安里の十五夜綱引き

 平成19年9月30日(日)に行われた、八重瀬町(旧具志頭村)安里の十五夜綱引きに行って来ました。 にわか雨が繰り返し降る天気でしたが、その分地面が冷やされて暑さが和らいだので助かりました。

安里の概況  
 旧具志頭村は、沖縄本島の南端に位置し、 北は大里村、東は玉城村、西は東風平町と糸満市に隣接していたが、平成18年1月1日に東風平町と合併して八重瀬町になった。安里は世帯数253、人口836人(平成18年12月末時点)の集落で、北に富盛、東に玻名城、西に仲座と与座の集落と隣接している。

概要

 かつては旧暦8月15日に綱打ちから行っていたが、勤めに出る人が多い昨今は平日に人が集まらないため、7・8年前から十五夜後の近い日曜日に行うようになった。
  東西に分かれ、 毎年東は雌綱、西は雄綱を引く。
  東の旗頭は槍、文字は「招豊年」。西の旗頭には長刀、ムカデ旗がついて、文字は「歓楽」である。
 綱の長さは30m程、頭部分の綱の太さは40〜50cm。 雌綱の直径は外径150cm程、内径90cm程。雄綱は雌綱より小さく外径90cm程、内径30cm程である。
 カヌチ棒は180〜190cm位のものが2本準備される。


雄綱                旗頭
   

行事の流れ 

12時頃
 
安里に到着すると、頭の部分の成形や手綱を巻く作業を行っており、ほぼ綱の銅の部分は出来上がっていた。朝8時から藁の状態から綱打ちを始めたそうだ。以前は公民館前の2本のガジュマルにそれぞれ吊してしたそうだが、現在は鉄パイプを組んで、綯っていく。
 木槌で締めたり、頭の余分な藁を丁寧に切り落とすなどして成形して出来上がった綱は道の側に寄せて置いておく。
  その後、各自昼食などの休憩のため家に戻っていった。

木槌で締める。
15時
 ウガンの参加者が公民館に集合する。
  公民館から旗、鳴り物、棒、役員らの順で隊列を作り、チヂンを鳴らしながら、集落の北にあるディンブリ(「殿武林」)にウガンのため向かう。
15:30頃
  ディンブリに着くと、線香とビンシーを持った区長と書記、役員が中心となってウガンをする。それが済むと、拝所の前の広場を囲むように役員らが座り、小中学生が棒術を披露する。
15:46
  棒が終わると、来た時と同じように公民館まで戻る。

右奥が拝所
17時
 公民館に人が集まり始めた。公民館前の道には綱引きの中央線がひかれ、その前には来賓席が設けられていた。
 中央線の所で棒術が始まる。小学生の部に始まり、最後は「安里棒術保存会」が演舞する。基本的には2人組の六尺棒のほか、槍やサイ、トンファー、剣などを使い、総勢40名以上が次々に登場する。
17:40
 演舞が一通り終了すると、一列に並んで全員が再度演舞を行う。
 棒を垂直に立てながら小走りに、円形を作り一周回る。東西に分かれて同じ様に円形を作って回る。
 棒を立てたまま、東西向かい合った後、円形に背を押しつけて押し合うガーエーが行われる。(右下写真)
 青年らが旗頭によるガーエーを行い、棒を持った子供らも含めて東西が1つの輪になりながら何周か回る。
18時頃
 
来賓席の前で輪になって空手や棒の演舞が続いた。

   
18:20
 
道のそばに置かれていた綱が動かされる。雌綱の頭の上には人が乗り、輪を水平にし、下から支える六尺棒をしっかりと差し込んでいた。
 合図は3つの銅鑼を使用している。カヌチ棒などの保管場所は公民館だが、カヌチ棒を扱って良いのは西のみだそうだ。
 シタクは小学生3人ずつが綱の上に乗り、カヌチを通す中央線の引かれた所まで運ばれる。中央に来るとシタクを下ろし、頭の部分を上げてカヌチ棒を入れると同時に引き合う。
18:30
  東が勝った。地形上、勾配がかかっているためか、東が勝つ傾向にあるらしい。どちらが勝つと豊作であるといういわれは特にない。
 少なくとも 40年以上前は夜綱で、松明を持って、他部落の人が引いているのを見たら火を近づけて追い払ったらしい。結婚しても実家の側を引いていたそうだ。
 綱は2回引くが、1回目が本勝負で、2回目は1回目に負けた方が勝つ。
 1回目を引き終わり、綱が東西に離れると、中央では子供らがおどけた様子で挑発しあい、かなりの勢いでぶつかり合い続ける。
18:45
  2回目、東西の綱の上には青年を乗せて中央まで移動する。
 2回目の引き合いが終わると、東西に綱を戻し、トグロを巻いた状態で置いておく。終わった綱は、農家に売るなどしている。藁はいつもは名護の汀間から購入している。

19:30
 
公民館の野外舞台でアシビ(「余興」)が行われる。
 プログラムは、唄や国頭サバクイやマミドーマ、子供らによる舞踊や民謡ショー、十五夜頭によるお楽しみ抽選会などがある。
 
   
   

所感
 東風平・具志頭地域の綱引きは、ウマチーや旧盆に行う地域が多いようです。かつては安里でもウマチー綱が行われていたが、現在は十五夜綱のみ。 富盛では十五夜綱のほかに、ウークイでも綱を引くようです。
  安里の綱引きも、集落の人々が協力しあい熱の入ったものでしたが、東風平と具志頭地域のおいて、十五夜行事のメインは綱引きより獅子舞や棒術だと思われます。  安里でも棒術は十五夜でのみ演じられ、富盛でも毎年旧暦8月15日に棒術を行う。棒術と獅子舞の両方を行う東風平、 世名城、 志多伯(獅子加那志の 1、2、3年13年、25年、35年忌) があります。
 綱引きもまだまだ観に行っていない所がありますが、近隣の棒術や獅子舞の広がりも気になるので機会があれば観て回ってみたいです。 
 安里でも他所と同様、就業形態の変化に伴い参加者の不足などいろいろあったようですが、直近の日曜にするなどの工夫で、集落の人々が協力する行事になっていたと思います。子供たちによる棒術やシタク、夜のアシビでも舞台を撮影する親の姿はどこも同じですね。小学校から中学生くらいの子供らによるガーエー(?)のおどけた手振りや達者な指笛、周りの青年達から嗾けられたりする様子を観ていていると、世代をとおして受け継がれているものの一部を見たような気になりました。
 今回、安里の綱引きを観るにあたり、私の職場のT班長、区長さんをはじめ安里の方々にお世話になりました。ありがとうございました。



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