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ボリショイ・バレエ名古屋公演
「眠れる森の美女」全2幕 プロローグとアポテオーズ付き
2002.10.13(日) 愛知県芸術劇場大ホール

オーロラ姫:ナデジダ・グラチョーワ
デジレ王子:アンドレイ・ウヴァーロフ



もう、3ヶ月以上も前のことを今更書くなんて…。すみません。自己満足以外の何物でもないですが、よろしければお付き合いください。

『やっぱりロシア・バレエが好き』 
ボリショイ・バレエの全幕ものを観た感想は、一言でいってしまえば、それかもしれない。バレエを観た、という満足感いっぱいで幸福でした。どうしてロシア・バレエが好きなのかな、と時々自分でも考えてみるのです。ボリショイの「眠り」は公平な目でみれば、舞台セットとか衣装とか、古臭いところも多々あって、例えばパリ・オペラ座の華やかで垢抜けた舞台を好まれる方の目には、いかにも、ロシア、ちょっと暗いし、なんだかなあという風に映るかもかもしれない。わたしだってパリ・オペラ座のバレエは好き。でも、バレエを観ることで幸福になる心の部分、というのがパリ・オペのバレエとロシア・バレエとは明らかに違っているのですね。そしてロシア・バレエの方が、わたしの心に添うというわけなのです。テクニックはもちろん無くては困ります。その先にやってくるもの(情緒とか雰囲気とか言葉にしにくい諸々の印象)が、ロシア・バレエの方が好きなのです。わたしがバレエに求めるもの、というのが結局のところふんわりと優しく、柔かく、美しいものという、いうなればちょっと時代錯誤的で、はっきり言っちゃうのが恥かしい(って言ってるけど、笑)幼い子供の見る夢のようなところにあるからかもしれません。 
 さて、名古屋のキャスト、グラチョーワのオーロラが、本当にふんわり優しく柔かく美しかった。一昨年観たニーナのオーロラが、濃いピンクの大輪のバラの花の印象なら、グラチョーワはほとんど真っ白なのにほんの少しだけピンクがかったバラ(そんなのがあるとして)の花。同じ役、同じ振り付けなのにこんなにも踊るバレリーナで印象が変わるオーロラというのは、ある意味恐ろしい役だ。(だからわたしはオーロラという役に関してはどうしても、厳しくなる、笑)グラチョーワのオーロラはこの上なく優雅だった。こんなに優雅なオーロラは本当に初めてみたので、それだけで幸福な気分になれる。例えばアラスゴンドで上げた脚が、音楽をぎりぎりまで使ってゆっくりとパッセを形作る美しい軌跡。肩のラインで表す、恥じらいの感情が密やかに滲むお辞儀。なんて完璧な御伽話のお姫様だったことか。 
対するウヴァーロフの王子も完璧な王子様だった。お姫様をしっかりサポートし、ソロでは豪快なところもみせてくれた。二人のパ・ド・ドウはこの世の中でただ一人の相手と出会った幸福に満ちていた。 
 それから、わたしが、実はオーロラと王子のパ・ド・ドウよりも好きなのが、アポテオーズ前の御伽話の主人公達全員と一緒に踊るところなのですね〜。チャイコフスキーのワルツの旋律も切なくて、この素敵な御伽話がいつまでも終わらないでいて欲しいと、いつもいつも(良い舞台に限るが)思ってしまう。しかし、ワルツは最高潮に達し、アポテオーズの荘厳な音楽が始まるのだ。ああ、終わってしまうんだなあ…(そう、終わらない舞台はない)悲しい、切ない、でも美しい思いをありがとう〜、そう思う事ができた幸福をあの音楽の中で噛み締める、これが「眠れる森の美女」を観ることの、わたしにとっての最高にして最大の意義であり、この日のボリショイ・バレエはそれを十二分に果たしてくれた。 
で、最後にもう一回言っておこう『やっぱりロシア・バレエが好き』。 

… 2003/01/23 …カオル