私が『いつもニコニコしてる良い子だ』って言われているのを、何度か聞いた事があった。
良い子というのは、本当は…あまり嬉しい例えじゃない。
でも、そう言ってくれた人達が、悪気があって言ってるんじゃないって分かっていたから、それも仕方ないかなぁ〜とも思う。
そんな自分を変える事も出来ない訳だし…。
誰に言われなくても、我ながらお人好しだなぁ〜と思っちゃうし。
だからと言って、いつもニコニコしている訳じゃない。
ニコニコ度合いなら、絶対、平太夫や三治郎の方が上だと思うし…。
まして、今は自分がイライラしてるのが良く分かった。
「乱太郎くん、きり丸くん、しんべヱ君、おかえり〜。釣りはどうだったの?」
学園の入り口で、いつものように掃除していた事務員の小松田さんに、私達3人は呼び止められた。
今日は、3人で釣りに出掛けたんだ。
結果は最悪だった。
途中でドクたまと合流(?)することにはなっちゃったけど…珍しく、妙なおじいさんにも怪しい忍者にも会わずに、ずっと釣りが出来たのにだ。
あんな所に5人も並んで針を垂らしていたら、釣れるモノも釣れっこない。
空っぽの魚籠を見れば、分かると思うんだけど…。
「今日は、だぁ〜れも釣れなかったんだよ」
しんべヱは、内容と裏腹に楽しそうに報告を始めた。
「そうそう…考えたら、あんな人数で固まって釣ってたら釣れる訳ないよなぁ〜」
な、乱太郎と…きり丸が、私の方を見て、同意を求めてくる。
「き…きり丸、ごめん、私…先に部屋に戻るネ」
私は、きり丸の顔が何となく見ていられなくて、その場から逃げ出してしまった。
そう、逃げ出したのだ…。
「おい…乱太郎!」
きり丸が私を呼び止めているのは分かっていたけど、何となく、今はきり丸とは話したくなかった。
理由は簡単だ。
私達が話し掛けたとは言え、お父さんと釣りがしたい〜なんて、泣いていたしぶ鬼に腹が立ったのだ。
それと、自分の無神経さにも…。
どちらかと言うと、そっちの方が嫌だった。
きり丸の前で、そんな話をするなんて…。
きり丸は一瞬は怒っていた様だけど、すぐに落ち着いて、説得するみたいにドクたまに話してたっけ…。
親がいるから、喧嘩も出来るんだゼ…
居なきゃ…石だって、投げられない。
親子喧嘩したい時に親はなし……
きり丸は戦でいっぺんに親を両方、亡くしている。
最初は、特別思わなかったけど、静かに釣り糸を垂れていたら、段々もやもやしてきた。
さり気ない言葉なのに、すごく重い言葉だと思えた。
私は、きり丸を傷付けるような事を言わなかっただろうか?って。
あの時、私はしぶ鬼になんて言ったっけ?
そうしょっちゅう遊べない…とか言った気がする。
忍術学園は、全寮制だから…って。
私達は、たまになら…会えるんだ。
きり丸と私達じゃ………言葉の重さが違う。
部屋に駆け込んで、後ろ手で戸を閉めようとしたら、何かに引っかかった。
見ると、きり丸が手で押さえていた。
「…きり丸」
追い掛けて来てたの…気が付かなかった。
「乱太郎…」
追い出す訳にもいかないので、取り敢えず2人で部屋に入って、戸を閉めた。
本当は、1人になりたかったんだけど…ココは3人の部屋だから、無理なんだ。そんな事も忘れちゃってた。
きり丸は、私と向かい合わせになるように座ると、いきなり切り出す。
「なぁ、俺…何か、お前に不味いことしたか?」
「…え」
こういう時のきり丸は、こっちがひるんでしまう程、ストレートだ。
「乱太郎、帰り道でもずっと黙り込んでたし、俺の方見ないしさぁ…あの時、ドクたまの奴等に何か言われたのか?」
ううん…と私は首を振った。
そんな事じゃない。
あの時とは…釣りを諦めて、帰ることにした時だ。
きり丸としんべヱの2人には、ドクたまに、この前の八方斉の似顔絵の事で話しがあると言って、先に行ってもらったのだ。
そして…釣りをしながら、ずっとモヤモヤしていた事をドクたまに…ぶつけてしまった。
きり丸の前で、あんな話をするな!
怒りたくもなるって、私はしぶ鬼に言ったけど、一番怒りたかったのは…きり丸だ。
きり丸は、お父さんともお母さんとも…
もう、釣りをするどころか、遊ぶことも、話すことも、会うことだって
出来ないんだから。
しばらく横で泣いていた風鬼さんの存在も、なんとなく嫌だった。
あんなに…仲良しじゃない。
甘ったれるなヨ!
…って。
ドクたまの2人は、滅多に怒らない私が本気で怒ってたから、ビックリしてたみたいだ。
ただの八つ当たりなのに…。
本当は、甘ったれてるのは、一番近くに居る私なのかもしれないって思ったから。
「乱太郎…」
きり丸の声は優しくて、何となくじ〜んとしてしまった。
「なに泣いてるんだヨ。分かった。パパさんの事、思い出しちゃったんだろう?」
「ち!違うよ!」
「当たりだな。バカだなぁ〜。ふぶ鬼の父ちゃん、横でずっと泣いてたもんなぁ〜。ちょっと頼りない感じが、乱太郎のパパさんと似てたじゃん」
きり丸は、ははは…と笑った。
「…あそこまで、情けなくないヨ」
すぐ側で泣いていた風鬼の存在をそんな風に思っていたなんて…。
私の思ってたことなんて、気にしてないんだ。
少なくとも、私に言って、心配掛けるような事はしないんだ。
きり丸は、やっぱり…強いなぁ〜と思う。
それに、優しい。
「ご…めん…心配かけて、しんべヱにも謝らないと」
きり丸には、訳が分からないと思う。
勝手に後悔して、反省して、自己嫌悪にひたってるだけだもん。
それをきり丸になぐさめてもらうなんて…。
「私、きり丸に…いっつも甘えてるネ」
思わず、思っていたことが口に出ちゃった。
「は?乱太郎が?俺に?何言ってるんだよ。助かってるのは、俺の方だって…」
きり丸がプイと顔を背ける。
顔が赤かったのは気のせい?
「こんなドケチの俺と…普通に仲良くしてくれるじゃん」
きり丸が何を言おうとしているのか…分からなかった。
分からなかったけど…
…なんだか、胸がドキドキした。
「そ、そんなこと、当たり前のことで…他のみんなだって」
きり丸は、ブンブンと首を振る。
「違う、違う!乱太郎は……本当に普通の家の…普通のいい子で、他の普通の友達と同じに、普通の友達で居てくれる。乱太郎と一緒にいると、俺も普通の…ドケチでいられる気がするんだ…」
私は、ビックリしていた。
きり丸がこんな風に私のことを思っていてくれたなんて…。
「それでも、ちゃんと『そんなコトで泣くなんて!怒りたくもなる』って、俺の言いたいことズバッて言ってくれる。俺が言ったら、絶対…あの後ドクたまと仲良く釣りなんて出来なかったゼ」
だから、あの、泣いている風鬼の横で並んで5人釣りをしているのが、不思議で面白かったんだ…ときり丸の言葉は続いた。
あの時、きり丸が笑っていたのは、そういうことだったのか…。
私が勝手にもんもんとしてた時に…。
…そうだったのか。
きり丸って、ホント凄い。
それに、私と全然違う事考えてるのに、私が一番嬉しい事、言ってくれる。
「でもさぁ〜『普通のドケチ』って、なんだよ〜」
ちょっと気になった単語を言ってみた。
「普通のドケチは、普通のドケチさ。」
「変なのぉ〜」
「変でも良いんだヨ」
思わず笑ってしまった。
「何が変なのぉ?乱太郎、きり丸〜??」
2人で大笑いするのを、いつの間にか戻ってきたしんべヱが、不思議そうに見ていた。
単純だと思うんだけど、それから『いい子』って言われるのが、嬉しくなった。
私が『普通のいい子』でいれば、
きり丸は『普通のドケチ』でいられるのだ。
それって、スゴイことかも。
そう思うと、
きり丸と一緒に、いつもニコニコしていようと思う。
あの時、胸がドキドキした理由は、よく分かんないんけど…。
今は、まいっか!って感じかな?
とりあえず、おしまい!
あのアニメの『父親と釣りに行きたいの段』は酷かったよね?
あんな話を、戦災孤児のきり丸がいるのに、楽しそうにまとめるなんて!
納得できーん!
と、いう事で、こんな話を書いてみました。
まさか、きり乱(だと私は思ってるんですが…駄目?)が、
連鎖3より先にアップする事になるとは…。
恐るべし、理不尽話。
『裏』とか、タイトル意味深につけて、違う意味での期待をした方、スミマセン(笑)
本編のアニメに対しての『裏』という事で…(>_<)