ラトマンスキー振付の新製作の「シンデレラ」です。物語的には全く変更はなしでよく知っているシンデレラのストーリーそのものでした。なのでモダン作品といってもそれ程気負うことなく観る事ができました。うーん、これをしてモダンとは言わないかな。踊りもちゃんとポアントをはいた踊りだったし、衣装も、セットも現代風ではあるけれどそれほど奇抜ではなかったし。
セットも衣装も簡素だけれどそれなりの効果は上げていたと思います。
1幕、シンデレラの家には鉄パイプで作られた、工事現場にあるような階段が舞台の左端と右端におかれていました。舞台真ん中には椅子があって、継母達が座っています。彼女達は舞踏会に行く準備に余念がありません。
ラトマンスキーがこのシンデレラを作った意図としては、プロコフィエフの音楽に内包されている様々な要素をいかに舞踊化するかにあったようです。そう、シンデレラという曲は思いのほか、甘くロマンチックじゃありません。ワルツは素晴らしく美しいけれど、パンフレットの解説にも書かれている通りその他の部分は皮肉っぽかったり、辛辣な感じだったり、時にグロデスクでさえあったり、なかなか一筋縄ではいかない曲だと思います。ペローの童話もそれほど能天気に甘ったるいだけなわけじゃないですしね。
で、出だしの美容師さん達の振付をみて、はー、なるほどー、と思いました。あの音楽で踊りを表現するとこうなるわけだ、という納得させられる感じ。これは前にマッツ・エックの「眠れる森の美女」の映像を見た時も感じたことだけれど、この音楽とこのリズムだったら、こう振付けたい気持ちわかるなあ、ってやつです。大体個人で踊るところは、そういう感じが根底にあって(そりゃ、もちろん実際にはわたしごときが“わかる”と感じることよりずっと洗練された振付がされてるわけですが)、そんな風に踊るか?!とびっくりすることもないし、つまんない踊り…、とがっくりすることもないわけですね。
あと過剰な感情表現は、きれいに排除されてるようで、シンデレラがあわれな感じとか、そんな風にはほとんどみえない。もちろん継母達にこき使われているのだろうけれど、毎日泣いて暮らしてるようには見えない。ソログープでもそうだったので、ヴィシニョーワならさらにそうでしょうね。極めてドライな印象です。お父さんがチラッと出てきてシンデレラと抱き合ったりはするけれど、そうしながら、お父さん金せびりにきてるしねえ。まあ、シンデレラに出てくる父なんてのはだいたいこんなもんか。
妖精を助けて、四季の精達(男性ダンサー4人よ)に導かれて無事舞踏会に行くわけだけれど、妖精とシンデレラの間にやはりそれほど過剰な感情的交流はないみたい。ちょっと助けてもらった不幸な娘に、一回良い夢を見せてあげようかね、って感じかな。そこで何かをつかんでくるかは、あんたの力量、あんた次第だからね、という妖精に見えました。
2幕の舞踏会シーンで無事シンデレラは王子のハートをゲットします。えっとその前に二幕の白眉はなんといっても総黒燕尾服姿の男性コール・ドでしょう。スタイルよし、姿勢よし、踊ってよしですからね。燕尾服で踊るとあんなにかっこいいのね〜と感動することしきり。また、燕尾服というのは背中がきれいに見えるものなのよね。いや、もちろん彼らの姿勢がいいってこともありますが。そして燕尾な部分から見え隠れする長い脚がまた素晴らしくて。ははは、このシーンだけでわたしまだ語れるかも(笑)。女性はみんなダーク系なロングのワンピースでこれも綺麗だった。トウシューズも黒なのよ。
セットが一点透視(この字?)の遠近法で描かれた回廊なんですが、単純なんだけれど、実に効果的だと思いました。
メルクーリエフ王子は黒燕尾の中に、一人白のスーツ(普通の)で飛び込んできて踊るわけですが、周りがあんまりかっこよかったので、かっこよさが半減ぐらいになってしまって残念でした。あれ?もうちょっと彼かっこよかったと思ってたけどー、って感じでちょっとこのシンデレラの王子って酷かも。
コールプはどうかしら?ちょっと心配(笑、って笑うなよ)。
そりゃ燕尾服じゃ社交ダンス程度が精一杯で、ガンガン踊ってリフトしまくりのこの王子には着せられないなあとは思うのですが、もうちょっと考えてあげてくださいって感じ。でも、踊りは本当に上手でびっくりでした。素早いグラン・ジュデ。高速ピルエット。どれもばっちり決まってました。
ソログープのシンデレラはちゃんと美しかったです。もちろん彼女もダークな女性達の間に真っ白なドレスで現れるわけだけれど、王子の一目惚れシーンも納得がいきました。
あー、しかし、ちょっとヴィシニョーワでもみてみたいなあ〜。ソログープよりも“わたしは綺麗”オーラを出しまくるだろうからなあ。
二人のパ・ド・ドウシーンはそれなりに綺麗でした。それなりってのはどういうことかというとあまりうっとりはさせてくれないからなんでした。これはラトマンスキーが意図的にそんなに甘ったるい場面は作らないぞ、としたことなのか、それとも主役二人の演技が足りなかったのか、うーん、わたしが思うにラトマンスキーの意図のような気がします。ソログープの身体表現は美しかったし(そう、「くるみ」よりずーっと綺麗に見えたわ)、メルクーリエフもやっと見つけた自分好みの女の子〜的喜びが溢れてたから。音楽の美しさがダンスに少しばかり欠けたうっとり感をカバーしてくれたような気もします。
時間が切れてシンデレラが現実に戻る時、ボーンと自分の家に投げ出されてしまうのですが、ここが少し可哀想でした。ソログープの演技もよかったです。唯一ウエットなシーンかと思います。
3幕、王子はシンデレラ探しの旅に出ます。でここで謎な集団がいたのですが、キャスト表に“男女の踊り手”と書かれた役だとは思うのですが、“女性の踊り手”が8人の女性を引き連れた集団、これはまあ、王子を誘惑する9人の女性達ということで、まあいいかなと思ったわけですが(踊りもそんな風、こっちにこれば楽しいことがあるわよ的な感じ)、問題は“男性の踊り手”だ。彼も8人の男性を引き連れた集団で王子の前に現れるんだけれど、彼らの意図はいったいなんなのだ??やっぱり意図は女性集団と一緒なのか?そうなのか?(踊りの雰囲気は似ている)つーことは彼等はホ○???
これに関してはみなさんのご意見をお伺いしたいわたしでした。教えてアルムの樅の木よ〜って感じです。いや、もちろんそういう風でも全然かまわないし、だからってぎゃーぎゃー騒ぎ立てるわけじゃないのですが、一応はっきり知りたいかなと思いまして。
あ、ちなみに女性集団の頭はナデージダ・ゴンチャル、男性集団の頭はイスロム・バイムラードフでございます。
ラスト、シンデレラがとてもわざとらしく自分の持っている片方のくつをパイプ階段の上からポトッと落とします。おお、こんなところにいたのだね!とお決まりの大団円。めでたしめでたし、でありました。
主役以外のダンサーについて。継母のイオシフィディは本当に背の高いダンサーでした。最初、パリオペみたいに男性がやっているのかと思ったぐらい。お気に入りのヤナは楽しそうに義姉を好演。踊りも上手い。うーん、今度はちゃんとしたチュチュ姿がみたいです〜(また言ってる)。「白鳥」でみられるかな。あと四季の精はユニタード衣装なのですが、<冬>を踊ったイワン・ポポフのスタイルが素晴らしかった。あと<夏>を踊ったドミトリー・ピハーチェフが上手でした。ダンス教師のリュウ・ジ・ヨン&アレクセイ・セメノーフのお二人もなかなかかっこよかったです。
というわけで全体的にはまあまあ楽しめたかな、という感じでした。ヴィシニョーワだったらもう一回見たいかな。あと燕尾服コール・ドは何回もみたいかも〜と思った今日この頃でした。
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カオル DATE :: 2003/11/30 Sun
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