半助が、雅之助の【
最初は、あまりのショックに、死んでしまおうと思った。
しかし、自らの命を絶つことさえ、【果実】には許されないのを、雅之助の手によって知らされた。
…思い知らされた。
死んでしまうこと――命さえ、雅之助の手に握られているのだ。
そして、何よりの恐怖。
それは…常に半助に張り付いている。
半助が愛し【果実】になっても良いと思い詰めた相手…山田伝蔵を、雅之助が知っているという事実だ。
――半助の、人としての幸せを優先する。
その為の選択だったとは言え、半助が…伝蔵の【果実】にしてもらえなかった事に変わりはない。
半助の幸せの為にと、自らの【果実】としてではなく、人間としての生を求めた伝蔵。
その意思とは裏腹に、こんな鬼畜道に落ちてしまった半助。
…人としての幸せ?
普通に生活し、誰か人を愛し、子供を作り、家庭を築く……取り止めのない、幸せのイメージが、半助の脳裏に浮かんでは消える。
地球上の、何千、何万という人が、形は違えど行っていく営み。
たったそれだけの事に失敗してしまった自分。
【月氏】である伝蔵を、幼い頃から唯一無二の相手として…愛し続けてしまった半助にとって、それは何より難しかったのかもしれない。
だからこそ半助は思うのだ。
とてもじゃないが…今の自分を伝蔵に知られるなんて出来ない、と。
それこそ、恥ずかしくて消えてしまいたくなる。
例え、万人に知られたとしても、山田伝蔵だけには…知られたくないのだ。
そんな半助に、雅之助は繰り返す。
―山田先生にしてもらうか?
伝蔵のことを引き合いに出される度に、半助の心が竦み上がる。
それを確認するかのように、雅之助は繰り返し、半助の忘れられない人の名前を挙げるのだ。
半助に抵抗出来る筈はなかった。
ただでさえ……【月氏】と【果実】。
精気を媒介する、その明らかな主従関係だけではなく、雅之助は半助を縛る。
――命を握られた【果実】としての肉体。
――伝蔵を思い続ける気持ち、つまりは精神。
その両方を、雅之助に支配されているのだ。
そんな状況で、ひたすらに…身体を重ね、雅之助の精気を精製する日々。
しかも、半助の身体は…雅之助の存在・愛撫を、飛び切りの快楽として認識するのだ。
精気を身体の奥で受け止める瞬間は、全ての
悲し過ぎる【果実】の
強行に半助を支配する一方、
雅之助は
身体を繋いで精気の受け渡しをする行為自体が、快楽に繋がるのは【果実】だけではないのだ。
そして半助が従順に、雅之助が嫌がることさえしなければ、酷い乱暴はされない。
未だ半助は、雅之助以外の相手をさせられたことも無いし、痕が残る程、肉体を酷く傷付けられたことも無い。
精気を与える時、雅之助が手ずから半助の身体を必要以上に弄くるのも、半助を苦しめることが目的では無いのだ。
【果実】が快楽に酔い、感極まる程に、精気の熟成は密度を増し、良質になる。
「半助の身体は、畑だから…種を植えるには、しっかり耕さないとなぁ〜」
などと楽しそうに、しつこい程の愛撫を繰り返すのだ。
初めての夜…雅之助には、皮膚からでも精気を吸収する浅ましさを笑われた。
そんな浅ましい相手に、そこまでの前戯は必要ないのに…と半助は自嘲する。
しかし、雅之助の愛撫には熱が籠もり、浮かんでいる笑顔も嘲笑とは違う。
半助の中で精製される精気の為とは言え、身体を気遣ってもらっているような気さえしてくる。
半助が、疲れ切ってしまった時は、身体を休ませてくれる事もあるのだ。
それは……客観的に聞いていた、一般的な『月氏の【果実】の扱い方』とは異なる、のではないか?
雅之助は、優しい主人なのかもしれない。
まるで…愛されていると、勘違いしそうになる程に。
「そ、そんなの…出来ない」
半助が羞恥のあまり出来ないのを、素直に口にする。
雅之助は、それを面白そうに眺めている。
「なら、ずっとそのままにしておくんだな…」
雅之助の言葉に、半助の潤みきった蕾がヒクヒクと震える。
「指で開くくらいの事、何度もしてるだろ?」
弱音を吐くのは許されても、強制される事に変わりは無いのだ。
「…でも」
半助の顔は真っ赤で、息も上がっている。何処からともなく、濃厚な香りが漂っていた。
欲望に捕らわれているのに、恥ずかしがるのを止めない半助。
それは、雅之助の嗜虐心を煽った。
雅之助は身体を起こすと、ベッドから降りようと半助に背を向けた。
「あっ!待って!待って下さい…雅之助っ」
半助は、雅之助に縋り付く。
「やるから…見て、見ていて下さいっ!」
半助は仰向けに横たわり、雅之助に見やすいように両膝を立てると、重心を背中の方に移し、下肢を少々上げる。
両手の人差し指を襞に掛け、開く。
「……っく!」
途端に、ぷちゅ…っと音を立て、開かれた口から、いやらしい汁が飛ぶ。
「おっ、半助。よだれ…か?」
雅之助は、予想通りの半助の痴態に、声を上げて笑う。
先程まで、散々指で弄りまくっていたのだ。
半助の中は既に蜜壷と化していた。
「…ぁ」
半助には、こうなってしまうのが分かっていたから…むしろ、そこから溢れ出さない様に、力を込めていたのに…。
「もっとだ。もっと奥まで指を突っ込んで開いて見せろ。わしのお宝を銜え込む大切な穴だからナ。」
半助は、羞恥に目眩がしそうだった。
それと同時に、はぁはぁ…と、呼吸が荒くなる。
雅之助に笑われているが、嘲笑ではないのが救いだ。
恐る恐るといった感じに、自らの秘部に指を深く差し込んでいく。
「あっ…あっ…ふぅ…っ」
先程まで、雅之助の太い指を銜えていた内側の粘膜は敏感になっており、自らの指にさえ歓喜した。
そのまま滅茶苦茶に掻き混ぜてしまいたい衝動を必死に抑える。
そこは…自分が想像していた以上に、いやらしく濡れていて
「は、はぁ〜…っ」
深く息を付いて覚悟して、そこを開く。
精気を求める淫らな穴は、雅之助の目にどう写っているのか…とても想像出来なかった。
手をそのままに、ぎゅっと目を閉じる半助。
「…いい子だ。」
不意に聞こえた雅之助の酔ったような声。
それに反応して、半助の性器からとろり…と滴が零れた。
「う、ぅ…ん」
半助は、無意識に雅之助の顔を見てしまった。
しかし目が合うことはなかった。
雅之助の熱い瞳は、半助のそこをじっと見詰めていたから…。
「こんなに中を真っ赤にして、スゴイな、中がずっと蠢いて……分かるか?」
そんなことが分かる筈がなかった。
半助の身体を変えた張本人の癖に、こうした痴態に驚いて見せる。
まるで半助の資質として、酷くはしたないのだとでも言いたげに…。
その刺さる様な視線に感じたのか、身体の奥からドロリと何かが溢れる。
「…ぁ…ぁ…っ!」
それは、開かれた口から漏れるだけでは済まず、半助の指にさえ絡みつくように滴り、濡らした。
そこに雅之助を受け入れたくて、うずうずしているのだ。
酷くいやらしい光景だろう…想像しただけで、目眩がする。
「あぁぁ…ぅんっ!」
思わず、自らの指を締め付けてしまった。
それは、身体の奥の方から、ぎゅっ…と絞り上げるような仕草になった。
自分では、止めることは出来なかった。
【月氏】である主人から受ける視姦に、【果実】はひとたまりもないのだ。
雅之助に感じてしまう証左…それは、いつも丸見えだ。
早まる鼓動、上気に火照る顔、身体中から溢れる熟れた芳香も…。
身体を拓かれれば、この有様だ。
「ま…まさの…すけぇ…」
この酷く甘えた声は自分の声かと、半助は耳を疑う。
しかし、この焦らされた状態から抜け出すには、快楽に酔うしかない。
すると雅之助は、半助の言葉に応えるように、身体をずらした。
やっと願いが叶えられると、半助は手をソコから引こうとした。
「…そのままだ」
どこか冷たい雅之助の声。
半助は、ビクリと震え、引きかけた手を押し留める。
半助が開いたままにしている入り口に、雅之助の欲望が押し当てられた。
「ま、雅之助…?」
思わず、半助の口から怯えた声が上がった。
そこを開くのに、まだ自分の指を入れたままなのだ…。
雅之助の指より細いとは言え、深々と…2本も。
「何だ?大丈夫だ…こんなに大口を開けてるんだからな。そのままでも平気だろ?」
雅之助は、新しい思いつきにどこか楽しそうな様子で…。
しかし…
その実、必死に冷静を装っていた。
雅之助の言葉に、半助はイヤイヤ…と首を振る。
半助が小さく身動ぐだけで、半助から溢れる芳香は止め処もなく垂れ流され、雅之助の思考さえもとろかす様だ。
半助が、理性のたがを外し…快楽に流され始めると、半助は雅之助の欲望をたまらなく煽る存在となる。
それは、半助を支配しているつもりである、雅之助のプライドを傷付けるのだ。
ただ【果実】としての性能を求め、性奴に貶めた筈の半助。
なのに、その半助が情欲に溺れるのは、許せない…そんな矛盾を抱えていた。
だから、時々…こうして無体をしたくなる。
半助が、僅かな抵抗を堪えているのを見ると、ホッとする。
「そうか、半助には見えないからな…」
雅之助は、半助の背中に枕やクッションを詰め込み、半助の上体を起こす。
半助は姿勢を支えていた腹筋と、腕に余裕が出来た事に、ふぅと息を吐いた。
それを見計らうように、雅之助は半助の腰に手を添え、下肢を自分の腿の上に抱き上げた。
「ひっ…!あぁーっん、ん…ふぅ…」
突然の事に、自らの指が半助の敏感な粘膜を掻き混ぜた。
半助の呪に封じられた欲望が、引き締まった腹を叩くようにヒクヒクと震え、呪に逆らい僅かばかりの先走りを零すのに、半助受けた衝撃が良く分かる。
それでも、半助が頑なに言いつけを守り、そこから手を引こうとしなかった事に、雅之助はほくそ笑んだ。
「はぁ…はぁ…」
少しずつ冷静さを取り戻して行った半助は、雅之助に向け、大股開きする自分の下肢が、瞳に飛び込んできた。
「あ…ぁ……」
動揺に身動いだ事で、ぎゅっと絞られる穴。
衝撃の余韻で、新たな滴を零した。
「もう一度、開いて見せろ。自分の穴がどんなものか、よく見ておくことだ。」
半助は言葉を失ったまま、雅之助の言葉に操られる様に、両手に力を込める。
半助の目の前で、そこが口を開いた。
思ったより、ずっと大きく、横長に形を変えた姿は…そこが昔ただの排泄器官だった事を忘れさせた。
……なんて、ことに。
半助の頭の中でも、具体的な言葉にはならなかった。
こうして見せ付けられると、雅之助が何度となく言葉にしたがる理由が、分かる気がする。
どこか…得体のしれない恐怖さえ感じた。
「どうだ…よく見えるか?何なら手鏡でも持ってきてやるぞ」
半助は、呆然としながらも否定に首を振った。
「そうか。でも、これなら…楽に出来そうだろう?」
半助は、抵抗の言葉を失ってしまった。
確かに…ソコなら、受け入れる事も出来るだろう…と。
雅之助は、改めて自分の猛ったモノを半助に押し当てる。
勿論、半助の指はそのままに…だ。
半助の指に沿わせて、挿入していく。
「あぁ…うーっ、うーっ…」
半助の指の甲を、雅之助の性器が這うように進んでいく。
いつもより、自分の指の分だけ…容積が大きい。
それ以上に、何処か自慰のような行為に、羞恥心はリミッターを越えて、脳を焦がす。
「あ、あぁ……っ」
手の甲に雅之助の双果が触れる程に、深々と穿たれた。
限界まで、拓かれてしまった…と漠然と思った。
これ以上、僅かでも動かれたら…そこがズタズタに裂けてしまう…と。
「雅之助ぇ…う、動か…ないで…」
自分の言葉で、腹筋が揺れるだけでも…無理だった。
涙が滂沱のように流れる。
ただただ…怖かった。
もう一杯、一杯なのだ…。
「半助、やっと…わしに可愛く甘えられるようになったなぁ…」
雅之助は、半助の涙を舌で受ける。
「メロメロになってるだけあって、良い味だ…最高だな」
雅之助は、ニッコリと笑う。
しかし、こういう時の願いは…聞いては貰えない。
半助の両手を押さえ付け、指が抜けないようにした上で、雅之助は全長を引き抜いた。
「ひぃぃぃ……っ」
余りの勢いに、内臓がひっくり返されたような気がした。
しかし、次の瞬間…同じ勢いで、雅之助の欲望がねじ込まれる。
「あ…っぐぅ…」
2人分の体重を、半助の背中の枕とクッションが受け止めた。
いつも以上に、激しく繰り返される抽挿。
「……感じるのか?」
雅之助も酔ったような熱っぽい声をしていた。
その言葉に、半助は自分の前が萎える事も無く、ダラダラと腹を濡らしている事に気が付いた。
これが【果実】というものなのだ。
そのうち、雅之助からの言葉もなくなり、ただひたすらに攻められた。
途中から、半助は…何も分からなくなってしまった。
脳を、快楽に塗りつぶされて…。
朝の光に目覚め、気が付いた時、寝室に居たのは…半助独りだった。
ホッとしたような、どこか寂しいような不思議な感覚がした。
無意識に動いた途端、そこがズン…と痛む。
激痛ではない。
「痛い…」
それでも、確認するように半助は言葉にしていた。
鈍痛…昨日、乱暴をされた所が、じくじくと重い感じがするだ。
しかし、酷く傷付いている感じはしなかった。
行為の最中、今回の様に何も分からなくなってしまうのは、久しぶりな気がする。
下肢にも焦れた感触は無いのは、半助が知らないうちに精気を搾取したのだろう。
それだけで、大分…身体が楽だった。
それに…
いつもなら、朝の処理をさせられるのに…今日はそれがないのかと、安堵する。
朝の習慣と化したことではあるが、半助はいつまでも慣れる事が出来なかった。
むしろ【果実】としては、朝から精気を頂ける事を喜ぶべきなのかも知れないが、身体が慣れても、心が慣れないのだ。
それを…雅之助が分かっているのか?
搾取は、否応なく…【果実】の身体を、性感を高めてしまう。
過ぎた快楽は、身体に負担が掛かるのだ。
半助が気が付かないうちに、搾取を済ませた雅之助。
…昨日の行為が激し過ぎたから?
こんな時、
半助は、雅之助が半助を気遣ってくれているように、思えてしまう。
サラリとノリの効いた清潔なシーツの上で、半助は昨夜の事を思いだして、赤面する。
これも、半助が気付かないうちに、雅之助の手で整えられたであろう…寝具なのだ。
もしかしたら、自分が汚れたシーツの上で寝たくなかっただけの事かもしれないが…。
それでも、半助は清潔な環境で目覚められたのは、雅之助のお陰だ。
半助は、複雑な感情を噛み締め、思わずシーツを握りしめていた。
その時、
…ふと気付く。
左の人差し指……昨日、自らの身体を暴かされた指だ。
そこの内側の所、指を曲げた時だけ見える部分に…血が付いていた。
反対の手にも、同じように血の跡があった。
一見分からない、血の…跡。
「…やっぱり」
半助は、ぶるり…と震えた。
やっぱり、自分の身体は…昨夜、雅之助の凶器に裂かれたのだ。
今、酷い傷が無いという事は、半助が気を失っているうちに治療したという事。
お陰で、半助は酷い激痛にあうことは無かったが…。
しかし…
治療や、後処理が…証拠隠滅の様な気がしてしまった。
半助をただの『精気精製器』として扱っている証拠を……。
――治療の為、裂けた部分から溢れている血を、雅之助が舐め啜る。
そんな光景を…想像してしまった。
指も、舐め取ったのだろうか?
この指の痕跡を見付けるまでは、少し温かいような気がしていたのに…。
胸の辺りが、冷たく冷えていく。
「…雅之助」
名前を呼べば、下肢にはじわりと熱が湧く。
それは、【果実】としての…条件反射だ。
どこか、雅之助を優しいと…
【果実】としてではなく、土井半助として見てくれている部分があるのでは…と思い込もうとしていた。
でも……それは、錯覚なのだ。
半助自身も、それを見つけだそうと探していた…?
【果実】として自己防衛の本能が、無意識に働いたのかもしれない。
…雅之助は…恐ろしい主人なのだ。
初めての頃、躾と称されてされた事を思い出す。
それだけで、身体が震える。
しかも雅之助は、伝蔵の名を利用して脅すことさえするではないか。
雅之助は、怖い。
半助の意志を無視して、無理矢理、自分の【果実】にした…怖い、酷い主人なのだ。
今の悪夢は、全て……そこから始まった。
暴君では無いが、勝手な怖い…主人。
半助は、ぼんやり思った。
…まるで、自分に言い聞かせているみたい。
改めて…半助は、自分の不安定さに気付く。
自分の意志のつもりが…思考さえ、【果実】になった事で、影響を受けている気がする。
それとも、全てを【果実】になってしまったから…と、言い訳にしているのか?
【果実】って、こういうもの…なんだろうか?
他に【果実】を知らない半助には、その問いを投げかける相手が居なかった。
もし、この考えさえ【果実】として歪められたものだとしたら…。
身体の自由の無い今、意識さえ…自らのモノではないとしたら。
それは、【果実】云々より、『土井半助としての自我』の完全否定ではないのか?
半助は震えが止まらなくなった。
雅之助に支配される事よりも…恐ろしかった。
それは…
【果実】であるところの、今の自分が…何者なのか分からなくなる恐怖だ。