する文・発話で言及されている事態・状態がもたらす結果・結論またはそれを動機とする事態・状態を提示する。
 譲歩:先行する文・発話から想定される事態・状態の否定を容認する内容を提示する。
 保留:先行する文・発話に関する情報,または関係の明示を保留した内容を提示する。
 反予測:先行する文・発話から想定される事態・状態に反する内容を提示する。
 前景提示:先行する文・発話で言及されている事態・状態を前提または状況とし,テクストにおいて主要な情報・中核となる出来事を構成する事態・状態を提示する。
 背景提示:先行する文・発話で言及されている事態・状態をテクストにおける主要な情報・中核となる出来事とし,それに対する前提または状況となる事態・状態を提示する。
 思考・発話内容:先行する文・発話で言及されている事態・状態において思考・発話された内容を提示する。
 思考・発話解説:先行する文・発話で言及されている思考・発話の内容について,その表現方法を提示する。
 評価(価値):先行する文脈に関係する価値や特性の評価を行う。
 解釈:先行する文・発話の内容について,コミュニケーションの参加者による意味を付与する。
 解説:先行する文・発話の内容について,定義・証拠・注釈を提示する。
 情報認識:先行する文・発話で言及されている内容を認識していることを表現する。
  交話:先行する文脈や状況に対して,定型化された言語形式を提示する。
 呼びかけ:先行する文脈や状況のいかんにかかわらず,コミュニケーションの任意の参加者の注意をひく発話を行う。
 メタ言語:先行する文脈に言及し,その表現方法,方向性や属性を明らかにする。
 メタ言語:先行する文脈から切り離して,後行する文脈に言及し,その表現方法,方向性や属性を明らかにする。

Dahlgren,K. 1988 Naive Semantics for Natural Language Understanding.Academic Press.
ハリデイ,M.A.K./ハサン,R. 1976 『テクストはどのように構成されるか』安藤貞雄他訳1997ひつじ書房
林四郎 1973『文の姿勢の研究』明治図書
林四郎 1998 『文章論の基礎問題』三省堂
Hobbs,J.R. 1990 Literature and Cognition.CSLI.
Hoey,M. 2001 Textual Interaction : an introduction to written discourse analysis.Routledge.
市川 孝 1978 『国語教育のための文章論概説』教育出版
亀山恵 1999 「談話分析:整合性と結束性」『岩波講座言語の科学 7 談話と文脈』岩波書店
Mann,W.C. and Thompson,S.A. 1988 “Rhetorical Structure Theory:Toward a functional theory of text organization.”Text.8-3.
Mann,W.C.,Matthiessen,C.M.I.M. and Thompson,S.A. 1992 “Rhetorical Structure Theory and Text Analysis.” in Mann and Thompson eds.Discourse Description : Diverse Linguistic Analysis of a Fund-Raising Text. J. Benjamins .
永野 賢 1986 『文章論総説』朝倉書店
長田久男 1984 『国語連文論』和泉書院
野村眞木夫 2001 「テクストにおける文・発話の関係とテクストの構造化」『上越教育大学研究紀要』20-2 pp.443-458.
野村眞木夫 2004 「談話における話題の導入と形成の方法」『上越教育大学 国語研究』18 pp.1-14.
佐久間まゆみ(研究代表者) 2000 『日本語の文章・談話における「段」の構造と機能』科学研究費報告書
佐久間まゆみ 2002 「接続詞・指示詞と文連鎖」『日本語の文法 4 複文と談話』岩波書店


マイクロ・メゾ・マクロのレベル
 テクストを理解するための準拠枠として設定するレベル。次の3つのレベルを仮定することができる。
 
 a.マイクロのレベル:形式的な特徴や語の意味,統語論の範疇を指標として,文・発話相互の関係性を規定する。
 b.メゾのレベル:文・発話の意味・機能あるいは表現類型の範疇を指標としてテクストおよび部分テクストのまとまりの組織を規定する。
 c.マクロのレベル:テクストおよび部分テクストの組織や類型性を指標としてテクストを文化的・社会的あるいは制度的に規定する。

 このレベルを,言語表現のサイズとして定義するならば,Hodge and Kress1988による次のような記号の構造の相対的なレベルを応用することで足りる。

 a. マイクロ構造:容易に知覚できないほど小さな構造
 b. メゾ構造:直接調べることができるような尺度の構造
 c. マクロ構造:空間的または時間的に直接知覚するには困難なほど大きな構造

 文−連文−パラグラフ−全体テクストなどをサイズのちがいとして想定することはできるが,しかし,それぞれのサイズに応じて,その構造や機能・効果などをとらえる指標や方法も異なるはずである。したがって,サイズのちがいを規定することは,すなわち,何を指標とし,どのような方法や観点によってそれらの仕組みをとらえるかのちがいを規定することである。それゆえ,準拠枠としてのレベルを,マイクロ−メゾ−マクロのように設定するのであれば,単にサイズを規定するのではなく,どのような指標を基準にするのかを見こした規定のしかたをするとき,より高度な生産性がえられる。
 テクストの構造のレベルには,vanDijkによるマイクロ−マクロ−スーパー構造,伝による局所−中位−大局の構造の提案があり,生態学的環境についてはブロンフェンブレンナーによるマイクロ−メゾ−エクソ−マクロシステムの仮定がある。
 テクスト言語学において共通理解が成立しているのは,vanDijkの説であろう。vanDijkは,テクスト文法の第一番目の区分として,マイクロ構成素とマクロ構成素があるとする。
  マイクロ構成素はテクストの個々の文構造と文連続における直接的な相互関係を記述するものである。マイクロ構造は,局所的な短い範囲のレベル(語,句,節,文,文の連結)において処理され記述される。言い換えれば,マイクロ構造は,現実に直接に表現された談話の構造である。
 マクロ構成素はテクストのマクロ構造が派生する規則を規定するものである。マクロ構造は,意味論的な対象であり,マクロ構造を生成する規則には,省略・選択・一般化・構成の4つが認められている。省略と選択は,テーマを構成するために寄与しない,関連性のないささいなことがらに作用する規則であり,一般化と構成は,より高いレベルの叙述によって新たな全体的な情報を形成する規則である。
 また,スーパー構造は,スキーマ的で,定型性のあるものとされ,談話の全体的な内容に関与する。マクロ構造のための,慣習的,組織的なスキーマとしてうけとられる。スーパー構造は,個々の文からだけではなく,マクロ命題の集合での操作が要求され,文脈(エピソード記憶)や一般知識のために有効だとされている。
 一般に,マイクロレベルにおけるテクストの理解は,表現の形式や表層に即して行われ,語彙論・意味論・統語論の研究成果を積極的にとりこんだ,着実な記述を期待することができる。メゾレベルでは,まとまりという概念が浮上するために議論が抽象的になりがちである。そこで,文や文連続体の表現類型をあきらかにし,これを根拠としてテクストの諸現象をとらえることがもとめられる。その表現類型と部分テクストの関係を問うことで,まとまりの仕組みをとりだすことが可能になる。表現類型や関係概念の定義さらに,それらの間の境界条件の認定をあいまいさを残すことなく確定しておく必要がある。マクロレベルにおいては,言語と文化の関係,異文化コミュニケーション,批判的談話分析などの領域に展開する可能性がある。また,テクストのジャンルとタイプに関する,特に機能言語学における議論もこのレベルに帰属する重要な問題である。
 マイクロ−メゾ−マクロのレベルは,それぞれを独立にとらえることが可能ではあるが,しかし,そのレベル相互の境界領域にどのようなメカニズムが想定されるのか,問題を提起することが期待される。マイクロ−メゾおよびメゾ−マクロの接続において,相互に何らかの選択圧(セレクションプレッシャー)が働いていると思われる。ここを探るのは今後の課題である。
 なお,マイクロ−メゾ−マクロの3つのレベルまたはスケールを仮定する考え方は,社会学(教育社会学を含む),気象学,材料工学,環境科学などにおいても採用されている。


ブロンフェンブレンナー,U.1979『人間発達の生態学』磯谷・福富訳1996川島書店
de Beogrande,R-A. and Dressler,W.U.1981 Introduction to Text Linguistics.Longman.
伝康晴2001「第6章 対話の構造」『言語と計算3 談話と対話』東京大学出版会
Hodge,R. and Kress,G. 1988 Social Semiotics.Polity Press.
難波博隆1999「説明文テクストの顕在的構造と潜在的構造」『表現研究』70
野村眞木夫1996「文章・文体」『日本語学』15−8
野村眞木夫2000『日本語のテクスト−関係・効果・様相−』ひつじ書房
立川和美2000「中心文及びトピックセンテンスに関する再考察」『文体論研究』46
van Dijk,T.A.1972 Some Aspects of Text Grammars.Mouton.
van Dijk,T.A. 1980 Macrostructures.Lawrence Erlbaum Associates.
van Dijk,T.A.ed. 1997 Discourse Studies:A Multidisciplinary Introduction.vol.1.Sage.


HOME