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レニングラード国立「海賊」全3幕4場プロローグ付
2002年2月1日(土) オーチャードホール

メドーラ:ペレン、コンラッド:シェミウノフ
アリ:ルジマトフ、ギュリナーラ:クチュルク


指揮:セルゲイ・ホリコフ、レニングラード国立歌劇場管弦楽団

もう何度も書いている事だけれど、ルジマトフのアリの全幕公演を観たのは、3年前、2000年の1月地元名古屋でのことだった。96年の夏にキーロフの「ドン・キホーテ」全幕を観たのを最後にわたしは彼の舞台を一切観ていない。96年がルジマトフを観ることの一つの区切りだったと思えば、2000年の「海賊」で、わたしは彼にもう一度恋をしたことになる。そのから後の経緯は、ここをご覧の皆様には先刻ご承知の通り、病は深くなる一方でもうどうにも止まらない状態。ま、止めるつもりもないからいいけれど(笑)。 

 思えば、本家のキーロフでの「海賊」全幕をわたしは観たことがない。あの映像(アスィルムラトワ、ネフ、パンコワ共演)をそれこそ数え切れないほど観ているし、クナコワとのパドドウの映像(あの掟破りな、サポート!っとこれは92年の日本公演のものじゃない映像ね、はっきりした題を覚えていなくてすみません)もどれだけ観たかわからない。なのでルジマトフのアリにものすごく馴染んでいるような気がしてしまっているが、実際、生舞台はそれ程観ていないのだ。2000年の公演の他には、95年のルジ・ガラでドムチェンコと踊ったのを観ただけなのだ。
それでも、何かの公演で他のダンサーのアリを観ると、「違うよ〜」と思う気持は深く私の中で根付いていて、どうにもならない。それでも最近ではそのダンサーらしさが、はっきり感じられれば、「お、いいじゃん」と思うことができるようになっただけ、進歩したといえるのかもしれない。

ああ、前置き長すぎ(すみません)。
アリという役は、それだけルジマトフの役と思っているので、観られるだけで最早幸せ〜、なのではあるが、今回のレニングラード国立の舞台は、2000年の舞台に比べてかなり良い作品に仕上がっていたと思う。特にペレン。夏に「海賊」のPDDを観た時は、相変わらず表情は硬いし、踊る事が楽しそうに見えないし、どうしたものか、と嘆いていたのだが(余計なお世話か)、今回は一皮も二皮もむけたように、美しい娘メドーラに見事になっていた。コンラッドに向ける視線もちゃんと恋する娘のそれだったし、3幕の花輪のシーンでは踊る喜びに溢れてキラキラしていた。そうよそうよ、メドーラはそうでなくちゃね。
それから、こちらも誰がやるんだろうと心配されたコンラッドだが、シェミウノフくん(まだ二十歳ぐらいだそうだ)は長身、ハンサム、ふわふわブラウンの巻毛も麗しく、とても舞台映えのするダンサーだった。長身で脚が長いので踊りも豪快に見えて二重丸。マールイの男性ダンサーも侮れなくなってきた今日この頃。嬉しい。で、よくよく12月にやった名古屋の「くるみ割り人形」のキャスト表を見たら、彼、ドロッセルマイヤーだったのですねえ。ドロッセルマイヤーはヅラ+お髭なのでお顔はよくわからなかったけれど、そういえば、ダンスシーンは結構あって、なかなかよかったわと思い出されるのだった。ギュリナーラのクチュルクは彼女持ち前の元気の良い踊りが、キャラに合っていて、こちらも素晴らしい出来。

さて1幕の奴隷市場場面(でいいのか)でルジ@アリはマント(というよりは、単なる安っぽい布)をはおって後ろの階段から、コンラッド、ビルバンドとともに登場。とまあ、このあたりから、踊ってもいないのに、アリばっかり観てしまうといういつもの癖(癖なのか?爆)が。メドーラが売り場に出てきて、コンラッドがパシャとやりとりするところでは、それを見ていちいち顔をしかめたり、苦悩してみたりしているので、目が離せないのだ(いや、普通の人はここでアリは観てませんって)。さあ、自分達の正体を明かすぞ、となってまとっていた布を取るのだが、アリはやたらヒロイックに布を取り払う。バサっ、そしてみえ切り(笑)、とにかくおかしい(いや、普通の人はここで笑ったりしません)。

さてさて、2幕のパ・ド・トロワ。トルコブルーのハーレムパンツ、あの胸の飾り、何度も言うようだけれど、あの衣装があそこまで似合うダンサーは、絶対にいない。登場と同じに美しいアラベスク。美しい、美し過ぎる。そしてメドーラの登場を待つ、あのルルベ(でいいのかな、かかとが本当に高く上がっているのだ)から、そのままゆっくりゆっくり膝まづいていくところの、熱情をその体の内に内にと込めていくような、胸苦しくなるようなポーズ。最初、膝まづいたまま、メドーラをサポートしてコンラッドにメドーラをさあ、どうぞという風にまかせるのだが、まかせた後、またこれが、この上なく美しく舞台に片膝を立てて座るのだ。顔の角度、コンラッドとメドーラに忠誠を誓うかのような手のポーズ、どれをとっても何故それだけのことがこれほど美しいのかと思う。よってここでは、ただ座っているだけ(はた目では)のアリをずっと観ているので、踊っているコンラッドとメドーラを観ることができない。うーん、なんということだ。これでは若い主役二人にあまりに悪いんじゃないか、とふと思うが、やめられない。
このパ・ド・トロワは、最初のアダージョがわたし的には、白眉で、ヴァリエーションもコーダももちろん美しいのだが、最初のこの数分がまさに至福の時間だ。このアダージョはガラ公演等でPDDになってしまうと観られない事を思うと、本当に貴重だ。なんといってもルジマトフは、数分のアダージョで、コンラッドとメドーラに(もし彼がメドーラに密かな恋心を抱いていたとしても)生涯変わらぬ忠誠をその胸の内で誓っているのだから。
1日のルジマトフのヴァリエーションはちょっとばかり、バランスを崩したりしていたので、それほど調子はよくなかったかもしれない。ペレンは絶好調の感じで、ダブルをたくさん入れたグラン・フェッテも決まり、長身のコンラッドにリフトされて微笑む姿は、まことに美しかった。 

3幕はルジ・ファン的には、まあほとんど登場シーンがないので、それがかえってゆっくり観られていいや、という変な心理に到達している今日この頃(笑)。クラシック・トリオ(ギリョワの長い手足をいかした気持の良い踊り)や、花輪のシーンは最初にも書いたけれど、ペレンが本当に花開いた感じで美しく、コール・ドも大変素晴らしい出来だった。ロシア・バレエの美しさを堪能できる良い幕である。無事、娘たちをパシャの元から取り返して、メドーラ、コンラッド、アリ、ギュリナーラで新しい船出。めでたしめでたし。ああ、良い舞台だった。 

ルジ・ファンとしてのお楽しみは、あとカーテン・コールですね。アリという控え目の役なので跳躍こそしてくれませんが、腕はもう、何度も翻してくれます。その度に客席は大拍手。いや、ほんっときれいでかっこいいんだから〜(笑)。 
… 2003/02/03 …カオル
2月2日(日) オーチャードホール

メドーラ:シェスタコワ、コンラッド:プハチョフ
アリ:ルジマトフ、ギュリナーラ:フォーキナ


指揮:セルゲイ・ホリコフ、レニングラード国立歌劇場管弦楽団

昨日の舞台が期待したよりもずーっとよかったので、この日も楽しみだわ〜、とわくわくしながら会場入り。しかし、入口でキャスト表をもらってちょっとびっくり。メドーラがシェスタコワなのは、わかっていたけれど他のキャストもまたほとんど総入れ替えなのだ。一緒なのは、アリ(ここが変わっちゃ困るけど、笑)とセイード・パシャのマラーホフとクラシック・トリオの一人、コロチコワだけ。まあ、いろんなダンサーが観られるのは、楽しいと言えば楽しいけれど、マールイのダンサーはみんな、なんでもできるのね〜。なんだかすごいわ。
と感心しているうちに幕が上がり、最初の遭難シーン。板切れみたいなものに、コンラッド、アリ、ビルバンドが一生懸命つかまっている。ここでのアリのアクションは1日よりもオーバーだった。2、3回腕を上方に「助けてくれ〜」みたいに伸ばすのだけれど、もちろん誰も助けてくれず、上がった腕はそのままばったり板切れに落ちてくるのだった。なんてことはないシーンではあるが、ファン的にはあの長くきれいな腕が苦しそうに上がっていくのを観るのは楽しい(すみません、腐ってますね)。

さて、この日のギュリナーラは初見のアンナ・フォーキナ。1日のクチュルクに比べるとテクニック的にちょっと弱く、多少見劣りがしたのは否めない。しかし、おっとりと優しげなシェスタコワ@メドーラとおとなしやかなフォーキナ@ギュリナーラは、似たもの同士の良いお友達という感じがして、それはそれでよかった。奴隷商人アフメット(とマールイではいうのですね)は、1日はミハリョフで2日はサリンバエフだった。ミハリョフのアフメットは、まあ、普通だったのだけれど、サリンバエフのアフメットの演技がやたらに濃く、いかにも悪事を楽しむ悪人面をしていて観ていて楽しかった。ギュリナーラとのPDDは踊りなれているだろう、クチュルク&ミハリョフ組の方が見応えはあったが。 
そしてもう一人、この日は、芝居の濃いお人が(笑)。ビルバンドのクリギンだ。もうノリノリのオーバーアクション。楽しいからいいけれど(笑)。バレリーナがおとなしやか&健気で、悪人が思いっきり悪人だったので、この日の舞台はそのコントラストがくっきりとついていて、筋なんてほとんどあってないような「海賊」でもダンサーによって、ずいぶん印象が違うものなのだなとまた感心する。
で、肝心のコンラッドとアリはどうだったかというと、プハチョフは若いシェミウノフに比べて一日の長あり(いや、プハチョフも十分若いけれども)、と言う感じで、メドーラに寄せる愛情が深く感じられ、シェスタコワ@メドーラも彼女持ち前の細やかな情感で二人の世界を作っていた。
アリは、自分が退治しなくちゃいけない悪人達の芝居が濃いせいか、1日の舞台より、のりがよかった。ビルバンドがナイフをもって、コンラッドに襲いかかるシーンで、アリがそれを阻止しようとして少し格闘するのだが、1日はビルバンドの手からナイフを落とさせただけだったのに、2日はビルバンドをエイヤっと転がしてましたからねえ(笑)。うん、まあ、クリギンもきっとこれぐらい派手にやりたかったに違いない。

トロワ場面については、1日の感想以上にもう言うことはない。あえて書くと、全てのシーン、ポーズがどうしてそんなに美しいの?は〜…(溜息)という感じ(すみません陳腐で)。
シェスタコワは1幕の登場シーンこそ、ちょっと固い感じだったけれど、ここではいつものたおやかさを取り戻し、美しかった。
しかし、マールイ(ボヤルチコフ版か)はどうして、ここのコンラッドのヴァリエーションがないかなあ?寂しいぞ。キーロフ版を確認してみたけれど、海賊仲間達の前でのソロの踊りと、ちゃんとここでのソロと両方あったもの。マールイもやって欲しい。ああ、でも、キーロフ版と比べると、アリの出番及び踊りに関して、もっともっとたくさん文句が出てくるので、それはここではやめておきます。
と、話を変えて、わたしが微妙にこの日のアリに感じたことは、1日の舞台よりもメドーラに対する愛情がもしかして深そうだ、ということなのだった。シェスタコワのメドーラがペレン@メドーラよりも守ってあげたくなるタイプ、だったからかもしれないが、自分が盾になってメドーラを守るシーンでは、ペレンの時よりも寄り添い度が高かったのよね〜(ってしかし、こんなところばっかり観ててすみませんです)。うん、でもアリの気持もわかる(笑)。

3幕はマールイのバレリーナの踊りを堪能、というわけで、クラシック・トリオはハビブリナ、エフセーエワ、コロチコワ。(ちなみに1日はギリョワ、コシェレワ、コロチコワ)しかし、エフセーエワ、踊りはいいが相変わらず化粧はどうよ?と突っ込みを入れたくなる(笑)。お願い、普通にして下さい〜。
花輪の踊りもきれいきれい。そしてシェスタコワの上半身の表情は、うっとりするほど柔かい。いいね〜。
そして悪人はやっつけられてめでたしめでたし。

この日のルジマトフ@アリのカーテンコールは、さらにのりのりで、腕を翻す翻す(笑)。前の方にかたまっているルジ・ファン仲間(もちろんわたしもその一人)はその度に、叫びまくって大変(笑)。いやあ、楽しかったです。
… 2003/02/08 …カオル