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ルジマトフ&ロシア国立バレエ団 2004年6月20、26、27日
第2部 「シェヘラザード」

振付:フォーキン
音楽:リムスキー=コルサコフ

マハリナ ルジマトフ ロシア国立バレエ


6月20日

ロシア国立の「シェヘラザード」初見の日。前奏曲の部分で後宮の女達が奴隷と戯れているところが挿入されていてちょっとびっくり。
ベッドの上の二人がゾベイダと金の奴隷のことだとわかったのは、2回目を観たときだった。
わかりやすいけれど、フォーキンの作品って自由度高かったっけ? とちと疑問に思ったのだった。でもまあこれで上演できてるんだから、上演権的にはオッケーなのであろう。
テープ音楽だと前奏曲(本当は第1曲)を何もしないでもたせるのは、難しいかもしれない。インペリアルの時も始まりは第1曲の途中からだったし、ロシア国立も途中からだった。
うーん、完全版でみたい。って結局本当に完全版で上演しているのは、キーロフだけなのかも。
セットや主役二人以外の衣装はキーロフと比べるべくもないけれど、もうそんなことはどうだってよい、と思える二人の美しさだった。
マハリナのゾベイダの気高い美しさ。でも恋には一途に燃え上がる可愛らしさ。本当に絶品である。
ルジマートフももちろん美しい。飛び出てくるところでまず、「ああ…」と思わず溜息が漏れてしまうのはいつものこと。わかっているはずなのに毎回毎回同じ気分にさせられるのは、何故なのか。
確信犯なのだろう、多分。もしくは本当に金の奴隷なのだ。ゾベイダを魅了し虜にする絶対的魅力、抗いがたい魅力を持った男。
そうこの日の二人は、純粋に愛し合う二人で身分の違いも、何もかも飛び越えていたように思えた。
ルジマートフの踊り自体もわたしが3回観た中でこの日が一番の出来だったと思う。キレのあるジャンプとゆるぎない回転。力強いダンス。その踊りがそのまま二人の関係のあり方に転じているような感じである。いや、本当はその逆で二人の関係がそうだから、踊りも強靭で破綻のない美しさを持ったものになったのかもしれない。
表面的には奴隷という身分だけれど、精神はどこにも隷属していない。ゾベイダとの恋はなるべくしてなってしまった運命でどちらがどちらを誘惑したということもない。そして殺されてしまうのもまた運命。
二人とも運命に従ったまでのこと。どこまでも美しく潔い二人だった。

さて、この日の私的ツボは、アンコールのレヴェランスだった。ルジマートフは美しくあげた片手を広げて、顔の半分を覆うように、指で舐めるように、下に降ろしていったのである。一体あれはなんなのだろうか。色っぽいという言葉では足りない感じだ。(まあ、いつもそうなんだけれど)
これだけの仕草で心臓がザワザワするわたしもわたしだが。

2004/07/22 Thu

6月26日
この日の感想はかなり特殊だと思われるので、読まれる方は要注意、わたしの妄想に慣れっこな方だけどうぞ〜

この日はうって変わって“わたしはあなたの忠実な奴隷です、美しいゾベイダ様”ヴァージョンでしたね(笑)。
これはある意味とってもレアなヴァージョンかもしれない。
だいたい終始上目使いってのはどうよ。常にゾベイダのご機嫌を伺っているウブな奴隷ってのは、どうよ。
今までのルジマートフならそんなの考えられなかったけれど、不惑を向かえそういうのもありになっちゃうのがスゴいところ。

こういう風に見えてしまったので、ゾベイダを愛撫するより、「踊りなさい」と舞台真ん中を指さされて踊りに行く方が、ずーっと嬉しそうだったなあ。
嬉々として踊りにいっていたような。

で、この日のツボはですね、杯の飲み方にありました。
1番最初舞台の真ん中でゾベイダから受け取って飲む時、杯を差し出された瞬間奪うように両手でとってゴキュゴキュ飲んでいたのですねえ。
天真爛漫っていうか、ある種キバのない獣みたいな風情。
ほんとに水分が欲しかったっていうか、そんな感じ。
これもあまりに新鮮でした。普通、杯を差し出されたら、間、というかタメがあってから受け取って飲むってのが今までの金の奴隷パターン。
要は、酒など欲しくない、欲しいのはあなただ、でも他ならぬあなたから差し出された杯なら仕方ない、飲もう、って感じだったんだよねえ。

でもこの日の舞台はそんな思惑は微塵もなかったですね。
わーい、もう、喉カラカラだったんだ〜って感じですか(おちゃめにしすぎか)。

で、下手に下がった時も水分(笑)取ってたんですが、今度はね、金の奴隷は手を使わずにゾベイダに飲ませてもらってました。
二人脚をおって向き合って座ってるでしょ。でゾベイダが金の奴隷の口元に杯を出すわけ。金の奴隷は両手のひらを床につけたまま、立膝のまま飲ませてもらってました。
そして飲ませてもらっている間中、上目使いでゾベイダのこと見てるわけさ。
いやー、これを犬っころヴァージョンと呼ばずしてなんと呼ぶのかってな感じですね。
もちろん口だけで杯を飲む、なんてのはエロな雰囲気がないわけではない。でもそういうところにほとんど趣旨はなかったですね。

かくして、セクシー(踊りシーンとかは)ではあるが、全然エロスを感じさせない金の奴隷ではありました。
犬っころな金の奴隷ではありましたが、ゾベイダのことは本当に愛しているので、そしてゾベイダもそんな金の奴隷を可愛いと思っているので(愛していたかどうか、この場合ちょっと不明だなあ、笑)もちろんラストは美しく悲しいラストでした。

不思議だな〜、こんな「シェヘラザード」もあるんだなあ、でも面白かったからいいや、こんな風にできるのは、やっぱりマハリナ&ルジマートフだからだよなあ、と感慨を新たにした舞台でした。


6月27日

えー、最終日なのでとてもまっとうに素晴らしい舞台だったと思われます。印象的には6/20の舞台とそれほど変わりはなかったです。

6/20の感想をまじめヴァージョン(笑)で書いているので、そちらを参照してください(わー、手抜き)。
20日と特に違うのはシャーリャル王の出来かな。20日はまだまだ演技がイマイチだったけれど、さすが最終日、王様らしい嘆きが板についていてよかったです。

今回「シェヘラザード」を3回観た総評といいますが、全体的な印象ですが、わたしが最初にみたインペリアル・バレエの時より、ずっと力みが抜けた感じがしました。
インペリアルの時はオレがやらなきゃ感といいますか、この公演を良い公演にしたい感といいますか、そういう気迫があって、もちろんそれが舞台に良い効果をもたらして素晴らしかったのですが、ちょっとそういう“力”が入っていたと思うのです。「シェヘラザード」1幕全てを日本で上演するのは、この時が初めてだったってのもあったかもしれません。

でも、今回はね、そういうのとは一切無縁になっていたみたいにみえたの。とにかく踊りたいようにやりたいようにやる、というか「シェヘラザード」という作品はルジマートフにとってどこまでも自由な作品なのだなあと感嘆しました。
マハリナとだったら多分どんな風にだってやれるんだろうなあと思うし、観る側もどんどん色んな想像をかきたてられる。
こんな幸福な作品もないよね、ほんと。
リムスキー=コルサコフとフォーキンに、それからロシア・バレエのディアギレフにふかーーい感謝を。

そしてもっともっとルジマートフの金の奴隷がみたいです。
また来年にでもやってくれないかな。

2004/08/11 Wed カオル

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