top index

キーロフ・バレエ 2003年公演観劇記

シンデレラ 全3幕

2003年11月24日(月) 2:00p.m.
神奈川県民ホール
音楽/プロコフィエフ
振付/アレクセイ・ラトマンスキー
指揮/ミハイル・アグレスト
管弦楽キーロフ歌劇場管弦楽団

シンデレラ:ナターリア・ソログープ
王子:アンドレイ・メルクーリエフ
継母:アレクサンドラ・イオシフィディ
フディシカ(シンデレラの義姉):ヤナ・セレブリャコーワ
クブィシカ(シンデレラの義姉):エレーナ・シェシナ
妖精:ナターリア・スヴェシニコーワ
シンデレラの父:イーゴリ・ペトロフ
四季の精<春>:アンドレイ・イワーノフ 
四季の精<夏>:ドミトリー・ピハーチェフ
四季の精<秋>:マクシム・ズーシン
四季の精<冬>:イワン・ポポフ
ダンス教師:リュウ・ジ・ヨン アレクセイ・セメノーフ
美容師:イーゴリ・ニキーチン アレクセイ・ネドヴィガ アレクセイ・ミロシニチェンコ
男女の踊り手:ナデージダ・ゴンチャル イスロム・バイムラードフ
ラトマンスキー振付の新製作の「シンデレラ」です。物語的には全く変更はなしでよく知っているシンデレラのストーリーそのものでした。なのでモダン作品といってもそれ程気負うことなく観る事ができました。うーん、これをしてモダンとは言わないかな。踊りもちゃんとポアントをはいた踊りだったし、衣装も、セットも現代風ではあるけれどそれほど奇抜ではなかったし。
セットも衣装も簡素だけれどそれなりの効果は上げていたと思います。
1幕、シンデレラの家には鉄パイプで作られた、工事現場にあるような階段が舞台の左端と右端におかれていました。舞台真ん中には椅子があって、継母達が座っています。彼女達は舞踏会に行く準備に余念がありません。
ラトマンスキーがこのシンデレラを作った意図としては、プロコフィエフの音楽に内包されている様々な要素をいかに舞踊化するかにあったようです。そう、シンデレラという曲は思いのほか、甘くロマンチックじゃありません。ワルツは素晴らしく美しいけれど、パンフレットの解説にも書かれている通りその他の部分は皮肉っぽかったり、辛辣な感じだったり、時にグロデスクでさえあったり、なかなか一筋縄ではいかない曲だと思います。ペローの童話もそれほど能天気に甘ったるいだけなわけじゃないですしね。

で、出だしの美容師さん達の振付をみて、はー、なるほどー、と思いました。あの音楽で踊りを表現するとこうなるわけだ、という納得させられる感じ。これは前にマッツ・エックの「眠れる森の美女」の映像を見た時も感じたことだけれど、この音楽とこのリズムだったら、こう振付けたい気持ちわかるなあ、ってやつです。大体個人で踊るところは、そういう感じが根底にあって(そりゃ、もちろん実際にはわたしごときが“わかる”と感じることよりずっと洗練された振付がされてるわけですが)、そんな風に踊るか?!とびっくりすることもないし、つまんない踊り…、とがっくりすることもないわけですね。
あと過剰な感情表現は、きれいに排除されてるようで、シンデレラがあわれな感じとか、そんな風にはほとんどみえない。もちろん継母達にこき使われているのだろうけれど、毎日泣いて暮らしてるようには見えない。ソログープでもそうだったので、ヴィシニョーワならさらにそうでしょうね。極めてドライな印象です。お父さんがチラッと出てきてシンデレラと抱き合ったりはするけれど、そうしながら、お父さん金せびりにきてるしねえ。まあ、シンデレラに出てくる父なんてのはだいたいこんなもんか。

妖精を助けて、四季の精達(男性ダンサー4人よ)に導かれて無事舞踏会に行くわけだけれど、妖精とシンデレラの間にやはりそれほど過剰な感情的交流はないみたい。ちょっと助けてもらった不幸な娘に、一回良い夢を見せてあげようかね、って感じかな。そこで何かをつかんでくるかは、あんたの力量、あんた次第だからね、という妖精に見えました。

2幕の舞踏会シーンで無事シンデレラは王子のハートをゲットします。えっとその前に二幕の白眉はなんといっても総黒燕尾服姿の男性コール・ドでしょう。スタイルよし、姿勢よし、踊ってよしですからね。燕尾服で踊るとあんなにかっこいいのね〜と感動することしきり。また、燕尾服というのは背中がきれいに見えるものなのよね。いや、もちろん彼らの姿勢がいいってこともありますが。そして燕尾な部分から見え隠れする長い脚がまた素晴らしくて。ははは、このシーンだけでわたしまだ語れるかも(笑)。女性はみんなダーク系なロングのワンピースでこれも綺麗だった。トウシューズも黒なのよ。
セットが一点透視(この字?)の遠近法で描かれた回廊なんですが、単純なんだけれど、実に効果的だと思いました。
メルクーリエフ王子は黒燕尾の中に、一人白のスーツ(普通の)で飛び込んできて踊るわけですが、周りがあんまりかっこよかったので、かっこよさが半減ぐらいになってしまって残念でした。あれ?もうちょっと彼かっこよかったと思ってたけどー、って感じでちょっとこのシンデレラの王子って酷かも。
コールプはどうかしら?ちょっと心配(笑、って笑うなよ)。
そりゃ燕尾服じゃ社交ダンス程度が精一杯で、ガンガン踊ってリフトしまくりのこの王子には着せられないなあとは思うのですが、もうちょっと考えてあげてくださいって感じ。でも、踊りは本当に上手でびっくりでした。素早いグラン・ジュデ。高速ピルエット。どれもばっちり決まってました。
ソログープのシンデレラはちゃんと美しかったです。もちろん彼女もダークな女性達の間に真っ白なドレスで現れるわけだけれど、王子の一目惚れシーンも納得がいきました。
あー、しかし、ちょっとヴィシニョーワでもみてみたいなあ〜。ソログープよりも“わたしは綺麗”オーラを出しまくるだろうからなあ。

二人のパ・ド・ドウシーンはそれなりに綺麗でした。それなりってのはどういうことかというとあまりうっとりはさせてくれないからなんでした。これはラトマンスキーが意図的にそんなに甘ったるい場面は作らないぞ、としたことなのか、それとも主役二人の演技が足りなかったのか、うーん、わたしが思うにラトマンスキーの意図のような気がします。ソログープの身体表現は美しかったし(そう、「くるみ」よりずーっと綺麗に見えたわ)、メルクーリエフもやっと見つけた自分好みの女の子〜的喜びが溢れてたから。音楽の美しさがダンスに少しばかり欠けたうっとり感をカバーしてくれたような気もします。

時間が切れてシンデレラが現実に戻る時、ボーンと自分の家に投げ出されてしまうのですが、ここが少し可哀想でした。ソログープの演技もよかったです。唯一ウエットなシーンかと思います。

3幕、王子はシンデレラ探しの旅に出ます。でここで謎な集団がいたのですが、キャスト表に“男女の踊り手”と書かれた役だとは思うのですが、“女性の踊り手”が8人の女性を引き連れた集団、これはまあ、王子を誘惑する9人の女性達ということで、まあいいかなと思ったわけですが(踊りもそんな風、こっちにこれば楽しいことがあるわよ的な感じ)、問題は“男性の踊り手”だ。彼も8人の男性を引き連れた集団で王子の前に現れるんだけれど、彼らの意図はいったいなんなのだ??やっぱり意図は女性集団と一緒なのか?そうなのか?(踊りの雰囲気は似ている)つーことは彼等はホ○???
これに関してはみなさんのご意見をお伺いしたいわたしでした。教えてアルムの樅の木よ〜って感じです。いや、もちろんそういう風でも全然かまわないし、だからってぎゃーぎゃー騒ぎ立てるわけじゃないのですが、一応はっきり知りたいかなと思いまして。
あ、ちなみに女性集団の頭はナデージダ・ゴンチャル、男性集団の頭はイスロム・バイムラードフでございます。

ラスト、シンデレラがとてもわざとらしく自分の持っている片方のくつをパイプ階段の上からポトッと落とします。おお、こんなところにいたのだね!とお決まりの大団円。めでたしめでたし、でありました。


主役以外のダンサーについて。継母のイオシフィディは本当に背の高いダンサーでした。最初、パリオペみたいに男性がやっているのかと思ったぐらい。お気に入りのヤナは楽しそうに義姉を好演。踊りも上手い。うーん、今度はちゃんとしたチュチュ姿がみたいです〜(また言ってる)。「白鳥」でみられるかな。あと四季の精はユニタード衣装なのですが、<冬>を踊ったイワン・ポポフのスタイルが素晴らしかった。あと<夏>を踊ったドミトリー・ピハーチェフが上手でした。ダンス教師のリュウ・ジ・ヨン&アレクセイ・セメノーフのお二人もなかなかかっこよかったです。

というわけで全体的にはまあまあ楽しめたかな、という感じでした。ヴィシニョーワだったらもう一回見たいかな。あと燕尾服コール・ドは何回もみたいかも〜と思った今日この頃でした。

カオル  DATE :: 2003/11/30 Sun

くるみ割り人形 3幕とエピローグ

2003.11.28(金)6:30pm
愛知芸術劇場大ホール
音楽/チャイコフスキー
振付/レフ・イワーノフ 改定振付/ワシリー・ワイノーネン
指揮/ミハイル・アグレスト
キーロフ歌劇場管弦楽団

マーシャ…ナターリヤ・ソログープ
王子…レオニード・サラファーノフ
シュタールバウム…ウラディーミル・ポノマリョフ
シュタールバウム夫人…アレクサンドラ・グロンスカヤ
ドロッセルマイヤー…ピョートル・スタシューナス
くるみ割り人形…ポリーナ・ラッサーディナ
祖母…ナターリヤ・スヴェシニコーワ
祖父…ウラディーミル・レペーエフ
乳母…イリーナ・イワノワ
フリッツ…ポリーナ・ラッサーディナ
ルイザ…ナターリア・ラルドゥギナ
道化…マクシム・ズーシン
人形(コロンビーヌ)…ユーリヤ・カセンコーワ
黒人…アンドレイ・イワーノフ
ねずみの王様…ソスラン・クラーエフ
雪片の精…エカテリーナ・オスモルキナ ナデージダ・ゴンチャル
スペインの踊り…ガリーナ・ラフマーノフ アンドレイ・ヤコブレフ
東洋の踊り…ナターリヤ・ツィプラコーワ
中国の踊り…ユーリヤ・カセンコーワ イスロム・バイムラードフ
トレパック…ポリーナ・ラッサーディナ リラ・フスラーモワ アレクセイ・セメノーフ
パ・ド・トロワ…エレーナ・シェシナ ナデージダ・ゴンチャル ワシーリー・シチェルバコーフ
キーロフのワイノーネン版「くるみ割り人形」は今回で7回目の観劇となります。
なんでこんなに観ているのかというと93年から「くるみ割り人形」を持って毎年来日していたから。どうしてそんなことになったのかという経緯はよくわかりませんが、当時の芸術監督、招聘元、スポンサーの思惑というところなんでしょう。
あー、でも実際わたしが観ているのは93年に4回、あと、94年、95年と1回ずつなわけで、93年でまあ、終わっていると言ってもいいかも。94、95は地元に来たのをとりあえず観るという感じだったわけですね。
で、今回も結果的には(ルジマートフが来日しなかったので)地元に来たのをとりあえず観る、ということになったのですが、観終わったあといろいろと疑問の残る舞台でした。
一言でいうと全体的に非常にはしょった感のある舞台でした。今の芸術監督がこれでいいとしたものだとは思うのですが、うーん。どうもわたしは納得がいかない。だいたい“はしょった”舞台なんて観客に対して失礼この上ないんじゃないかと思うんだけれどどうかしら。

まず音楽のテンポが速すぎ。前奏曲のあたりでおや?と思って、幕が開いて行進曲が始まって更におや?うーん、速くてなんだかダンサーがどたばたしている気がするな、と思っていてとどめが雪片の場面。うっそー、この速さっていったい何??となりました。ここが頂点であと、花のワルツ、パ・ド・シスとも、なんとなくやっぱり速いという感じでした。
自分で思うよりずっと映像にあるフェドトフさんの指揮のテンポが身体に染み付いているみたい。まあ、しかたがないですね。
アップテンポなので、音楽によって生まれるはずの情緒も生まれず、たーっと終わっていった感じ。

あと、主役二人のダンスシーンが何気にカットされている。これもさー、家で確認したんだけれど、雪片のシーン、雪の精に混じって王子とマーシャ二人が交互にグランジュテで舞台を斜めに横切っていくところが無し。サラファーノフくんの体力温存のため?とか思ったけれども、だいたいこの王子って踊るところ少ないじゃん、なのに削るか〜という感じ。雪の精の中に二人が混じるのがいいんじゃないか、と思ってみてもしかたがなかったです。
このシーンのコール・ドで有名な、例のアチチュードでの回転ですが、音楽が速いのでやってもらってもあまりありがたみが無し。10年前に観た時はすごく綺麗で思わず拍手したもんですが(回顧モード、笑)。

3幕に関しては、キャラクター・ダンサーの方々はそれぞれよかったと思います。しかし、パ・ド・トロワのシェシナはミス・キャストだと思うっつーか他にダンサーいないのかしら?映像がワガノワのとっても可愛い子(ミリツェワだってね、知らなかった)を使っているからあのイメージが、こちらも浸透していてシェシナのロシアのバレリーナとしてはちょっとどうか、という体形でこれを踊られても全然ピンときませんでした。
パ・ド・シスは掲示板にも書きましたが、全体的に非常にサポートが不安定で観ている間中ハラハラしてました。あの振付でサポートが不安定ってちょっと致命的じゃないのかしらん。終わった時にほんとホッとしました。妙に疲れるパ・ド・シスだった。
王子、マーシャのそれぞれのヴァリエーションはよかったです。まあ、ここぐらい良くないといったい何だったのかって感じではありますが(笑)。サラファーノフはまさに体重を感じさせない軽やかで、美しいジャンプとしなやかな踊りでした。ソログープもまあ、キーロフのソリストバレリーナだなって感じでした。うーん、しかし華が足りん(すみません、笑)。チュチュもいまいち似合わないしなあ。
花のワルツはこれもね〜、やっぱり音楽が速くてイマイチうっとりのれませんでした。コール・ドも「くるみ」初日のせいもあるかもしれませんが、立ち位置とかが悪いのかぶつかったりして(決して芸術劇場大ホールの舞台は狭くないと思うんだけれど)、なんとなくドタバタ感が拭い去れませんでした。

そんなこんなでなんとも不完全燃焼。でも多分、今後キーロフ・バレエでワイノーネン版「くるみ」を観て完全燃焼できるとは思えないなという気もします。
ダンサー達だってこの作品は、ワガノワ・アカデミーの演目であって、なんでわたし達が今更これをやらなきゃならないの、という気持ちもあるでしょう。なので一概にダンサーが悪いと責めるわけにはいかないですが、しかしやるからにはもうちょっときちんとみせていただきたかった。

ちょうど来年ワガノワ・バレエ・アカデミーが来日して「くるみ」全幕をやっていくようです。わたしは多分観ないとは思うのですが、ワガノワで観たほうがワイノーネン版「くるみ」は感動できるんじゃないかな。うん、きっとそうだと思います。
カオル  DATE :: 2003/12/13 Sat

ロミオとジュリエット 全3幕

2003.12.6(土) 東京文化会館
音楽/プロコフィエフ
振付/レオニード・ラブロフスキー
指揮/アレクサンドル・ティトフ
キーロフ歌劇場管弦楽団

ジュリエット…エフゲーニャ・オブラスツォーワ
ロミオ…ヴィクトール・バラーノフ
マキューシオ…アンドレイ・メルクリエーフ
ティボルト…ドミトリー・ピハーチェフ
パリス…ウラディーミル・シショフ
ベンヴォーリオ…イスロム・バイムラードフ
キャピュレット卿…ウラディーミル・ポノマリョフ
キャピュレット卿夫人…アレクサンドラ・グロンスカヤ
モンタギュー卿…ピョートル・スタシューナス
ジュリエットの乳母…ナターリア・スヴェシニコーワ
ロレンス神父…ピョートル・スタシューナス
ヴェローナの大公…ユーリー・キリク
ジュリエットの友人…エカテリーナ・オスモルキナ
吟遊詩人…ワシーリー・シチェルバコーフ
道化…アンドレイ・イワーノフ

ラブロフスキー版「ロミオとジュリエット」は初めて観ます。だいたい「ロミジュリ」の生舞台自体がこのキーロフの公演で二度目なんですね。「ロミジュリ」はチャイコフスキーのものほどポピュラーじゃないし、純クラシックというよりはどちらかというとモダンよりな演目ということになるのかもしれません。
この日もともとキャストされていたロミオ役のゼレンスキーはバラノフに変更でした。

さて、ラブロフスキー版「ロミジュリ」ですが、最初1幕1場を見た瞬間、「う、古臭い〜」と思ってしまいました。舞台装置も衣装もなーんか古臭く、そしてちょっとやぼったい感じ。そして、キャピュレット側とモンタギュー側の民衆の区別がつきにくく、けんかのシーンもどっちがどっちやらわからんな〜と思いながらみていて、なんとなく散漫な印象。あまり迫力もなかったかも。でもって、びっくりなのが、なんといってもティボルトの衣装ですね。うーむ、あれはなんだろうか。一歩間違えると道化と見まごうばかりの色とりどりな配色の衣装。シリアスな役なのに、あれはないだろうと思うのだが、演じるピハーチェフもなんだがその衣装に合わせたかのような変な濃さなんですね。髪形もすごかったなあ。ティボルトといえば、ヌレエフ版のダンディなジュドさまを思い浮かべてしまう身にとって、このティボルトは『苦笑』でございました。
とまあ、最初はこんな感じでちょっとなんだかな〜感があったわけですが、ジュリエットが出てくるあたりで、さすがに舞台に身が入りだしました。なんといってもオブラスツォーワがひっじょーに可愛い!いわゆるとってもとってもロシア・バレリーナ〜な体形(どちらかというと“昔ながらの”って感じかな)で、わたし的に好感の持てるタイプのバレリーナなのでした。踊りの雰囲気も柔らかくふんわりとしていて、いかにも初々しいジュリエットにぴったりでした。特にアラベスクをしたときの背中から脚のラインが可憐でうっとり〜でした。なんかこのラブロフスキー版ってやたらめったらジュリエットにアラベスクさせるのですよね。振付家の趣味かなあ(笑)。まあでも確かにアラベスクというポーズは、美しいですよね。

で、バラノフのロミオですが、うーむ、いわゆる血気盛んでどこまでも突っ走る『ロミオ』ではなかったですね。まあ、年齢的にもしかたがないかもしれないけれど、ラブロフスキー版の振付自体、あまり青年な部分を強調してはいない感じなのでこれはこれでよいのかもしれません。ロミオというよりはシェークスピアでいえばハムレットみたいだったな、うん。バレエ的にはうんと王子さまよりですね。 
まあでも、とにかく見た目ハンサムなのでわたし的にはかなりな部分許せるというか、うーんバラノフというダンサーはなんというかあまり自己主張がない分非常に○○(自主規制、おわかりの方は腐女子用語をあてはめてね)的なダンサーといいますか、まあ、この日はまだよかったんですが、ヴィシニョーワと踊った次の日はですね、相手がヴィシニョーワなだけにすごーくそう見えてしまって、困ったといいますか、面白かったといいますか(ははは)。
ま、そういうことで(どういうことだ)わたし的には、キーロフのまだ観た事がないプリンシパルを観られてよかったなあということなんでした(こんな風に落とすか)。 

まあ、よくもあしくもラブロフスキー版というのは、はっきりジュリエットの物語ですね。バレリーナ重視のロシアらしい感じでわたしは好きです。
ファデーエフくんが踊ったらもうちょっと“ロミジュリ”になったかもですが。

オブラスツォーワのジュリエットは、今の初々しい彼女の持ち味がすごくいい感じで演技にも結びついたようで大変感動的でした。恋を知らないただの少女、恋を知ってしまった一人の女性としての少女、の演じ分けはさすがにヴィシニョーワの方が上でしたが、オブラスツォーワは舞台の流れの中で、自然にジュリエットとして生きて恋をして死んでいったと思います。その気負わない感じがよけい胸を打ったのでした。19歳でこれだけ演じられるんだからすごいです。
はー、次に彼女が観られるのはいつかしら?お気に入りにしっかり入ったので次の舞台もぜひとも観たいものです。マリインスキー劇場では「ラ・シルフィード」やってるのよね〜。さぞ可愛いことでしょう。あれもそういえばシルフのポーズでアラベスクがいっぱいだったなあ。うーん、観たいぞ。

では主役以外のこと。なんといってもマキューシオのメルクリエフですね!踊りが上手い。もうほんっとに上手い。泣き笑い演技も良い!というわけで今回の日本公演でメルクリエフがしっかり観られたこともよかったことの一つでした。

あと、まあ、演奏についてはさんざんいろんなところで語られたので今更ではありますが、一言やっぱり書いておこう。こんな演奏をしておいて恥ずかしくないのかキーロフ管。もう二度とこんな演奏をしないでください。悲しくなっちゃう。つーわけで、まあ次の日は少しだけマシではありました。

カオル  DATE :: 2004/01/13 Tue

ロミオとジュリエット 全3幕

2003.12.7(日) 東京文化会館
音楽/プロコフィエフ
振付/レオニード・ラブロフスキー
指揮/アレクサンドル・ティトフ
キーロフ歌劇場管弦楽団

ジュリエット…ディアナ・ヴィシニョーワ

以下6日と同キャスト 
この日はファデーエフが怪我でバラノフに変更でした。わたし的に今回のキーロフ来日公演で一番残念だったのは(ルジマートフのことはこの際おいておいて)、ファデーエフくんが観られなかったことですね。ゲルギエフの日の「ロミジュリ」と大分での「ロミジュリ」は彼が踊っているので、観られた方は本当にうらやましい…。幕間にサイン会なんてやっていて、怪我してるのに、そんなことやらせるのかと思いつつ、もらいにいってしまったわたしでした。

もう、この日ははっきりとヴィシニョーワ@ジュリエットの独壇場の舞台になるだろうな、と察しはついていたのでそのつもりで観ました。

二日目ともなればキャピュレット側、モンタギュー側もやっとすんなり見分けがついて物語りに入りやすくてよかったです。全体的な古臭さも二日目ともなれば慣れてくるというか、まあ、わたしはもともとロシア的古臭さは、好きなんですね。きらびやかに豪華であるよりもずっと好ましく思えます。

さて、ヴィシニョーワですが、期待に違わず、非常に美しかった。8月にはバレエ・フェス初登場の彼女がみられなくて残念だったけれど、キーロフ公演でみられて本当によかったなあと思いました。
実に意志的なジュリエットでした。運命をなんとか自分の手で変えていくという強さのあるジュリエット。踊りはもうここでわざわざいうまでもなく、なんの破綻もなく上手いです。
ジュリエットがまあ、こうであるから、バラノフのロミオは必然的に振り回されてるよね、あんた、という印象(すみません〜)。
もちろんジュリエットとはラブラブなんだけれど、ヴィシニョーワに比べてそういう演技(愛情表現とか)が薄いものだからどうしてもそうみえちゃうんだなあ。いや、しかしリフトとかしっかりがんばっていました。いい人なのよね、きっと(ってわたしの周りの彼の評価は、この言葉に落ち着くのであった、わたしもそう思う)。

まあヴィシニョーワをみにいったわけだから、彼女がきれいで上手でありさえば、わたし的にはかなり満足ではあったのですが、うーん、なんとゆうか「ジュリエット」という題の舞台だったような気もしますね。ロミオに対するジュリエットではなくて、あくまでヴィシニョーワのジュリエットだった。なので、オブラスツォーワとどちらが物語りのジュリエットを生きていたかというと、これはオブラスツォーワの方がそうだったように思うのです。

で、これがもうちょっと前のヴィシニョーワだったら、パートナーのことをあまり考えていないんじゃないかとか、わたしも文句を言いそうなんですが、今のヴィシニョーワは(わたし的には)これでいいのです。なんといってもすでにわたしは、単なる彼女の一ファンだしなー。このままずっと思う道を貫いていって欲しいと願うのでした。

カオル  DATE :: 2004/02/13 Fri

白鳥の湖 全3幕

2003.12.8(月) 東京文化会館
音楽/チャイコフスキー
振付/マリウス・プティワ、レフ・イワーノフ 改定振付/コンスタンチン・セルゲイエフ
指揮/アレクサンドル・ティトフ
キーロフ歌劇場管弦楽団

オデット/オディール…ウリヤーナ・ロパートキナ
ジークフリート王子…ダニーラ・コルスンツェフ
王妃…アレクサンドラ・グロンスカヤ
家庭教師…ピョートル・スタシューナス
道化…アンドレイ・イワーノフ
ロットバルト…ウラディーミル・シショフ
王子の友人たち…イリーナ・ゴールプ ナデージダ・ゴンチャル ワシーリー・シチェルバコーフ
小さな白鳥…イリーナ・ゴールプ エレーナ・シェシナ スヴェトラーナ・イワノワ エフゲーニャ・オブラスツォーワ
大きな白鳥…アレクサンドラ・イオシフィディ エカテリーナ・コンダウーロワ タチヤーナ・トカチェンコ ナデージダ・ゴンチャル
2羽の白鳥…ナデージダ・ゴンチャル イリーナ・ゴールプ
スペインの踊り…ガリーナ・ラフマーノワ リュウ・ジ・ヨン イスロム・バイムラードフ アンドレイ・メルクーリエフ
ナポリの踊り…エフゲーニャ・オブラスツォーワ マクシム・フレプトフ
ハンガリーの踊り…ポリーナ・ラッサーディナ アンドレイ・ヤコブレフ
マズルカ…アレクサンドラ・イオシフィディ エカテリーナ・コンダウーロワ ナターリア・ツィプラコーワ リラ・フスラーモワ フョードル・ロプホフ イーゴリ・ニキーチン アレクセイ・ミロシニチェンコ ソスラン・クラーエフ
ロパートキナの「白鳥の湖」をみるのは初めてです。ロパートキナは脚の怪我で長いこと全幕バレエは踊っていない、というのはこの時の周知の事実で、わたしも当日会場に行ってキャスト表を見るまでは、本当に彼女をみられるのかな、と半信半疑でした。
が、この日は当初の配役通り。よかったよかった。ワジーエフのお詫びを見なくてすむわけね、それだけでもかなり気分が良いというものです。

ロパートキナの全幕復帰舞台、ということでなんとなく全体的にこの日はオケにしろコール・ドにしろお祝いムードがあったのか、まとまった良い舞台だったと思います。
これが日本の観客のために真摯に踊ろう、ではなくてロパートキナのために真摯に踊ろうでもまあ、観客の立場的にはよかったからいいのですが、うーん、どの会場でもこれぐらいのまじめさで舞台を務めてもらいたいものでした。オケもね、この日はよかった。えっ?と思うことはなかった。オデットのグラン・アダージョでは、まさにロパートキナの美しさを最大限に引き出すべく、努力していたように感じられたしね。

あと衣装が一新されていました。以前のものと基本的にはそれほど変わらないのだけれど、金糸銀糸が多用されているように思いました。それから一幕トロワの女性の衣装、ヘッド・ドレス(というのかどうなのかわからないけれど、頭にかぶるもの)がありましたね。これはわたし的にはちょっと・・・という感じでした。結構大きくて後ろにヴェールがなびいているので、踊りをみるには邪魔でした。婚約姫達がこれをかぶるのはいいの。彼女達は、あくまでおしとやかに踊るわけだからさ。でも一幕のトロワは、はぎれよく元気に踊るものであって(わたしは、このキーロフ版トロワが大好きなんだよ、何度でも言ってるけど、笑)、それがちょっとばかり重たくみえて損でした。ゴールプは踊りもよかったし、可愛かったけれども。

コルスンツェフの王子はですね、みるのは二度目です。うん、まあ、悪くはないです。スタイルはいいし、踊りは豪快だし。ただ全体的な王子様度(雰囲気とか、ノーブルさとか)はレニングラード国立のプハチョフの方が上のような気がしました。

さて肝心のロパートキナはというと、はー・・・美しかったです。まあ彼女への賛美として言い尽くされた言葉だけれど、典雅にして繊細、そして音楽的。まさにキーロフ・バレエが美の頂点としているもの(とわたしは勝手に思っていますが、うーん、今のゲルギエフ体制の現実はどうなんだろうね、ちょっと疑問だな)の典型をみるおもいでした。
ザハロワのオデットもそりゃもう綺麗だけれど、彼女の美は以外と力強い印象なんだよね、繊細じゃないというわけではもちろんないけれど、くっきりと輪郭線の太い美というか、天上世界というのならまさに天上世界的美なの。
ロパートキナの美しさはもう少し、朧ろな感じなんですね。ミステリアスなニュアンスがあるといってもいいかもしれない。三日月に細い雲がたなびくような感じ?(って自分でもだんだんわけがわからなくなってきてるよ〜、笑)。
とにかく、グラン・アダージョは、息を詰めて堪能いたしました。舞台全体、劇場全体が非常に張り詰めた緊張感に包まれていたと思います。まっこと美しい舞姿でした。

で、オデットのグラン・アダージョをみるたびに思うのは、良くぞここまで美しい振付を考え出したものだなあ、プティパってなんてすごい天才なんだろうということです。
あの場面は本当は人間なのに鳥のようなしぐさをするのはおかしい、とかいう意見はまあ、一理あるとは思うけれど、そんなことは本当にどうだっていいじゃないかと思います。それほど圧倒的に美しい。あ、ちゃんと美しく踊れるバレリーナが踊ってこそ、ではありますが。あ、それからちゃんとサポート技術のしっかりした王子様あってこそ、でもありますね。
この日のコール・ドは悪くはなかったと思います。というかあんまり印象に残らなかったなあ。まあ良くも悪くもなかったということでしょうか。

えっと、ヘンなつっこみつぶやき。4羽の白鳥を(も、だね)踊ったゴールプちゃん。一人だけ肌の色黒いんですけど〜。ロシアのバレリーナは白鳥をやる時、肌を白く塗らないのかなあ。もともと白い肌の人はいいけれど、ゴールプちゃんは塗って欲しかったわ。でもそのおかげで、すごくよくご本人とわかりました(笑)。オブラスツォーワは白くてちっちゃくて可愛かった〜。うーん、ラブリー。

では2幕。キーロフの「白鳥」のデヴェルティスマンは本当にいいですね。好きだわ。そしてロパートキナのオディールですが、オデットとそれほど印象がかけ離れない役作りでした。典雅で繊細なんだけれど素晴らしい磁力をもった誘惑者でした。コルスンツェフ@ジークフリートは翻弄されまくり。まあ、仕方がないですね。

えー、3幕、裏切られて、嘆き悲しむ姿も高貴なオデット姫であることよ。セルゲイエフ版は王子がロットバルトと戦って、やっつけて、二人はめでたしめでたし、となるわけだけれど、うーん、ロパートキナだったら悲劇バージョンが観てみたいですね。その方が壮絶に美しいような気がするのだが、どうでしょうか。まあ、わたし的にセルゲイエフ版は好きなので、これはこれでよかったし、復帰舞台だからハッピーエンドで、明るく終わった方がめでたくていい、という感じもしましたが。

最後、カーテンコール、やはり嬉しそうなロパートキナの笑顔が印象的でした。

今回の来日公演は全部で5回観たわけですが、この「白鳥の湖」が自分的には一番よかったかなと思います。ちゃんと舞台芸術のレベルにありました。(ってしかし、キーロフの舞台でこんなことを言わねばならんとは・・・)「シンデレラ」はまあまあだったとしても、「くるみ」と「ロミジュリ」はオケがひどすぎました。「くるみ」はコール・ドもひどかったしね。
うーん、今度の来日公演はどうなっちゃうんだろうね。今回のこのままの感じだったら5回も観ないかも。ヴィシニョーワやオブラスツォーワやヤナが観たいので、(あ、今回男性陣ではファデーエフくんもだけれど、コルプが観られなかったのもちと寂しい)多分行くことは行くんだろうけれども。ふー、どうなりますことやら。

カオル  DATE :: 2004/02/13 Fri

top index