「利吉さぁぁ〜ん!」
あまりの哀れさに、つい利吉の後を追いかけてしまった、きり丸だった。
「…きり丸くん?」
あっさり追い付かれてしまう辺り、誰かさんに追い掛けて来て欲しかったんだろうなぁ〜と、きり丸はあこがれのフリーの忍者に同情した。
「利吉さん、1つ良いコト…教えたげようかなぁ〜と思って♪」
「…何?」
利吉は、まだいつもの己を取り戻せないまま、目を小銭にしたきり丸を警戒する。
「ふふふ〜♪」
サッ…と、当然の様に差し出される両手。
「タダじゃ教えない…ってコトかい?」
利吉は分かり易すぎるきり丸の行動に溜息を1つ。
一瞬、先程半助に貰った「お年玉」をくれてやろうかと頭を過ぎったが…。
半助がわざわざ用意してくれたもの…それがたとえどんなものでも、宝物にしてしまう利吉であった。
密かに『半助コレクション』なるものを収集しているのは、秘密である。
それを間違っても、別のことに使ったりは……断じてしていない、はずである。
半助に関わることかと思うと、断れない利吉は、懐から小銭を数枚。
「毎度〜♪」
意外に、少額で済んだのは、きり丸が同情してるのかもしれない…などと深読みしてしまうのは、利吉がまだショックから立ち直れていない証拠。
「あのさ、利吉さん。土井先生が誰彼かまわずお年玉なんてあげてると思う?忍術学園の薄給でサ。いそいそと準備して…間違いなく、利吉さん「だけ」にあげたんだと思うんだけどなぁ〜。これって、意味あるんじゃない?」
にやにやと笑うきり丸に、利吉は、更に数枚の小銭を奮発してやる。
「これで、団子でも食べてくるといい」
先程までのしおしおっ振りは何処へ行ったのか…復活も早い山田利吉18歳。
きり丸も、それがしばらく戻ってくるな…という意味であることは、しっかりと把握している。
「じゃあ、きり丸くん、ありがと〜♪」
「毎度あり〜。頑張ってね〜利吉さん。」
そう言いながらも、きり丸の心は小銭で一杯。
後のことなんて、サラサラ考えてはいないのであった。
「土井先生!」
「あれ?利吉くん…仕事に戻ったんじゃないのかい?」
半助は、にこやかに利吉を迎え入れた。
こんな顔を見ると…あんな風に分かれたのに、半助は全く気にしていなかったのが伺え、利吉は悲しくなる。
(この人は…こんなに胸元開けて、まるで誘惑しているみたいなのに…!)
利吉の想いに全く気が付かない半助は、のんきにお茶など勧めてくる。
「あの、土井先生…先程の、お年玉のコトなんですが…」
「あぁ〜2千円じゃ少なかった?」
「いいえ、金額のことじゃなくて…あの、どうして…私に?」
利吉の目の前で、半助は恥ずかしそうに笑った。
なんだか、その表情が艶めいて見え、利吉の鼓動は早まる。
「あのさ。利吉くんは、もう立派に独り立ちしてる忍びだから…逆に、お年玉なんてくれる人、居ないんじゃないかと思ってね。時々…子供扱いしてくれる人が居るのって、楽じゃないかなぁ〜って」
「…土井先生」
頬を染めてそんな優しいことを言ってくれる半助。
利吉は、思わず…「半助っ!」と抱き締めたい衝動にかられた。
「実は、私もね。山田先生に…頂いたことがあってね。」
「…は?」
パリーン!と凍り付く利吉。
「山田先生に、昔頂いて…凄く嬉しくてネ。そのお返し…って訳じゃないんだけど」
(父上にもらった…お返し?)
利吉の恋心に、留めの一撃。
(その、頬を染めているのは?妙に照れているのは…)
利吉は、ふらふらと立ち上がる。
「利吉くん?やっぱり、怒った?」
怒っている…というか、ショックなのは、そんなことではないのだ。
既に利吉の耳に、半助の言葉は半分も届いていなかった。
「私…もう、仕事に行かないと…」
などと、体裁を整える自分が情けない。
「そうか…無理しないようにね」
利吉の気持ちも知らないで、半助は無邪気に微笑んでいる。
(まだ…子供扱いのままの方が、良かったかも)
ガックリと項垂れたまま帰っていく利吉を見送る半助。
「なんだろ?フラフラして…疲れてるのかな。大丈夫かぁ?」
そんな見当違いな心配をする半助が、留めを刺したのが、自分だと気付く筈もなかった。
お団子屋さんからの帰り道。
きり丸は、利吉のモノらしい絶叫を耳にする。
『父上なんて、大っ嫌いだあぁぁぁぁ〜っ!』
「ん?…あれって?いやいや、気のせい♪気のせい♪」
半助から一人だけお年玉を貰った利吉。
あの情報提供は、きり丸の無意識の嫌がらせだったのかもしれない。
■終わり■06/01/19 藤音明
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