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睦月 六月大歌舞伎
 2001年6月24日 歌舞伎座

ルジマートフ写真展と新国立のバレエだけじゃ、東京にわざわざ来たかいがない、つうわけでじゃあこうなったら正面から入ったことのない、歌舞伎座にも行ってしまおう!という勢いでもってこの日の昼夜、券を買ってしまいました。演目を見て昼は二等席。夜は一等席です。
お目当てはもちろん、十五代仁左衛門。なんせ襲名公演以来、とんと名古屋はお見限りでありまして、ほんと名古屋の仁左衛門ファンは浮かばれません。わたしは、バレエほど入れ込んでいるわけじゃないから、まだいいですが、ファンの方は歌舞伎座や松竹座に行ってるんだろうなあ、大変だなあ、と思います。

 さて、正面から入った歌舞伎座ですが、土産物売り場がやっぱり多くて、人形焼の直売(?)もあって楽しいです。二等席(一階の後ろ)でもまあまあ、見やすかったです。6月で結構暑かったのですが、さすがにお着物の方が多くて、観客を見るのも楽しい。わたしも歌舞伎座でもいつか着てみたいです。(でも、荷物が大変か…)

昼の部 夜の部
八重桐廓噺・嫗山姥 義経腰越状・五斗三番叟
天一坊大岡政談 吉原雀
荒川の佐吉

八重桐廓噺・嫗山姥
こもちやまんば

  • 萩野谷八重桐──中村時蔵
  • 白菊──────尾上菊之助
  • 莨屋源七ジツハ
    坂田蔵人時行──澤村田之助
随分はしょったあらすじ◇

 元遊女の八重桐はあるお屋敷から、自分の恋人しか知らない唄が聞こえてきたのを不審に思い、そのお屋敷に入り込む。そこにはやはり、元恋人の時行がいた。しかし、人目もあるので名乗り合うわけにはいかず、屋敷のお姫さまに遊女時代の身の上話を語って聞かせる。
 奥から時行の妹白菊登場。時行は、実は討たれた両親の敵を討ちに、八重桐のもとを去ったのだったが、その敵討ちを妹に先に討たれてしまっていた。なじる八重桐。自らのふがいなさを恥じて、自害する時行。しかしその時おのれの念力のこもった血腸を八重桐の口から注ぐのだった。
 そのあと、姫君に懸想する高藤が手の者を屋敷に差し向ける。迎え討つ白菊と八重桐。八重桐は時行からの通力を得て、それを見事けちらすのだった。

 八重桐という役は時蔵さんのお家の役だそうで、一人語りの部分も非常に味があってよかったです。時蔵さんも色っぽい役者さんですよね〜。包容力があって、しっとりとした色気とでもいいましょうか。しかし、あらすじ読んでいただけるとわかる通り、最後には人でなくなってしまうという、なかなか無茶苦茶です(笑)。でもそれが歌舞伎のいいトコロ。
 白菊役の菊ちゃんがまた、きりりとした強い娘を演じていて、秀逸。立ち回りも楽しかったです。武家娘の姿でかかってくる敵をばったばったと薙ぎ倒すのだなこれが。気持良さそうです。

*****

天一坊大岡政談

  • 天一坊
    池田大介(二役)─尾上菊五郎
  • 山内伊賀亮────片岡仁左衛門
  • 大岡妻小沢────中村松江
  • 大岡越前守────市川團十郎
超はしょったあらすじ◇

 小坊主法澤はお三を殺して、将軍ご落胤の証拠の品を奪う。素性を騙って立身出世をしようと京に上る法澤。途中切れ者と評判の山内伊賀亮らを仲間にする。
 さて、将軍ご落胤の天一坊と名乗って、京都所司代、大阪城代を謀り、江戸に下りいよいよ大岡越前守の吟味となった。大岡越前守は天一坊をはなから偽者と睨んでいたが、確たる証拠もないまま詮議の場で山内伊賀亮に言い負かされ、心ならずもご落胤と認めることになった。
 しかし、決して本当に認めたわけではない大岡越前守は、腹心の池田大介に天一坊の故郷、紀州に行って探るように命じる。しかし、池田の帰りは遅かった。偽りと見抜いたままそれを証明できないのであれば、家名の恥になるとして、大岡越前守は妻子共々切腹の覚悟をしていた。今まさに切腹というその時、池田大介が息せき切って戻ってきた。池田は天一坊の素性を暴く証拠の品を携え、そして証人をも伴っていたのだった。
 大詰、大岡越前守の役宅に招かれた天一坊達。証拠の品や証人によって、天一坊の悪事は暴き出されていく。

 いわゆる「大岡裁き」、なのですが通しになっていて、悪である天一坊の方もきちんと描かれていました。小坊主法澤は一見したところ穏やかそうな感じの人物なのですが、お三の話を聞いてすぐさま殺人を実行するあたり、なかなか凄まじい悪人ぶりではあります。しかし山内伊賀亮を仲間にする時は、相手が簡単に自分の思い通りになる人物じゃない、とわかったとたん、自分の首を将軍に差し出して手柄にしてくれ、とあっさり言ったりして。結局、その潔さが気に入られて、山内も無事仲間にできちゃうんですね。こういう、基本は悪だけど、なんか係わらずにはいられないという魅力を持った人物像は、菊五郎にはまさにうってつけ。天一坊としての、育ちよさげな振るまいとバレてからの開き直り演技の落差とか、やっぱ上手いです〜。仁左衛門のやった山内伊賀亮という人も、悪に加担するならとことん加担してやろう、つう変なプライドがある人物で、大岡越前を理屈で言い負かすところなんか、悪智恵が働く自分に少し酔ってる感じさえします(笑)。なんつて、ここの大岡との台詞の応酬は聞きどころで、仁左衛門の弁舌の冴え、声の良さが嬉しいです。
 そして、團十郎の大岡越前守。(うーん、この3人が舞台に一緒に立ってるさまは、まさに大歌舞伎って感じで嬉しいところ)苦悩しつつも職責をまっとうしていく大岡を磐石な演技で演じていて、あますところありますぇんって感じでした。大岡裁きも楽しいし。
 三者三様、役にはまっていて見応えありました。

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義経腰越状 五斗三番叟

  • 目貫師 五斗兵衛盛次─市川團十郎
  • 泉三郎忠衡──────片岡仁左衛門
  • 亀井六郎───────尾上菊之助
  • 九郎判官 源義経───尾上菊五郎
◇随分はしょったあらすじ◇

 平家を滅亡させて二ヶ月、源義経はその功をねぎらわれるどころか兄頼朝の不興を買ってしまった。
 主君である義経を陥れようとする錦戸兄弟に勧められるままに、遊興にうつつを抜かす義経。しかしそれは頼朝にいつか反旗を翻すための見せかけだった。それをすべて承知している泉三郎忠衡は有名な軍師である五斗兵衛盛次を踊りが好きな義経のために、日本一の音頭取りであるという触れこみで伴ってくる。知勇にすぐれた泉三郎をよく思わない錦戸兄弟は、大酒飲みと評判の五斗兵衛に酒を飲ませ酔いつぶらせて、泉三郎の面目を潰そうと企む。

 この出し物の見所はなんといっても、五斗兵衛がたまらなくなって、酒を飲んでしまうくだりでしょう。自分でも酒を飲むと失敗してしまう、とわかっていても、目の前で錦戸兄弟に上手そうに飲まれては、もうどうにもならない〜、ってところ。実際には徐々にそうなっていくわけですが、團十郎はもう実に実にその芝居が上手いです。昼の部では大きな芝居、夜の部のここでは、團十郎のもう一つの持ち味である諧謔味を存分に見せてくれます。
 仁左衛門は昼に引き続き切れ者の役。まなじりに黒を吊り目に入れる切れ者メイク(違うって(^^ゞ)が実によくお似合いなのでした。菊五郎の義経はまあ、ここではそれほどの見せ場のある役ではありません。菊之助の亀井六郎もチョイ役(遊興に耽ってる義経を諌めにくる)なのですが、こちらは拵えがよろしいです。色若衆姿、むきみ隈なのです〜。そう、夜の部は前から2列目だったので、菊ちゃんの若衆姿を間近で見ることができてうれしかったのでした。
 全五段作品の三段目の口にあたる場面だそうで、後が見てみたいもんです。(できれば全部見てみたいが)頼朝に反旗を翻すことができるのかしらん。知りたいっす。

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吉原雀

  • 鳥売りの男──中村芝翫
  • 鳥売りの女──中村雀右衛門
 花町吉原に鳥売りの夫婦がやってきて仲睦まじく踊るというものです。
 舞台が始まるとすっぽん(でいいのかな)から二人並んで、せり上がってくるというふうでお二人の並んだ姿を見たとたん、かわい〜、らぶり〜と思わず呟きたくなるわたしでした。お二人とも身長が高くないので、ほんとかわいいのです(ってしかし、人間国宝だって、二人とも(^^ゞ)舞踊だから着物もきれい。目に楽しいです。しかしちょっと短めで印象が薄いのが残念でした。このお二人なら、もっと踊っても大丈夫だろうになあ。しかし、御園座じゃめったに見られない人間国宝コンビのお二人の舞踊が見られてよかったでございます。

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江戸絵両国八景 荒川の佐吉

  • 荒川の佐吉───片岡仁左衛門
  • 大工辰五郎───片岡十蔵
  • 仁兵衛娘お八重─尾上菊之助
  • 鍾馗の仁兵衛──片岡芦燕
  • 丸総女房お新──中村時蔵
  • 相模屋政五郎──市川團十郎
◇超はしょったあらすじ◇

 大工からやくざに身を転じた佐吉は、落ちぶれた親分仁兵衛から、姉娘の生んだ卯之吉を預かる。三下奴に過ぎなかった佐吉も、六、七年後には仁兵衛の縄張りを取り戻し、卯之吉も利発な少年に成長する。卯之吉の生みの親であるお新は、卯之吉を返して欲しいと訴えるが、目の見えない卯之吉を懸命に育ててきた佐吉は、それを簡単に承知することが出来ない。しかし大身代の丸総に返した方が子供の将来のためになると、政五郎に説得され、つらい別れを決意する。そして佐吉自身は彼の器量を見込んだ政五郎から、お八重と結婚し鍾馗の二代目を継ぐように勧められるが、佐吉はそれを断わり、一生を旅人として送る意を固めるのだった。

 今回のわたしの一番の目的「荒川の佐吉」です。しかし、見始める前はちょっと不安もありました。もともとわたしは、派手で綺麗な女形さんがいて、男振りのいい立役さんがいて内容が奇想天外なお話っつう歌舞伎が好きでして、芝居色が強いものはちょっと苦手なのでした。なので、地味で人情話である「荒川の佐吉」、いくら好きな仁左衛門が出ていても、途中寝ちゃうんじゃないかしらん…、観劇長丁場の最後だし、疲れもでるかも…、と思って心配していたわけです。
 しかし! やはり、いいものはいいっ! のですね〜〜。寝てる暇はありませんでした。白状すると、わたし、昼夜通しの観劇じゃなくても、歌舞伎を見ると、どれかの演目で絶対ちょびっと寝てしまうんです。(片方だけでも休憩含めて4時間ぐらいはあるからね)橋本治がそれでもいい、って言ってくれてるんで、それでもいいやと開き直ってるわけですが、今回の歌舞伎座観劇では、ほとんど眠たくなりませんでした(昼の部でちょっとあった、笑)。うーん、快挙(爆)。
 で、「荒川の佐吉」、やはり、仁左衛門の魅力全開、これにつきますね!人物の年齢設定としては、二十代から三十代あたりだと思うのですが、実年齢それぐらいの役者さんがやっては、多分このお芝居を成功させるのは無理でしょう。でも過ぎてりゃいいってわけでもなくて、若さゆえの無鉄砲さや、純真さを全身で表現できなきゃ駄目だろうと思います。そのあたり仁左衛門は完璧で、すっきりとした立ち姿のよい男振りは、他の役者さんとは一頭地を抜く感じです。若々しくってほんと素敵!(なんせ、花道隣りの前から2列目の席なんで、てへへ)持って生まれた身体条件は変えようがないっちゃそうなんですが、役者さんの魅力って半分はそれだとわたしは、思っておるので、手放しで誉めちゃいます(笑)。
 佐吉はしかし、最初はなんてことない下っ端やくざ(ひそかに思っているお八重ちゃんに鼻もひっかけられない、かわいそ〜)なわけですが、親分の死や卯之吉を育てていくことで、自分も徐々に大きく成長していくわけです。そのあたりの芝居も自然で見事ですね〜。それから、客席の涙を絞る卯之吉との別れの場ですが、こういういわゆるお涙頂戴シーンも仁左衛門がやると、情に流されすぎず、暑苦しすぎず、かといって冷たいわけでもなく佐吉の苦悩や心根の暖かさは十分に伝わる、という絶妙なお芝居になるのです。ほんっと良いですね〜(ぐしっ)。こういう人情芝居はえてして泥臭くなりがちですが、仁左衛門がやると、舞台全体に常に涼風が吹いてるみたいな感じで、良いのです〜。
 とまあ、仁左衛門褒めちぎりの感想になっちゃいましたが、佐吉の親友(でいいよなあ)辰五郎(佐吉と卯之吉を家に住まわせてやったりする人のいい役)をやった十蔵さんもいい味だしてました。團十郎のやった相模屋政五郎はもともと羽左衛門がやる予定だったようです。羽左衛門丈のお芝居が見られなかったのはちょっと残念です。
 最後佐吉は桜の花が咲く中を政五郎らに見送られて旅立っていくのですが、そこには今は芸者になったお八重ちゃんもいるわけですが、いやあ、わたしがお八重ちゃんだったら、断わられてもついて行きたい〜ってなことを思いました(爆)。佐吉、最後までさわやかな、いい男であったことよ…。
 「荒川の佐吉」は主役の佐吉が舞台に出ずっぱり、喋りっぱなしで、仁左衛門のお芝居を久し振りに十分堪能した〜〜、といういい気分になれました。が、しかしっ、人間、欲が深いもので(わたしがか?)、今度は愛憎渦まくドロドロ芝居とか、奇想天外話とか(もともとわたしが、好きなやつね)をやる仁左衛門も見たい〜〜となるわけですねえ。しかし、もうあまり、奇抜な役はこれからやらなくなるのかなあ、どうなのかなあ。今度新ちゃんがやるけど、「鳴神」だって、これからもまだまだやって欲しいのね。そしてできれば、もう、どんな役でもいいのでとりあえず、御園座にきて下さいまし。お願いします〜!(とここで叫んでもどうにもならないが、一応叫んでおきます、笑)

カオル


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