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あすわさんの パリ・オペラ座 パリ現地公演鑑賞レポ
「プテイ・ロビンスプロ」「白鳥の湖」 2002/10

昨日パリより帰ってまいりました。 ボリショイの「スパルタクス」を見逃したのは残念でならないのですがみなさまのレポート嬉しかったです。楽しく読ませていただきました。ロシアダンサーの足の長さ、スタイルの良さはすごいです。 同じ人間とはとても思えない。(笑)

さてオペラ座バレエ、予定通りプテイ・ロビンスプロと「白鳥の湖」共2回づつ、2キャストで見ることができました。
なかでも良かったのは10/2のモローとジローの「白鳥の湖」。ロットバルトはヤン・サイズ。
3人とも初役、しかも一回だけのチャンス、というわけで広いオペラ・バスチーユは期待と興奮でいっぱいでした。

モロー君が素晴らしかったです!! 決してモロー派ではなく少々不安もあったのですが杞憂でした。

踊りのうまさだけでなく、マイムや立ち姿、サポートの巧みさ、そしてサポート時のポーズ(女性と決めのポーズを作った時の軸足と添え足の角度、添え足が床とポイントタッチになっているかどうか、女性を回す時に足を広げすぎたり膝が曲がるのも減点、エトセトラエトセトラ…)言い出したらキリがない「王子様評論家」のわたしくめ…当然及第点はめったに出せないのですが、モロー君の王子さまには感動いたしました。

踊りの美しさは言うまでもなく、マイムの巧みさ、演技の自然さ。なかでも一番感心したのは二人で踊るシーンでしょうか。
グランアダージョは言うまでもなく、例えば音楽が鳴るだけでウキウキする「黒鳥」のPDD、二人の視線の先、腕の角度や指の先まで揃えようとする意志が感じられ、実際ほとんど完璧に合っていました。
一人づつの動きではなく二人合わせたポーズが「絵」として美しいかって大切ですよね。私は以前からこれがヴァリエーションの巧みさよりも気になってしまう質。音楽の流れにまかせてともすれば流れてしまうことも多い中、二人で作り出すその一瞬の「絵」が完璧に近いほど決まるその快感。目にも心にも心地良かったです。

そこに若い二人の理想と強い意志を感じて、なんか感動してしまったわ〜。イレールが指導役として名を連ねているのでそのおかげかも知れませんが、膨大な時間とエネルギーをかけ与えられたたった一回だけのの舞台を「理想」へと近づける努力したのでしょう。
ヴァリエーションで拍手喝采を受けるよりもずっと難しいことです。見終った後、心から彼らを祝服したい気持ちになったし、そういう意味でとても清々しかった。
ルリッシュの「アルル」をあきらめてこちらを選んだ甲斐があったというもんです。

言い遅れましたがジローの白鳥も素晴らしかった。
長い腕を柔らかにしならせて繊細なオデット、そして迫力ある妖艶なオデイールでした。心配な(!)肩幅も目立たず、モローのサポートが上手なせいか重さも感じさせませんでした。
とても情感豊かで切ないばかりの白鳥でこれでエトワールでないとは本当に不思議。
それに比べると翌日のアニエス・ルテステユの白鳥はややクール過ぎる感じがしました。

ヤン・サイズのロットバルト、若々しさが勝った個性的なロットバルトで動きの最後に彼独特の見栄を切るようなキメがついてきます。(^^)
長身なので光沢ある美しい爬虫類を思わせるマントや衣装が実に似合いました。
もちろん美しさや貫禄では妖しいまでの男の色気を放ち、己の魅力を最大限に発揮しているブラルピ(翌日のロットバルト)には劣るのですが個性的で魅力的なロットバルトでした。

コールドや舞台美術がもうひとつの主役のようなパリオペラ座。セットはシンプルでいてセンスよく想像力をかきたてるような素晴らしいものでした。
舞台そのものの完成度がとても高いものでした。
ほかのエトワール組にも勝るとも劣らない出来で、私的好みでいうとアニエス&ジョゼ組よりもずっと良かった。

今回の公演で注目したのは・・7月のルグリのガラでも一番目立たなかった存在、グレゴリー・ガヤール君なのです! だれも覚えていませんでしょうね、シクシク
マロリーやマチュー・ガニオなどどこを見るのか迷ってしまうほどの若手いっぱいの白鳥のコールド、一番目をひきつけられたのが彼の踊りです。なめらかでいてキレがある、まるでビールの宣伝文句のようですが実にうまい。
花嫁候補のドロテ・ジルベールも相変わらずチャーミング。花嫁候補には日本人初のオペラ座団員藤井さんもいました。
Petit/Robbinsプロ 10/01.04
*パッサカリア
数年前に初演されたプテイの作品でバランシンへのあこがれが強く感じられます。バランシンっぽい部分ありキリアンっぽいところもあり。
が、必ずしも成功しているとはかぎらず少々退屈しました。
先日新国立で見た「こうもり」がすばらしい作品だっただけに「無理して変わる必要ないじゃん、プテイさん」というのが私の意見。

*ザ・ケージ
これについてはクモの巣をイメージした。
舞台美術がすばらしい。数本のカラーロープだけで蜘蛛の巣をあらわすのですが実に鮮烈で美しい。完璧に計算されたシンプルさ。センスってこういうことね〜とシミジミ。

内容は男をとって食う恐ろしいメス蜘蛛の話ですが、女性群舞がベジャールの「春の祭典」を思わせる迫力。 そしてこれが肝心なのですが飽きないうちに終わるのもナイスでさすがロビンス、ツボははずさない。

主役の女王の娘(あととり)は1日はエレオノーラ・アバニャート。黒く短いウイッグをつけ中国娘のような濃い化粧が似合うし好演。
彼女と愛を交わしながら最後にはとって食われる哀れなオスにはヤン・ブリダール。
踊るシーンはそう多くないもののカーテンコールでの虚脱したヤンブリ君の様子が印象に残りました。
4日はスジェのローラ・ミュレが抜擢されましたが、やや線の細い印象。いけにえ男はカール・パケットでした。
ルグリの「アルルの女」について
私は映像になったものをそれこそ何回も繰り返し見ていて、生の舞台を見る上で邪魔になるのではと実は恐れていたくらいです。実際はルグリのフレデリは初演時からさらに進化&深化していました。実際こまかい部分がかなり映像とは違っていました。
感じたのは演技とか表現とか、そのレベルを超えて彼の身体が狂気を表現していたということです。
今月号の「バレエ」で「テクニックを通してしか『心』は表現できない」という趣旨の文を読みましたがまさにそれ。

たとえば舞台を斜めに跳んでいく連続ジュテ。上体のブレが微塵もなく着地の音もしない、一瞬の間もおかずに次のパへと移っていくその鮮やかさ。まるで夢を見ているような陶酔感。
ううむ、ストロボなしの「コート」を見ているよう、と言ったらいいのでしょうか。それはひとつの例ですが純粋にテクニックを通して表現された彼の「狂気」が印象的でした。(相手役のムッサンは繊細でやさしげ。どんなに愛しても相手を救えない切ない感情が伝わってきました)
テクニックを通してのみ表現される「心」だけがテクニックすらも超える、という逆説。
次にジェレミー・ベランガールの演技を見てよけい感じたことなのですが、ジェレミーはアルルの女にとりつかれた男フレデリを一生懸命「演じて」いたように感じます。
相手役のオスタとともに素朴な若さ、熱情を前面に押し出した大熱演で拍手喝采。ルリッシュ、ルグリという大先輩と互して踊るというのは彼にとってもビッグチャンス。夏に怪我してしまった彼を見る機会があったのは本当に良かった。 

こうなるとルリッシュのアルルを見逃したのが残念でなりません。さぞすばらしかったのでしょう。
ただロビンスのOther Dancesを踊るニコラを見てやはりこれはルグリの十八番かなと感じました。
音楽の流れにのってただ軽やかに楽しげに青春のきらめきを踊る、というこの演目。
なんのドラマもないからこそかえって難しいのでしょうね。ニコラのも若若しい現代性にあふれてとても良かったのですが。