〜聖夜〜

もくじ


最近、すっかり寒くなったなぁ…と半助は思う。
しかし、天気の良い日は、つい洗濯物を天日に干したくなる。
家には、乾燥機もあるというのに、半助はいつまでたっても、昔の習慣が抜けないのだ。
ある種の貧乏性なのかもしれない。
流石に、2人分の洗濯物を干し終える頃には、すっかり指先が凍えていた。
部屋に入った半助は、洗面所に洗濯物を入れていた籠を戻し、水で手を洗った。
冷たい筈の水が、温く感じた。
タオルで水気を拭き取った後、はぁ〜と息を吐き掛け、擦り合わせる。
体温は、精気を少しコントロール出来れば調節出来ることなのに、半助は未だに慣れなかった。
半助は、まだまだ…半人前以下の【月氏】なのだ。
「またベランダに出ていたのか?」
両手を握ったり開いたりをしている半助に、背後から声を掛けたのは山田伝蔵。
正面の鏡に映る、ちょっと凹んだ半助の顔の後ろに、苦笑いをした美丈夫が見える。
「乾燥機を使えと言っているのに…」
伝蔵は、半助が洗濯物を干すたびに、こうして浮かない顔をしているのを知っていた。
「いいえ、洗濯物は陽の光に当てた方が、絶対良いんです」
祖母に育てられた半助は、頑ななコダワリを幾つか持っている。良いお天気の日に、洗濯と布団干しをするのもその一つ。
伝蔵はそんな半助に、毎回、こうして優しい言葉を掛けてくれる…半助の運命の人だ。
この場合、人という表現は正しくない――運命の月氏。
まだまだ半人前で、伝蔵の側にいる事しか出来ない半助だったが、少しでも手助けになればと、洗濯・掃除を担当するようになっていた。
【月氏】は、確かに人の精気を…時には血を吸いはするが、所謂「吸血鬼」とは違う。
日の光で灰になったりしないし、十字架も、にんにくも平気。勿論、棺桶で眠ることも無い。
ただ圧倒的な太陽の光より、月の持つ清麗なエネルギーを好むというだけだ。
半助自身、昔から炎天下などの直射日光は得意ではなかった。
それは【果実】になりかけた身体が、太陽のエネルギーを感じ取ってバランスを崩していたからだと、伝蔵が教えてくれた。
伝蔵は、半助が干してふかふかにした布団を、気持ちが良いと言ってくれる。
それだけでも、半助は、布団干しは続けようと思うのだ。
「お茶でも入れましょうか?」
2人でリビングに戻った半助は、伝蔵に確認する。
伝蔵は、人の習慣が抜けない半助に付き合うように、お茶を飲むようになった。
「あぁ、…頼む」
半助と暮らすようになって、変わった…と、伝蔵は思う。
それは、好ましい事ばかりで、平凡な日常のありがたさを思い出させられたようだ。
半助の入れるお茶は、美味しい。
伝蔵がそう感じるのだから、仕方ない。それが、2人でのんびりとお茶をする時間が楽しいからこそ…という単純な理由だったとしても…。

半助は、お茶の準備に1人キッチンに向かった。
「寒いはずだ、もぅ…24日」
ふと、キッチンに貼ってあるカレンダーに目を留めた半助は、ぽつりと呟いた。
「今晩…イブ、なんだ…」
半助は…身体が凍るような、寒気を感じた。
伝蔵と暮らしていると、そうした時事のイベントからは疎くなる。
半助としては、四季の移ろいを楽しむ意味でも、カレンダーは欠かせないと思うのだが、時々こうして…嫌な思い出も連れてくる。
クリスマスには、良い思い出など…1つも無かった。
むしろ、嫌な事ばかり…。
半助は、その場に立ち尽くした。
「どうした…?半助」
お茶を入れるだけにしては、時間の掛かる半助を心配して、伝蔵が見に来る。
カレンダーの前に立ちすくむ半助は、青い顔をしていた。
精神に影響を受け、精気の流れまでが酷く停滞していた。
「あ…山田先生。すみません…何だか、ボーッとしちゃって」
慌てて振り返った半助は、クラリと視界が回るのを感じた。
「半助!」
倒れると思った身体は、伝蔵の腕に抱き留められていた。
「あ、ありがとうございます」
停滞していた精気が一気に流れだし、半助は赤面した。
「なんだろ…急にクラッと…」
「無理をするな。まだ本調子じゃないんだから」
「はい。すみません」
半助は、伝蔵の服の袖をぎゅっと握り、目を伏せた。
「全く…」
伝蔵は、半助を軽々と持ち上げる。
「甘えるなら、ハッキリして貰えると、ありがたいんだが」
「あ、甘えるって!」
思わず伝蔵を見上げてしまった顔は、羞恥で真っ赤だった。
「見逃すと、大変なことになりそうで、気が気じゃないぞ、わしは…」
「そんな人を…子供みたいに言わないで下さい」
「あぁ…子供じゃないことは、ちゃんと分かっている」
「…え?」
伝蔵が向かっているのが寝室であることに気が付いて、半助は押し黙る。
伝蔵は、声をあげて笑った。
「…病人に無茶はしない。休ませるだけだ」
「ホントですか?」
「さぁ、それは…半助次第だな」
伝蔵は、意味深に笑う。
沈んだ半助の気分を、盛り上げてくれようとしているのだ。
半助は、それをヒシヒシと感じていた。
それでも、今の半助に微笑む余裕はなかった。

寝室のドアを背中で押すように開けると、伝蔵は半助をベッドにふわりと下ろす。
また精気の流れが完全に戻っていない半助の身体は、冷たく冷えていた。
しばらくの間、気の流れに沿って身体をさすってやる。
されるがままの半助に、胸まで布団を掛けてやると、伝蔵は立ちあがった。
「…先生?」
半助は、伝蔵がそのまま寝室を出て行ってしまう様な気がした。
「な、何しても良いので…側に居て下さい。今日だけは…」
無意識に手を差し伸べていた。
1人にされる事が…酷く恐ろしかった。
半助は、差し出した手も、声も、酷く震えているのを感じていた。
伝蔵に、こんな風にお願いをしたことは…今まで無い。
「何をしなくても、ずっと側にいてやるさ」
返事は、温かい言葉だった。
半助を包み込むような優しい声。
そして、椅子と飲み物を取りに行くだけだと微笑むと、半助の震える唇に、触れるだけのキスを落とした。
額にも、頬にも…何度も、何度も。
「少しだけ…待っててくれ」
半助の緊張が緩んだ頃、伝蔵は一度、寝室を後にした。

キッチンに戻ると、冷蔵庫に常備するようになったペットボトルのお茶を、2本取り出す。
それと、こちらが本題。
伝蔵は、半助が固まっていたカレンダーを確認する。
「今日は…12月24日。クリスマスイブか…」
半助は、これに反応していた。
クリスマス…イベント好きな人間が盛り上がる、大人も子供も盛り上がるポピュラーなイベントだ。
しかし、半助にあるのは、良い思い出では無いのだろう…と伝蔵は思う。
いくら本調子ではないとは言え、体調を崩してしまう程の心の傷。
伝蔵に、その傷を無くすことは出来ないが、新しい楽しい思い出で塗り替える事は出来る。
(確か…ケーキを食べて、プレゼントを渡す…んだったか?)
伝蔵は、携帯を取り出す。
メールの機能が中々に便利で、利吉との連絡は専らコレを使っているのだ。
今回は急ぎの用だったので、早速、利吉に電話する。
『…はい、何ですか?父上』
「頼み事をして良いか?」
電話口で、利吉が一瞬黙る。
『またですか…』
「すまん。」
『最近、その言葉…安売りし過ぎです。父上』
「まぁ、頼まれてくれ。また…半助の調子がな」
後半は、かなり低いトーン。それで利吉も理解する。
『薬ですか?父上の声、元気そうじゃないですか』
「いや、そっちに注文を出してるから、それを持ってきて欲しいんだ。ついでに、そこらでケーキも買ってきてもらえると、ありがたいんだが」
『ケ、ケーキって?』
「外には出られないから、代わりに買ってきてくれ」
利吉は、渋々承諾すると、確認を取るので…と保留にする。
クラシカルな音楽をしばらく聞いた後、電話に出たのは雅之助だった。
『よぉ、新婚さん。やっぱり…用意しておいて良かっただろ?』
「…まぁ、な。」
伝蔵には、雅之助のしてやったり…と勝ち誇る表情が目に浮かぶようだった。
雅之助の助言で準備していたものが、役に立つのだ。
この場合は、感謝してしかるべきだろう。
『商品は、すぐに渡せるから、利吉に持っていかせるわ。』
後ろから、利吉の声が聞こえる。何か文句を言っているようだったが…。
「頼む。」
伝蔵は、それだけ伝えると、電話を切った。
【果実】だった半助は、伝蔵の気配に異常な程、敏感だった。
取りに行くのは一瞬のことだが、今の半助を置いて家を開けるのは心配だった。
今も、時間が掛かりすぎた事を気にしているかもしれない。
伝蔵は、ペットボトルと椅子を持って、半助の待つ寝室へと戻った。

          ◆    ◆    ◆  

半助は、夢を見ていた。
夢の中で半助は、まだ子供だった。
伝蔵に会う以前の、まだまだ…小さな子供。

「今年は、何かあるかもしれない…」
半助はポツンと呟く。
寝室で、その声は誰の耳にも届かない独り言だ。
学校の工作の時間に作ったクリスマスカードを両親に渡した。
取り合えず受け取ってくれたから、怒ってはいないと思う。
もしかしたら…。
そう思うとドキドキして、中々寝付けなかった。
そして、迎えた朝。
枕元に何もないのを確認して、落胆する。
どうして期待してしまったんだろう?
今まで、両親からクリスマスプレゼントをもらったことなんて無いのに…。
期待しなければ、ガッカリせずに済んだのに…。
まだサンタクロースがいると信じていた頃は、もしかしたら…煙突が無いから入ってこられないのかと思い、窓を一晩中開けっ放しにして、熱を出したっけ。
クリスマスの早上がりを、看病に潰されたお手伝いのおばさんに、散々文句を言われた。孫に合う予定を潰してしまったらしい。
それは、半助には関係ないことなのに…。
その日以来、益々半助は、お手伝いさんにも心を許せなくなった。
一通りの事を1人で出来るようになった半助は、お手伝いさんと極力関わらなくなった。1人で起きて、部屋で着替え、洗面所に顔を洗いに行く。
年末で忙しいのか、家には誰も居なかった。
「あ…」
リビングで、信じられないものを見付けてしまった。
半助の目から、涙がボトボトと零れる。
ゴミ箱の中に、半助の送ったクリスマスカードが捨てられていたのだ。
「どうして?どうして…こんな」
ひどいよ、ひどいよ…と半助は、しばらく泣いていた。
しかし、思う。
目が溶ける程に泣いても…それだけ。
慰めてくれる人は居ないのだ。
半助は、おばあちゃんの居る仏壇の前で、座り込んだ。
「やっぱり、おばあちゃんにあげれば良かった。そうしたら、夢に出てきてくれたかもしれないのに…ゴメンね。」
どんなに謝っても、遺影のおばあちゃんは優しく微笑むだけだった。


もう見たくないと思った。
どうして、今更こんな事を思い出しているんだろう?
次の記憶が、半助を覆う。


半助は、高校生だった。
そこは、伝蔵に出逢った…事件の後に入れられた学校の寮だった。
もう、一々傷付いたりはしない。
1人で、自立して…生きていこうと思っていた。
逆に、あの頃の自分は誰も頼る人がいなかった。
転校の理由など、すぐに知られてしまい、親友など出来なかった。
逆に、近付いてくるのは…邪な興味を抱いて集まる下種ばかり。
学校も…特に寮は、半助の落ち着ける場ではなかった。
今思うと、【果実】になりかけた身体が、規律の中に押し込められた人間を刺激してしまったのかもしれない。
当事者だった半助にとっては、それどころではなかったが…。
「メリークリスマぁ〜ス!半助く〜ん♪早く起きなさい!」
あの日…突然、起こされた。まだ日付も変わっていない時間。
奴等は、半助の部屋の合い鍵を持っていた。ルームメイトがぐるだったのだ。
三人の上級生がベッドの周りを取り囲んでいた。
「な…」
半助は、上半身を起こし、掛け布団を握り締めたまま、震え上がった。
悲鳴をあげた所で…助けが入らない狡猾さで仕組まれている凶行である事は、分かっていた。
あの日、男達は妙に上機嫌で、いつもと違い…恐ろしかった。
その予感は、最悪の形で的中してしまったのだ。

あの後…起こった事は、諦めることに慣れきっていた半助にしても、忘れられるものではなかった。
しかも…悲しい事に、
半助は、クリスマスプレゼントを…個人的に思い掛けずもらったは、この時だけなのだ。

          ◆    ◆    ◆  


「半助!半助?!」
自分を呼ぶ声に、半助は目を覚ました。
「や…山田先生?」
心配気に自分を見詰めている伝蔵を見て、ホッと吐息を付く。
「私は…?」
さっきまで見ていた夢が、肌にまとわりつくようで、全身が強ばっていた。
「眠っていたようだが…酷くうなされていたから、起こした。大丈夫か?」
「はい…。」
「待たせて、済まなかったな。よく寝ていたので、起こさなかったんだが…」
ベッドサイドのテーブルに、ペットボトルが並んでいた。
1つが、半分程に減っているから、伝蔵がずっと側にいてくれたのだと、分かる。
しかし…伝蔵の存在があっても、半助にとってのクリスマスは格別で、悪夢を招いてしまったのだ。
その事実が、さらに半助を怯えさせた。
伝蔵は、そっとベットに乗り上げると、半助を胸に抱いた。
「こうしていれば、安心して眠れるか?」
「山田先生…」
言葉の通り、そこが一番ホッと出来る場所だ。
あんな事があった自分を…受け入れてくれた最愛のひと。
「今、何時ですか?」
半助は、何気なく聞いたつもりだったが、その声は震えている。
「12時を少しまわった所だな。」
「そうですか…」
半助は、一瞬躊躇したが、ぽつりと言う。
「今日は…12月25日は、両親が交通事故にあった…命日なんです」
「半助…」
伝蔵は、半助の告白が意外だったのか、半助を改めてギュッと抱き締めた。
「私の高校に向かう途中でした。ちょっとした事件があって呼び出されたんです。普段、同じ車に乗ることも稀な2人だったのに…あの時だけ、2人揃って…一度に逝ってしまいました。」
あの時の虚無感は、半助の中に深く影を落としている。
それが、伝蔵には手に取るように分かった。
伝蔵は、半助の子供時代をその目で見ている。子供の頃から酷い関係だったが、高校生まで至っても…改善されることはなかったということか?
人というのは、何と愚かなものだ…伝蔵は、怒鳴り散らしたいような衝動に駆られた。
しかし…親を選べない子供は、いつまでも親を慕い続けるもの。
酷い親でも、半助にとっての親は彼らだけなのだ。
伝蔵は、ふぅ…と怒りを解くように、息を吐く。
「朝になったら、墓参りに行くか…」
一瞬は、怒りの気に満ちた伝蔵が、理解してくれた事に、半助は、ほっとする。
「ありがとう…ございます」


クリスマスどころでは、ないじゃないか…と伝蔵は思う。
何か悲しい目に会ったのだろう…程度に思っていた、自分の甘さに臍を噛む。
しかし、あれ程、うなされる悪夢を見た直後だ。
半助に再度眠ろう…という雰囲気はなかった。
気分を変える意味でも、甘いモノを食べるというのは…悪くない。
折角、利吉に無理を言ったのだ。
それに、もう一つのものは…弱っている半助に、渡しておきたい…。
伝蔵は、決意する。

「半助。実は…用意したモノがあるんだが」
「用意?」
「あぁ…ちょっと待っててくれるか?」
半助は、一瞬離れる事に不安気な顔をしたが、コクリと頷く。
再び、リビングに戻ってきた伝蔵は、何やらワゴンを押していた。
「山田先生!これ?」
「あぁ、クリスマスって、こうやってケーキを食べるものなんだろう?」
半助の瞳がキラキラと輝いていた。
「嬉しいです。こんな……」
伝蔵は、ケーキナイフ、小皿、フォークの類まで、準備に抜かりは無かった。
「でも…こんなに大きいの、2人で食べるんですか?」
ん?…と伝蔵は、首を捻った。
「クリスマスケーキって、こういうもんじゃないのか?」
「いいえ、ちょっと大き過ぎるかなぁ…って、でもとっても嬉しいです」
確かに、ケーキは半助が見たこともない程の大きさだった。軽く15人位は食べられそうなサイズで…事情を知る者なら、よく当日に買えたものだと感心する程だ。
伝蔵は、良く分からなかったので、間違っていたのかと慌てたが、半助の笑顔が見られたので、どうでも良くなった。
「ほら、食え。サンタも付けたぞ」
伝蔵は、砂糖菓子のサンタ毎、半助用に切り分けた。
「あぁ…可愛いですね。本当に良く出来てるんですねぇ…」
半助は、そう言いながらも、伝蔵が自分の為にケーキを用意しようと思ってくれたのが、何より嬉しくて、取り分けられたモノも胸が一杯で食べられそうになかった。
それでも、期待に満ちた目で見詰められ、半助は、自分の為だけに用意された初めてのケーキを口にした。
「甘〜い。甘くて美味しいですよ」
元々甘いモノが大好きだった訳ではないが、その一口は、格別に甘く、美味しく感じられた。
食べられないと思ったのに、切り出された分を平らげてしまった。
「食べられるものですネ。あ、これは、こっちに…」
半助はサンタをケーキの違う部分に戻した。
「サンタが居なくなったら、この後食べる時に悲しいので…」
そう言って、笑った。
「あ、私だけ1人で食べちゃいましたネ。」
思い出したように言う半助。
伝蔵はニヤリと笑うと、不意に口付けた。
「…ん…っ」
「ホントだな、甘くて、美味い…」
「山田先生!」
伝蔵の一言に…半助は、真っ赤になる。
「実は、プレゼントもある」
「え?」
伝蔵は、半助の前に小さなケースを差し出した。
「これ…?」
「…開けてみろ」
半助が恐る恐る開けると、中に指輪が入っていた。
一つ石の指輪で、赤い…ルビーのような石が、揺らぐような光を放っていた。
しかし、普通の宝石でない事は、例え半人前の月氏でも、半助には分かった。
「これ…って」
「あぁ、わしの気を錬った結晶だ」
「こんなに大きい…」
伝蔵は、時々…自らの精気から、こうして宝石を生み出して売買し、人界での貨幣を手にしていた。
しかし、それには大量の気と、時間が必要とする。
その指輪に嵌っているものは、半助が見た中で一番大きかった。
触れると、じんわりと温かい。
伝蔵が心を込めて作ってくれたものだ。
「山田先生…これ、本当に私なんかが頂いて良いんですか?」
私なんか…と卑下するのが、半助の癖。
それに気付いたのは、いつ頃だろう…。
「何言ってる。これは、お前の為だけに作ったものだ。わしと同じ気の型を持つ半助なら、これをしておけば、気が安定する。コレは、その為の石なんだが……何でもいいから、身につけられる形に加工しようと思った時、指輪しか思い付かなかった。」
伝蔵は、ケースから指輪を取り出し、ゆっくりと半助の左手の薬指にはめる。
それは、儀式めいて恭しく執り行われた。
半助は、酷く緊張した顔で、それを見詰めていた。
「人は、指輪を贈って将来を誓い合うのだろう?お前は、わしの役に立ちたいと言って無理をするが、その度に…認められてないのは、実は…わしの方なんじゃないかと思うことがあるんだよ…半助。わしが頼りにならないから…」
「そんな!山田先生…何で?!そんな事、あるわけ無い」
伝蔵の言葉を遮るように、半助は、激しく否定する。
「【華燭の典】の儀式で、半助は名実共にわしのパートナーになった筈なのに、何か形で示したい。お前には…この指輪をしていて欲しい。半助は、その存在だけで十分…わしを幸せにしてくれている…いい加減に、それを自覚しろ」
伝蔵は、言葉を選ぶと、何故か…こんな言い方になってしまう。
しかし…
半助なら、しっかり違わず受け止めてくれると思う。

「そんな自覚…ちょっと難しいかもしれませんが、この指輪が山田先生のものだって、証明なら、絶対外しません。」
半助は、指輪にそっと口付けた。

「こんな嬉しいクリスマス…初めてです。嬉しい!」
珍しく、半助の方から伝蔵にキスを仕掛ける。
「2回もプロポーズして貰えたのなんて…私くらいですね、きっと」
半助は、先程が嘘のように、艶やかな笑みを浮かべる。
かなり気障だと思ったが、やって良かった…と伝蔵も笑い返した。

この後、まだ本調子ではない半助が、指輪のお陰で元気になった…と、珍しい怒濤のおねだりをすることになる。
まぁ…幸せな恋人同士の悩みは、贅沢なモノである。

もう、半助は、クリスマスが怖くないと思う。
思い出すのは、今日の美味しかったケーキと、伝蔵の2回目のプロボーズだ。

伝蔵にとっても、この『12月25日』が記念日になった。




        
不器用な2人に、メリークリスマス♪

    


本編の先を書いてしまいました。多少、ネタバレ(≧△≦)
途中、高校時代の痛い話しを延々書いてしまい、慌てて軌道修正。
それ、とっておいてあるので…あげたら笑って。DSに…(苦笑)
今度こそ、24日までに絶対あげたかったので、無茶しました。もう朝の六時半。HPの為に初めての徹夜かな?明日仕事なのにぃ〜。
でも、上げられそうで良かった♪良かった♪
前半と後半のみ、伝半でいちゃいちゃしてる感じですが…どうも、こういうイチャイチャが好きで、個人的には大満足。特に前半(笑)←自画自賛してるし…。
ご意見・ご感想…お待ちしてま〜す。

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