沖縄県宮古郡多良間島で5月30日に行われたスツウプナカのレポートです。
実は多良間へは別の用事があって、スツウプナカを見るのはついでのつもりだったのですが、多良間の方々の御好意でかなり調査させていただきました。事前学習が十分ではなかったため、祭祀の内容に関して不明朗な点が多いので軽い日誌形式にして報告します。
※地域によっては違いがあるかもしれません。
中老座を中心とした祈願が夜あるいは明け方、それぞれの地域にある井戸で行われたり、行事の期間中雨が降ったときに「ユーノシの雨だから、恵みの雨だ」という言い方がされていたことから、この行事の水との関わりも感じられたような気がします。
行事が近づくと島の男性は準備に追われるため、市役所や農協に行っても男性の姿は少なく、「今、○○さんは海に魚捕りに行ってます」と言われたりします。@中老座(老人座)・・・祭祀の中心になってツカサや来客者達をもてなす。ニィリを歌う。一定年齢に達した男性が入ることができる。
Aブシャ座・・・祭祀で使うミス(神酒)を作る。各座へ「上酒」「中酒」(泡盛の水割り)を持っていく。
Bイム座(海人座)・・・祭祀で使われる料理の材料になる魚を捕るため、3日前から浜に泊まり込んで漁をする。
Cクバン座・・・供物、来客用みら料理を作る。
Dカンジン座(幹人座)・・・経理担当。祭祀中の酒等の手配や会場の清掃など。
※実際は地域によって、これらの区分とは違うようです。
日誌
ニィリの練習を見学
この日集まったのは7人。ニィリは2回ずつ繰り返して歌うがムトゥバリと呼ばれる2人が先に歌い、その他の人が後に続けて歌う。
カデカリヌニィリ
建築に関する歌。53番まであり、3番までは座ニィリで、4番以降はテンポが上がる。44番までくると酒をまわして飲む。歌い終わるまで30分程かかる。
ウイグスクカニドヌ
農業に関する歌。1番から10番までは座ニィリ、11番から45番までは立つニィリで50分程かかる。種を蒔くという内容の歌詞があり、その部分に来ると種を蒔く仕草をする(練習では行わなかった)。
歌い終わると壁に掛けたウスージョに向かって拝む。
イム座(海人座)にてイシュニガイ(大漁祈願)
行事で使われる魚を捕るのがイム座(海人座)である。この日に祈願を行い、この日から30日まで浜近くに泊まり込みながら、昼夜併せて日に数回、船に乗り漁へ出かける。夜には懐中電灯を持ち、素潜りで魚を捕る伝統的な漁が行われる。漁ができる範囲は各地域毎に分けられている。
捕れた魚は神様と招待客への料理に使われる分で、各座で魚は200s以上必要なので島全体での漁獲量は1dにもなる。
AM10時頃 | フダヤのイムジャが当番の家に集まり、家の中には座の長であるイッチョウをはじめ、中老座を含め座の年長の成員が集まる。入りきれない成員は庭に作られた8畳くらいの場所に座る。(写真2) |
AM10:35 |
祈願が始まる。ここでもウスージョが用いられる。 |
PM12:30 |
ヤッカヤッカが行われる。(写真6) |
中老座にお邪魔する
PM7時頃 |
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テント設営の手伝い
AM8:30
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ちょっとお出迎え
昼間は宿泊している「丸福旅館」で昼寝。
すると携帯電話が鳴り、大学の先生から「今、多良間空港着いた」とのこと。イムジャの人に頼んで探しに行くが会えず(結局夜、会えた)。「あぁー、そろそろ中老座のニィリの練習に行かなきゃ」と長嶺さん家の自転車を借りて移動。
中老座にいると、雨男の友達から「今、着いた。農協の前にいるから」とのこと。やはり彼は大雨を連れてきた。
合流後、中老座とブシャ座を2人で廻ることにした。
ブシャ座にお邪魔する
PM6時頃
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実際にミスを作る作業はブシャ座に籍を置く男性達の奥さん仕事であるらしい。男性達は各座へ「上酒」「中酒」とラベル付けした酒(水で割った泡盛の一升瓶)を配達し、行事中は会場にテントを設け常駐し、ヤッカヤッカでミスを振る舞う役を務める。
ウガミに行く予定
中老座で「今晩12時にウガミをするからおいで」と言われて、がんばって出かけると誰もいなかった・・・。次の日聞くと、天気が悪いので11時に繰り上げたそうだった。意気消沈したまま、仕方がないのでアリャーキのテント(祭場)にいってみるとヤッカヤッカが最高潮に盛り上がっていた。捕まると宿へ帰れなくなりそうだったのでコッソリ覗いて、気が済んだところで宿へ帰った。
行事当日
午後の行事が始まる。
フダヤーから貰ったお弁当を食べて休憩したのも束の間、私の携帯電話にイム座の方から「みんな集まってるからおいで」との連絡が入る。フダヤーの祭場で、この行事のために3日間漁をしていたイム座の人々(この日の午前中で漁は終了している)を招く行事に参加するため、長嶺さん家を出発。
夜の部
ここでもヤッカヤッカの輪に入れられてしまった私だったが、すっかりいい気分になっている座において、振る舞われた酒を残すようなことはもう許してくれない。「オール、オール」と言われ、最初はまさか英語か?とも思ったが、どうやら「全部飲め」ということらしい。それまで何とか九日ミスだけは避けてきたが、もう逃げ切れないと覚悟して飲んだ。イム座でまだ作って日の浅いミスを飲んだが、あれはただ酸っぱくてドロドロとしていて麹の匂いの強い物だった。しかし噂に違わずこの時の九日ミスはすごかった。酸味は少なくなっているが、麹の風味は前以上に強烈で、更にアルコール度数は桁違い。飲み込んでも喉の奥で膨らんでいくようだった。今まで各地の神酒を飲んできたが、まさしく未知の世界を見た気がした。
多良間の人の話では、とにかく(島民、部外者を問わず)ミスを飲ませて酔っぱらわせては、それを見て面白がるのが常らしい。
AM8時頃
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AM9時頃 | 中老座がテント内に座り、供物とミスを準備していつもの岩へ供え、拝む。その後ウイグシクヌニィリを歌う(写真35)。 |
AM10時頃 |
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今回のスツウプナカで大変お忙しい中、快く準備の段階から祭祀の様子まで取材に協力して下さった多良間島の皆様に心からお礼申し上げます。