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新国立劇場バレエ トリプル・ビル  2001年6月23日(土)
指揮 渡邊一正 東京フィルハーモニー交響楽団 オペラ劇場


 新国立劇場バレエは、柿落としの『眠れる森の美女』『梵鐘の聲』の映像はTV放送で見たけれども、生は一度も、どころか新名所東京オペラ・シティの近くにも行ったことはなかったのでした。東京に行くことがあっても、その時はオペラだったり、何もやっていなかったりで、何か縁がないのよね〜、って感じでした。もちろん、新しい劇場には興味津々だし、日本国民として、国立のものは行っておかないと(少しとはいえ税金払ってるし)とは、常々思っていて気になってはいたのですが。
 そして、今年4月、『眠れる森の美女』にゲストでどうやらラリッサ・レジュニナが来る!と急遽決まって、レジュニナ好き、しかもセルゲイエフ版『眠り』ときたらこれはもう行くしかないか〜〜!! と思ってチケットを購入したのでした。だがしかし、これが、幻に終わってしまって(返す返すも悲しいわ、ダンサーの怪我ってほんとに…涙)、行く気満々で盛り上がっていた気持のやり場が〜、どうしよう〜、となっていたのでした。
 で、6月、松本路子ルジマトフ写真展というものがありまして、4月のフィルム上映会で数点写真を見てて、踊ってない写真もいいよなあ…、写真展行きたいよな…、でもそれだけの為に東京に行くのはちょっとつらいなあ…、でも、新国立と日にちもあってるし、両方見るってことで行っちゃえ〜! と決まったのでした。(そして実は歌舞伎座にも行ってますです、笑)


 *テーマとヴァリエーション* 
音楽:ピョートル・チャイコフスキー/振付:ジョージ・バランシン
プリンシパル:宮内真理子&小嶋直也

 バランシン・バレエの中でもわたしの好きな作品であります。(実をいうとあまり好きではないものも結構ある)曲「組曲第3番(ト長調作品55)」も好き。映像はニューヨークシティ・バレエのもの、そしてルジマートフのマールイゲストのものを4月に見たばっかり(!)、でしたが、生舞台は初めてでした。
 宮内真理子さんの生舞台を見るのは初めてです。(というか、日本人ダンサーってなかなか生で見られない、なので小嶋直也さんも初めて)ローザンヌ・ガラの映像の時より、ずっと成長している感じ。なにより、出てきた時にパーっと舞台が明るくなるのは、宮内さんの天性の華でしょう。テクニックも申し分なかったです。バランシン・バレエほどポーズの美さやバランスの精度が直接作品の出来、不出来に直結するバレエもないと、常日頃思っているのですが、宮内さんのバレエはそのあたり、きっちりとしていて、見ていて気持がよかったです。
 アラベスクで上げた脚が、5番に戻ってきて、ポアントのまますくっと身じろぎもせずに立ってるところとか、ほうって感じでした。
 対する小嶋直也さんはというと、宮内さんのポーズが美しく決まるのは、小嶋さんの堅実なサポートのおかげでありましょう。しかし、ヴァリエーション部分が、期待していたよりもちょっと踊りにキレがなく感じられたのが、残念でした。小嶋さんといえば、わたしが見た数少ない映像の印象では、日本の男性ダンサーの中では、ずば抜けて洗練された踊りを踊る人、というのがあってそのあたりをぜひ見せて欲しかったのですが、ちょっとコンディションがよくなかったのかな、普通の印象を受けちゃいました。ジャンプとかで、脚先が(特に後からくる脚が)すぐに落ちちゃわないで、すっともう一度上がる感じがするところとか、特に好きなんだけどなあ。また見る機会があれば、ベストなバレエを見せてもらいたいです。
コールドは、さすがですね〜。ちょっと後ろ目の席だったので、バランシン・バレエのたくみな隊列の移り変わりを存分に楽しめました。
 わたし、このバレエの何が好きかって、最後にみんなで並んで舞台を行進するところが何より好きなんですが(もちろん、その前に個々のパ・ド・ドウやヴァリエーションがあるから、ここがかっこいいわけですが)、先頭を歩く小嶋さん、もうちょっと自分をアピールしてもいいのになあ、とか思いました。でも彼はそういうタイプのダンサーではないかな?
うーん、4月にルジのを見ちゃったから、それがどうも頭にあるらしい、すみません。


 *リラの園* 
音楽:エルネスト・ショーソン/振付:アントニー・チューダー
キャロライン:酒井はな
キャロラインの恋人:山本隆之
婚約者:ゲンナーディ・イリイン
婚約者の過去の恋人:草刈民代

 さて、初物づくしの今回、これまたまったくの初物でありました。ちょっとストーリーを紹介しますと、家の事情で意に添わぬ結婚を控えたキャロラインの婚約披露パーティーがあり、そこには偶然、キャロラインの本当に好きな相手や婚約者の愛人(キャロラインは知らない)もいる。4者それぞれ感情を内に秘めた仮面劇が展開する…、というわけで、踊り自体に何か派手なテクニックがあるわけではなく、差し伸ばした腕や、控え目に振り上げる脚で物語や感情を表現しなければならない非常に難しいバレエなのでした。
 演じるダンサーも難しいだろうけれども、見る方もなかなかに難しいです。一度見たぐらいでは印象が薄いのも確か。しかし、今回のこのキャスティングは、けっこうはまっていて、よかったです。
 酒井さんは情感の込め方が上手いです。こういうのっていつも不思議に思うのですが、やろうと思ってなかなかできることじゃない、でも酒井さんは自然に出来ちゃう感じなんですよね。しかし、キャロラインの心情が完璧に伝わったか、というとどうもその辺は難しい。一回見ただけじゃ、なんともって感じです。
 山本さんは若々しく罪のない恋人をきれいな踊りで演じていて好演。イリインはさすがのコート姿(非常に似合ってました)、草刈さんも姿形が役柄にぴったり合ってました。
ただ、やっぱり踊るバレエがどうしても好きなわたしには、物足りなさがあるのも確か。チューダーを見るのに、そんなこと言ってちゃだめかな。
 わたしにとってチューダーのお勉強はまだまだこれからって感じです。


 *ライモンダ 第3幕* 
音楽:アレクサンドル・グラズノフ/振付:マリウス・プティパ
ライモンダ:アナスタシヤ・ゴリャーチェワ
ジャン・ド・ブリエンヌ:イルギス・ガリムーリン

ゴリャーチェワはボリショイからのゲスト・ダンサーだそうですが、果たして呼ぶ必要があったのかどうか?うーん、謎だなあ。ゴリャーチェワぐらい踊れる人は、新国立にもたくさんいるでしょうに。でもって、ガリムーリンもちょっと謎。
ライモンダとジャン、出来ることなら、新国立のダンサーで見たかったです。
ゴリャーチェワは主役を踊るにしては、あまり華のないダンサーだったし、ガリムーリンのこの日の出来は今一つというか、二つぐらいだったです。
 東フィルの演奏がすんばらしかっただけに、ダンサーがそれに負けてたのが、わたし的には残念でなりません。
でも、いつか新国立で「ライモンダ」全幕やらないかなあ、とか思ってます。今回見た印象では美術や衣装は全体的にとてもよいので、ぜひとも「ライモンダ」全幕をお願いしたいです。


では、全体的な印象など。
柿落としの「眠り」では、キーロフセルゲイエフ版の中で、ロイヤルの衣装をつけた吉田都さんや熊川を平気で踊らせてて、そのセンスを多いに疑問視してましたが、芸術監督交替のせいもあってか、美術や衣装はいい感じです。そう、バレエはやっぱり踊りだけじゃないです。
 でもって、東フィルの演奏も素晴らしいです。(やっぱ、世界バレエフェスって完全な手抜きとしか思えない)多分、新国立の観客には東フィルのバレエ音楽の演奏を聞きに来てる方も、少なからずいるのではないか、と思われます。なんとなく、一般のバレエ公演の客層と違うんだよなあ。法人会員とかで一流企業がいっぱいお金だしてるから、そういうところに券が回ってるのかしらん。そう、年配の男性客が多いのだな。しかも、奥さん連れじゃなくて、男同士だったりして。
 新国立バレエ観劇デビューは、無事果たしたので、今度はぜひ全幕ものを見たいです。
しかし、これからの「ロミジュリ」「シンデレラ」は会員でも券取るのが大変だそうで、やっぱゲスト人選は大事っつうことですね。来年の「ジゼル」あたりをとりあえずの狙い目にしておきます。

カオル



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