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ルジマトフのすべて
2004年9月29、30日 Aプロ 東京芸術劇場
2004年10月2、3日 Bプロ 東京芸術劇場

第1部

「ばらの精」

振付 フォーキン  音楽 ウェーバー

ルジマトフ  ロマチェンコワ

初日は出てきたとたん、なーんてきれいなのかしら。ルジのばらの精ってこんなにきれいだったかしら。とちょっとびっくりしました。
それにやさしーい雰囲気なの。昔の映像はモロ真紅の薔薇、触れると棘がありちょっと危険、てな感じだったのに、今回は何色のばらかしら、と考えてるすきもないぐらい、香りに重点があったみたい。
ダンスはとても丁寧で、美しすぎるポールド・ブラからは絶えず馥郁たる香りがあふれるという感じでしたね。
1日目2日目はそんな風で人畜無害な雰囲気でしたが、3日目から美しいことは美しいんだけれど、魔的なものを感じました。
少女をそれから観ているわたしを虜にするようなダンス。表面上は本当に美しいんだけれど、自分でも気がつかないうちに身も心もさらわれてしまうようなそんなダンスでした。
だってねえ、帰したくないなあ、このばらの精と思ったもの。さらうだけさらっといて帰るなんてあんまりだ。とも思った。
棘も毒も微塵も感じられない、きれいなのに、ある意味一番怖いのはこのばらの精かもしれない。純粋に美しい魔というものが存在するのならこういう風なのかもしれない。
ルジマトフのばらの精にこんなに自分がやられるとは思ってもみなかったので、実はちょっとびっくりではありました。

全然違うっちゃ違うんだけどムーンライダーズの「夜の伯爵」という曲をなんとなく思い出したりしてました。あと萩尾望都の「温室」とかね。
(えっと、ちなみに「夜の伯爵」は、夜毎しのんでやってくる吸血鬼を待つ少女の心情のうた、かなりエロティックです)

ロマチェンコワの少女はなかなか可愛らしくてよかったです。美人になっていたしね。


「海」

振付 コフトン  音楽 メルテンス

クチュルク  ミハリョフ

さわやか〜でよかったです。振付や雰囲気がこの二人の持ち味に良く合っていたと思います。曲のセンスも悪くないし。
ロシアのモダンもまあまあ悪くないじゃんと思えるものが出てきてよかったよかった。


「愛の伝説」 Aプロ

振付 グリゴローヴィチ  音楽 メリコフ

マハリナ  シショフ

初日はよくわからないままに観ていたら、シショフのリフトはいまいちだし、マハリナも精彩がないようにみえたし、全体的にうーん・・・な印象でした。
パンフレットでちょっと勉強して詳しい方にお話を聞いて、なるほど、そういう場面なのかとわかってみたせいか、2日目はまあまあだったかな。「愛の伝説」全幕でみてみたいものです。


「ライモンダ」グラン・パ・ド・ドゥ Bプロ

振付 グリゴローヴィチ  音楽 グラズノフ

マハリナ  シショフ

マハリナのコンディションが万全ではないと聞いて、はー、やっぱりそうなんだと思ってしまった初日。ほとんどぶっつけ本番なのか、という感じで踊りがちぐはぐになっててシショフくんもマハリナも、うー、かわいそうと思ってしまいました。
しかし2日目はなんとか合わせてきてよかった。マハリナのたとえコンディションが悪くても舞台をきっちりと務めるという気迫が伝わってきました。シショフも頑張っていました。シショフも良いダンサーだよね。今回の公演が彼にとって良い経験になればいいなあと思います(勝手なお世話か)。


「アダージェット」

振付 アライス  音楽 マーラー

ルブロ  ジュド

マーラーのこの曲は本当に振付家に愛される曲だね。この作品はまったく派手ではないけれど、きっとそれだけに難しい作品かもしれない。
ルブロとジュドは素晴らしいパートナーシップで、至極丁寧に踊っていてよかったです。
二人で肩を組んで膝を立てて、それからスプリットしながら進んでくるところが美しくて好きでした。二人の呼吸すらぴったり合ってるような一体感、そして密やかな感じが本当に素晴らしかった。


「海賊」グラン・パ・ド・ドゥ

振付 プティパ/チャブキアーニ  音楽 ドリゴ

エフセーエワ ルジマトフ

ルジマートフのアリの姿ってなんて美しいんでしょう。とこれまた何度そう思ったかしれない感想をまたしても思わせてくれる凄さよ。
エフセーエワはルジ仕込みなのかどうなのかわかりませんが、今まで、元気はいいけどねえ・・・だったダンスがエレガントになってました。身体もしまってきたし、美人になってるし、成長してますねえ。
ルジマートフのアリは、最早みてるだけで幸せ〜な境地に達しているので、どんな風に踊ってもらってもオッケーなんです。
4回きっちり堪能させてもらいました。
あー、冬の全幕公演が楽しみだな。シェミウノフくんとのツーショットも楽しみ(いや、もちろんザハロワもペレンも楽しみなんだけれどね)。


第2部

“LUZ DE LUNA”

振付 ロメロ  音楽 ヤグエ

ロサリオ・カストロ

ルジマトフのお友達だそうで。美人でフラメンコが上手いんだ、素晴らしいだろう?と自慢されてるようで、微笑ましい気持ちでみてました。
初日はちょっと長いかな〜と思ったのですが、だんだん慣れてきたし、圧倒的なパワーと素晴らしいバストにノックアウト(笑)されました。


「ダッタン人の踊り」

振付 フォーキン/コフトン  音楽 ボロディン

エフセーエワ、レニングラード国立バレエ

いやー、手ヒラヒラ振付には仰天しましたが、クリギンがとってもはりきって楽しそうだったので全て許すって感じ(笑)。
エフセーエワは踊り上手いです。まさにピチピチはじけてました。日を追うごとに妖艶さもちょっとずつ出てきてよかったです。

「レクイエム」

振付 笠井叡  音楽 モーツァルト/ストーン

ルジマトフ

初日はとにかく観るわたしもドキドキという感じ。なので観るだけでせいいっぱいだったという気がなきにしもあらず。
事前に見ていたリハーサル風景の映像から、多分わたしはこの作品を好きになるだろうと思っていてその予感は当っていました。それは確認できた。でもどういう風にいいのか説明しろと言われると、できない。難しい。

2日目あたりから、どうも今までバレエを見ていて刺激されたことがないような感覚を刺激される気がしてきた。それはバレエじゃないんだから当たり前といえば、当たり前なのかもしれないけれど、新鮮な感じ。刺激というより何か狂わされる(感覚がね)ようなところもあって、わたしはそれを楽しんでました。

故意に遅く奏でられてる音楽に身をゆだねていると、まず、時間の流れというものがよくわからなくなってくる。(これは、パンフレットの笠井さんの言葉に少なからず影響されてのことだと思う)別に普段時間の流れなどというものを意識しているわけじゃないんだけれどね。
そしてルジマートフの踊りは生と死、美しいものと移ろってしまった美しさ(醜いもの)を常に同時に提示していたようにも思えた。
音楽のゆっくりな部分は、これにルジマートフ自身の声が響き、余白があり、また響き、ダンスと音と声がまたは余白が、混沌として交じり合って(踊るルジマートフだけじゃなくて)舞台の上にあるのをそして自分に内に在るのを感じたのだった。
これは不思議な特別な、でもすぐれて感動的なことだった。今までルジマトフのダンスを自分の内側で感じるということはなかった。一緒に踊りだしたくなるというのはあってもね。
最後、「ラクリモサ」が普通の速度で流れ、踊りが一番激しくなるところで、またしても名状し難い深い感動に襲われたのは、自分の中でも何かが死に何かが再生したからなのか。
この辺は実はまだよくわからない、自分のことだけれど。
なので何度もみて確認したい。でも今度みると全然違ってみえたりしてね。


第3部

「ロミオとジュリエット」よりバルコニーの場面 Aプロ

振付 マクミラン  音楽 プロコフィエフ

ドヴォロヴェンコ  ベロツェルコフスキー

美し〜いペアによる情感あふれる「ロミジュリ」。いやあ、堪能しました。素晴らしかった。バレエ界最強の美形カップルですね。ほんっと眼に嬉しい。


「シルヴィア・パ・ド・ドウ」 Bプロ

振付 バランシン  音楽 ドリーブ

ドヴォロヴェンコ  ベロツェルコフスキー

こちらもステキだった。ドヴォロヴェンコのクラシックチュチュ姿がみられたのもよかった(クラシックチュチュ好き)。
全て(テクニック、容姿、雰囲気、表現、その他モロモロ)において非の打ち所がないカップルっているんだなあ。いやあ、参りました(なんじゃそりゃ)。
今回ルジガラに来てくれて、ほんっとありがとうございました、という感謝の気持ちでいっぱいです。


「ムーア人のパヴァーヌ」

振付 リモン  音楽 パーセル

ルジマトフ  ジュド  ルブロ  フランシオジ

世紀の名演だと思う。この4人以外の上演があったとしてもわたしはきっと観ないでしょう。この4人でなければ金輪際観なくてもいい、と思うほど本当に素晴らしい舞台だった。
前回のジュド@イアーゴに対して、明らかに最初から色んな面で負けてた感のあるルジ@オテロとは、一変してのルジマトフの確固たる役作り。素晴らしい〜。イアーゴの迫力に全く負けてなかった。
そしてちゃんとルブロ@デスデモーナを愛してましたね。(前回は自分のことに手一杯だったような気が)
ジュドはもちろん、ルブロもフランシオジも役にハマりまくってました。
ルブロのオテロを見る悲しげな瞳は、絶品でした。それなのに、何故殺してしまうのか。何よりもまず自分が信じられないオテロの悲しみがガンガン伝わってきて苦しかった。
最後の方のデスデモーナを両手の平で撫でるところは、まったく彼女の顔を見ずに(見ることができずにかな)、泣き笑いのような表情で撫でていて本当につらかった。

ジュドの光る瞳、嘲りの表情ともなんてすごいんでしょう。
今回オテロはムーア人としての誇りもちゃんと持ってたと思うんです。あの片耳の輪っかのイヤリング(ピアス?)はステキな効果を上げてました。だからイアーゴの言うことなんて一笑にふせとけばいいものをそれがどうしてできなかったのか。イアーゴの巧みな言葉にだまされていくオテロは純粋な人だったのね。そんなに純粋で将軍職が務まるのかとちょっと思ったりもしましたが、回りのみんなに盛り立ててもらっていたのかなと考えたり。
そんな中、イアーゴだけは野心があったし、きっと頭も切れる人だったのでしょう。そしてオテロからの信頼も厚かったのかもしれない。

素晴らしいダンサーを得て、重厚なタペストリーのように織り上げられる物語。わたしは一瞬も目が離せなかったし、どっぷりとこの世界を堪能しました。そんなわけで毎回、見終わって疲れましたが、それは充実したとても快い疲れでした。


最後に今回の「ルジマトフのすべて」公演は、ファンの欲目もまああるけれど、本当に良い公演だったと思います。
文字通り、今の「ルジマトフのすべて」をみせてくれる公演でした。ファンやっててよかったなあとまたしても思ったりしました。
この公演にかかわった全ての方にありがとうございます、と心から言いたいです。


2004/10/16 Sat カオル