―諸共―

もどる


わし…大木雅之助が飼い始めた【果実】は、規格外だった。
元々、人のおこぼれを頂いたのだから、文句は言うまい。
しかし、手を付けた早々、手首など切って、折角の精気を無駄にしようとした。
愚かにも、血を出せば出す程に、自分の存在を知らせるようなものだという事は、頭に無かったようだ。
ただ、ただ…わしの【果実】になったことに絶望したのだろう。
いや、わし云々より、正確には…山田伝蔵の【果実】ではない事に、だろう。
それは、想像出来た。
しかし…共感出来るはずもない。
土井半助は、わしの【果実】になったのだから。

                ■     ■     ■

半助は、従順になった。
お仕置きが効いたのだ。
あの日、半助に精気を満たして一晩放置したのが、余程辛かったのだろう。
「…おはよう、ございます」
わしが目覚めたのを見計らうように、半助が声を掛けてくる。
気持ちの読みとれない、無表情だった。
朝の挨拶くらい、もっと明るくしてもらいたいものだが、まぁ〜今の半助にはこれが精一杯か?
わしが、朝起きたら挨拶しろ…と言ったので、義務的にしているのだ。
言うことを聞かないと、また酷い目に合わされるとでも思っているのか?
わしは、そんな暴君じゃないんだが…。
あの程度で、そこまで怖がられるのには納得出来ない気もするが…仕方ないか。
「あぁ…おはようさん」
ニヤッと笑ってやると、それを合図に半助は上半身を起こす。
2人とも、昨夜の情事のままだから全裸だ。
毎晩、犯るだけ犯ったら、そのまま寝る。
半助の身体は、後始末も殆ど要らないから、便利なものだ。
どんなに前夜スッキリしてから眠っても、朝になるとこの調子。
【果実】の精気が、いかに凄いかって証拠みたいなもんだ。
半助は、わしの足下へといざり寄ると、朝から元気なわしの息子を口に銜え込む。
「…ん…ぐぅ…」
まだまだ慣れない、つたない口技ではあるが、無表情だった顔が上気して、何とも色っぽい。
眉根に皺を寄せて、辛そうにしているが、半助自身も興奮しているのは、その香りでバレバレ。
次第に身体から沸き上がる芳香は、コントロールが出来ないのだ。
【果実】は、主人に隠し事など出来はしない。
ほんの少し手を貸してやれば、半助の欲情はすぐに火が着く。
しかし、半助に好きなようにさせてやって、半助自ら、徐々に高まっていくさまを見るのが、好きだった。
習慣化した、朝の目の保養だ。
気が向いたら、前を吸ってやることもある。
悪趣味といわれそうだが、打てば響くような半助の身体を可愛がるのは、夜だけで十分。
毎晩のように、抱いていても、飽きないのが不思議だった。
昨夜も、声が嗄れるほどに、半助を啼かせたというのに、朝にはこうしている。

溺れているのかもしれない。
自分専用の【果実】の身体に?
……それとも、半助に?

考えに浸る間もなく、わしも…その香りに煽られるように、高ぶってくる。
不意に、この香りが悪いのだ…と、凶暴な気持ちになった。
口の周りをベトベトにして、酔ったように奉仕する半助。
その髪を掴んで、引き剥がした。
「あぁ…」
半助は、わしの行動が意外だったのか、呆然としている。
わしの起立と、半助の舌の間に唾液の糸が引き、途切れた。
無意識に、それを半助の舌が舐め取る。
「…エロい顔だな」
「…ぇ」
「乗れ」
半助は、欲望に熟れた顔のまま、わしの顔と股間を交互に見る。
「自分で、跨って入れろ。欲しいんだろ?精気が…」
「……は、はい」
朝から、こんな風にさせた事はなかった。いつも半助にさせ、飲ませるだけだ。
日々それを文句を言うこともなく、受け入れていた半助。
しかし、今、わしの言葉に見せた半助の一瞬の反応が、癇に障った。
明かな……怯えだった。

「嫌なのか?」
「そ、そんな事ないです!」
「痛むのか、見せてみろ」
何処のことを言われたのか分かった半助は、反論仕掛けたが、大人しく従った。
後ろ向きにわしの身体を跨ぎ蹲ると、両手でそこを自ら開いた。
もう一つの性器として扱われている、排泄器官であったはずのそこ。
もう何度も繰り返している行為なのに、羞恥からか震えている。
朝の日差しの中で見る半助は、何処か哀れで、わしの加虐心を煽った。
「昨日も散々犯ったからな。あぁ〜腫れて……いやらしい色だ」
素直に感想を言ったら、ぶんぶんと首を振って否定している。
指の腹でそっと撫でてやると、ビクリと、引き絞るように震えた。
「自分で準備しろ。見ててやるから…」
「そ、そんな…」
半助は、見られて興奮してるのか、息が荒い。
「それとも、いつまでもこのままで居るのか?」
ニヤリと笑ってやると、半助は背中越しの、振り向いた苦しい体勢だろうに、わしの顔に魅入っていた。
しばらくの間の後、覚悟を決めた様に、そろそろと半助の手が後ろに回される。
その指には、たっぷりと半助の唾液が絡まっていた。
朝の光に、ぬらぬらと光る半助の指先が、そこにゆっくり沈められる。
「くっ…ぅ…はぁ…はぁ…」
目の前で成される自慰にも似た行為に、わしは釘付けになった。
あまりに淫靡な姿だった。
そして、半助のそこは女の様に濡れるのだ。
「あぁ…ぁ…ぁ…ん」
次第に、くちゅり…という濡れ音と、半助の潤み声が…寝室に響く。
「もう、良いだろう。」
声を掛けながら、まるで別の生き物のように、夢中でそこを掻き混ぜていた、半助の指を抜き去る。
「ぁ…んっ」
指を追い掛けるように、腰が淫らに揺れる。
潤んだそこに、ふっ…と息を吹きかけてやると、半助から面白いように淫声が上がった。
「後は、出来るだろ?わしの顔を見ながら、入れて見せろ」
「…はい」
半助は目を潤ませて、大人しく言い成りになった。
それが、感情・欲情…どちらからくる涙なのかは、判別しかねた。
向かい合わせに、わしに跨り膝を付く。
触れてもいないのに、半助の可愛らしい部分が全て反応しているのが、よく見える。
お預けをくらっていたわしを、片手で、柔らかく濡れた部分に導く。
一瞬躊躇したが、一気に腰を落とす。
「あぁぁーーーんっ!」
悲鳴の形のまま固まった口からは、涎がダラダラと零れる。
欲情に虚ろになってしまった瞳が、言いつけ通り、わしを映していた。
そこには、何の感情もない様に見えた。
表情とは裏腹に、根本までしっかりと銜え込んだ半助の淫らな器官は、わしをギュッと締め付ける。
「こいつめ…!」
わしは、そこを懲らしめるように、下から乱暴に突き上げる。
「あ…ん、あぁ…ぁ、ん」
半助は、両手で自分を抱き締め、快楽に酔っていた。
わしの動きに合わせ身体が揺れる度に、芳香が広がる。

全く!堪らないな…。
こうしていると、何もかもがどうでも良くなる。
ずっと、こうしていたいような…。
わしは、
半助を支配しているつもりだが
その実、支配されているのは……わしの様な気がしてくる。

浮かんだ考えを振り払うように、半助の中をめちゃくちゃに掻き混ぜる。
「あぁーーっ!あ…ん、」
半助が堪えられないように、達する。
前は、呪が掛かっているので、後ろだけで感じ入ったのだ。
同時に、わしにも絞り上げるように締め付けられ、不覚にもイってしまった。
促されるままに、中に全部出してやる。
「あ、熱っ!や…っ…っ」
半助は、熱い、熱い…と、珍しく精気を吐き出し続けるわしから、逃げようとした。
酷使された粘膜に叩き付けられた精気は、そう感じられたのだろう。
しかし、精気は半助の生きる糧。
藻掻く半助の腰をしっかりと押さえ付け、逃がす筈も無かった。
そこで全てを受け入れた半助は、力無くわしの胸に崩れ落ちた。

                ■     ■     ■


従順になった半助は、日常の中では人形の様に表情を無くしてしまった。
確かに、嫌がる半助を力ずくで【果実】にしたのは、わしだ。
しかし、こうして抱いてやれば、喜んでいるではないか。
それが【果実】の本能であったとしても…
「雅之助…」と甘えた声を上げるのは、強制からではないだろう?
なのに…
いつまでも被害者の様な顔をしているのが気に食わない。
多少は、乱暴かもしれない。
しかし、飢えさせることもない。
他の月氏に売ることもしていないわしを……

わしを何だ?
そこまで嫌わなくても、いいのではないか…とでも、続ける気か?
わしは、半助に嫌われたくないのか?
気まぐれに、手に入れた…ただの【果実】だ。
そんな半助に、振り回されている…。
自分の感情の癖に、思いのままにならない。

まるで…
まるで、恋だ。
月氏が【果実】に恋?
バカバカしい。
【果実】は、ただの精気精製の道具。
自由に出来る愛玩動物(ペット)と変わらない筈だ。

その筈なのに…。

そして、最悪にも…わしは、半助に怯えられる存在なのだ。
考えてみても、理由は分かる。
暴力や、【果実】の身体を利用して、半助を言いなりにしたのだ。
その結果が、今…
ベッド以外では、人形のように従順に感情を殺され、怯えられる。
初めにわしが半助の心を無視したように、今の半助は、わしを無視している。
身体は従順に、ただし……心は、遠い。

最初のうちは、
その身体だけ、あれば良いと思っていたから出来た。
しかし、今は…
わしは、半助の今とは違う顔が見たいのだ。
でも、それは…きっと永遠に無い。
何故なら…
それは、わしが、【山田伝蔵】ではないから…。

それなら、いっそのこと、嫌われてしまおうか…。
憎まれてしまおうか…。

「わしは、何を考えている…」
何を混乱しているんだ?
こんな気持ちになるのは、月氏を惑わせる…この香りのせいだ。
そうに決まっている。
冷たいシャワーでも浴びれば、スッキリするだろう。
わしは、意識を失った半助を置き去りに、部屋を出た。

  いっそのこと、嫌われてしまおうか…。
  憎まれてしまおうか…。

一度、思ってしまった感情は、わしの心から…消えそうに無かった。





もどる