ひな人形の製作風景

雛人形の製作工程について説明していきます。

衣装布選び
反物(たんもの)で見る柄と色から
完成品をイメージして色の組み合わせ
(色重ねに古典的色目や
ファッション雑誌など参考に)
を考えるもの楽しくもあり苦労もします。

当店では、
職人自身(親父と私)が
店舗販売の対応をしますので、
お客様の意見がダイレクトに
商品に反映します。
※自分の好みも取り入れますが・・・・。

裁ち物(着物の型紙の裁断)
当店では、
昔から”貼り込み”をするための着物の型紙も
専用の裁ち包丁(皮裁ち包丁)で裁断します。
※”貼り込み”をし型紙を使う多くの工房では、
外注に出しプレス機で裁断します。
(結構、人形の大きさ・形の企画が同じ物が多いのは、
こういった理由です。)

裁断する紙も、布の性質により、
人形の部分(身衣・袖・袴など)により、
奉書紙・画仙紙・クラフト紙等いろいろな種類を使います。

作業に使っている台を”台箱”と呼び、
引き出しが付いていて
中に制作に必要ないろいろな道具が入っています。
※道具箱であり、作業台です。
(自分の体の大きさにあわせて作った特注品です。
職人1人々が持っています。)
糊ねり
”貼り込み”をするため、
市販の糊2種類と水を混ぜて”貼り込み糊”を作ります。
市販の物をそのまま使うとダマ(粒)があるため
竹ベラでダマを摺り潰します。
ローテクで時間がかかりますが、
縫製段階で布が硬くならないように
(硬さにムラが出ないように)必要な工程です。
※工房によりシンナー系の接着剤を使うところも有るようですが、
当店では、お子様が触れても安全なように
糊にも気をつけて昔からのものを使用しています。
貼り込み
糊のつけ手と型紙の貼り手のペアで
貼り込みをしていきます。
(現在では、”貼り込み”をしている工房は
生産効率の上でも割が合わない為
少なくなっています。)

”袋貼り”するため、
型紙に糊をつける時にしても
多からず少なからず付けていくのも技術がいりますし、
布に型紙を貼る時も布の上で
糊が広がらないように貼るのも技術がいります。
(※失敗すると糊シミが出ますので・・)
手がかかる工程ですが、
完成品の布の柔らか味に差が出ますので
昔からはずせない工程です。
”色重ね・裏まわり”の布
来店するお客さんによく質問されるのが
”1体の人形を制作するのにどの位かかりますか?”
というものですが、
制作工程は、
型紙裁断→貼り込み→布の裁断→着物の縫製→組み上げ→振付等
と流れ作業で制作していきますので正確にお答えできません。
ただし、
当店で1制作時期で使用する”色重ね”や”裏まわり”の布の量は、
おおよそ画像のとおりです。
※太巻きで60m、細巻きでも10mになります。
この他、
メインになる表錦(西陣織などの金襴)等が
3分の1程あります。

ラッパ巻き(腕巻き)
当店でひな人形の”肉付け”に使用するものに
”木毛(もくげ)”があります。
”木毛”は、
静電気がおきない””湿気をふくみづらい
という利点があるため、
精密機械の部品の梱包などにも利用されています。

ひな人形も永く付き合っていただくものですから、
綿(わた)のみで肉付けしたり、
発泡スチロールの型で肉付けするより、
完成品に埃が付きにくく、
湿気を含みづらいため保存にも適しているところから
当店では昔から使用しています。
※写真の工程を”ラッパ巻き”といい、
 腕の部分の肉付けに使います。
※人形1対に必ず2本使いますので、
 結構な量を作ることになります。
裁ち落とし
「貼り込み」が終わった布を裁断していきます。
「裁ち定規」をあてて
「裁ち包丁(皮裁ち包丁)」で切り落とすのですが、
布の厚みや性質に慣れていないと
刃を滑らして裁ち間違いを
おこしやすい(失敗しやすい)作業です。
ただし、
裏うちをしていない(糊などで固めていない)布を
裁つために
ハサミで栽断した場合と裁断面が違い
綺麗に裁ち落とせるため縫製が綺麗に仕上がります。
裁ち包丁(皮裁ち包丁)
裁断に使う主だった道具に、
裁ち包丁(皮裁ち包丁)があります。
布ばかりではなく和紙などの紙も裁断しますので、
直ぐに
刃がつぶれる(切れなくなる)為に
ある程度の数を職人一人々が持っています。
※写真の物は、私が左利きのために左利き用です。
ワラ胴の裁断
人形の大きさに、棒状のワラ束を裁断していきます。
※人形の大きさ(八番〜小三五)と、
 各太さの違うワラ胴を使います。
ワラ胴の成形
各人形の大きさに裁断したワラ胴の襟・肩部分を
裁ち落として形を作っていきます。
親王・御姫様等、各人形により
裁ち落とし方が違ってきます。
※職人の経験や癖で裁ち落とし方がかわり、
 完成品に影響がでてくる行程です。

ワラ胴の成形を自分でする職人が少なくなり、
 外注で成形している工房(職人)がほとんどです。
布の縫製
小さな布を縫製していきますので、
電動ミシンではなく昔からの足踏みミシンを使用します。
布の性質(正絹・金襴等や織り方)を
ある程度知っていないと、
1CM程の縫製も多数ありますので
経験が必要になってきます。
(当店では布の色により、縫製」糸なども換えています。)

縫製は内職や外注に頼む事が多く、
 縫製を自分で出来る職人は少なくなりました。

写真のミシンは40年以上の現役で
現在、私専用です。
※現代の足踏みミシン(奥2台)より、
足踏み時の重さが軽く
長時間踏むのに適しているので使用しています。
衣文巻き
ワラ胴にまがい襟の部分(白襟等)を巻いていきます。
※糊の付け手と巻き手に別れて行っていきます。
出来上がったものに、
縫製した着物を着せ付けていく前段階で、
各人形(親王・御姫様・官女等)により
巻き方が違います。
着せ付
胴柄(ワラ胴)に、
綿などで肉付けしながら縫製が終わった着物を
肩の高さが左右平均になるように
一枚ゞ気をつけながら着せ付けをします。
最後の行程の「振付」に影響が出るとても気を使う行程です。
振付(腕折り:かいなおり)


この後、小物などをつける行程が残っていますが、
一応、
この振付が雛胴制作の最終段階です。
「振付」が職人の癖が一番出るところであり、
この行程だけで大きな工房では
専門の職人(振付師)がいます。
※作札に作者名を書く場合、
 一般的に、この「振付師」の名前が書かれます。

職人の癖が出るといいますが、一つ笑い話を・・・・。
私にも娘が産まれ、
初節句にひな人形を飾るとき
妻が「私のひな人形も隣に飾ってみたい。
※当店購入では無いですよ。」と言うので
実家に行き物置から
20年ぶりにひな人形を出して人形を見たとき、
私が妻に
「これは親父の仕事だから
何も言わず見せてみるといいよ。」
と言いました。
自宅にひな人形を持って帰り
何も言わず親父に見せたところ
「この仕事は、俺のだわ。」と懐かしそうに見ていました。
※その当時は、多店卸を多く手掛けていました。
人の癖は、
ナカゞ変わらず何処かしら個性が残りますね(笑)。