cardinal blade





「……気が滅入りそうだ」
 精神を害してしまいそうな赤黒い空と雲は、圧迫感をもたらすほどに低く垂れ込めていた。
 遥か彼方まで広がる荒野は砂塵と共に紫色の蟲が舞い、次々と姿を成して襲いかかってくる。得体の知れない連中を倒していっては、 空間を捻じ曲げる爆弾を落としていった緑の衣の小さな影を追っていた。


 マルスは、空間の歪みが起こっている事こそ知ってはいたが、闇色の蟲が集った謎の軍勢が現れていることなど全く知らなかった。 彼は戦う為にこの荒野の砦へ赴いていたわけではなかった。
 ……もしかしたら、行方知れずのロイが見つかるかもしれなかったから。
 世界の境界の歪みを感じ取ったマスターとクレイジーが旅立ったまま消息が途絶えた後日、何人ものメンバーが謎の失踪を遂げた。 ロイもまた行方をくらました1人であった。マルスは平静と取り繕っていたが、あのメンバーの中でも特に仲が良かったロイの蒸発に動揺をしていた。
 2人はよく、この荒野までやって来ては鍛錬を繰り返していた。ここならば何をやっても迷惑はかからないだろうし、何より余計な邪魔立てをされる事が無かった。 汗と砂とでドロドロになりながら2人は互いの実力を上げるために剣を振るい続け、くたびれて皆の元へ帰る時には下らない話で盛り上がったりもした。
 そんな思い出の地にも、ロイの姿は無かった。代わりに見覚えの無い者達が蠢いており、自分に対して敵意の牙を剥き出しにしていた。
 そして、その者達や緑の衣に立ち向かう者達との邂逅を果たしたのだった。





 ひょんなことから、マルスはこの荒野を素性の分からぬ2人と共に突破することになったのだが、マルスはこの2人の事を内心訝しんでいた。度重なる戦闘で休む間が無く、詳しい話を聞けていないのが原因なのだが。
 アイクという大柄の人間は、気づき難い程度ではあるが血の匂いを纏わせており、知り合いによく似た姿のメタナイトという剣士の仮面は、あの蟲をばら撒いている謎の戦艦の正面とそっくりだった。
 特にメタナイトは、今こそ共闘しているが先の理由のおかげで、いつ反旗を翻すか分かったものじゃない。一度、あの戦艦について訊ねたが、「あれは私のものだ」としか言わなかったのも、どこか怪しく思わせていた。
 と、意識を飛ばしていたら、どうやらまた例の軍団が現れていたようだ。相変わらず、わらわらと数で勝負を仕掛けてくる。 2人は既に相手をしていて、翼を持つメタナイトがパッチやボトロンを斬り落とし、地上をウロチョロするソードプリムや凄まじい体力を持つンガゴグを、アイクが重い一撃で屠っていく。
 結局マルスが一切手を出す事無く、この戦闘はこちら側の勝利となった。

 戦闘後再度緑の衣を追いかけたのだが、崖に阻まれて逃してしまうだけであった。マルスの端正な顔に少し苛立ちの表情を浮かぶ。
「マルス、と言ったか」
「……なんでしょう?」
 思わず柄に合わない舌打ちをしそうな勢いのマルスに、メタナイトが重く沈んでいる空から目を離さぬまま問いかけた。
「“ここ”は一体、なんなのだ?」
「……そうですね。アイクさん、でしたっけ? 少し僕達に付き合ってくれませんか?」
「……構わないが」
 マルスがすらりと腰に佩いていたファルシオンを抜いたので、2人も続いてそれぞれの愛剣を抜き放つ。
「模擬戦闘みたいなものです。ですが、それなりに本気を出して下さい」
 と、マルスがすかさず剣の切先を滑らせて、アイクの胸当てに真新しい傷を生み出した。マルスがそのままアイクの相手をするのかと思えば、すぐさま刃をメタナイトに向ける。
「今の“この世界”は、一瞬の気の緩みで生死が分かれます。覚悟していて下さい」
 その目は鋭く、気の迷いが無かった。
「自分以外の2人を敵だと思って。相手をどういう方法でもいいです、打ちのめして下さい」
「……いいだろう」
「受けて立とう」



















おためし「TWILIGHT DAYBREAK」三剣士版。今回は短編なので、おためしも短めです。
超疑い深いヤツになってますが、基本的にマルスが主人公です。「基本的に」というところがポイント。

救出組のおためしが無いのは、出だしがほぼ「冷たい記憶」になっているからです。


2009/03/06 up