地獄の様な夜が明ける。
―そのまま一晩、しっかり反省しろよ。
宣言の通り、半助の主人…大木雅之助は、今や【
それでいて、家からは出ていこうとしない。
結果、半助はその存在を、壁一枚挟んだだけの向こう側に感じ続けることになった。
決して、半助を楽にはしてくれない、確固たる…主人の存在。
それは、半助を満たしていた精気の熟成を、より促し、苦しめた。
「はぁ…ぁ…ぁ…」
半助は、自分がどんな声で喘いでいるのかさえ、自覚してはいなかった。
半助は、巡礼者のように蹲り、脂汗を流しながら下肢をシーツに擦り付けていた。
全ての熱がそこに集まっているようで…手で触れる事さえ恐ろしかった。
それでいて、刺激せずにはいられない。
一杯に張り詰めた精気を搾取される感触を、半助は知っていたから…。
それは、理性でなく、本能が求める快楽。
恐ろしいのに…淫らな刺激が止められない。
たっぷり注がれた大木の精気は、半助の中で完熟し、今にも弾けそうだったのだ。
しかし、半助のモノに掛けられた呪。
月氏に吸引してもらわなければ、精気を出す事が出来ない…という、残酷な呪い。
それが、半助を苦しめていた。
身体のあらゆる所から大量に注がれた精気。
とうに許容を越えているが、呪の為に…溢れる事は無い。
その上、半助の体内でより濃厚に精製され続けるのだ。
与えられた以上に精製され続ける精気は、出口を求めて半助の身体中を駆けめぐった。
本来【果実】にとって、精気を受け入れる事・精製する事は、原始の快楽に繋がる神聖な行為だ。
しかし、度を超した快楽は、苦痛へと変わり、半助を苦しめ続ける。
「うっ…ぁ…ぁ…」
脂汗が背中を滴る感触一つにも、ゾクゾクと震えが走る。
下肢は一晩中起立したままで、解放を訴える。
そこに血液が集まってしまう為、脳が貧血を起こし、目の前がグルグルと回っていた。
「ぁ…う、ぐっ…ぅ」
その時、一際大きく、半助の身体が跳ね上がった。
「…良い子で待っていたようだな。半助」
雅之助が寝室にやって来て、ベッドに近づいた事に反応したのだ。
「あぁぁ……んっ!」
半助は、シーツにしがみつくように、大きく震えた。
「聞こえているのか…半助?」
雅之助が名を呼ぶたびに、半助の身体が甘く痺れていく様だった。
いつの間にか、呼び方も「オマエ」から、名前を呼ぶように変わっていた。
「あぁぁ…っ!」
雅之助が何気なく、半助の腰の辺りに手を乗せると、半助の下肢がブルブルと震えた。
「もう、限界だろう?」
雅之助は、尻の方から手を回し、開かれていた股の間で震える双珠の片方を握り締めた。
ぐわぁ…と、半助の口から、獣の様な悲鳴があがった。
「たっぷり入れてやったからな。出来上がりか?」
心無し、いつもより腫れているように、雅之助には思えた。
…ここにたっぷりと、精気が詰まっている訳だ。
熟成と、再教育を兼ねた方法の成果に、雅之助は楽しそうだ。
パンパンに張り詰めていたモノを胡桃のように弄ぶ。
半助の口から、ひぃひぃ…と声が上がり続けた。
「そんな、誘うような格好をしていると、また突っ込むゾ。それとも…」
雅之助の指が、半助の穴に差し込まれる。
「ひっ…!」
そこは、待ちかねていたように、トロリと潤っていた。
「もっと欲しいのか?凄いな…半助?」
半助は、雅之助の言葉にゾッとした。
闇雲に首を振る。
後ろに入れられてしまったら…前を吸っては貰えなくなる。
それ以前に、今以上の精気を受け入れるのは…無理だ。身体が持たない。
入れるより、吸って欲しい…。
自覚してしまうと、必死に我慢していた半助の箍が外れた。
「ち、違ぅ…!」
半助の声は、掠れて何とも言えない色香を醸し出していた。
本当に、限界だった。
「吸って、お願い…吸って下さい。イかせてぇ…」
哀願の言葉が、幾らでも出た。
その度に、心の奥で何かが壊れるようでも、止められなかった。
すると雅之助は、半助を仰向けにし、下肢を開かせた。
「あぁ…」
半助をベッドに張り付けにした、雅之助。
腹に付きそうな程に起立し続けた姿が、雅之助に晒された。
無意識に、半助は下肢を持ち上げていた。
雅之助は涼しい顔のまま、そんな半助をじっと見詰めていた。
「大分、良い子になったじゃないか…半助」
雅之助は、何気なく半助の先端に、ちゅ…と、キスをする。
「あぁぁ………んっ」
既に、一杯一杯だった半助のモノは、その一瞬にも、ぷちゅっ…とイヤらしい音を立て、精気を漏らした。
「おい、いきなり顔射はないだろ?」
雅之助は、自分にばらまかれた精気を、指と舌を使って舐め取った。
半助は、その一瞬…墜落するように、頭が真っ白になった。
自分がどうなったのか…理解出来てはいなかった。
しかし、我慢し続けたものが、僅かながらも解放された事で、余裕が出てくる。
虚ろだった瞳に輝きが戻り、徐々に半助は、覚醒した。
「はぁ…ぁ…ぁ…っ…」
そして、自分の痴態に赤面する。
全裸で全てを晒したまま、自分のしてしまった事に…。
そして…今この瞬間でさえ、口を開けば浅ましくねだる言葉が吹き出しそうな程、欲情し続けている。
身体の内側から、乱暴に扉が叩かれている。
少し楽になったとは言え、その愉悦を知ってしまったが故、その勢いは扉そのものを吹き飛ばさんばかりだ。
一方、雅之助は着衣のままで、欲望の気配も見せないで居る。
浅ましい存在だと…侮蔑されても仕方ないと、半助は思った。
こんな自分を大切だと言ってくれたのは、あの人だけ。
あの人が、特別だったのだと…。
あの人だったからこそ、あんな風に優しくしてくれた。
それが、過剰な買いかぶりだったとしても。
「もう、二度と…あんなバカなマネはしないな」
驚くほどに冷静な…冷たい声が降ってきた。
雅之助の一環した態度は、半助にとって恐怖だった。
しかし…【果実】に対する月氏としては、妥当だったのかもしれない。
それに、勝手に傷付いて…消えてしまおうとした。
今夜の仕打ちは、主人として……当然だった?
ココで、否定してしまったら、また一晩放置されるのか?
あの快楽拷問のような時間を再び…。
半助は、震えが来た。
もう…無理だった。
死ぬことも許されない状況で、報われない意地を張り続けるのは…。
半助が強情を張れば張る程、目の前の男が残酷になるのは、分かっていた。
その程度の存在なのだ。
【果実】の…‥自分は。
「しないか?と聞いている」
静かなのに、有無を言わさぬ口調。
また…半助の口から言わせようとしている。
半助は、自分が出来る些細な抵抗として、ギュッと目を閉じた。
「…半助」
雅之助は、囁くように半助の名を呼ぶ。
それだけの事で、半助は全身が甘く震えた。
「はぁ…ぅ…ぅ」
これ程、残酷な人なのに…。
「…半助。目を開けろ!」
雅之助は、耳朶に舌を這わせる。
「あん…っ」
半助の身体がブルブルと震えた。
それでも、必死に最後の砦とばかり、瞳は閉じたままで…。
咄嗟に、自分の口を両手で塞いだが、甘い声が上がるのを押さえられない。
半助は本気で思う。
身体が弾けて、無くなってしまえば良い…。
「…半助」
雅之助は、グッと半助自身を握り締めた。
「ぐあぁぁ…っ!!」
思わず、目を開けてしまった。
涙に滲んだ視界で、雅之助が愉快そうだ。
「オマエの主人は誰だ。名を呼べ。」
雅之助は、目を反らしたら、幾らでもソコに乱暴するぞ…とでも言いたげに、軽く握ったままで、ニヤリと笑う。
半助は、ゆっくりと口を塞いでいた手を下ろす。
ダラリと力を失った腕は、シーツの上に落ちる。
それは、服従を示す犬の姿に似ていた。
「…な…何て…呼べば…」
恐怖で、心の中にあった僅かばかりの抵抗心が、しぼんで行くのを感じていた。
…元々、そんなモノは存在しなかったのか?
「呼び捨てで良い。雅之助だ」
「そんな…」
半助は、躊躇した。
雅之助が【果実】を軽んじているのは、嫌と言うほど分かっていた。
望まれた事とは言え…そんな自分が、主人を呼び捨てになどして良いのか?
調子に乗るなと、新たな暴力の火種にするつもりなのでは、と要らぬ心配が浮かぶ。
それは、力づくで【果実】にされ、従わされた半助には…仕方がない事なのかもしれない。
「雅之助…だ」
雅之助は、上機嫌で再び促す。
「ま…雅之助、さま?」
そう呼んだ瞬間、全身を電気が走った。
「あぁ…っ!うぅ…」
身体が溶けそうだった。その感覚を何と表現していいものか…。
例えるなら……それは、幸福感だった。
ただ、その名前を呼んだだけの事だと言うのに…?
半助は、自分の中に生まれた感覚にショックを受けていた。
信じられなかった。
自分の主人を認めただけだというのに、ここまでの気持ちになるなんて…。
心にまで裏切られたような気がして、どっ…と涙が出た。
愛しいと…全てを捧げたいと思った人は
既に、遠いところに行ってしまっていた。
そう、自分が…自分の身体が、心までが…認めてしまったのだ。
自分の主人は…山田伝蔵ではない。
大木雅之助なのだ…と。
雅之助は、半助の身体から沸き上がる香りが、刻々と雰囲気を変えていくのに、舌を巻いた。
そして、半助がおずおずと…自分の名を呼んだ瞬間、それが極上の馨しさを開花させた。
もう…堪らなかった。
「様はいらないが、まぁ…良いか。」
理由付けは、既に必要なかった。
雅之助は、沸き上がる欲情のまま、半助の身体に点々と口付けて行く。
首筋、鎖骨、ぷっくりと存在を示す乳首には、軽く歯を立ててやる。
「あ…ん!…ま…雅之助」
半助は、半ば無意識にその名を呼んでいた。
快楽をくれる…主人の名前を。
その度に、濃厚な芳香が雅之助の鼻を擽る。
この芳香に…包まれていたい。
飽きることなく、味わいたい…この身体を。
チッ…と雅之助は舌打ちすると、半助の分身を銜えた。
「あーーーっ!ひっ…ひっ…あぁ…」
雅之助の口腔に堪らない甘露が弾けた。
雅之助は、ただそうしているだけで、幾らでも熟し切った精気を味わう事が出来た。
一晩我慢するのは、雅之助にとっても辛抱が必要だった。
雅之助にとっても【果実】を飼うのは初めてて、加減が分からない。
精気も慣れるどころか、出来るものなら、ずっと味わっていたい程の甘露だ。
既に昨夜の段階で、半助から止めどもなく沸き上がっていた芳香。
雅之助は、唾液が込み上がるのを止められなかった。
しかし、半助には、自分の立場というものを、躾なければならない。
最初が、肝心。
まして、半助は、大木雅之助に惚れて【果実】になった訳では無いのだ。
死のうとした事で、それを思い知らされた。
かつて、こんな【果実】を飼った月氏は居ないだろう。
しかし、半助は、あくまで雅之助の【果実】なのだ。
全ては、雅之助の手のひらの上。
満たしている分には、死ぬ事は無い。
充溢感に苦しむ分には、月氏が搾取せずとも、徐々にその精気を自ら糧として、消費していくのだ。
しかし、【果実】にとって、放置され…枯渇することは、生死に関わる重大事。
その本能から、主人に見捨てられる事が、一番の苦痛な筈なのだ。
半助には、それが欠けている。
そして、誰に放置される事が死に繋がるのか…つまりは、主人が誰かという自覚も薄かった。
しかし…
今夜のことで、半助は自分に放置されることが、どれ程苦しい事なのか、理解しただろう。
そして、それから救い出してやれるのも、雅之助だけなのだと…。
与えられる精気の濃厚さには舌を巻く。
しかし…それ以上に、半助の嘆声に雅之助は満足を得ていた。
何とも言えない甘い声が、何度も「…雅之助」と繰り返した。
その度に、ねじ込んだ指で、嫌と言うほど後腔を掻き混ぜ、前を吸い上げる。
複数の指をバラバラに動かしてやるのが、気に入ったようで、限界を知らない様に、その先端から甘露を溢れさせるのだ。
全てを飲み尽くした頃には、半助の意識は飛んでいた。
その表情が、搾取を終えた安堵に、微笑んでいることに、雅之助は気が付いていた。
そんな半助が…
何故だか、とても可愛らしく見えた。
柄にもなく、今日は、ゆっくりと休養させてやろう…と思う。
「一気に使い過ぎると、味が落ちるかもしれないから…な。」
そんな誰に対するともしれない言い訳さえ、添えて。
ふぁ〜っと、欠伸が出た雅之助。
「満足して眠くなるのは【果実】と変わらないな…」
雅之助は、そう言って笑うと、半助の隣にゴロリと横になった。
……やっと誰のモノか自覚出来た、愚かな【果実】の隣に。
同じベッドで、昏々と眠り続ける2人。
その姿は……睦まじい主従の姿に似ていた。