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レニングラード国立バレエ ドン・キホーテ
2002年1月16日(水) Bunkamuraオーチャードホール

キトリ…オクサーナ・クチュルク  バジル…ファルフ・ルジマトフ
ドン・キホーテ…イーゴリ・ソロビヨフ  サンチョ・パンサ…ラシッド・マミン
エスパーダ…ドミトリー・シャドルーヒン  森の女王…オクサーナ・シェスタコワ
ヴァリエーション…イリーナ・コシェレワ、オリガ・ステパノワ

指揮  アンドレイ・アニハーノフ
管弦楽 レニングラード国立歌劇場管弦楽団


 ルジマートフの「ドン・キ」全幕は、96年のキーロフ夏東京公演(パートナーはヴィシニョーワ)で見ただけ、これが2回目になります。どうやら思い返してみるに、わたしは91年にルジマートフにはまって、その後毎年、自分の出来うる範囲でずーっと見続けていたわけですが、この公演が一旦区切りになっているようです。地元名古屋ではめったに踊ってくれないこと(ま、これはずっとそうですね)、とこの後4年間ぐらい、わたし自身が東京にまでバレエを見に出かけて行けなかったこと(あ、でも99年のパリ・オペラ座「第九交響曲」は見に行ったんだった)、もあり再会(まさにそうだったのだなあ、ちょっとしみじみする、笑)したのは、2000年のレニングラード国立「海賊」名古屋公演だったわけです。そして今に至るのですね。それにしても、96年あたりより、今の方がずーーーっと病(笑)が深いってのは、どうしたことか?! という感じですが、一言で言えばそれはルジマートフが稀有なダンサーだから、ということにつきるでありましょう。

 前置きはそのぐらいにして、さてレニングラード国立バレエ(愛称マールイ・バレエ)の「ドン・キホーテ」です。もちろん初見です。


 プロローグが終わり(ソロビヨフさんのドン・キホーテは、孤高の老騎士の感じが滲み出てて良いです)、舞台はバルセロナの広場に。「ドン・キ」はのっけから、バジルもキトリもがんがん踊るので、嬉しい&気が抜けない〜。クチュルクのキトリ登場。クチュルクのキトリは、夏のガラ公演で何度も見ていたし、テクニックも問題ない(そして何より雰囲気がキトリだし)、と期待して見始めました。出のヴァリエーションは、まあまあの出来。まずまずかな、と思いつつ、次にルジ@バジル登場〜。いや、いつ見ても、何度見てもかっくい〜〜!とほれぼれします。いや、もうこの瞬間が至福ですね(笑)。

 そうこうしてクチュルクとのパ・ド・ドウが始まったのですが、あやや、クチュルク、どうしちゃったの?全然自分でピルエットが回れてないじゃん。回転軸がずれまくってて、ルジのサポートがなかったら転んでるよ状態で、うう〜んとうなり始めるわたし。出だし緊張しているのかな、と思いつつ気を取り直して見る。しかし、ガマーシュやドン・キホーテが登場して、恋の駆引きを楽しむところ(バジルが、ドン・キホーテと踊るキトリにちょっとやきもちを焼いてみせ、やきもち視線をわざわざキトリに送ったりするの)でも、キトリは全然素知らぬ風。おいおい、気がついてやってくれよ〜状態で、反応は今一つ。うーむ、どうやらクチュルクのキトリは、舞台上でバジルとの恋愛を楽しむには至ってなかったようです。
 多分、日本で「ドン・キ」全幕のキトリを踊るのは、初めてでしかも相手はルジマートフ、リハーサルもあまりできていなさそうというわけで、かなりのプレッシャーにみまわれていたのかなと推察します。それにしても、もともとテクニックはしっかりしてるのだから、もうちょっと魅せてくれてもいいのにな、と寂しく思ったことでした。
 クチュルクがそんな風なので、ルジの演技が空回りするところが少なからずありました。キトリとラブラブ恋愛中というよりは、まだ恋愛がよくわからない女の子に恋をしかけて、教えてあげる風に見えてしまって、それじゃあ、キトリとバジルじゃねえよ、てな感じなのでした。
 一人で踊るところは、よかったんですけどね〜。あ、ルジマートフのカスタネットの踊りのかっこよさ!については、今更ここで言うこともないって感じですが、ああ、でもやっぱりかっこいいものはかっこいい。もう、とこっとんかっこいい。あれ以上かっこいいものが、この世の中に二つとあろうか?!(くどいぞ、笑)。は〜、何度でも見たいです。

 あと、シャドルーヒンのエスパーダは、上体が素晴らしく柔かくてよかったのでした。エスパーダというキャラには、あんまし合っていないような気はしたけれども(笑)。なんか、シャドルーヒンって優しげ&気弱げなのよね〜。そこが彼の良いところとは思いますが。(あ、横道それますが、パンフレットのシェスタコワとのご夫婦インタビューが、あまりにラブラブなので圧倒されました、笑)

 では、2幕。キトリとバジルはジプシーの野営地に逃げ込み、二人ジプシーの踊りを見るというところ。真中で展開されているダンスには目もくれず(少しは見た)、舞台端で並んで座っているキトリ&バジルチェック。この日ルジマートフはクチュルクを安心させるためか、何度かクチュルクの手を取って、握ってあげてました。と、安心させるため、に見えてしまった時点ですでにキトリ&バジルじゃないんだけど、クチュルクももうちょっとこう、手を取られている時ルジの方を向いて、うっとりしてあげてもいいんじゃないか、とか思っちゃいました(ほんと、もったいないぜ)。恋人同志というよりは、今度は暗い森の中に逃げてきて(何からかは不明、笑)、不安に感じている妹を安心させてる兄風なんでした。(しかし、これはこれで一つの妄想か?笑)

 続いてドン・キホーテの夢の中。森の女王シェスタコワは、指先、つま先まで神経が行き届いた美しい踊りを披露してくれました。ちょっとグラついちゃったのが、残念だったですが、あの優雅さは良いですね〜。ここでのクチュルクは、シェスタコワに負けちゃってたような気がします。悪くはなかったけど、シェスタコワの踊りの方が印象的でした。
 次は居酒屋場面。バジル狂言自殺シーンは、毎回楽しませてもらいました。うーん、チャーミングだ。サンチョ・パンサが本当に死んでるのか確かめるみたいに、脚を一本持って、ぴよ〜んと上に持ち上げるところが、なにげにツボです(きれいな脚のライン〜)。いやん、わたしもサンチョ・パンサになって、ぴよ〜んとやってみたい〜(爆)。

 3幕。ガマーシュとの決闘シーンのあと(ガマーシュのアレクセイ・マラーホフさん、楽しませていただきました)、毎度お馴染みグラン・パ・ド・ドウ。この時のルジ@バジルは頭をぴったりと撫でつけてました。アタージョの始まり、やっぱり二人のパートナーシップは今一つ。見せ場のリフトでもクチュルクは重そう&怖々に見えました(実際、上手く上がってなかった)。まあ、これはルジの方に責任があるのでしょうが、多分それを自分でも感じているのか、今一つ精彩に欠ける踊り(二人とも)でした。でもって、ルジのヴァリエーションは、簡単ヴァージョン(というわけではないでしょうが、いつものと違っていた)で、もちろん、それはそれで素晴らしかったのですが、わたしが、いつもルジのこういう踊りに感じるかーっとくる高揚感がちょっと低かったです。クチュルクのヴァリエーションは扇を持つ方で(わたしは、こっちの方が好み)、これはよかったです。ヴァリエーションのコシェレワ、ステパノワともきびきびと踊っていてグッド。そしてコーダですが、最初のアダージョの出来が、やっぱり尾を引くのか、ものすごーく盛り上がった、とまでは至らなかったのでした。(いや、それなりに盛り上がってはいたが、「ドン・キ」全幕で、それなり、じゃダメなような気がする)

 難しい解釈もいらない、とにかく明るく楽しい「ドン・キホーテ」を見たわりには、なんとなく不完全燃焼に終わった初日でした。
 そしてクチュルクに不満ばっかり、書いちゃってごめんよ〜、って感じですがこれが良い経験になり一層成長して欲しいものです。


2002年1月17日(木) Bunkamuraオーチャードホール
キトリ…ナタリヤ・レドフスカヤ  バジル…ファルフ・ルジマトフ
ドン・キホーテ…イーゴリ・ソロビヨフ  サンチョ・パンサ…デニス・トルマチョフ
エスパーダ…デニス・モロゾフ  森の女王…オクサーナ・シェスタコワ
ヴァリエーション…イリーナ・コシェレワ、オリガ・ステパノワ


指揮 アンドレイ・アニハーノフ
管弦楽 レニングラード国立歌劇場管弦楽団


レドフスカヤとルジの「ドン・キ」はそれはそれはスゴかった、という話をもう随分以前から聞いていて、うう、そんなスゴい舞台、見逃したなんて悲しい〜見てみたい〜、と思っていたら、今回実現したので、よかったよかった。まあ、ほんとの最初の予定ではパートナーはヴィシニョーワかザハロワだったわけですが。ヴィシニョーワは見たことがあるし、どういう感じかはだいたいわかるって気がしますが、ザハロワのキトリってどんな感じなのかな。いや、いつか見てみたいものです。(もちろん、パートナーはルジでね!)


 さて、レドフスカヤのキトリ、ですが、が、これがもう〜、素晴らしいの一言!もう、なんか名人芸って感じ。最初の出のヴァリエーションなんか、うれしくなっちゃうほど、上手い。でも踊りを一生懸命踊っているという感じが、全くしなくて、その上手い踊りがごく自然にできてしまう素晴らしさ。クチュルクとの格の違いは、はっきりいって歴然としてました。うーん、これが「キトリ」というもの、「キトリ」とは、こうあるべきというお手本のようです。レドフスカヤの踊りは、わたしの好きな、元キーロフのダンサー、テレホワやパンコワ(今はドイツで踊っていらっしゃる?)を思い出させます。しっかりとゆるぎないテクニックに、軽やかさと品が加わった、わたしの好きなロシア・バレエの典型です。
 レドフスカヤは、正確なところはわかりませんが、30代半ばか少し前あたり、といったところで、今、そしてこれからがバレリーナとしてもっとも充実している(する)時期なのでしょう。レドフスカヤの切れ味の良いバレエを見ながら、こういうバレリーナが、今のキーロフにいないのは、キーロフ好きなわたしとしては、ちょっと寂しい…とすら感じてしまったのでした。

 このレドフスカヤ@キトリはちゃんとバジルと恋愛謳歌中(笑)なので、ルジ@バジルとの視線のやりとりもばっちりです。お互いつれない振りをしながら、相手の気持を探り合い、時に甘えたり、すかしたりと、まあ、イイ感じ〜。よっ、憎いぜご両人、って声かけたくなります(笑)。レドフスカヤのキトリがもうばっちり!なので、ルジ@バジルも、はじけるはじける。ああ、もうすごいです。お互い丁丁発止と踊り合い、素晴らしい〜。ああ、やっぱり「ドン・キ」はこうでなくちゃだわ〜、と感激ひとしお。1幕が終わった時には、何故か涙がこぼれてしまったという(笑)。
 この日のエスパーダは、昨日のシャドルーヒンに比べて、今一つでしたね〜。この日もシャドルーヒンだったら、さらに舞台全体の印象が上がっただろうに、と思いましたが、まあ、これ以上を望むのは、ばちあたりというものでしょう。

 さて、2幕です。クチュルクの時とはうって変わって、この日の二人は、逃避行を楽しむ恋人達でした。ジプシーの踊りを見てる時も、余裕のある佇まい。ゆったりと楽しそう。レドフスカヤのキトリは、派手さは少ないものの、しっかりものの良い娘という感じで、男にはもちろん、女の子にも慕われてそうな雰囲気です。文字通り、街の人気者バジルとの仲は、みんなもよくお似合いと認めるところだし、恋の成就に協力は惜しまないよーん、って感じ。それをこの二人がまたよくわかっちゃってるからね、その後の狂言自殺騒ぎとか、馬鹿なことやっちゃえるのよね〜。いや、冷静に考えたらこのシーンって阿保らしくて、つきあってられんとか思う奴がいてもいいんだけど、いないからさ(そりゃ、実際いたら先に進まないけど、笑)。みんな、ほんとキトリとバジルのことが、好きなのね〜、とか思います。レドフスカヤとルジの演じる二人なら、それもむべなるかな、なのです。二人とも魅力的すぎ。ついでに言うとルジは、床屋には見えないよね〜、だったら何に見えるの?って聞かれると困るけどさ(笑)。
 さてさて、話しは戻って、ドン・キホーテの乱入、続いて夢の場面ですが、この日のシェスタコワが、昨日以上に出色の出来映え。グラつきもなし。まことに優雅でありました。対するレドフスカヤもここでは優美なドルシネア姫となり、体重を感じさせない見事なパを繰り出していました。マールイの群舞も相変わらず手堅いので、美しいシーンとなりました。
 居酒屋でのバジル狂言自殺シーンも、さらにノリノリ。いや、いいんですなんでも(笑)。あっという間(楽しいと早いんだよな〜)に2幕も終わり。またしても、涙(笑)。

 3幕。グラン・パ・ド・ドウ。うーん、なんと見事なパートナー・シップ。ザハロワ&ルジマトフも大好きだけど、レドフスカヤ&ルジマトフも今一番見応えがあるペアなのではと思えるほど。高々と決まるリフト、レドフスカヤの確実なピルエットをさらに多く回していそうなルジのサポート。とにかく一瞬一瞬が、ほんと見逃せないという感じでした。この日のルジのヴァリエーションは、いつも通りの見なれたもので、やっぱり昨日とは意気込みが違うんだわ〜、とここでも感慨ひとしお。レドフスカヤは扇を持たないヴァリエーションですが(これって、曲が短いからちょっと寂しいんだよね、その分スピード感はあるけど)、うーん、ほんっと至芸ですね〜。コーダももちろん大盛り上がり、いや、もうこれぞ、「ドン・キ」のグラン・パ・ド・ドウ!極めつけ!!って感じなのでした。そして、大盛り上がりのうちに幕。そしてまたまた、思いっきり拍手をしながら流れる涙(笑)。

 ほんとにね、何故楽しい舞台を見て泣けるのか、自分でも不思議なのですが、うーん、感極まったって感じかな(笑)。ルジ最後の「ドン・キ」かもって、さんざん聞かされていたし。(でも、これは本人、そんなこと言ってません、という噂を後で耳にする)でも、この瞬間瞬間は2度と無いと思えば、今見ている舞台が、いつでも最後だといえるのかもしれない。それが、舞台芸術のはかなさだし、素晴らしさでもあるわけです。わたしは、そういう他では、得難い思いをしに劇場に足を運ぶわけで(特にルジの舞台)、まさに、今日この「ドン・キ」はわたしのその欲求を思う存分に満たしてくれた舞台なのでした。
☆カオル☆